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人外の多い料理店  作者: 風山
13/14

童女とBBQ

 それにしてもバーベーキューかぁ。

 最後にやったのはいつだったか。多分小学生低学年とかそれくらい前の話だったと思う。


 ふと窓の外を見てみると、ガズさんが大きなボンベを運んで準備をしてる姿が確認できる。

 倉庫から出してきたコンロは風呂桶を貝合わせにしたUFOみたいな形で蓋の付いたアメリカンな外見のもので、ガスを使うタイプのようだ。

 ボクの記憶にあるバーベキューは、網と炭火を使った日本でスタンダードな、外で焼肉をするようなものしかないから、正直少し楽しみだったりする。

 でも海外の一般的なバーベキューのやり方なんて、映画や写真で見たような、大きめに切った肉と野菜を串で刺して焼くくらいのイメージしかない。まぁイメージのやり方をメインにして、適当に日本式と混ぜちゃえばいいかな。



 さて、バーベキューで焼くものを探してみたけど、カボチャ、しいたけ、玉ねぎ、冷蔵庫にあるもので使えそうな野菜はこれくらいしかない、後は裏庭の菜園から使えそうなものを適当に見繕うしかないか。

 肉は使わないまま置いてあった牛肉の塊、これを一口サイズより少し大きいくらいの塊にして、軽く塩胡椒をしておく。

 ネィさんとガズさんがいるし、肉の下ごしらえはこれでいいかな。ちなみにガネットさんは人間と味覚も大して変わらないと言っていたから、後でバーベキューソースでも作っておこう。



「ネィさん、ここで育ててるもので使える野菜ってないですか?」

 とりあえず菜園で何か見繕うために裏庭に出てきたボクは、手持ち無沙汰にしていたネィさんに質問していた。


「んー、どうだろうなぁ……?」

 ネィさんは何故かボクから目を逸らすようにして返事をする。どうしてそんな反応をするのかと思っていると、ガズさんが横槍を入れにきた。

「オウ、使えそうな野菜探しに来たのか? それなら……」

「あっ! ガズ! お前余計なことを……!」

 慌てた様子でネィさんはガズさんに躍りかかろうとして、尻尾の先を小さな腕で引っ張られて阻止される。

「コラ! ネィ、アンタまた肉ばっか食べようとしてるね? ガズ、適当に採ってきてやんな」

 いつの間にそこに居たのか、ガネットさんは後ろからネィさんを捕まえてお説教を始めた。



 少しすると、ガズさんはパプリカに白いトウモロコシみたいな野菜、それと拳二つ分くらいの大きさの横に潰した白いひょうたんみたいな植物を取ってきてくれた。パプリカとトウモロコシはともかく、このひょうたんみたいなのは何だろう?

「ガズさん、このひょうたんみたいなのは?」

「ああ、それはバロメッツだ。切らずに焼くと美味いぞ」

「へぇ……ありがとうございます、じゃあ準備してきますね」

 バロメッツ、聞いたことのない植物だけど、ガズさんの言うとおりに焼いてみることにしよう。




「では、店のリフォーム完了を祝して……カンパーイ!」

 ネィさんの音頭でバーベキューが始まった。

 用意出来たのは大きめにぶつ切りにした牛肉と野菜を串に刺したもの、それとバロメッツだけだけど、四人なら十分すぎるくらいの量は用意できた。

 火にかけた串は、ジュウと音を立てて肉汁を垂らしていい具合に焦げ目をつけている。すでにボク等の周りにはフライパンで焼いた時とは違い、網で焼いた時特有の香ばしい肉と野菜の焼ける匂いが漂っていた。


 乾杯が終わるとネィさんは待ちきれなかったと言わんばかりに勢い良く肉に食らいつく。

「むぐっ、うふぁいぞ!」

「ネィさん、飲み込んでから喋りましょうよ……」

 呆れ気味にボクがそう言うと、ネィさんは「ちょっと待て」と言いたげなポーズを取って手をパタパタさせている。


「ング、ゴクンッ……美味いぞ!」

 そう言って次の串に手を伸ばし始めた。串は逃げないからもっと落ち着けばいいのにと思うけど、子供のようにはしゃぐネィさんの嬉しそうな表情を見るとその言葉は喉の奥に引っ込んでしまった。

 ボクも串を一本取って一口食べてみる。

 うーん、やっぱりちょっと味に物足りなさを感じてしまうな。ソースを作っておいて正解だったみたいだ。



 作ったソースを付けようとして、ガズさんたちの準備してくれた簡易テーブルに近づくと、ガネットさんが涙目でボクを見上げて睨みつけてきた。

「ひほいじゃないかボウヤ! あひがうふかったらソースふけろっていっふぁのに!」

 涙目のまま抗議するガネットさんは上手く呂律が回っていない。その手に握られた串には赤いバーベキューソースが付いている。そんなに辛くしたつもりはなかったんだけど、ガネットさんには辛かったらしい。

「ごめんなさい、少し辛かったですか?」

 ボクが手に持っていたジュースを差し出すと、ガネットさんはそれを一気に飲み干して「フゥ……」と息を吐いた。


 少し間を置いて、ガネットさんはハッとしたかと思うとみるみる内に顔を赤く染めていく。

「……べ、別にアタイが辛いのが苦手ってワケじゃないからね? これが辛すぎるだけさ」

 ガネットさんは別に聞いたわけでもないのに言い訳を始めた。でも視線を泳がせながらの発言には全く説得力がない。そんな姿に微笑ましさを感じて、ボクが小さく笑い声を漏らすとガネットさんはリンゴのように頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「わかりました、じゃあ今から甘いソースを作ってきますね」

