手違い
翌朝。
「コッケコッコーーーーー!!」
うるせーなー。
けたたましい鳴き声で起こされた。
もろ近所迷惑だな。
ん、ちょっと待て。
なんでフェニックスがニワトリの真似してんだよ。
そもそも朝鳴くのは雄鶏だろうが。
まあいいか、籠からニワトリ……フェニックスを出して下へ降りた。
「おい、アキトその顔どうしたよ」
キニアスは笑っている。爆笑してやがる。
治癒し忘れてた。
「夜中にボコられた」
「誰に?」
「よくわからん。部屋は確かに施錠したはずなんだが……」
「なんか恨まれることでもしたか?」
「いや、とくに覚えは……ない」
だって山賊とか山賊とか山賊とかは全員潰しちゃったし。
そもそもヒキニートに女の子の知り合いはいないし。
「そうか、まあ部屋の施錠をもっとしっかりしとけ」
「ああ、そうだな」
で、あれ以上の施錠をどうやってしろと?
部屋には簡単なカギが1つだけ。
俺の魔法でドアを固定したやつのほうがよっぽど信頼できるよ。
さて、どうするか……。
………。
魔法使っちゃうか。
触ったらドアが超熱くなるのがいいか?
それともドア開けたら上から冷水が……。
いやいや入られたらダメだろ。
よし、植物使って触手系でいこう。
……別にエロいものが見たいからではないぞ。
「おい、何にやけてんだ」
「なんでもねえよ」
人の考えって案外顔に出るんだな。
「それよりもちょっと教えてほしいことがあるんだが、いいか?」
「いいぞ。ただし答えられる範囲でな」
「戦って相手を倒したら魔法は奪えるか?」
「奪うことはできない。それができたらここはもっと酷いことになってるさ」
「そう……か。じゃあ、24時間ごとに競技があったりするか?」
「なんだそれ? 僕はそういうのは聞いたことがない」
あの魔導書に書かれていたことはやっぱり嘘か。
でも、俺は魔法を奪えたぞ。
ということは本当のことも少しは書いてあるってことか。
次なにを聞こうかと考えていると、昨日の可愛子ちゃんが近づいてきた。
よく見ると服装が……。
上は体の前だけを隠す赤い布で、下は尻尾を出すためにお尻のところに穴の開い たクリーム色のズボンだ。
横の隙間からあれが見えそうで見えない。
残念だ。非常に残念だ
「キニアス、ヴィーグリーズから救援要請が来てる」
「わかった。すぐ行く、アキトお前も来い」
「新入りを連れて行くの? 足手まといになるんじゃない」
「前には出さないさ。生属性だから後方で怪我人の治療に当たらせる」
「そう。それじゃあたしは先に行くから」
それだけ言うと可愛子ちゃんは壁に立て掛けてあった、
穂先に斧の付いた武器、ハルベルトを持って出ていった。
あれって確か結構重いものらしい……とネットで見た。
「よしアキト。武器はなにがいい」
「いや、俺は前に出ないんだろ? だから素手でいい」
「そうか。それじゃ飛ぶぞ」
キニアスは透明な珠を取り出して魔力を込めた。
なにするんだ?
---
気づけば怒号の飛び交う戦場に俺は立っていた。
うお!?
さっきまで俺は宿屋の1階にいたよな。
なんでいきなりこんなとこにいんの!?
驚いていると横から火の玉が飛んできた。
俺はさっと伏せてそれを躱して、こっちも火の玉を放つ。
火の玉を飛ばしてきたやつは俺の攻撃を払い落とした。
やつらのほうを見れば3人。
全体的に暗い色の服を着た連中だった。
「いきなりなにすんだよ!」
「何言ってんだ小僧。ここは戦場だぜ」
周りを見れば至る所で魔法が撃ち交わされれ、召喚獣がぶつかり合っている。
これは堕天使の言っていたとおりだな。
いやいやそんなこと考えてる場合じゃない。
3対1、素手の喧嘩でも勝ち目がないこの状況。
さて、どうするか。
どうす……あっれぇー、敵の後ろ側を悠然と歩いて来るのはニワトリ君ではないですか。
どうせあれだろー、また嘴でズドンやっちゃうんだろー。
赤色を見たくない俺はさっと後ろ向いた。
「おい小僧、逃げ――」
ズドンッッ!!
「なに!」
ズガンッッ!!
「く、来るなぁーーーー」
バゴンッッ!!
悲鳴のような絶叫のようなものが聞こえた。
後ろは見たくない。
見たくないけど見てしまう。
振り向けば、頭の潰れた死体が3つ……。
さすがです。ニワトリ先輩。
なんかもうスプラッタみても吐き気がしなくなったよ。
なれちゃったよ。
「コケー」
「それを拾えと?」
ニワトリの足元に赤色の珠が3つあった。
それに触れるとすっと俺の体に珠が入った。
そして例の声が聞こえた。
『火属性魔法Lv.4の登録が完了しました』
あれ? キニアスは魔法は奪えないって言ってなかったっけ?
「おーい、アキトー」
声のしたほうを見ればキニアスが走ってきていた。
「いやー悪い悪い、いつもの癖でつい戦場の真ん中に飛んじまった」
「別にいいよ、もう3人やっちゃったし」
「へえ、もう3人もた……お前どういう方法で倒した?」
キニアスは死体を見るなり不思議そうな表情になった。
そりゃーね、このニワトリがヘッドバンギングで潰したからね。
「この鳥が頭突きで潰したんだよ」
「……恐ろしいなその鳥」
でしょうねえ。
俺自身コイツに殺されかけた事があるし。
「だろ。……あ、そういえば救援要請とか言ってよな。
これから俺はどうすればいい?」
「戦場の両端はすでに撤退は終わったらしいから、
中心のほうに行くぞ。あそこはまだ激戦区だ」
激戦区ねえ、「どうすればいい」じゃなくて「もう帰りたい」って言ったほうがよかったな。
自分から危険なとこに突っ込んでいく必要は無くね?
そして俺はキニアスと一緒に激戦区に突撃するのであった。
ニワトリはいつの間にか、またいなくなっていた。