番外編 少年期のエピソード3
コ○カツ!にアスカ(♀)をアップしました。
よろしければ愛でてやってください。
身長低い、帰宅部、ボーイッシュである程度絞り込めるかと。
一人称が『私』ですが言葉遣いはほぼ完璧です。
ボイスの破壊力凄まじい。
霞澄(♂)も作りましたがひょろすぎて不満。
とはいえ絵心なくても可愛いキャラが作れるなんてよい時代になったものです。
スクリーンショットの二次利用が規約で禁止されているためこちらで挿絵として上げられないのが残念です。
キャンプ場へは午前10時過ぎに到着した。
「二人ともお疲れ様。着いたよ」
怜兄さんが運転席で背伸びをして体をほぐす。
「怜兄さん運転お疲れっす。すぐにチェックインして荷物を運ぶ流れですか?」
「そうだね。バーベキューの食材はクーラーボックスに入っているけどコテージの冷蔵庫を使うにこしたことはないな」
「了解。手伝います。降りるぞ霞澄、霞澄?」
声をかけるが返事がない。
俺の妹君はいつの間にやらすやすやと気持ち良さそうに寝息をたてていた。
「おーい、霞澄。起きろ。到着だぞ」
ぺちぺちと頬を叩く。
目を覚ます気配がない。
酔い止めを飲んではいなかったので、抗ヒスタミン成分の副作用という可能性はない。
高級車のシートとエアコンが快適すぎての爆睡だ。
「お ー き ー ろ」
居眠りする生徒を咎める教師のように呼びかけ、頭を軽くはたく。
起きない。
今度は両側のほっぺたをつまんだ。
くにくにと円を描くようにこねる。
生来のもち肌ってやつなのか、女の子の肌ってやつの性質か、野郎のアブラギッシュなカルビ肌と違ってひんやりしていて、とてつもなく柔らかかった。
病みつきになって頬の感触を楽しむ。
起きていたら確実に折檻コースまっしぐらだ。
ほっぺで遊ぶのと引き換えに拷問と処刑なんて割りに合わない。
だからこそやる意義がある。
起きるか起きないか、ギリギリまで挑戦し続けよう。
俺はかつてないチキンレースに興奮していた。
「……ん、おに……ちゃ……」
霞澄が寝言で俺を呼んだ。ビクッと反射的に手首の腱がひきつる。
おそるおそる寝顔を観察してまだセーフだと判断した。どうやら夢の中に俺が出演しているらしい。
「……すぅ……だいすき……」
「霞澄……」
よほどよい夢を見ているのか安らかな顔をしている。
起きれば小悪魔に変貌するが、この寝顔のどこに罪があるだろう。
おねしょしていた頃から見守ってきた妹のあどけない顔ではないか。
日頃の鬱憤を晴らすことに罪悪感を覚えはじめた俺は頬から指を離すことにした。
「……しゃあねえなあ。よっと、意外に軽いな。この体重のどこからあんな馬鹿力が出てくるんだか」
起こすのを諦め霞澄の肩を担いで車外に出たら首と膝間接に腕を回して抱え上げる。
お姫様抱っこだ。コレ、抱える側もすっげえ恥ずかしい。
めっちゃニコニコしながら見ている怜兄さんはいいとして、駐車場にいる他のファミリー、カップル、『ウェーイ!』とテンションかっとんでそうな大学生のグループまでこっちを見ている。
怜兄さんと霞澄が人目を引く美男美女であることは間違いない。
そこに残念ながら違和感混じりの視線を向けられている。
もちろん、違和感の正体は俺だ。
超絶イケメンと超絶美少女。そしてその超絶美少女を抱っこする超絶地味メンという謎のパーティーが注目を集めている要因だろう。
イケメンが美少女をお姫様抱っこ。
これならさぞかし絵になることだろう。
しかし、イケメンを差し置いて地味メンが美少女を抱っこしているので不条理を感じているに違いない。
疑問符が附随する視線が実に鬱陶しく感じる。
「兄妹扱いされないなんて昔からだから慣れてるんだけどな」
一応この状況を緩和する手段はなくもない。
背中におぶるのが一番楽で歩きやすくかつ、兄妹らしくて自然だ。
だが、それは決してやってはならない。
なぜならば背中に密着するであろう堕落の果実によって俺は世にも情けない猿顔を周囲に晒してしまうからである。
性春真っ盛りの中学生男子にとってこれは釈尊の体験した苦行に等しい。
俺は世間から向けられる好奇の視線に耐え、紳士としての尊厳を守護する道を選択した。
「霞澄ちゃん寝ちゃったんだね」
「すみません」
「気にする必要はないさ。荷運びに往復する手間ぐらいなんてことはないんだし」
怜兄さんは重たそうなクーラーボックスを車のトランクから出すと軽々と持ち上げて見せた。
フロントに到着してチェックインの手続きに向かう怜兄さんの背中を見送る。
じわじわと乳酸が蓄積して腕に痺れを感じ、霞澄を寝かせる場所を探し始めた頃。
腕の中の極悪スリーピングビューティーがようやく眠りから覚めた。
「ん……お兄ちゃん……」
寝起き特有の緩慢な瞬きを繰り返すと瞳孔の焦点が結ばれる。
「起きたか。お前よくまあ、不安定な体勢で歩いてんのに眠れるな」
「え?あれ?嘘!?何この幸せすぎる展開。私まだ夢見てるの……?」
キョロキョロと周囲を見回して困惑する霞澄。
どうもまだ寝ぼけているようだ。
歩くベッドでお休みは寝心地はともかくとして贅沢だ。赤子から幼児までしか享受できない特権と言っていいだろう。
人を奴隷にする気分は幸せだろうよ。
「何の夢か知らんが起きたんなら降りろ。そろそろ腕が限界なんだよ」
「えー、やだ」
霞澄はむくれた顔で拒否する。
こいつ、俺の腕とニュートン先生にケンカを売る気か。
先生、この生意気なガキにいっちょ万有引力の法則ってもんをしつけてやってくだせえ!
