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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第5章 転移者たちの戦い
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一大勢力の長

 夜になった。

 俺は一人、焚火に薪を投げ入れながらネーベルを待っている。

 エアリーとセーレはすでにテントで休んでいる。

 さすがにあんなことがあった後だ、疲れているはずだ。

 俺も俺で何度か死にかけたから正直なところさっさと寝てしまいたい。

 だが剣士たちとの約束があるため、しばらくはこのままで我慢だ。


 ヒュウウウゥゥゥゥ…………


 我慢だ、我慢だ、我慢、がま……。


「って、寒いわ!」

『…………』

「す、すみません……」


 周りで野営しているパーティに睨まれた。

 いいなあ、揃いも揃って毛皮のあったかい装備で。

 ここの気候は昼間は涼しいくらいだが、夜は冬だ。

 雪が積もらないのが不思議なくらいに寒い。

 だというのに草木はのびのびと育つ。

 どうやら魔力の影響らしいが……。

 と、そんなことよりも寒い。

 少々可哀想ではあるが、生属性魔法で木の種を急速成長させ、再び種を取って、火属性で乾燥して薪にする。

 これを繰り返す限り薪は無限に手に入る。

 もう物理法則を完全に無視したこの世界のルールにも突っ込まない。

 やるだけ無駄だ。

 あ、いっそこの周辺全域を空属性で覆って断熱フィールドを……は、やめておくか。

 ほかの術者と魔法がぶつかったら何が起こるかわからない。

 反対属性なら良くて対消滅、悪くて大爆発だ。

 別属性なら混ざり合ってさらに災害まで届くかもしれないしな。

 しかしそうなると薪の生産以外にやることがない。

 暇だ。

 焚火を眺めているとふとポケットにしまったままの珠を思い出した。


「作るか……」


 地面に方形を描いて、それに合わせて隔離空間を作り上げる。

 そして無駄に多すぎる俺の魔力を流し込んで、流し込んで、限界を超えて流し込んで。

 圧縮された魔力が臨界点を迎えて光り始める。

 そこからさらに感覚で魔力を操作してガラスを生成。

 ガラスも不思議なものだ。

 シリカなどを主成分としたものだが、俺が知る限り液体説と固体説がある。

 分子配列が規則正しくないから固体じゃないとかなんとか。

 まあその辺のことはよく覚えていない。

 ただこの世界じゃガラス球……水晶とかは魔晶石と呼ばれ、魔法を宿す道具として使われている。

 なんでも安定した物質だからとかなんとか。


「ふぅ」


 形はできた。

 次はこれに刻印していく。

 どういう風に刻むのかはすでに教えてもらっている。

 リュックからメモを取り出して開く。

 複雑な幾何学模様だ。

 だが失敗は許される。

 ガラス瓶はいくらでも作ればいいし、ちょっとの失敗なら部分的に溶かして直せばなんとかなる。

 地属性の魔法、どんどん魔力を注ぎ込めばそれは石なんか超えて金属ができる。

 それを使ってガラス瓶に細工を施すための篆刻刀……でいいのか? を作り出す。

 こういうのは職人が工房で神経を極集中してやるのが普通のはずだ。

 こんな焚火の明かりだけで、とても寒い外でやるべきことじゃないと思う。

 ああ、LEDライトが……電気が恋しい。

 もうパソコンをとは言わない、せめて電力と白熱灯でもいいから……。

 そんなこと言えば魔法で作り出す電撃は直流? 交流? そもそも何ボルト? 何アンペア?


「分からんな」


 電流計も電圧計もないんだから測れないって……。

 よし、放っておこう。

 今は刻印に集中だ、集中。


 カリカリカリカリ…………

 ガリガリガリガバキッ…………

 トライアルアンドエラー。

 別に職人を目指すわけじゃない。

 今の俺が創り上げることのできる最高の作品(スゥのいえ)を目指すだけだ。

 そのうち新しく作り直すようなことになったときにもっといいものを作り上げることができるように。


 ---


 ガリガリガリガリ

 キュィィィィイイイッ


 何の音かって?

 篆刻刀で地道に彫るよりも、空間魔法で固定して、金属を高速回転させて研削盤グラインダーのようにして削ってるだけですよ。研削盤、かっこよく言えばシュライツェン。

 なんだろうか、ガラス瓶に刻印を施すのが目的のはずなのに、やってるうちに工具一式まで作り上げてしまった。

 柄の部分は生属性魔法で木を思うように成長させて乾燥させて。

 金属部分は地属性魔法でこれでもかというほど(限界寸前)まで魔力をぶち込んで最硬クラスのものを。

 恐らくこの金属、鎧なんかに使ったら絶対砕けない代わりにトンクラスの重さで動けなるぞ。

 地属性魔法で形を作り、作った道具でそれを加工して新たな道具を作る。

 …………おい、なんか別方向に行ってねえか?

