The End of Karma
ほんとにごめんなさい。
すみません。
完結しないけど完結にしておきます。
続きはアナザーラインで。
ユグドラシルから分岐したもう一つの世界。
黒い大樹の上での決戦は、どうやら負けのようだ……。
酷い耳鳴りがする。
響いてくるのはいくつもの悲鳴、叫び、魔法の轟音と剣戟の鋭い音が耳を叩く。
「ぅ…………」
目を開ければ灰色の空と降りしきる雨。
幻聴……そして走馬灯のように見た思い出の数々。
あのころはまだ喧嘩はしたけど平和だった。
あれでも平和と言えていた。
俺の体の上にのしかかっているものを押しのけて、体を起こすと惨状が見て取れた。
どこまでも続く灰色の大地にはおびただしい量の死体。
敵も味方も入り乱れて、中には見知ったやつもいて。
手元を探せば使いなれた愛用の剣が二本。
魔法で強化されたこいつはまだまだ一緒に戦ってくれそうだ。
腰に固定して指でチンッと弾く。
ふと風が吹いて、血の臭いが鼻をついた。
「く、そっ……」
ふらつく足で立ち上がって、治癒魔法で一気に傷を癒す。
「誰か生きて……うぷっ」
あまりの惨状に吐き気をおぼえて口を押えるが、なにかぬめっとした感触があった。
血だ。
自分の体を見れば血で染まっていた。
魔法で即座に弾き飛ばすが、気色悪い感覚まではしつこく残る。
「…………」
どこを向いても死体ばかりだ。
ただ一つ異様なものと言えば、やつらの本拠への階段、そして巨大な門。
大地に倒れ伏すものたちは、呻き声を上げるだけで動きはしない。
もう魔法を使うだけの力も残っていないのだろう。
見ても敵方のやつらばかりだ、助ける必要は無いしやるだけ無駄だ。
「まだやってるな……」
門の入り口付近では煌々と光る太陽の如き火炎弾が炸裂し、極小のブラックホールが空間を捻じ曲げている。
正直あの化け物クラスが束になっても未だに突破できないほどの戦力が相手だ。
勝てる気がしない。
それでも行かなければ。
俺たちはここで敵の通常戦力を迎え撃ち、軒並み終わったら援軍として向かう手はずだから。
あれだけの戦いだ、何人が生き残っているのかすら分からない。
そんなことを思って歩いていると、こつんと何かを蹴った。
見れば見慣れた杖だった。先端に青い宝石の付いた、水属性を強化するあいつの杖。
死体の山を吹き飛ばすとその下にいた。
まったく、単独で相当な数を相手に戦えるだけでもすごいが……。
「…………」
さすがに今回ばかりは……ノルン。
肌に触れても温もりは無い。
全力を切って魔法を使ったが故の代償。
あの騒がしさももうなくなるのか……。
とぼとぼと歩みを再開したが、数分もしないうちに絶対に死なないだろうと思っていたやつがいた。
背後から長い槍で心臓を一突き。
周囲には二十九本もの槍が突き刺さっている。
ゲイ・ボルグ。
「嘘……だろ。なあレイズ、実は生きてるんだろ?」
槍の隙間を縫って近づけば、レイズはリリィを抱きしめた状態で、二人揃って息を引き取っていた。
手の中にはしっかりと握られた懐中時計が止まっている。
こちら側の最強の戦力が失われた、これだけで絶望を突き付けるには十分だ。
だけど、それでもまだあきらめずに戦っているやつらがいる。
だからまだ絶望なんて受け入れてる暇はない。
でも……それでも歩いているうちに気分はどんどん落ちて行った。
翼を斬り落とされたレナが倒れていた、首だけのギルバートが転がっていた、魔法で焼かれたスゥが物言わぬ水溜りになっていた、突き出した岩に純白の翼を打ち付けられたフィーが磔にされていた、綺麗な金髪を血で赤黒く染めたレキが倒れていた、下半身を潰されたシオンが苦悶の表情で死んでいた、赤い髪をわずかに残した黒焦げの塊が、キニアスが、シャルティが、アルが、フェネが、セーレが、ヴィネが、ラグが…………エアリーが。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
怒りと悲しみに、力任せで暴走させた力が辺り一帯を溶かす。
熱波の波が見渡す限りを焼き尽くし、蒸発させる。
それでもあの門とそこに通ずる階段は結界に護られて影響を受けない。
あの先に元凶がいる。
殺してやる。
殺さなければならない。
あのクソヤロウを殺さなければならない。
生き残ったのが俺だけなら、せめてみんなの仇を。
