表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人外の多い料理店  作者: 風山
3/14

蛇と理由

「うわぁ……」

「何だよその顔は、文句でもあるのか?」



 彼女について、やたら幅の広い廊下(恐らく彼女の大きさに合わせてあるんだろう)から階段を降り、突き当りの扉を開けると広いエリアに出た。

 彼女に案内されたそこは、床のあちこちに穴が開き、天井には蜘蛛の巣が張っているが、どうやら飲食店の様になっていた。

 でもそこは電気を着けても尚暗く、机や椅子は欠け、キッチンに隣接しているカウンターは板が外れそうになっている。

 入口らしき扉の前には、営業時に外に置くであろうやたら大きい鉄製のA型看板が立てかかっていた。


 街に一つはありそうな、なぜか潰れない廃墟みたいなお店。ここはそれを更に悪化させたような場所だった。

 さっきまでいた部屋や廊下、というか二階部分はフローリング張りの普通の家といったかんじだったのに、なんで一階がこんなことになっているんだろう?

 ここまで激しいギャップを目の当りにしたんだ、ボクの反応は正常なものだと思う。


「ほら、なんか出してやるから、そこのカウンター席で待ってろ」


 そう言って彼女はキッチンの方へ向かう。

 言われた通り、カウンター席に座ると、カウンターの上は薄らと埃が被っていた。

 最近まで掃除していた様に見えるけど、この店は経営してないのだろうか?

 そんなことを考えていると、キッチンから彼女が出てきた。


「早いですね」

「まぁ、切るだけだしな」


 そう言って彼女がカウンターに置いた皿には、一口大に切った生肉(・・)が山の様に盛られていた。

 なんだろう、鶏肉か何かだとは思うけど、少なくとも生で食べるタイプの肉には見えない。


「どうした? 食べないのか?」


 彼女は皿の上の肉片を、ヒョイヒョイつまんで口に放りこんでいる。

 どうやら彼女は生で肉を食べれる種族だったらしい。蛇だから当たり前か。


「いや、すいません。ボク、というか人間は基本、生肉は食べれないかなーって……」

「なんだ、食えないのか? アタシなんかいつもこれだけどな」

「え、いつもって……もしかして、こんなに大きい厨房があるのに、いつも切った肉だけなんですか?」


 てっきりすぐ出すために生で出したのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。

 驚くボクの声に、彼女はばつが悪そうな表情になった。


「あー、アタシは料理できないからな……」

「え? じゃあ他に料理する人とか居ないんですか?」


 彼女が出来ないとなると、調理担当の人はここには住んでないんだろうか?


「いや、一ヶ月くらい前まで料理のできるヤツ、というかここの店主が居たんだけどな? 突然『後は任せた』とか書置きだけ残して、どっか行っちまったんだよ。そのせいで今はアタシが店主ってわけだ」

「それってまさか夜逃げじゃ……?」

「あー、大丈夫だ、多分。アイツは、そういうことはする奴じゃないからな。それにいっつもフラフラしてるような奴だったからな……」

「なんでそれで経営できてるんですか……」


 とんでもない回答に、半ばあきれ気味に返すと、彼女はあっけからんとした笑顔で答える。


「分からん! 店の経営に関することは、全部アイツがやってたからな!」

「なんで自信満々!?」


 ……まあ、この店の経営状況はともかくとして、今は目の前に置かれたこの生肉の山を、何とか食べれるようにしたい。

 さっきからお腹が鳴りっぱなしだ。


「すいません、少し厨房をお借りしても良いですか?」

「ん? 別にいいけど、イクは料理出来んのか?」

「出来なきゃ聞きませんよ。そのお肉少し使っても大丈夫ですか?」

「あぁ、いいけどあんまり野菜とか入れないでくれよ?」


 あ、ボクの作った料理食べるつもりなんだ……

 てっきり生でしか食べないと思ってたけど、ただ単に料理ができないから生で食べてたってことかな?

 それに、あんまり野菜入れないでって言葉……胴は蛇みたいだけど、完全に肉食ってわけじゃないんだな。


「他の食材も使っていいんですか?」

「まぁ、アタシが料理できないから、今は店も閉めてるしな。テキトーに使ってくれ」

「わかりました、ありがとうございます」


 流れで彼女の分も作ることになったけど、人のために料理するなんてかなり久しぶりだ。そう思うとちょっとやる気が出た。

 厨房に入り意気揚々と業務用冷蔵庫を開け、ボクは目の前に広がる光景に絶句した。

 肉、魚、野菜、調味料、他にも瓶に詰まったカラフルな液体に、正体不明の震える箱、冷蔵庫からこぼれ出そうなくらいの食材|(?)が溢れていた。


「これは……」


 いくらなんでも食材が多すぎる、痛んでるものも結構あるみたいだし……

 ボクが冷蔵庫の中身に気圧されていると、彼女はカウンターからこちらに身を乗り出して言った。


「それなー、アイツが居なくなってからも、食材が届いててな? 一応今は止めてもらってるんだけど、それまでに届いた分が溜まっちまってるんだ」


 彼女はカウンターに身体を乗せたまま、前後にぶらぶらと揺れ動きながらそう言った。

 これ一体どうするつもりなんだろう……?

 ボクは食材の行く末という疑問を頭の隅に追いやって、とりあえず皿に積まれている生肉に目を向けることにした。

 ……結局これ何の肉なんだろう?


「あのー、つかぬことをお伺いしますが、この肉は何の肉なんでしょうか?」

「んー、それか? ネズミ(ジャイアントラット)

「……ネズミ(ジャイアントラット)


 そっか、ネズミか。

 そうだよね、蛇だもんね、食べるよね、ネズミ。

 ネズミ、と言われて少し面食らいはしたけど、多分鶏肉みたいなもんだろう。

 そう考えると、食用だろうし普通に見えてきたぞ。

 大丈夫、何とかなる……多分。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