 これじゃ錬金術師の所業では?

 いかんいかん。

 道具はなんやかんやで全部作ってしまった。

 ニッパー、カッター、ハサミ、二ブラ……なんで作った俺?

 モンキーレンチ、ドライバー各種、ペンチ、プライヤ、やっとこ……これもなんで作った俺?

 そしてカナヅチ、トンカチ。用途は違うよ、一緒にしたら本職に怒られるよ。

 そしてヤスリ。これ……たぶん三〇〇番くらいかな?

 大雑把にしか作ってないから分からないな。

 ああ、いっそグラインダーに似たものを作って魔力で動かせば……いや、無理か。

 作業に集中しながら魔力制御なんてできない。

 仕方ない、金属をグラインダー風で使うしかないのか。


 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


「できた!」


 どれだけ時間が立ったのだろうか、空に輝く星の位置が変わっている。

 ふと焚火の明かりに映る影があった。

 それもたくさん。


「すげぇ」

「さすが魔導師の弟子」


 振り向けばいつの間にか剣士やシーフ、ほかのメンツが集まっていた。


「あっ、すみません気づかなくて」

「いや、俺らも見入ってたからな」


 パッと見た感じ、昼間よりも人数が増えている。


「んでぇ……ネーベルは」

「まだ帰って来てな」

「ここだ」


 帰って来てたよ。

 リュックに杖を縛り付けて、片手に白い刀を持って。


「それで、何のようだい?」

「俺らをネーベルのパーティに入れてくれねえか」


 するとネーベルはまったく考える素振りも見せずに答えた。


「断る」

「なん……」

「そもそも君らどこの所属だい?」

「トリニティだ。新興勢力だからあまり知られてねえが」

「そうかい。僕はヴィランズの所属だ。セインツとは敵対関係にある、だから僕の下につくということは、そういうことだよ。相応の覚悟があるのなら…………今一度決めなよ」


 初めて聞いたぞ。

 でもそれにしてはセインツのリーダーであるレイズとは馴れ馴れしい関係だな。


「…………」

「どうするんだい? 僕はまだやることがあるんだ、早く決めて欲しいんだけど」

「ってこたぁ、弟子のほうもヴィランズか?」

「いいや、アキトはエスペランサだ」

「エスペランサ? 聞かねえ名前だな」


 ……いや、俺自身忘れてたよ。勢力クランリーダーってこと。

 えーと……確か、ギ……ギリ……ギル? ギルバートだ。

 あいつら元気にやってるだろうか。

 YAKUZAかMAFIAかそんなことになってないだろうか。

 もしそうなってたら近日中に手続きして俺は関係ないことにしてしまおう。

 部下の責任は上司の物? 知るか。


「エスペランサは今のところセインツの同盟だ。両方のリーダー同士が知り合いだから結びつきも強い」


 確かに知り合いだけどさ、結びつきが強いか?