もう誰もいない。
もう誰も守れない。
もう誰も守る必要がない。
もう犠牲を考える必要がない、だったら使い得る最大の攻撃を使ったところで。
「は、ははは…………」
目の前の空間をぶち抜いて、結界も力任せにぶち抜けて、階段への直通の穴を穿った。
一歩踏み出せばかなりの重圧を感じさせる別の世界だ。
薄っぺらい結界一枚で仕切られた。
「あぁ……じゃまだよ、あんたどけよ」
目の前には白い髪に紅い瞳の男がいる。
ああ、そいつのことは知っている。
そいつの目は悲しそうで、そして迷いも含んでいて。
「行くならいけ……もう俺は諦めた、死んだ妹は還ってこない、仲間たちも、平穏だったあの日々も。だから――」
「じゃまだ」
だらだらと語り始めた。
うるさい、ただそれだけで斬り捨て、階段から落とした。
ぐちゃっと嫌な音が響く。
気持ち悪いほどに真っ白な階段を上っていくと、確かに落としたはずのそいつが立っていた。
踊場の向こう側では修道服のような白いローブをまとった者達と、生き残りが戦っていた。
ヴァン、ウィリス、クロード、ネーベル。
ヴァンとウィリスは一対一だというのに押されている。
クロードとネーベルはそれぞれが五人相手に押している。
「だから俺は、決めたよ。壊せない壁があろうが立ち向かってやる」
「じゃま――つってんだろっ!!」
怒り任せの本気だった。
生み出された衝撃波でヴァンを押していた敵が弾け飛ぶが、ギリギリの差でヴァンも刺されていた。
そしてこんな一撃をロイファーは受け止めやがった。
「は、あはははははははっ!! きやがれレイシス家、もう迷わない。絶対に勝てないけど俺はあんたらに歯向かってやる」
狂ったように笑ったロイファー。
背中に円形の真っ赤な魔法陣を広げ、翼型の陣を左右三対顕現させた。
これはゼロが使った増幅用の……あいつだけの特殊なものはず。
「今更かシスコン走者!」
「うるせえロリコン死神!」
「あんだとっ、このっ!」
下らない喧嘩で使われた破壊が空間を捻じ曲げる。
クロードが敵を纏めて圧縮し、ロイファーが虚空から呼び出した赤い実体のない剣で貫く。
一気に静かになったそこにはもう俺を入れて四人だけ。
ヴァンもウィリスも一歩間に合わずにやられた後。
「なんか、だいぶ減っちゃったね」
「つーか生き残りは俺たちだけだろう……」
「そうだね……それに一段落ついたし、僕はそろそろお暇させてもらうよ」
「は?」
唐突にネーベルが杖を向け、無詠唱でぶちかました最高クラスの火炎弾。
その太陽と同じほどの煌めきを斬り伏せたのはスコールだ。
さっきまでいなかったはずなのに。
「もうね、こんな下らないことに付き合うのは飽きてきた。だから手っ取り早く終わる方に行くよ。さようなら」
「ネーベル、お前な――」
スコールが言いかけたところで、ズバチィッ!! と激しい閃光がまき散らされ、視界が戻った時にはネーベルとスコールの姿がなくなっていた。
肝心なところで離脱か。
「でだ、俺はこのまま突っ込むが、お前らどうする?」
「死にに行くに決まっている」
「…………」
俺も無言で頷く。
たったの三人で敵の本拠に強襲。
バカだ。
バカすぎる。
どんな軍師だって、どんなに強いやつだってこんなバカなことは絶対にしない。
どれだけ強かろうと数の暴力には敵わないのだから。
「そんじゃ、死にに逝きますかい。生きて帰れない地獄へ」
クロードが巨大な門を一蹴。
核の直撃にすら耐えられそうな分厚い未確認物質の門は、亀裂を走らせながら開いた。
真っ白だ。
強力な空間魔法。
どこに出るか分からない。
もしかしたらいつかと同じように、人によって転送先が違うという事があるかも知れない。
「大丈夫だ、俺がいる限りはレイシス家の本家に飛ばされる」
ロイファーを先頭に、後ろに俺たちが続く。
一歩踏み込めばビリビリと魔力が震えて急速に消えていく。
それでも魔神並みとまで言われた俺の魔力の底は見えない。
白い領域を抜けると、唐突に眠りから引き起こされるような感覚があった。
こくりこくりと居眠りしそうになってハッとなる。
そんな感じで一瞬意識が途切れていた……いや、途切れさせられていた。
「どこだここ……?」
「おいロイファー、お前そりゃねえぞ」
「いや待て……ああ、ここ外縁部だ」
辺りを見回せば、俺たちがいる六角形の舞台、下は海?
