夜中の襲撃者
「飯だ、起きろ」
そういわれて目が覚めた。
窓の外は真っ暗だ。
どうやら少しの間だが眠っていたらいし。
それにしても飯。
やっと飯だ。
俺が立ち上がると、何食わぬ顔でニワトリもどきが俺の頭に乗ってきた。
なんかイラッとしたので、
つい魔が差して火の魔法で焼き鳥にしてやろうと思った。
イメージ…俺の頭上が燃え上がる。
そして火柱は上がらなかった。
あれ? 不発?
なんでだ、俺の魔力はかなりの量あるはずだぞ。
MP不足ではないはずだ。
まさかコイツも魔法妨害のスキルでも持ってんのか?
そう思って解析してみた。
【xxx】
種族:xxx
職業:xxx
【スキル】
偽装Lv.xxx
【xxx】
【xxx】
破壊力:xxx
速度:xxx
射程:xxx
持続力:xxx
精密動作:xxx
魔力総量:xxx
成長性:xxx
……なんだこれは。
文字化けしてんな……偽装以外。
偽装ねえ、偽装ってそのまんま偽装って意味か。
ステータスが全然わからんぞ。
「おーい、さっさと来いよー。
来ねえならお前の分も食っちまうぞ」
ああそうだ、飯だよ飯。
すっかり忘れていた。
焼き鳥なんか焼こうとしている場合じゃない。
俺の分を食われてしまっては嫌なので大急ぎで1階へ向かった。
1階へ降りると俺はぎょっとした。
なんせ今までにゲームとか漫画でしか見たことのない人たちがいたからだ。
蛇の頭をした鋭い目つきのやつ、
豚のような感じのオーク見たいなやつ、
下半身が蛇の女や蜘蛛の女。
そして何より、俺の好みにストライクな可愛子ちゃんがいた。
ああ、二次元じゃなくて三次元で会えるとは。
赤色のペンキで染めましたと言わんばかりのボブカット。
宝石のような大きな紅い瞳。
背中にあるのはドラゴンの翼と尻尾のようなもの。
たぶん、竜人族だ。
その娘を眺めていると視線が合った。
俺の頭の上にあるものを見て目を丸くした。
……変ですよねー、こんなモノ頭に乗せてるから。
そしてその視線が腰のあたりに降りて、少し笑った。
なんだなんだ俺に気があるのか!?
俺はいつでもオッケーだぜぇ。
「おーい、こっちだこっちー!」
変態なことを考えていると優男の声が隅のほうから飛んできた。
隅っこの方の席を取っていて、テーブルの上には御馳走が載っていた。
ひゃっほぅ、やっと飯だ。
俺は俺史上最速の早歩きで席に着き、まず鶏肉のようなもののステーキを口に運ぼうとした。
カプッ! ゴクン!
「オイコラ、ニワトリ」
オメェ何俺の肉、横取りしてんだ、こら。
テメェは火でも食ってろ。フェニックスだから。
「へえ、その鳥なんでも食べるんだ」
優男は笑っている。
その間にもコイツは取り皿に器用にナッツや野菜、さらにステーキを取っていく。
「そういや、自己紹介がまだだったな。
僕はキニアスだ。レベル9の火属性。
お前は?」
「俺は霧崎アキト。えっと、属性は火と水と生だ」
「は? バカ言うなよここじゃ属性は基本1人1つだろうが」
「え? でも俺3つ使えるぞ」
そういって火と水を手のひらに出して、テーブルから木の芽を出して見せた。
あの訓練のお蔭で全部合わせてLv.100までなら同時に魔法を使えるようになっている。
これはそれぞれLv.1で、合わせてLv.3。余裕で使える。
「マジかよ……それはあまり人に見せないほうがいい」
「なんで?」
「2つの魔法を使えるやつはいるが、3つ以上は数人しかいない。
そうなるといろんな所からお呼びがかかる。
面倒な事になるからな」
そうかそうか、ヒキニートは面倒事が嫌いなんだ。
「わかった使わないようにする。
でも、見た目で3つ使ってるって思われなければ大丈夫だろ」
例えば火と水の弾を撃ち出して、草の壁を作るとか。
「リーダーの前以外でなら大丈夫だ」
「なんで?」
本日2回目の「なんで」、わからないことが多いな。
「リーダーは相手の魔法を視る、壊す、盗む、なんでもありだからだ」
「……はい? それも魔法なのか? そんなチートがあるのか」
「いやそれはわからないが、現にうちのリーダーがそれやってるから」
「はぁ……」
壊したり盗んだりねぇ……。
でもあの堕天使は俺に魔法を”与えた”よな。
ならそれもありなのか。
それに視るってなんだよ。
「とりあえず今は飯だ飯」
「そ、そうだな」
俺は手元のステーキ皿を見た。
肉がなかった。
隣のニワトリを見れば最後の一切れを飲み込んでいるところだった。
「オイコラ、ニワトリ。テメェを焼き鳥にして食うぞ」
そう脅して俺は手にサッカーボールくらいの火の玉を作った。
「コケ!?」
ニワトリが俺のほうを向いて口を開けた。
そしてドラゴンブレス!! ……火炎放射が。
コイツ、ニワトリですよね!?
断じてドラゴンではないですよね!?
いや、フェニックスだった……。
でもだからって火炎放射はない。
「おいおい、お前顔。実験に失敗した科学者みたいになってるぞ」
「もう、コイツいやだー」
俺は残っていたスープとナッツを口にかきこんで部屋に戻った。
部屋に入るなりすぐに生の魔法でドアを固定した。
これでやつも入ってこれまい。
そして後ろ振り向きベッドの上を見ると……。
「コケーーー」
「どうやって入った!?」
お前はウィスパーか?
壁でも抜けて入ってきたのか?
いや、そんなことはどうでもいい。
今、重要なのは俺が寝ている間の安全を確保することだ。
どうするどうするどうするどうする。
そうだ、コイツを洗った時と同じように縛ってしまおう。
だがさすがに縛ってしまうのは可哀想なので籠を大中小と作って3重に閉じ込めた。
さて、寝るか。
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夜中、隣の部屋からギシギシアンアンと悩ましい音が聞こえ出した。
おいおい、夜のサービスってこのことかよキニアス君。
いやまて、なにもキニアスの部屋って決まったことじゃねえ。
向かい隣の部屋かもしれん。
なんにせようるさい。
俺は素数を思い浮かべながら再び目を閉じた。
変なとこが変な反応して変なことになると眠れないからな。
数分後。
布団の上でごそごそと動く気配を感じて目を開けた。
するとそこには……。
oh!!
燃えるような色の髪にロリボディ。
俺のハートにドストライク!!!
全裸の美少女がいるではないか。
いいねぇー、マウントポジション。
俺のミサイルも発射体制に入っております。
しかし、ちょっと残念だな。
大事なところが髪で隠れてたり、暗くてよく見えなかったり。
そしてなぜこの美少女は拳を振り上げているのでしょうか。
「死ね」
「はぁ!?」
いきなり言われて、いきなり殴られた。
「ちょっと待――」
ドゴッ!
「少し話会お――」
バゴッ!
「やめっ――」
ズゴッ!ドガ!
最後に拳が振り下ろされるのを見て、
俺の意識は暗闇に溶けていった。