「だから入るならそっちをおすすめするよ」


 一斉に俺に視線が集った。

 確かリーダーには加入と脱退or追放を独断で決める権限があったはずだ。


「なあ、弟子さん」

「う、んん?」


 ちょっと不味いな。

 俺の部下はアレな危険人物ばっかりだ。

 まともな人たちには刺激が強すぎると思うんだ。

 それが例えドラゴン相手に戦える冒険者たちでも。


「エスペランサの加入条件って何かあるか?」


 加入条件……俺は何も決めてないが、恐らくギルバートが独自に試験なりしてるだろうな。


「俺は知りませんよ」

「リーダーは君だろう。いまここで決めればいいじゃないか」


 さらっとネーベルがバラした。

 一応、勢力クラン間では大勢力や目立ちたがり屋以外は幹部クラス以上を隠匿する。

 狙われたら困るからだそうだ。

 そんなわけで今のは最高機密情報と言ってもいい。


「……え? 弟子さん、あんたマスタークラスだったのか!?」

「いや違うけど」


 昇級試験すら受けてない俺は、証明書も何もないわけでクラス分けで言えば最下位のニュービー扱いだ。

 それに一般的に勢力リーダーともなれば基本はマスタークラスの者が就くのが当たり前だ。

 なにせ配下も危険な奴らがいる、それを実力で押さえつける必要性もあるからな。


「じゃあ、アークか?」

「いや、ニュービー」

「はっ? その実力でそれはないだろ」

「昇級試験を受けてないもので」

「ああ、なるほど」


 納得した顔になりながら頷いていた。


「……まあ、うちの勢力……エスペランサは危なっかしいけど、入る?」


 ぞろぞろ並んでいるやつら、だいたい九〇人ほど。

 一気に配下が増えるなあ……。

 まだ全然顔合わせすらしてないというのに。


「はっ、そんなに強いやつが仕切ってるとこなら安泰だ。俺は入るぜ」


 剣士が前に出てきた。


「加入条件は?」


 条件か……さすがに何もないとなると変な奴まで紛れ込むしなあ。


「一般常識で考えて犯罪行為をしないこと、で、どうでしょうか」

「それにセインツのルールも混ざるよ。今のところは同盟という形で傘下に入ってるんだから」


 ネーベルがさっと捕捉を入れてくれた。

 確かあっちのルールは小競り合い、戦争が行われた場合、近場のやつらはなるべく助けに行かなければならいない。

 同盟内での戦闘行為は一定以下のクラスの場合は許可を取らないと処罰とかだったな。

 他にもたくさんあるが俺は知らない。

 普通に生きていく分には早々注意することもないし。


「どうしますか?」


 聞いてみればあちこちから「セインツの決まりだぞ……」とか「確かあそこはあの悪魔と……」とか聞こえてくる。


「エスペランサの規模ってどれくらいだ? それで決める」


 別のやつが訊ねてくる。

 それはほんとに知らない。というかもう覚えてない。

 とりあえず現状は危ない人たちの集まりってとこかな?


「エスペランサは人員が確か九〇〇人くらいいたはずだ。トリニティは四〇〇ちょっとだったかな?」

「お、おおそうだ。よく知ってるな……それにしても九〇〇か……よし、入らせてもらう」


 そう言って一人が近づいてきた。

 続くように決めかねていたやつらも寄ってくる。

 それにしても……なんでネーベルは知ってるんだろうか。

 そして九〇〇人か……とてもじゃないが俺がそんなところのトップにいていいとは思えない。

 なんたってこの”元”引き籠もりなニートだもの。

 人間を率いる難しさはVRMMOとかで経験済みだよ。

 ああいうことができるのはカリスマ持ちか、レイズみたいなチートくらいだろう。


「じゃあみんな、よろしく」


 とりあえず顔を見て挨拶はしておく。

 ……これだけの人数覚えられねえけどな!


 ---


 色々のごたごたの後。


「アキト、この刀は君が使ってくれ」


 あの白い刀を渡された。

 触れているだけで、まるで拒絶されるかのように皮膚がぴりぴりする。

 確か神刀とか呼ばれていた代物だ。

 もしかしたら刀自体が意思を持つとか……まさか妖刀・千子村正なんてことはないだろうな?


「いいのか? これって相棒の遺品だろ」

「いいんだよ。これの作者はスコール。それも、もとはレイズのために作り上げたものだ。強力な武器だから、これは君が使うといい」

「なんで俺なんだ。だったらレイズに渡すべきじゃないのか?」

「今のレイズじゃこいつは扱えない」


 扱えない?


神刀こいつは……ミスリルで作られたものでね、使用者の力を反映して姿を変えるんだ。今のレイズがこいつを持てば、その瞬間にこいつが壊れる。それほどレイズの力は強すぎるんだ」


 ……その理論でいくと俺の底なしの魔力でぶっ壊れるんじゃないか?


「俺が持っても大丈夫なのか?」

「大丈夫。さっきセフティーを掛けておいたから。過剰に反映しないようにした」

「そう……なのか」


 左手で鞘を握り、右手でしっかりと柄を掴む。

 ゆっくりと抜刀して刀身を掲げた。

 妙な魔法でもかかっているのか、刀身自体がうっすらと光を放っている。


「銘はシンセシス。意味はスコールが知ってるだろうから、機会があったら聞いておくといい」

「ああ……ん!?」


 突如刀の柄が熱くなった。

 いきなりのことに手を離してしまい、カランと音を立てて落ちた神刀。

 白かった色がごく普通の鉄色になってしまった。

 拾い上げればさっきまでの熱もないし、ぴりぴりとした感じもしない。


「すごいね、刀の力を相殺するほどの魔力があるなんて」

「……………………え」

「今までの使い手たちが注ぎ込んできた力をこの短時間で完全に消し去るか……僕の予想以上に君の魔力は多いようだね」

「……………………」

 

 ちょっと、泣いていいですか?

 これって今、最強の武器をもらってその武器の”最強”を破壊してしまったということに……。

 ああなんでこんなことになるんだよもう。


次回更新は6月29~30日の予定です。

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