「限界つってんだろ。落とすぞ」
「もう少し頑張ってよ。寝てた分堪能できてないんだから」
「寝てなかったらやらねぇよ。ニュートンバスターくらいたいのか」
「じゃあ、こうすれば少しは楽になるでしょ」
霞澄はそう言うと俺の胸板に頬を寄せ、首に腕をからめてきた。
カップルだったらラブラブ度がレベルアップしているところだろう。
しかし、そんなことはこの際関係ない。
もっと差し迫った危機に対処せねばならなかった。
「おわっ!?ちょっ!?」
首に重心が偏ったせいで俺はバランスを崩したたらを踏む。
その勢いに背筋だけでは霞澄の体重を支えることもままならず、俺は霞澄を抱いたまますっころんだ。
ニュートンバスター(自爆ver)
「でっ!」
「きゃあっ!」
ハリウッド映画のアクションシーンのように抱き合ったまま床を転がる俺達。
咄嗟に霞澄の頭を抱きしめて守る。
「…………いてて、大丈夫か?霞澄」
「うう、お兄ちゃん貧弱すぎ。部活に入ってないからこうなるんだよ。夏休み明けたら剣道部に入部させて私が特訓して、あ…………」
回転が止まるなり苦言を呈した霞澄。続けようとした言葉が唐突に途切れる。
「お兄ちゃん……」
回転の終着地点。
俺は霞澄に覆いかぶさるように押し倒していた。
互いの顔の距離は視界いっぱいに広がる度アップで。
霞澄が瞳を潤ませ、頬を上気させている。
気づけば右手が霞澄の胸を押し潰していた。
手のひらからトクトクと早い鼓動が伝わってくる。
痛かったよな。涙目になってるし。
やべえ、これすっげぇ怒ってるんじゃね?
「悪い、霞澄」
「…………」
謝罪するが霞澄は答えずに目を閉じた。
何かを期待するように唇を突き出してくる。
無言の抗議だと受け取った俺は慌てて体を起こし、霞澄に手を差し出した。
だが、目を閉じたまま手を握ろうとしない。
完全にお冠のようだ。
「悪かったって霞澄。なあ」
二度謝ると霞澄がうっすらと目を開いた。
「え……?……今の吊り橋効果でチューされる流れじゃないの?」
小さく何か呟くとどこか不満そうに俺の手を握って立ち上がる。
服についたホコリを軽くはたいて言った。
「お兄ちゃん」
「なんだよ?」
「私って魅力ないかな?」
怒るでもなく霞澄は唐突に状況に関係のない質問をしてきた。
質問の意図を推し量ろうとするが、さっぱり分からない。
思ったままのことを口に出すことにする。
「誰が見ても美少女じゃん。すっげぇ可愛いよ。俺だってそう思ってるし。お前が美少女なのにどうして俺はイケメンに生まれなかったのかね。世の中不公平だぜまったく」
嘘偽ることのない本音。俺だってイケメンになって霞澄みたいに満遍なくモテたい。
「そっか」
霞澄ははにかんで再び俺の手を握る。
「お兄ちゃんはイケメンじゃない方がいいよ」
いたずらっぽく笑って言った。
「何でだよ?」
「お兄ちゃんに彼女ができちゃうじゃない。彼女に時間を盗られたら私が困るでしょ。お兄ちゃんは一生私に就職すればいいの。終身雇用制度だよ」
「給料次第で考えとく」
怜兄さんが戻ってきたので会話を打ち切る。
妹に甘い俺。一生コキ使われる未来もあるかもしれない。
――――
荷物を残らずコテージに運ぶとこれからの予定について話すことになった。
「バーベキューは夜にするとして、昼は魚を食べようと思うんだけど、どうかな?ここの渓流の一部は釣り堀になっていてね。釣った魚を焼いてくれるんだって」
「楽しそうっすね。俺は賛成です」
「私もそれでいい」
俺も霞澄も魚好きなので満場一致にて釣りに決定。
「じゃあ、のんびり釣りでも楽しみながら午後のことも考えようか」
コテージを出て移動する。
木々のカーテンが日差しを受け止めて都会より涼しい。山の上は空気が薄いからってのもあるけどな。
鳥のさえずりや川のせせらぎも聞こえてきて爽やかに心を癒してくれる。
この快適な空気を味わうだけでも来た甲斐があるってもんだ。
「ここはニジマスとイワナの2種類が釣れるそうだよ。それぞれコースが別になってる」
「釣れますかね?」
「ニジマスなら誰でも簡単に釣れる。餌を川の中に入れたら十秒もかからないと思うよ。イワナの天然ものは警戒心が強くて上級者でも難しいと言われてるけど、ここのは養殖だから素人でも釣れるんじゃないかな」