正面には廊下が伸び、大きな鳥居の中を通っている。
その先には地平線……じゃなくて水平線の彼方まで続く屋敷がある。
瓦屋根に朱色の柱。
建築様式間違ってないか?
さっきまでの荒々しい気分がいつの間にか冷めていた。
……冷めさせられた、と言ったほうが正確か。
「どー見ても島国の建築様式なんだが、まさか色々混ざってますなんてことはないだろうな」
「混ざってる。中心部を囲むように迷宮としてだから……俺だって本家の構造すら分かってない」
「大丈夫だろうな……」
「とりあえず真ん中目指して行けば……」
なんだか不安になってきたが、俺たちは歩み始めた。
両手に持った二振りの剣……というか刀はここに入ってから力が増している。
軽く水面に向けて空振りしてみれば、見えない斬撃が静かに走り抜けた。
前を見れば真っ黒な剣を手に下げたクロードがこちらを見ていた。
「なんだよ」
「…………マッドドガー」
「用があるなら言えよ」
「後ろから”うっかり”で斬られないか心配なだけだ」
「斬らねえよ」
「お前ら喧嘩は全部終わった後にしろ」
「「…………」」
黙って歩き、鳥居をの下を越えた途端、
「なっ」
「幻術……すごい規模だな」
「恐らく目に見えるものすべてが本物ってことじゃないらしい」
鳥居の先には長い廊下の先に屋敷があったはずだ。
なのに一歩超えた途端に屋敷の中。
しかもそこに二人ほどたっている人物が。
「クソ野郎」
「クズ野郎」
片方は白髪で紅い瞳。
白に紅い刺繍の法衣のようなものを身に着け、それ以外には武器も防具もなし。
もう片方はぼさぼさのくすんだ金髪の野郎だ。
あちらは随分と落ち着いているが、こちら側の二人は殺気立っている。
「おいおーい、そんなにかっかすんじゃねえよガキども」
金髪……ヴァレフォルが話しながら少し前に出た。
見る限りは武器はないし着ている服はよれよれだ、魔法もスタンバイはしていない。
ということは”まだ”戦う意思はなしと?
「うるせえよ……あれだけ仲間の犠牲を出したんだ。最期にテメェを殺しておかないと釣り合いがとれねえんだ」
クロードの周りの空間が歪む。
ミシミシと音を立てて沈み込む床、風もないのにふわりとパーカーの裾が浮かぶ。
パチパチバチバチと音を発しながら光弾が発生し、背中には風切羽のような真っ黒なものが広がる。
十の指からは眩い刃が伸び、床にギリギリ触れない距離で赤熱させている。
まだ本気じゃないけどキレかけている、もし本気だったら今頃俺が死んでいるはず。
「おうおう……そんじゃ俺様はガキの相手をしてやるか」
ぽきぽき指を鳴らしながらヴァレフォルは構える。
「……はぁーあ、誰かさんのせいで年は結構いってるってのに体は相変わらず全盛期。チョッとクライゼンリョクだしてもダイジョブダってなァ!!」
バジリィッ! と視界にノイズが走る。
クロードが無茶苦茶に力を使い始めたな。
「あばよクズ、グッチャぐちゃにぷれすしてxxxxxxxxxxxxxxx――――」
聞かなかったことにしよう。
なんかもういつものクロードと全然違う。
「おら来るならき――」
邪悪な笑みを浮かべたヴァレフォルが魔法を使おうとした。
が、
ズゴァッ!! 人が出すような音じゃなかった。
一瞬ぶれたと思ったら遥か彼方にまで続く赤熱した大穴と無数の斬痕。
クロードが蹴りを放ち、砲弾の如く飛んだところに光弾を撃ち込んで両手の刃でメッタ斬りにした。
「これでオわるとオモウナヨ」
表情のない顔。
だらんと前傾姿勢で、腕を垂らして。
完全に制御された怒り殺意などの負の感情。
理性を持ったまま意図的な暴走状態になっているような感じだ。
クロードはそのままの体勢で光弾を数発撃ち込むと追撃の為に飛んだ。
「お前は儀式場を砕きに行け」
「……分かった」
睨み合う二人の隣を駆け抜け、奥へと。
邪魔しようと思えばできるはずなのにしてこないってことは、奥にも誰かいるということだろう。
警戒しながら進むと、敷居を跨いだところで様子ががらりと変わった。
木造建築に変わりはないが、壁には蜘蛛の巣や蔦が、床は苔がべったりと生えている。
まるでお化け屋敷のような状態だ。
包丁を持った人形とか、幽霊とか出てこないだろうな……。
苦手だからな。
あぁ、別に怖いとかじゃなくて実体がない相手だと攻撃が効きづらいから。
なんて思ってたら、
「うぉっ!?」
苔を踏んですってんころりん。
反射的に手をついた場所にあった白いカラカラに乾いた絶対に触ってはいけないものを砕いてしまう。
