6 可愛い娘ができました
「ソフィ、フレイヤから教わったことがあるだろう?
どうしてフレイヤがソフィのところに来たか」
俺がソフィに尋ねると、
「うん」
「ちゃんと覚えてるかな?」
「覚えてるよ。
あのね、ソフィには資格があるんだって。
そしてなんだかよくわからないんだけど、役割があるんだって」
「よく覚えてたね、偉いぞ。
でもなソフィ。
そのことは今から誰にも内緒だ、いいな」
「えー!」
「そのことを他の人に話すと、ソフィが危ないことに会うかもしれないんだ。
だから、ここにいる人以外は誰にも話しちゃダメだぞ。
約束できるかな?」
「わかった。誰にも話さない。約束する」
ソフィは真面目な顔で、うんうんと肯く。
「それでだ。
誰に何も話さないでいたとしてもいつの間にかフレイヤを持ってるだけで、皆にソフィが何かの役割を持ってるってことがわかってしまうんだ」
「そうなの?」
「あのね、ソフィ。前にフレイヤを持ってた人が有名だったからしかたないのよね」
ルシールがフォローを入れたようにも見えるが、あまりフォローになってないような気もする。
「それって、おじさんのこと?」
「まぁそうだな。
だから、ソフィがフレイヤを持ってることはできるだけ内緒にしたいんだ」
「どうしたらいいの?」
「この森の中以外ではフレイヤを持たないでいてほしい」
「ここで暮らすことになるの?」
おっと、話の順番が間違ってたな。
「ソフィさえよければ、それが一番いいと思うんだ。
少なくとも俺の目が届くところにいればソフィのことを守ってやれる。
ソフィが安心して暮らせるところは世界中探しても、ここしかないと思う」
「ここにいていいの?」
「あぁ大歓迎だ。
俺の名はジェラルド、こっちの女の人がルシール。
三人で暮らして行こう」
「グレゴワールは?」
横に座ってるグレゴワールの方をちらっと見て、ソフィはそうつぶやく。
「グレゴワールは遠くでお仕事があるから、これでお別れになっちゃう」
「そうなんだ……、寂しいな」
ソフィがグレゴワールのほうを見て寂しそうにする。
上手く餌付けされてるな。
俺だったらソフィにこんな顔で見られたら、仕事とかほっぽりだしてしまうところだが、仮にグレゴワールがそう言い出しても俺が許可しない。
「ごめんな、ソフィ。
俺は大事な仕事があるから、ここで暮らすわけにはいかない」
んむ、グレゴワール。
空気を読んだいい判断だ。
褒めてやるぞ。
「そっか……」
ソフィがガッカリしてる。
だが、ソフィを悲しませたから、やはりグレゴワールはダメだな。
ソフィは椅子から立ち上がると俺とルシールのところまでやってきた。
「これからよろしくお願いします」
そう言うと頭を下げた。
なんていい子なんだ。
「あのね、お願いがあるの」
「なんだい?」
「…………」
お願いがあるって言った割には何も言い出さない。
なんか恥ずかしがってるように見える。
「やっぱりいい」
「せっかくだから、言おうよ」
モジモジしてる。
その様子を眺めてるだけで、すっごく可愛い。
「……お父さんお母さんって呼んでもいいですか?」
何この可愛い生き物は!
ガマンしてたけど、もうムリだ。
俺はソフィを思いっきり抱きしめた。
「むぎゅう」
もう離さないからな。
「ソフィは俺の娘だからな。
文句のあるやつがいたら、俺が相手だ!」
「あら、わたしの娘ですよ」
ルシールはそう言うと、俺からソフィを取り上げようとする。
ソフィを挟んで、俺とルシールが睨み合うことに。
「喧嘩しちゃダメなの!」
ソフィがぷんぷんと怒ってる。
「『ごめんなさい』は?」
俺とルシールは向かい合って互いに、
「「ごめんなさい」」
と、言い合った後、プッと吹き出した。
俺たちの様子を生暖かい目で見ていたグレゴワールは立ち上がると、
「話は無事に決まったようだな。
あまりのんびりしていると、ジェラルドから蹴り出されかねないから、さっさとお暇することにするよ」
さすがにグレゴワールは俺の対応をよくわかっているようだ。
「もう行っちゃうの? グレゴワール、まだ居てもいいよね」
ソフィがすごく寂しそうな顔をしてるから、もう少しだけなら滞在を許可してもいいんだぞ?
「王都までは遠い道のりだから、いいかげん行かないとな。
いろいろ大事な仕事も溜まってるはずだから」
そういえば、国境の砦が魔族に襲われた事件について、こいつは放り出したままだったっけ。
これからいろいろ大変そうだな、俺は知らないけど。
でも、王都って馬で駆ければ数日で行けるんじゃないか?
あ、こいつの方向音痴はハンパなかったか。
「迷わずに王都に辿り着けることを神に祈っております」
ルシールも当然、心当たりがあるようだ。
「そんなムチャの祈りをされても、神が困ってしまうだろう」
いやいや、普通はそれほどムチャな祈りじゃないはずだから。
「グレゴワール、ありがとう。
また来てね」
立ち去るグレゴワールにソフィが思いっきり手を振っている。
これから親子三人での新しい生活のスタートだ。