「難易度が低すぎても面白くないですよね。味はどっちがうまいんすか?」
「それは断然イワナの方だね。イワナのコースに行こうか」
怜兄さんが受付で会計を済ませ、3人分の釣り竿と餌を持ってくる。
俺達は上流に向かって少し歩き、イワナエリアの看板が立った場所に着いた。
美しい清流に興味を惹かれて水の中に手を入れてみる。
冷たくて気持ちよかった。
霞澄も同じようにして目を細めている。
日常を離れた妹の姿はなんとなくの印象だが、すごく新鮮で俺の知らない『女の子』ってやつを垣間見た。
美少女が見せる仕草に俺はなんとなく『いいな』と思った。
並んで腰を落ち着け釣り糸を垂れる。
霞澄、俺、怜兄さんの並び順だ。
美男美女のサンドウィッチ。
具の味がパンに負けているのは気にしない。
それにしても2人ともやたらと俺に距離が近い。暑くないのかね。
糸が絡まったりしないのは2人の器用さがずば抜けているからだろう。
餌に食いついてくる気配がないので間をもたせるためと思い、怜兄さんに声をかける。
「怜兄さん。ここのパンフレットって持ってます?」
「フロントでもらってきたからね。あるよ」
「ども」
携帯で観光情報を調べてもいいが、防水仕様ではない。
水中に落として故障させてはオカンにどやされるので紙媒体の方がありがたかった。
「怜兄さんは午後から行きたいところとか決まってるんすか?」
パンフレットに目を落としながら訊いてみる。
「飛鳥くんの行きたいところがオレの行きたいところさ」
そのセリフにドキッとする。
イケメンがイケメンなセリフを言うとカッコよさ倍増だな。
俺も少しは見習ってみようか。
新学期からモテる男になりたいしな。
さて、それはともかく霞澄が興味を持ちそうな場所はあるかね。
パンフレットを片手で広げようとした時、
「霞澄はどこがい……おいっ!ちょっと!」
頬を膨らませた霞澄がずいずいっと俺にくっついてきた。
左手で華麗に竿を操りながら右腕で俺の腕を抱いてくる。
おっぱいの感触が肘にあたった。
手の中の竿が暴れて落としそうになる。
「パンフレット私にも見せてよ」
密着しながら紙面を覗き込んできた。
一年の男子の誰もが残り香にテンプテーションされてつい追ってしまうという髪の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
結構な額の小遣いを費やして買ったというシャンプーの香りだ。
近づくだけで魅了のバッドステータス付与とか最近のヘアケアメーカーは魔法じみている。
男を蠱惑するシャンプーの匂いにドキドキし始める俺を余所に霞澄はそのままパンフレットの内容を読み上げた。
「えーと、テニスコート、ゴルフ場完備。風光明媚なハイキングコースもあります。初心者でもOKな釣り堀にカヌー教室も営業中です。(カヌー教室はインストラクターの人数に限りがあるため前日17時までにご予約をお願い致します。)バーベキューは宿泊者様に道具一式無料で貸し出ししております。フロントにて食材の販売も行っておりますので合わせてご利用ください。また、当キャンプ場敷地内には日帰り温泉がございます。宿泊者様以外のお客様もどうぞお気軽にお越しください。(日帰り温泉には家族風呂がございます。こちらは当日正午の12時までのご予約を受付しております)……ふーん。普通じゃ………………!?」
「まあ、よくある観光地のレジャーだよな。余計な着替えは持ってきてないからできるのはハイキングくらいか。ん?どうした霞澄」
パンフレットを見ていた霞澄はまだ一匹も釣ってもいないのに血相を変えて釣り糸を引き上げた。
「お兄ちゃん今何時?」
「あん?」
「今何時かってきいてるの!!」
「どうしたんだよ一体」
パンフレットを足元に置いてポケットの携帯を慎重に取り出し、時刻を確認する。
「……11時半だな」
「私お手洗い行ってくる!」
時間とトイレに何の関連があるのか、立ち上がった霞澄は竿を置くとチーターもかくやという勢いで猛然と駆け出した。
「走ると転ぶぞ!」
そう声を上げたが、既に妹の背中は小さくなっていた。