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人外の多い料理店  作者: 風山
10/14

童女と見積り

・3/30:誤字修正、一部表現の追加

 ガズさん達との出会いから三日、ボクが見つけたレシピノートを解読しつつ、冷蔵庫の中身を半分ほどまで減らした頃だった。


 ボクがガズさんのツテで店を直しに来るという来訪者を待ちつつ朝食の片づけをしていると、入口の開く音が聴こえた。

 その来訪者がやって来たものだと思ってカウンターから顔を覗かせたのだけど、フロアには誰も見当たらない。

 おかしいな? ネィさんが外に出て行ったとしても、裏庭にいたはずだからここを通るはずなんだけど……


「おーい」

 ん? 今フロアから声が聴こえたような……

 もう一度フロアを見渡してみても誰も居ない。気のせいじゃないと思うんだけどな。

「おーい、下だ、下!」

 ボクが不思議に思っていると再び声が聴こえた。それは玉を転がすような可愛らしい少し舌っ足らずな声。どうやら気のせいじゃなかったらしい、声はカウンターの下から聴こえてるみたいだ。


 厨房側から身を乗り出してみると、カウンターのすぐ手前、並ぶ椅子の間に鮮やかな(あか)色が目に入った。するとその色の持ち主が顔を上げる。

 声の主は一メートルと少しの高さのカウンターに完全に隠れてしまう、少女というより童女といったほうがしっくりくるような小さな女の子だった。


 その女の子が持つ、クセが強いのかあちこちにクルクル跳ねた、鮮やかに燃える炎のようなビッグテールのショートヘアと、ボクを見上げる快活そうな深紅(あか)く大きな瞳に、思わず吸い込まれるように見入ってしまう。

「全く、ようやく気がついたか」

 ボクが気がついたことに満足したのか、女の子は腰に手を当て胸を張ってふんぞり返るようなポーズでボクを見上げた。


 慎ましやかな胸を張った女の子が着ている厚いデニムのオーバーオールは、パッチを当てているものの所々年季を感じさせる穴が空き色あせている。同じくボロついた厚手の革製のブーツに革手袋を身につけて、脇にはヘルメットを抱えている。

 全体的に若干だぼついたそれらを身に着けた姿は、幼い見た目にあまり相応しいとは言い難い。それなのに腰に手を当て自信あり気にニッと笑う姿には、どこか貫録すら感じられた。


「おーい、どした?」

 あ、顔を近づけられて気が付いた。

 女の子の耳は人間のそれと違い、短く横に伸びて先が尖った形をしている。きっと彼女も人間じゃないんだろう。

 でもネィさんやガズさん達みたいに、動物のような特徴が目に見えてあるわけじゃなし、いったい何の種族なんだろう?


「おーい、大丈夫かー?」

 女の子の割に大きな手がボクの目の前でヒラヒラと振られ、ハッとなる。

 それにしてもこの子はどうしたんだろう、迷子かな?


「お嬢ちゃん、どうしたの? 迷子かな?」

「ハァ?」

 あれ、なにかちょっと怒ってる?

 あ、もしかして店に来ようとしてた人の子供が先に入って来たのかな。


「ごめんね? 今お店は開いてないんだ。お母さんかお父さんにもそう言ってもらえるかな?」

 ボクがそう言うと、女の子は俯いて震えだした。そんなつもりはなかったけど、もしかして怖がらせちゃった?


「…………ァタイは……」

「え?」

 女の子が何か言っているけど、声が小さくてよく聞き取れない。

 ボクが顔を近付けると女の子が急にしゃがみこみ―-

「子供じゃねえぇぇ!!」

 雄叫びと共に目の前で(あか)が広がった。女の子が飛び上がったと理解したと同時に額を中心に衝撃が走る。

 ボクは突然の蛮行に対処できずに、ものの見事に頭突きの餌食になっていた。


「ッ――!!」

 ハンマーで頭を殴られたような激しい痛みに、頭を押さえてのたうち回っているといると、裏庭へ続くドアからネィさんが飛んできた。


「おい! なんか今凄い音がしたぞ!?」

 近付いてくるネィさんに伝わるよう、ボクは頭を押さえたままカウンターの向こう側を指さす。

「ん? 向こうって……あっ、ガネットさん!」

 ネィさんはカウンターの外側を覗き込んで驚いた。そりゃいきなり小学校低学年くらいの女の子がいたら驚きも……ガネットさん?