「べ、別に甘いソースを作れって言ってるんじゃないよ? 辛くなければそれでいいんだよ?」

「はいはい、わかってますよ」

 ガネットさんはそんなことを言っているけど、ピリ辛のつもりで作ったソースでアレだ。甘いソースのほうがいいだろうな。

 後ろから聴こえる「甘くなくてもいいんだからねー」という声を聞き流してボクは厨房へ戻ることにした。




「あれ? イクはこんなとこで何してんだ?」

「あ、ネィさん。ガネットさんの分のソースを作ってるんですよ。用意した分は辛かったらしいので、甘いやつを」

 さっき用意したソースと同じく玉ねぎペースト、濃口ソース、ケチャップをベースに材料を混ぜ合わせていると、ネィさんが厨房に入ってきた。


「ネィさんこそどうしたんですか?」

「いや、やっぱ酒が欲しいなーとか思ってな」

 ネィさんはガラスの冷蔵ケースから、ビール瓶を取り出しながらそう言う。

 ボクはお酒をあまり飲まないからわからないけど、確かにバーベキューだとお酒を飲んでるイメージがあるかもしれない。なんてことを考えながら作ったソースを器に移す。

 香辛料を減らして蜂蜜を多めに入れた甘めのソース。ガネットさんは気に入ってくれるかな?




「お、戻ったね。ってあの子はまた酒なんか……まぁ、今日くらいはいいかねぇ」

 ボク達が裏庭に戻ると、両腕にビール瓶を抱えたネィさんの姿を見てガネットさんがため息を吐いてそう言った。

「ネィさん禁酒でもしてたんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどねぇ……」

 ソースをペロッと舐めて「うん、美味しい」と目を細めているガネットさんに、それはどういうことか聞こうとすると


 メ゛エ゛エ゛ェェェェェェ!!


 突然コンロの方から羊の断末魔のようなものが上がった。


「えっ!? 何事!?」

 ボクが思わず立ち上がるとガズさんがやってきて皿を差し出した。

「おう育、バロメッツが焼けたから持ってきたぞ」

 皿には半分に切られたバロメッツ。白い皮の中身の色は完全にレアの肉、茶色で内側は赤みがかったピンク色をしていて、中心部には黄色い羊の目のような球体が光っている。なんというか……

「グロッ!!」

「ハッハッ、まぁ見た目はこんなだけど美味いぞ?」

 切ってない方は先端の穴からうめき声みたいな音が響いてるし、ホントに何なんだろうこれ……


 でもバロメッツは普通にラム肉のような味で美味しかった。




 そして中断されたガネットさんとの会話、その答えはすぐにわかった。

 ネィさんはとんでもなくお酒に弱く、コップに注がれたビールを半分も飲まないうちに顔を真っ赤にして椅子に倒れ込んで寝息を立ててしまった。

 何度か起こそうとしたり、しばらく待ってみたりもしたけど、完全に寝入ってしまって一向に起きる気配がない。

 仕方ないので三人で店内まで運んで並べた椅子に寝かせ、帰る二人を見送ることになった。



 ビールを飲まなかったガズさんが車を取ってくるのを待っていると、ガネットさんがボクの方を向かずに喋り始めた。

「ボウヤ、ネィのこと頼んだよ?」

「わかってます、もう少ししたらちゃんと起こしますから」

 ボクがそう答えると、ガネットさんは苦笑いを浮かべる。どうやらそういう意味ではないらしい。

 ガネットさんはそのまま話を続けた。

「なんとなくだけどねぇ、ボウヤなら大丈夫だって思うんだよ。多分ボウヤは変わり者って言われるだろ? ボウヤみたいに見た目を気にしないヤツがいてくれれば、きっとこの店も大丈夫さね……」

 そしてボクのお腹をポンポン叩きながら、ニッと笑ってボクを見上げる。多分肩を叩きたかったんだろうけど、ガネットさんの身長だとどうにも締まらないなぁ。僕が内心苦笑すると、バシッとお腹を叩かれた。

「だから子供扱いするんじゃないよ! やっぱりさっきの言葉は取り消したほうがいいかねぇ?」


 そんなやり取りをしているとガズさんが車に乗ってやってきた。

 ガネットさんは車に乗り込んでもう一度だけ「じゃ、頼んだからね」と言って帰っていった。



 さて、ボクも戻ろうと思い振り返ってふと店を見上げる。

 そういえばなんだかんだで店から裏庭以外の外に出てなかったから、初めて店を正面から見るな。


 ライトブラウンの木製の壁に赤い三角屋根、パッと見は子供向けの物語にでも出てきそうな大きく立派な二階建ての家。入り口の横には看板が立てかけられている。

 埃で汚れてしまっているそれを軽く拭くと、そこには「当店はどんな種族の方でも歓迎いたします」と書かれていた。


「ああ……」


 さっきの会話の意味がなんとなくわかった気がする。

 ボクにどれだけその手伝いが出来るかはわからないけど、期待に答えられるように頑張ってみよう。そう思いボクは店内に戻る。



 ……でもその前にネィさんを起こさないとね。

そろそろ開店?




できるといいな……

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