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1 引退した元勇者は愛する妻とスローライフを楽しむ

 アゼラリア大陸の東のファリセニア平原、その奥地にある大迷宮へ勇者たちは魔王を追い詰めた。

 大迷宮の探索は鍛え抜かれた勇者たちの手をもってしても困難を極めたが、ついにその大迷宮の最奥で魔王との決戦となった。


 長時間に及ぶ激戦の末、ついに勇者ジェラルドの聖剣が魔王を貫いた。

 魔王の息の根を止めた瞬間、聖剣は光り輝いた。


「見事だったよ、我が主。わたしの役目はこれで終わりみたいだ。

 また、わたしを必要とする人物が現れるときまで、どこかでこの世界を見守っているよ」


 聖剣フレイヤはそう語ると、姿を消して行った。


 フレイヤと出会ったのはまだガキの頃だったよな。生意気なことばかり言うフレイヤとケンカしつつも成長していったものだ。

 あれから、もう数年経つのか。そんなフレイヤともこれでお別れと思うとさびしくなるな。


「さぁ引き上げるぞ。凱旋帰国と行こうじゃないか」


 パーティーの紅一点、エルフの賢者ルシールの作り上げた魔法陣によって俺達は大迷宮を脱出した。

 戦士アロイスと魔法使いグレゴワールとの四人での旅もやっとこれで終わりだな。




 王都へ戻っての祝賀会は派手なものとなった。

 国土は荒れ果てこれから長い復興の時代が始まる。

 だが、今日くらいは苦労を忘れて、この平和を楽しんでもいいだろう。


 騎士出身のアロイスと王宮魔術師だったグレゴワールはこのまま王国に仕えることにしたようだ。

 彼らの能力は、これからの復興の時代にもきっと役立つと思う。

 でも平民出身の俺はまともに教育も受けてないし、貴族の中に混ざって堅苦しい思いをするのはまっぴらだ。

 やはり、人間ばかりの王都で暮らすつもりのないルシールと共に二人で王都を辞した。


 二人とも思いもかけない額の報酬をもらったので、贅沢しなければ一生暮らせるだろう。

 いや、エルフの残りの寿命がどれだけあるかわからないから、ルシールについては不明としておいたほうがいいか。


 二人での旅の途中、俺はルシールにプロポーズした。


「俺の人生の残りをルシールと共に暮らしたい」


 それに対しルシールは、


「見てないと危なっかしくてしかたないし、短い人間の一生なんだからつきあってあげるわ」


 と返事してくれた。


 二人で相談した結果、俺の生まれ故郷の村の近くのルシールと出会った森を目指すことにした。

 あの森で二人でのんびりと暮らそう。




 最初は自力で木を切るところから始めて家を作るつもりだったが、すぐにあきらめた。

「だからムリだって言ったでしょ」

 ってルシールには笑われたが、やってみないとわからないじゃないか。

 故郷の村に出向いて賃金を出すことで村の皆に手伝ってもらって家を建てた。


 村までは歩いてニ十分ほど。

 小さな池のほとりの小さな家。

 それでも二人で暮らすには大きすぎる。

 そのうち、たくさん子供が生まれて、この家も狭くなるかもしれないぞって俺が言うけど、ルシールは「はいはい」と笑って答えるばかりだ。


 暇さえあれば励んでるんだから、きっとたくさん子供が生まれると思うんだがなぁ。

 エルフって言ったら痩せてて貧乳と思い込んでいたんだが、ルシールは脱がしてみたら意外にもそれなりに大きくて驚いたものだ。

 俺としてはもう少しペチャパイでも問題なかったんだが。

 もちろん大きい分にはまったくもって問題ないのは言うまでもない。

 オッパイに貴賎はないのだ。


 池で魚を釣っていると、ルシールが横で眺めている。

 釣り針には、めったに魚はかからないし、魚がかかっても半分くらいは逃してしまう。

「思ったより不器用だよね」

 ルシールにひどい言われようだが、戦闘以外のことに関しては本当に不器用だからしかたない。


 ルシールに教わりながら森で野草やキノコを集めていたが、俺が採った半分くらいは毒キノコや毒草だったようで、次から連れて行ってもらえなくなった。

 俺がすねてたら、荷物持ちとして連れて行ってくれた。

 ルシールが指示する通りのものだけ採って、俺がすべて荷物を運ぶんだ。

 結構ひどい扱いなような気がするが文句を言うと連れてってくれなくなるので黙って働いている。


 家の横に小さな畑を作ってみたがこれは趣味の領域。

 村で分けてもらった種を蒔いてみたが、一応育ってはいるようだ。

 ちゃんと収穫できるかどうかは自信がない。

 穀物や野菜は基本的には村から分けてもらってる。もちろんちゃんと代金は払ってるぞ。


 村の近くでゴブリンとかが出ると俺が呼ばれる。

 聖剣を亡くしてから新しい剣とかは持ってないが、こん棒があればこのあたりに出るようなモンスターならまったく問題はない。

 別に素手でも倒せると思うけど、モンスターによってはあまり素手で触りたくないようなモンスターもいるからな。


 ウサギや鹿は貴重なタンパク源。

 別に狩りを楽しみたいわけじゃないから、肉を食べたくなった時だけ森に狩りに行く。

 鹿くらいなら二人で食べてしまうが、イノシシなどの大物を狩れた時には村へおすそ分けしに行く。

 いろいろ村の皆にはお世話になってるから、このくらいはしないとな。


 こうしてこのまま老いていくのもきっといいものだろう。


 これで俺の物語も終わりだ。

 めでたしめでたしってところだな。

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