ミズガルド
歩き続けやっと石柱に辿り着いた。
そしてそこには片手に銃を持った優男がいた。
カウボーイハットのようなものを被り、
カーキ色のトレンチコートを着ている。
そして、なによりもその手にある銃が俺に向いていることが問題だ。
「ななななな、なな、なななんですか、あなたは」
両手を上にあげて俺はホールドアップ。
撃たれたくないのだよ。
「お前、ヴィランズか?」
「い、いいいいえ、違います」
なんだよヴィランズって!?
そんなことよりも銃を下ろせよ!!
「あ、あのー、俺は怪しい者ではありませんよ……」
「……頭に真っ赤な鳥を乗せてる時点で十分怪しい者だ」
ですよねー。
怪しいですよねー。
頭に真っ赤なリンゴ乗せた仮面野郎と同じくらい怪しいですよねー。
「しかもその所々焦げた服、それなりに戦かってきたということだろ」
いや、この焦げはあの意味不明な爆発によるものです、
って言っても信じてもらえないだろうな。
さて、どうしようか。
あの堕天使と戦った、とでも言ってみるか?
「ええ、先ほども真っ黒な翼の天使と戦いまして。これ、戦利品です」
とりあえず一緒に黒い羽根も見せておく。
「なっ……」
あれ? なんかまずかった?
「お前……あの天使と(ガチで)やりあったのか?」
やりあったのか? って、堕天使とガチで戦ったら一瞬で消し炭にされるって。
「ええ、1時間ほど(訓練として)魔法で」
「倒したのか?」
やだなーもう、倒せるわけないじゃん。
「いえ、空に溶けるように消えていきましたよ」
「そ、そうか。お前所属は? 決まってないならセインツに入らないか?」
「飯が食えるなら入らせて下さい」
飯が食えると聞いてここまで来たんだ。
食えないなら入る気は毛頭ない。
それに食えないなら頭の上のコイツを食……これは最終手段だな。
「ああ、食えるとも。あの悪魔を撃退できるほど強いなら、
それなりにいいものが食えるぞ」
悪魔? あの堕天使そんな呼ばれ方してんの。
……そうですね。悪魔ですねぇ。
俺に魔導書渡したんだから。
「なら入ります。なにか手続きとか必要ですか?」
「レイシス……うちのリーダーに会ってくれるだけでいい」
「わかりました。それでリーダーはどこにいるんですか?」
「今はいないからミズガルドでしばらく待っていてくれ。
そこの石柱に触れたら勝手に飛ばされるから、
ついてこいよ」
こうして俺はミズガルドに向かうことになった。
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ミズガルドは長大な城壁に囲われた都市だ。
ここにはセインツと呼ばれる勢力と、
その他のいくつかの勢力が住んでいる。
城壁のすぐ外は海になっていて、
またその向こう側には、
同じように城壁に囲まれたヨトゥンヘイムという都市がある。
そこにはヴィランズという勢力とセインツに敵対する勢力が住んでいる。
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石柱に触れた瞬間、俺はとても高いところに立っていた。
夕焼けが眩しい。
アスガルドがあれだけ暗かったからだろうけど。
それにしても高所恐怖症の人だったら絶対動けなくなるよ、この高さは。
10mを軽く超える、高く厚い城壁の上の通路を歩いていく。
眼下に見えるのは馬車だ。
その向こう側には露天商が立ち並び、さらにその向こうには馬屋や宿屋が並んで いる。
「なんだ、そんなに珍しいか」
「こんなゲームの世界みたいなのは見たことないですから」
「そうかそうか、まあ、後でいろいろ紹介してやるよ」
少し歩くと下に降りる階段が見えてきた。
手すりとかは一切ついていない。
万が一踏み外したら一発で大怪我確定だな。
「気を付けろよ、お前みたいな新入りが毎回転落してるからな」
「まさか、俺は落ちま……うぉわぁぁぁぁーーーー」
言われたそばから落ちたよ。
およそ10m分の階段を一番下まで落ち、
腕が変な方向を向いていた。
「おい! 大丈夫か!?」
「う、腕が……腕がぁ……」
「ちょっと待ってろ! すぐに生属性の術者を連れてくる」
「ああ、くそ。痛ぇ」
腕を切り落とされたときに比べれば……。
俺はすぐに生属性の魔法で治癒した。
「おいおいお前、ヴィタかよ」
「ヴィタ? ヴィタってなんだ?」
「属性だよ。属性」
「へえ、それで生属性だとなんかあるのか?」
「そんなことも知らないのか。
生属性は唯一、純粋な治癒ができる属性だぞ。
それにその属性は人数が一番少ないから貴重なんだ」
あの堕天使め、なかなかいい魔法をくれるじゃねえか。
「それでお前レベルは――」
優男がそう言いかけたとき、RPGでよくみる門番的な人が走ってきた。
「くぉらー、貴様なにしとるかぁーー!!」
「やっべ、後で合流しよう。じゃあな」
そういって、大急ぎで逃げて行った。
「おい、君。大丈夫か? なにか変なことされてないか?」
「いえ、なにもされてませんよ」
「そうか、ならよかった。
あいつはなぁ、女の子を見ると片っ端から口説きにかかるし、
男だってな――」
「もういいです。それ以上言わないで下さい」
おいおい、あの優男風なやつって実はバイなのか!?