「ネィさん、その子のこと知ってるんですか? それに"さん"って……」

「ちょっとネィ! アンタこの子にアタイのこと伝えてなかったのかい!? ガズに店の修理頼んだのはアンタでしょ?」

「いや、あの、それはですねぇ……」

 ボクとガネットちゃん|(?)の両サイドから問いかけられて、珍しくネィさんが慌てている。


 その様子にガネットちゃんがハァ、とため息を吐いてカウンターを飛び越えて厨房へ入ってきた。その身体能力には驚きだけど、危ないから普通に回り込んで来てほしい。


 ガネットちゃんは何事もなかったかのようにボクの目の前に華麗に着地して話を続ける。

「まぁ、伝えてないならまずは自己紹介からだね。ボウヤは育だっけ?」

「いや、そうですけど。ボウヤって……」

 この子はさっきからやけに態度が大きいというか……


「ボウヤの居たとこは人間しかいなかったらしいから無理もないかねェ……アタイは小妖族(ドワーフ)、こう見えて三十五歳だかんね? 子ども扱いするんじゃないよ?」

「え!? 嘘っ!?」

「イク、残念ながらホントのことだ……」


 見た目はどう見ても十歳くらいの女の子なのに三十五歳、ガネットちゃんはガネットさんだった。



「しっかしまぁ派手にやったもんだ」

「いや! それはガズのヤツが悪いんっすよ!」

 ガネットさんは、この前ガズさんが突っ込んで盛大に壊れたテーブルを見て呆れている。

 それにしてもネィさんが下手に出ているのを初めて見た。序列(カースト)的にガネットさんの方が上なんだろう、見た目で子ども扱いしないように気を付けないとな。


「こんだけ壊れてると、直すより新調した方がいいかもしれないねぇ」

 そうつぶやきながら床やカウンターも調べて回っている。

 店全体を一通り確認し終えたガネットさんが、ポケットから電卓を取り出してネィさんに尋ねた。


「ネィ、予算は幾らあるんだい?」

「ん、こんくらいです」

 (あらか)め用意してあったのか、ネィさんは通帳を取り出してガネットさんに見せる。

 流石に店のお金については口を出せないので、ボクは遠巻きに話だけを聞いていた。


「へぇ、割とあるじゃないかい」

「居なくなってから少しして、店主(アイツ)が振り込んだみたいなんですよ」

「まったく、居なくなったと思ったのに金はキッチリ振り込んだり、アイツはいったい何がしたいのかねェ……」

 パチパチと電卓を打ちながら、ガネットさんはため息を吐く。

 途中手を止めて考えるような素振りをしていたけど、よしと頷いてすぐに続きを打ち終えた。


「ネィ、店を再開させるんなら、いっそアイツの居場所を無くしてやるつもりでやんな」

 ニヤリと口角を上げ、ガネットさんはネィさんに向かって電卓を見せつける。

「こんだけボロなんだ、いっそ新しくしないかい? 修理するのと同じ値段にしといてあげるよ」

「い、いいんですか!?」

 幾らになったのかはボクからは見えないけど、ネィさんの驚き様を見る限りきっとかなり安いんだと思う。


「もちろん再開したらこの店には世話になるだろうからね。まけた分サービスしてくれよ?」

 ガネットさんは小さな胸を張り、ニカッと笑ってウィンクをしてみせる。

「はいっ! ガネットさん、ありがとうございます!」

「カカッ! いい返事だ! そうと決まればガズの奴等に連絡しないとな。ちょっと電話してくる」

 ガネットさんはそう言って店の外へ出て行った。


「イクゥ! やったぞ! まさかガネットさんが出てくるとは思ってなかったけど、こりゃ思ったよりキレイになりそうだな!」

 嬉しそうに駆け寄ってくるネィさんを見て、ボクが頬を綻ばせると、ネィさんはハッとなって顔を背けた。頬を赤くしながら笑みをこらえきれないその顔は、なかなかに可愛らしいと思った。

幼女です、でも合法です、しかし既婚者

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