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3話 T S 後初戦闘

グロ注意です。

 廃墟を出て森に入った俺は、身長より長く森の中で振り回すのに不向きなクレイモアをアイテムボックスにしまった。

 ズボンのベルトにショートソードとレイピア、ダガーを数本を吊る。

 ポケットから地球でいうコンパスとそっくりのアーティファクトを取り出した。

 東西南北がこの世界の言語で書いてある以外はパッと見違いは分からない。

 だが、このコンパスは方角を示すという点は酷似しているものの、その性質を一部異にしていた。

 このコンパスは杭のような触媒とセットになっているのである。

 杭に持ち主の魔力を込め、地面にでも刺しておくことでマーカーの役割を果たすのだ。

 コンパスの針は二種類入っており、片方は地球と同じもので、もう片方はマーカーの存在する方を示す作りになっている。

 少々お高いが、世界中を放浪し、時に未開の地に足を踏み入れる冒険者や行商人には必需品で、これを製造する魔術師ギルドの貴重な収入源となっていた。

 杭が何らかのトラブルで移動しない限りは道に迷うことはないので便利だが、転移魔法を使えるようになったらこれも用済みになるかもしれないと考える。

 コンパスがあっても森では障害物があり、まっすぐ最短距離では進めないが、強化された体にとってはまったく苦にならない。

 むしろ身体能力の確認ができてありがたいぐらいだ。

 素早い跳躍を繰り返しながら木々の合間を縫っていく。

 男の時では到底出来なかった動きに感動を覚える。

 街に戻ったら屋根から屋根に跳び移ったりして忍者のようなフリーランニングを楽しみたい。

 アホかと思われるかもしれないが、男はいくつ年をとっても童心を忘れないものなのだ。

 フード被ってるから俺、アサシンみたいじゃね?

 日本にいた頃プレイしたゲームの動きが自分で再現できて興奮した。


 意気揚々と進み、森の半ばぐらいまで到着したところ、突然地響きが轟いた。

 魔物か?耳を澄ますと音源は正面の木々の先から聞こえてくる。

 ガサガサと音を立てて茂みから出てきたのは血相を変えて全力疾走する立派な牡鹿だ。

 普通こういった草食動物は人間を見たら逃げるものだがまっすぐ突っ込んでくる。

 何かから逃げている。

 そう判断した俺は鹿を追う者の正体を確認すべく目を凝らす。

 木々を薙ぎ倒し、鹿の背後から現れたそれは巨大な槌のようなものを振るって獲物の頭部を粉砕した。

 脳ミソを四方八方にぶちまけた鹿は体をビクビクと痙攣させた後、間もなく絶命する。


「ガアァァァアアアアアア!!!!!!!!」


 大槌の持ち主は獲物を仕留めた喜びに耳をつんざくような咆哮をあげた。

 現れたモンスターはオークの上位種、オーガだった。

 2.5メートル近い巨体、鋼鉄のような筋肉で覆われた体躯。

 手にもつ凶器は恐らく竜骨だろう、重さと硬さに優れる極めて破壊力の高い武器だ。

 俺の姿を認めたオーガは、脳ミソのはりついた大槌を脇に投げ捨てると、牙の突き出た分厚い唇を醜悪な笑みの形に歪ませた。

 同時に粗末な腰簑の下にあるブツが怒張する。

 俺のよりでけえぇぇ!!成人男性の腕ぐらいの太さがあるぞ!

 武器を捨てたのは小さくて弱そうに見える俺への嘲りかと思ったが違う。

 獲物を弱らせすぎないように暴力を振るうためだ。

 破壊衝動の権化のようなオーガだが、残忍で、人間の女の悲鳴をコーラスに犯すのを愉悦とすることが知られている。

 当然加減などしないので犯された女は乱暴の果てに死んでしまい、ヤツの胃の中に収まるという地獄が待っているわけだ。

 ちなみにメスのオーガというのもいて、男性も似たような末路を辿ったりする。

 ……別にいらない情報だったな。

 このオーガはまさにこれからそうするつもりで吐き気を催すような笑みを浮かべている。

 冗談じゃない、俺の処女どころか、命までこいつにくれてやるつもりは毛頭ない。

 オーガなんかに絶対に屈しない!


 さて、俺はオーガとは過去に何度か刃を交えたことがある。

 ただし、最低でも同じBランクの連携をとれる者5人以上でだ。

 いずれもギリギリの戦いだった。

 武器はなくとも素手のオーガの攻撃力は侮れない。

 王国騎士団と共闘したときのことだが、ヤツの無造作に放った正拳突きを頑丈なプレートメイルの胸部で受けた騎士が一撃で死亡するのを見た。

 戦闘終了後、死んだ騎士を弔うため、ひしゃげた鎧を外してやると中身は無惨な人肉ハンバーグと化していた。

 歴戦の戦士までもが嘔吐するひどい有り様で、俺も帰った後、好物だった酒場の臓物の煮込み料理がしばらく食えなくなったな。

 俺を犯すために即死するような一撃はしてこないと思うが、あの腕に捕まれば逃げられない可能性が高い。

 戦闘そのものから逃走するにもここはヤツの縄張り、地の利は向こうにある。

 素早さで勝っていても撒ける保証はない。

 であれば戦って倒すのが最善。

 攻撃を的確に見切り、ヒットアンドアウェイで確実に仕留める。

 魔人族の能力なら容易い。

 ショートソードを鞘から抜き、正眼に構えて出方を窺う。

 先に動いたのは我慢の限界を迎え、目の前の女を犯すしか頭にないオーガの方だった。

 伸ばしてきた左腕を小柄な体躯を生かして掻い潜り、斬撃を横一文字に走らせる。

 かわされたことに気づいたオーガはすかさず右腕で捕まえようとしてきたが、俺はバックステップで距離をとることで回避した。


「チッ浅かったか……」

 俺が斬りつけた腹部はおびただしい血を流したものの驚異的な再生能力で回復していく。

 俺自身の腕が短くなっているので致命傷を負わせるにはリーチが足りなかったのだ。

 華奢で非力そうな獲物に予想外の抵抗をされ激昂したオーガは巨躯に似合わぬスピードで殺意に満ちた雄叫びをあげながら突進してきた。

 もはや当初の目的など、どうでもいいに違いない。

 単細胞め。


「グオオオオオオオオオ!!!!」

 昨日までの俺の敏捷性なら食らっていたかもしれない。  

 だが、

「遅い!」

 遅すぎる!