…………。
それが何か、無論人骨だ。
スケルトンパニックだ。
「…………来るなよ?」
の、一言でカタカタと音が響き始めた。
分厚い苔の絨毯のしたから変色したドクロが……。
「…………」
俺は即座に通路一帯に向けて火炎弾を乱射し、爆速ダッシュで床を踏み砕きながら走った。
しばらく行くと床が腐っているのかズボッと沈み、そこからもう一度爆発を起こすと連鎖的に腐っていたらしき箇所が崩れた。
落ちたらすぐ下には水。
膝までの高さだが移動しづらくなるし、何かいれば危険な水位だ。
飛び上がって真下にブリザードボムLv.200くらいを数発投下。
瞬時にスケートリンクのように凍てついたそこに降り立ち、ひた走る。
五分くらい走れば行き当たりに壁。
「斬り裂け」
勢い任せに二刀を振るう。
魔法で強化されたこいつは本当に便利だ。
直接斬らなくても延長線上にあるモノならばなんでも切断するのだから。
まあ、もちろん切れないものに当たった場合は普通の斬撃と同じように弾かれるが。
バラバラと崩れ去る壁を、障壁を纏って突き抜けると横合いから何かがぶつかってきた。
ゴッ……当たった瞬間に見えたそれは――徹甲榴弾。
いつの間にか俺の魔力障壁は現代兵器の一撃すら余裕で受け止めるほどになっていたようだ。
至近距離で炸裂したそれが爆風と焼夷剤を散らし、障壁の外の酸素を喰い尽くす。
「ジャァマアアダァァアア!!」
黒煙の向こう側からクロードの声が聞こえ、ガランッ、ゴロンと金属の塊が飛んできた。
手榴弾、それも金属片を散らす物じゃなくて焼夷剤入りと圧殺用の――グガッ!
重たい音が響き、障壁越しの爆風で飛ばされた。
どさりと落ちたなら、隣に血まみれのヴァレフォルが立っている。
「クソガキがぁ! どこからそんなもんだしやがった!?」
「るっせぇよ、さっさと死ね!」
煙の中から出てきたクロードは背後にプラズマ球を浮かばせ、肩の横にピンの抜けた大量の手榴弾を、そして肩に担いでいるのはフィーアが使っていた対物ライフル……。
あの口径で徹甲弾はあったけど榴弾って……いや、確かあったと思う。
にしても改造して元の形が分からないほど……ソリ付の姿はもう見られないな。
と、そんなことを言っている場合ではない。
妙ちくりんな形の大きなマガジンのお蔭で十発+一で弾切れになりそうにない。
そしてその銃口は俺がここにいるにもかかわらずこっちを向いている。
「お、おい待て!」
「死にたくなけりゃさっさと退け!!」
警告と同時にフルオートの砲撃が始まった。
先ほどまでと違う、真っ白な材質の床や壁がガリガリ削れていく。
俺は全身を分厚い障壁で覆っているから大丈夫にして、となりの敵はすごい速さでピンポイントバリアを切り替えて弾いている。
ちと制御が人の認識速度ではできるものではないという点があるが、とても効率的だ。
生きて帰れたら俺はやってみようと思う。
なにかこう、目標があれば死地から生還できそうだからな。
ズガガガガと銃撃ではなく砲撃の音が響く中、俺はさらに壁を斬って突き抜けた。
怒りが沸点飛び越えて変なところに行っているせいか、やけに冷静だ。
このまま突っ切って下らない方舟計画とやらを潰してしまおう。
---
転移陣を踏んだ瞬間、とてつもなく乱暴な術に引っ張られて顔面から転移先に落ちた。
振り向けば帰るための陣はなく、果てしない黒だけが広がっている。
足元は白い何かでできた広い床だ。
だけどその先は永遠の闇。
何も見えない、何もない……いや、遥か遠くに白いものがある。
ここと同じような場所だろうか。
「来ちゃったかぁ……」
「誰だっ……て」
見ればフィーア……違うな、これは別の模倣体か。
「なんでお前がこんなところに?」
「そりゃもちろん」
気付けばレイアのとなりに全く同じ姿の赤色、レイがいた。
「ここから先に行かせないために」
もうそれだけでこいつらまで敵であることが分かってしまった。
正直、心の奥底では戦いたくないという思いが暴れている。
理由は言うまでもなくアレだ。
「スコールが先にいる。ネーベルたちは止めに行った。だったらこれ以上邪魔を入らせないようにするのが、あたしたち死者の役目だよ。未来は生きているやつが作っていけばいいんだから」
二人が手をつないだ。
少しばかり分からないことがある。
スコールは裏切った。
ネーベルもあの対応からして土壇場で裏切ったと考えていいだろう。
なのになぜこいつらまで?
