9 洋服の手直しと絵本
夕方にはルシールも街から荷物を山ほど持って帰ってきた。
とりあえず今日の主目的の洋服としてワンピースを二着と下着たくさん。
まずはソフィに着せてみようってことで、ソフィが着ていた服をひん剥かれていく。
一着目は水色のワンピース。
とっても可愛いけど、ちょっと大きめかな?
二着目はピンクのワンピース。
これはぴったりだな、そしてやっぱり可愛いぞ。
「それじゃ、水色の方はこれから少し手直ししちゃうわね」
ルシールが裁縫道具を用意してきて、ワンピースの手直しを始めた。
「ねぇねぇ、お母さん」
ソフィは横でルシールの裁縫する手元をじっと見ながら話しかける。
「なーに?」
「わたしにもできるかな?」
「裁縫はまだちょっと難しいかな。
ソフィがもうちょっと大きくなったら教えてあげるから、いっしょにやりましょうね」
「うん」
そのまま、ソフィは真面目な顔でルシールの指先の動きをじっと見ている。
俺は向かい側に座って二人の様子を眺めてる。
親子って感じでいいな、こういうのも。
「さぁできたよ。ソフィ着てみて」
「はやーい。もう出来ちゃったんだ」
「ちょっと折り曲げて縫っただけだからね」
ソフィは着ていたピンクのワンピースを脱がされて、手直しの終わった水色のワンピースに着替えた。
「うん、ぴったり」
ソフィが嬉しそうにくるりと回って見せてくれる。
言うまでもなく、とても可愛い。
「あとは布地をいろいろ買ってきたから、おいおい縫っていくね」
「えっ、何もないところから作れるの? お母さん、すごーい」
んむ、ルシールはいろいろすごいんだ。
「今までジェラルドしかいなかったから作り甲斐がなかったのよね。自分のを作ってもつまらないし、あまり裁縫とかしてなかったんだけどね。
ソフィをいろいろ着飾れるから、頑張っちゃうよ」
それは俺も楽しみだな。
「ありがとう、お母さん。大好き」
ソフィがルシールに抱きついてる。
すっごく羨ましいぞ。
俺もソフィに大好きって言われたいのに。
あっ、なんかルシールが勝ち誇った顔をしている。
すっごく悔しい。
他にもいろいろとソフィ用の食器とかを買ってきた様子。
そしてその中で今日買った一番の高級品。
それは色の着いた絵本が一冊、中古のようだけどね。
本はすごく貴重品。
何十年か前に遠くの国で印刷技術が開発され、数年前に王国にも伝わってきたのでいろいろと印刷物も増えてきたらしい。
それでも、まだまだ高価なので貴族にしかあまり需要はありません。
でも、そんな本ですが、ルシールは街で中古の絵本が一冊売られていたのを見て、衝動的に買っちゃったそうです。
ルシールは「無駄遣いだったかも」って言ってるけど、俺はそうは思わないな。
俺は学校とか行かなかったから、後から字を覚えるのにとても苦労したものだ。
今からソフィが少しでも字を覚えれるのならいいことだと思う。
昔もらった報酬もほとんど使ってないから、お金には困ってないしな。
「それじゃ、絵本をお父さんに読んでもらってらっしゃい」
ルシールが最初にソフィに絵本を読んであげる権利を俺にくれるようだ。
ありがとう、ルシール。愛してるぞ。
ソフィは絵本を抱えて俺の横へ駆けてきた。
目が輝いてすっごく楽しみにしてるようだ。
俺は一ページ目を開いてゆっくりと絵本を読み始めた。
「むかしむかし あるところに おじいさんと おばあさんが すんでいました」
どうやら、勇者が動物たちを引き連れて魔王を退治するお話しのようだ。
ソフィは目を輝かせて、一言も聞き逃さないように静かに俺の声を聞き入っている。
「めでたし めでたし」
最後のページを読み終えて本を閉じると、ソフィは、
「お父さん、もう一回読んで、もう一回」
とアンコールのリクエストのようだ。
「しかたないなぁ」
と言いつつも嬉しそうなのを隠せない俺がいる。
「むかしむかし あるところに……」
二回目もソフィは目を輝かせてじっと聞き入っている。
こうやって何度も聞いているうちに話を覚えて、そのうち書いてある文字も覚えていくんだよな。
俺は読むつもりもないけど、そのうちルシールが持ってるような難しい魔法書も読めるようになっていくんだろうか?
すっごく先の長い話になるだろうけど、最初の一歩が大切だろうからな。