5 ソフィが目を覚ましたようだ
ソフィが目を覚まして一人でリビングにやってきた。
ベッドの近くに置いておいた聖剣フレイヤも抱えてきているな。
「おはよう」
目をこすりながらも挨拶した。
偉いぞ、ちゃんと挨拶できる子は好きだな。
「おはよう、ソフィ。お腹がすいてるだろう。
朝食を食べておいで」
「うん」
ルシールはソフィを連れて食堂に向かった。
「さーて、お前からのほとんど役に立たない情報はそのくらいか。
ソフィから事情を聞き終わったら、もうどこにでも行っていいぞ」
「あいかわらず扱いがひどいな。
ソフィはすっかりキレイにしてもらったようだが、俺も風呂を使わせてもらえないか。
王都へ旅立つ前に少し汚れを落としたい」
「家のすぐ近くに池があるぞ」
「まだ今の季節に池とか水が冷たすぎるだろ」
「魚が迷惑するから、あまり汚さないようにしてくれよ」
「俺と魚とどっちが大事なんだ?」
少し考えてみたが、どう考えてみても、やはり結論は見えてるな。
「魚のほうが大事じゃないかな? 夕食のおかずになるし」
「……まったく変わらないよな、お前は」
「これでもずいぶん性格が丸くなったと、近所の村の奥様たちの間でも評判だぞ。
昔の俺だったら、お前の状態とか知ったことじゃないと、昨夜のうちにすべて情報を聞き出して、今頃はもう放り出してるはずだ」
「そういうやつだったよな、お前は」
「すっごく懐かしいだろ」
「懐かしすぎて涙が出そうだよ」
グレゴワールいじるのはやはり楽しいな。
懐かしさで心もウキウキしてくる。
戦士のアロイスのほうはマイペースだったから、いじっても反応が薄くてグレゴワールほど楽しくなかったものだ。
「まぁソフィをここに連れてきたのは正解だと思うぞ。
褒めてやろう。
俺以外にあの剣のことをわかってるやつはいないし、ここなら何があろうと守ってやれる」
「ああして出会っちまった以上、ソフィのことが気になるからな。
とはいえ、俺も王宮魔術師という立場上、得体の知れない子供を引き取ることも難しいかもしれん。
まさかとは思うが聖剣の持ち主である以上、ただの子供とも思えない」
グレゴワールもいろいろと思うことがあるんだろうな。何か企んでるかもしれないから要注意ではある。
少しマジメな話をしていると、朝食が終わったようだな、ルシールとソフィがリビングルームに戻ってきた。
服も着替えてる。
昨日ソフィが着てた服を、ルシールが大急ぎで洗濯して魔法で乾かしていたからな。
「グレゴワールは元気になったの?」
ソフィが心配そうに尋ねてくる。
「あぁもうすっかり元気になったぞ」
グレゴワールは見るからに元気そうに答えると、
「よかった。死んじゃうかと思ったよ」
ソフィは優しいな。
でもあのくらいで死ぬようなハンパなやつじゃないからな、こいつは。
「さて、ソフィからもいろいろ聞かせておくれ」
俺は怖がらせないように気をつけながら、ソフィから事情を聞き出すことにした。
ソフィは向かい側の長椅子のグレゴールの隣に腰掛けた。
「ソフィはグレゴワールと会う前のことを覚えてないって聞いたけど、その剣のことも覚えてないのか?」
「この剣はフレイヤっていう名前なの、お友だちなの」
「フレイヤって名前は剣から聞いたのかな?」
「おじさん、剣がしゃべることも知ってるの?」
「あぁ実はな、むかーしむかしのことなんだけど、おじさんもフレイヤとお友だちだったんだ」
「すごーい。ソフィといっしょだね」
「お友だちのお友だちから、おじさんとソフィもお友だちかな?」
「ん……」
反応が薄いな、ちょっと攻め方を間違えたか。
「ソフィはどうやって、フレイヤとお友だちになったんだ?」
「あのね、ソフィが森で迷子になってたら、お空からピューって降ってきたの。
それでね、頭の中でなんか声がしたの」
いちいち表現が可愛くていいな。
「どんな声が聞こえたのかな」
「あのね、剣を抜いてごらんって。
剣が長くて抜くのが大変だったけど、がんばって抜いたんだ。
そしたら、フレイヤとお友だちになれたの」
「そうか、がんばったんだね」
「うん」
俺のときと似たような感じだな。
「ソフィはどうして森にいたんだい?」
「覚えてないの。いつの間にか森にいたの」
「ずっと一人だったのかい?」
「グレゴワールと会うまでずっと一人だったよ」
そうか、何も覚えてないってことか。
結局、たいして何もわからなかったか。
「他になにか聞いておきたいことあるか?」
ルシールとグレゴワールに確認しておく。
「俺はここに来るまでに何度も聞いたから、これ以上、特には」
「わたしも特に何もないわ」
二人ともこれ以上の質問はないようだな。
「だが、ジェラルド」
「なんだ?」
グレゴワールが何か呆れたような顔で話しかけてきた。
「お前って、こんな穏やかな会話もできるんだな。
俺との会話とのギャップが激しすぎるだろ」
「うっせーわ」
グレゴワールにはグレゴワールにあった対応があり、ソフィにはソフィにあった対応があるんだ。
まったく何も問題はないな。
「特に何もないようなら、これからのことを話し合うことにしようか」