 いや、俺が速くなりすぎたのだ。

 意識を集中すればヤツの動きが止まって見える。

 ギリギリのところでタックルをかわしてすれ違い様に腕を足を、背中を斬りつけた。

 血が吹き出るがすぐに塞がっていく。


「クソッタレ、なまくらじゃ倒せんか……」


 剣の切れ味が明らかに落ちている。

 血糊を払って刃をあらためると刃こぼれをしていた。

 数打ちの量産品の剣にしては頑張った方だろう。

 怪物を殺すためにはやはりそれにふさわしい武器がいる。

 重くて硬くて鋭い大物が。

 大剣(クレイモア)はアイテムボックスの中だ。

 俺はアイテムボックスを活用して武器を替えながら戦うという戦闘スタイルをしたことがない。

 収納する容量が少なかったからだ。

 大剣を抜くためにはどうしてもタイムラグが発生してしまうだろう。

 隙を作る必要があるし、大剣を振り回せる開けた場所にヤツを誘導する必要がある。

 俺はヤツの気配に注意を払いつつ、これまでに通った道で広めの空間まで誘い込んだ。

 獲物が逃げ出したことに焦りを見せたオーガはなんの疑いもなく、唸りをあげながら追いかけてくる。

 やはり単細胞だ。

 強者故の驕りってやつか。強すぎて搦め手を使う知恵がつかなかったのだ。

 ここは人生?の先輩としておっさんが授業してやらなければな。


「これは俺からのサービスだ!」

 振り返って足を止め腰のダガーを鞘から抜き投擲する。

 短刀の切っ先は狙いに違わず眼球に吸い込まれた。


「グオアアァァァアア!!!!」

 鍛えることの出来ない急所を抉られ、悶絶する。

 闇雲に腕を振り回すが、俺は射程の外だ。

 騎士ですらミンチに変える腕も当たらなければどうということはない。

 その隙にクレイモアをアイテムボックスから抜く。

 ガントレットによる支えと、両手で持つことでようやく威力を発揮したこの大剣も、今や片手で持っても羽根のように軽い。

 大剣を下段に構えて、必殺のタイミングを窺う。

 眼球の痛みを脳内麻薬で無視したらしいオーガは俺に接近し、渾身の力を込めた拳を放ってきた。

 しかし、知覚の強化された俺にとってはハエの止まるような攻撃だ。

 サイドステップでかわし、腕が伸びきるのを捕捉した瞬間、跳躍する。

 軽業師のように拳の上に着陸し、再度跳躍する。

 片目では俺の動きについてこれなかったのだろう。

 左右を見回している。

 馬鹿め、俺は上だ。

 跳躍の高度が最大に達した瞬間、大剣を下段から最上段に構える。

 重力を味方につけ、力任せに大剣を降りおろした。

 僅かな傾きも存在しない兜割りは優れたドワーフの鍛治師が打った強靭な鋼の刃と莫大な魔力でブーストされた腕力が合わさり、頑丈な肉体を骨格もろともバターでも切るかのような軽い手応えで両断した。

 頭頂部から股間まで綺麗に真っ二つにされたオーガは断末魔をあげることすら許されず、単なる肉塊となって地面を転がった。

 遅れたように大量の血液がプールを作り、内蔵がこぼれる。

 辺りに鼻をつまみたくなるような汚臭が広がった。


「一丁あがりっと。来世では女の子に優しくするんだぞ。これ、おじさんとの約束な?」

 物言わぬ死体に朗らかに声をかける。

 あれほど苦戦したオーガですら剣だけで容易に倒せてしまうとは。魔人族の力、伝承に見劣りしない。

 今は無き魔人の皆さま、ゴチになりました!

 さて、せっかく倒したことだし、金になりそうな素材を頂いていくか。

 といってもオーガの死体で金になるのは硬い骨と睾丸だ。


「ヘッヘッヘ、特に金玉は高値で売れるぞ」

 異性への扱いがまるでなっちゃいないオーガは下位のオークに比べ圧倒的に個体数が少ない。

 素材の希少価値は言わずもがな。

 2個しかとれないしな、金の玉だけに。

 いいかい、これはおじさんの金の玉だからね?

 下ネタに走って下卑た表情で笑う。

 若返ってもおっさん性は健在のようだ。

 話がそれたな、オーガの睾丸は強力な精力剤の材料になることはもちろん、戦闘では気付け薬、筋力増強剤にもなるので重宝されている。

(ちなみにオーガの精力剤は試してみたんだがED治らんかったわ。)

 1個あたり100万Gで売れるので、適正価格で買い取ってくれるところを見つければ当分路頭に迷うこともなくなる。

 あ、そういえばさっき美少女に金玉って言われて興奮した?

 興奮してくれてもいいんだからねっ!(ドヤァ)

 ほらほら『美少女』が男の人の素材をいじってるんですよ。

 興奮するべきポイントじゃない?

 え?違うって?



 血の海に嬉々として佇み、自らの手を血塗れにする少女の姿は凄惨だが、どこか妖しく美しかった。


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