どっちもいけちゃうくちなのか!?
しかも「女の子を」って……さらにペドか!?
「とりあえず、この辺には近づくな。
いろんな意味で危ない人がいるからな。
特にそこの修理屋には近づくんじゃねえぞ」
そう言い残して門番さんはどこかへと消えていった。
それにしても「いろんな意味で危ない修理屋」って、
自動車修理工でつなぎを着たあの人でもいるのか?
とにかく、ここにいては身の危険を感じるので大通りに出てみることにした。
大通りに出た瞬間、通行人の視線が一斉に俺に向いた。
やっぱり頭の上のものが目立つんだろうな。
だがな、俺は元引き籠もり。
この人だかりに近づくだけで、もうつらいのさ。
だから視線がなんだ。気にしねえよ。
俺は露店を見ながら通りを歩いた。
売っているのは見慣れないものばかりだ。
「おばさん、これはなんですか」
「イモリの黒焼きさ。好きな女の子にでもどうだね」
「……いえ、結構です」
イモリの黒焼きってあれだろ?
惚れ薬とかいうあれだろ。
さらに通りを歩いていくと雑貨屋と書かれた看板があった。
瓶に詰められた得体のしれないものがたくさん置いてあって気持ち悪いな。
「おじさん、これってなんですか」
「ドラゴンの○○○だ」
「は?」
「だから、ドラゴンの○○○だよ。女性が1人で寂しい夜に使う張形で――」
「もういいです。それ以上言わないで下さい」
なんでこういうものばっかり売ってるんだろうね。
まあどうでもいいさ、見なかったことにしよう。
さらに歩いていき、ある一角を抜けると雰囲気が変わった。
ガラの悪い人がたくさんいた。
そして何より目につくのは、檻に入れらた亜人? とでも言うべき人だ。
皆一様に体に纏う布は無く、頭から角が生えていたり、
尻尾があったり、翼がある人までいる。
「奴隷……市場?」
「おい、そっから先は行くな」
後ろを振り向けば例の優男がいた。
「そっちは下手すりゃお前も仲間入りするぞ」
優男は檻を指さしながらそう警告した。
そして俺の首根っこを掴んだ。
「すぐに暗くなる。宿に行くぞ」
そういって俺を引きずり始めた。
見た目は細いのにどこに力があるんだこの男。
ってか裸足で引きずられるのは超痛えぇぇぇ!!
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気付けば宿の受付まで引きずられていた。
俺の踵が悲鳴を上げております。
「おやっさん、僕の隣の部屋に1人と1羽追加だ。
それと夜のサービスよろしく」
カウンターに金貨らしきものを3枚投げた。
俺はそのまま2階の一番端の部屋まで連れていかれた。
「ここで寝ろ。リーダーが帰ってくるまでは僕が金を払っておく」
「はぁ、どうも」
部屋は鉄格子付きの窓とかなり固いベッドがあった。
日当たりが悪く、しかもベッドは虫が湧いている。
「飯は朝と夜の2回だ。トイレと水は1階にある。」
「鳥のエサはありますか?」
「それは……適当にナッツでも食わせとけ。
じゃ、また後でな」
さてどうするか。
というかこのニワトリもどきはいつまで俺の頭に乗ってるんだよ。
まあいい、どうせコイツは剥がせない。
なら出来ることからやっていこう。
まずはベッドの虫を排除する。
火の魔法で加熱殺虫して水の魔法で洗う、そして再び火の魔法で乾燥。
いやー、便利だね。魔法って。
綺麗になった固いベッドに寝転がって目を閉じた。