「これ以上先に行きたいって言うんならさ、あたしも本気を出すよ? レイズの力をもらっているあたしに敵うと思わないでね」
「…………それでも俺は行く」
「……残念」
「でも、姉さんがやるんなら私もやるよ。結局逆らえないわけだし」
「確かにね。隷属の呪いは結局壊せなかったし……だから、そういう訳で死んで」
ぶわっ! と炎が上がった。
白と赤と青の螺旋。
それが消えた時には、そこに黒髪の女の子がいた。
姿はレイと全く同じだ。
「何か言い残すことは?」
「ねえよ」
「あっそ」
使い得るすべての魔法を並列処理で展開した。
未来が見えた、絶望しかない。頭、喉、心臓、肺、内臓、他、あらゆる急所を貫かれていた。
相手の軌道が見えた。一人しかいないはずなのに全方向から襲ってきていた。
何をしても死ぬ。
死、以外の結果は一つも見えなかった。
何をしても無駄。
何もをしても結果が決まっている。
何もできないまま瞬間が過ぎた。
レイは目の前にいた。
「ばか……」
悲しげな一言と一緒に、拳が撃ち込まれた。
それは強固なはずの俺の障壁をすべて貫いて、体に衝撃を与えた。
だというのに後ろに吹っ飛ぶことはなく、背中側からも同時に攻撃を受けたかのような圧迫感を覚えた。
逃げ場を失った衝撃は体の中で暴れまわって、臓器を潰した。
「ぁ…………」
「さようなら」
一度引かれて、もう一度突き出された拳が、あっさりと俺の胸を貫通した。
確実に心臓をやられた。
確実な致命傷だ。
「…………」
引き抜かれた真っ赤で華奢な腕は震えていた。
どさりと体が倒れる。
見上げる形になったレイの頬には、一雫が伝わっていた。
力が入らない。
視界がぼやける。
意識が薄れてきた。
こんなところで?
いやだ。
死にたく……な………………。
---
気付けば真っ白な部屋にいた。
何もない。
実に何もない。
光源すらないのになんで白を認識できているのだろう?
…………。
死んだから……だよな。
結局肝心なところでダメなのが俺だ。
はっ……結局、家族も仲間も誰も守れずに……。
終わり……か。
もしかすると、引き籠もりな生活を送っていた頃の罰が今頃下ったとか、ありそうで困る。
はぁ。
死んだ、あぁ死んだ。
不思議と不安も心配もない。
なぜか、俺がダメなせいでみんなまでも死んでしまったからだ。
残してきたものが何もない。
まあ、これも一つの終わりだろう。
物語が必ず大団円なわけがない。
大抵ああいうのは、最後の最後で脇役が数名脱落するものだ。
主人公と数名だけが生還とかな。
誰も死なずに終わるなんてありえないんだよ。
そもそも、最初から最後まで巻き込まれの俺がよくここまで生きていたものだ。
何度死にかけたことか……まあ今回はマジで死んじゃったけどさ。
「はぁ……」
身体を見ればなんだか下の方から消え始めている。
なんか聞いたな、死んだら基本的に魂は分解されて別の何かの魂に再構成されるとか。
それでもって”理”から外れた者だけはそんなんじゃなくて完全に消失だとか。
俺は外れた側。
ホントに何も残らないな。
転生なんて可能性すら残らない。
「じゃあな、くそったれな世界……って誰に言ってるのやら」
身体もほとんどが消え、意識もなくなってきた。
「はぁ……あっけない」
それきり意識は途切れた。
後は……主人公が終わらせてくれるだろう。




