一時撤退
体中が痛い。
とくに背中に焼けるような痛みがある。
なんで俺は寝ているのだろうか。
目を開けようにも力が入らない。
ああ、そういうことか。
やけに強そうな竜人と戦ってるときに背中から斬られて死んだのか。
だからここは一切の光がない本当の地獄とやらか。
肌に纏わりつくような湿気、ぬるぬるとした液体の感触。
生温かい、柔らかい何かの感触。
俺の上にのしかかる重さ。
「おい、じいさん! あんた死んだよな? レイズに殺されたよな!?」
「ほっほっほぉ、儂が神じゃということを忘れたかえ?」
「……いや待て、いくら主神だからといっても神界戦争で狼に食われて死んで、レイズに殴り殺され、ちょいと前に魔法で挽肉にされたろ? 復活するのはおかしいよな? 出てくるのは灰の中からバルドルだけでいいんだよ」
「悲しいことを言うのう」
やけに周囲が騒がしい。
というよりもどこかで聞いたじいさんの声だ。
これは……そうだ、あのアクロバティックな自称神のじいさんだ。
それにあのじいさんもレイズにやられたらしいし、ここは死んだ神すら流れ着く本当のあの世なのだろうか。
「そもそも流れから外れた儂らはある程度は生き返るんじゃ」
「……いや、それおかしいて。流れから外れたんなら死んだ時点で存在ごとロストするから、生き返らないから、転生もなにもないから」
「しかし、ここに儂がこうして立っておるのが証拠じゃろう?」
「待て待て待て待て……それだと戦いに終止符が打てないから、今までの二五六回の繰り返しが水泡に帰すから」
もう一人の声は……げっ、スコールだ。
でも待てよ、あいつがいるということは俺は死んでいないと言えるだろう。
だってあんなチート野郎だぜ? そう簡単に死ぬわきゃねえ。
となればここはもしや……。
目が開く。
どす黒く変色した何かが視界に映る。
生気のない虚ろな瞳、ぴちゃぴちゃと滴る赤い血。
死臭とも腐敗臭ともなんともいえる吐き気を誘発させる臭い。
………………。
「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
死体の山じゃねえか!
両手を伸ばして死体をかき分ける。
角のある顔を押しのけ、誰かの腕を押しのけ、腹が裂けた龍の死骸を蹴り除ける。
とにかく上へ上へと上がる。
「あああああああ、うわあああああああっっ!」
やっとの思いで死体の山から顔だして、思い切り空気を吸い込む。
つまりかけていた息が通り始める。
あのまま永眠してしまいそうだった身体に再び気力が舞い戻る。
「うっ、げほっ、げほっ、げえぇぇぇ」
思い切り吐いた。
死体の山を転がり落ちながら吐いた。
なんだよここは、なんでこんなことになってんだよ。
「大将! 起きやしたぜ!」
「さっさと洗って傷を治癒してやれ……今回に限りは助けてやる」
どたばたと足音が響く。
数人が俺を取り囲んで詠唱を始めた。
「アクア」やら「ヴィタ」やら聞こえるあたりは、身体を洗って傷を癒してくれるらしい。
それにしても、今更助けるならあの中に放り込まないでほしい。
まあ、背中の激痛から判断するに瀕死の重傷、もしくは死んでいると思われたのかもしれないけどさ。
「よーし、いいだろう」
スコールの声が聞こえ、さっと俺を囲んでいた人垣に穴が開く。
「てめっ、なんで助けた。それに何が起こった! 説明しろ!」
「今回に限りはレイズに言われたから助けた」
……なる、理由は分かった。
あれには逆らいたくないもんな。
もしレイズが何言わなければ俺はあのまま……ということか。
「何が起こったかについては……こちらの攻撃の際にお前が勝手に射線上に入って怪我しただけだ」
あんたは誤射王子か。
俺は必死だったんだ、それを勝手に怪我しただ?
ふざけるんじゃねえよ。
とりあえず一発殴っておこうと立ち上がり様に拳を突き出す。
「はい、そこまで」
スコールが無線機のようなもののスイッチを押した途端に身体の力が抜けた。
思考は働くし、目は動く。
なのに手が、脚が動かない。
「そのままで聞け。ウィリスとフライアは近くで休ませている。お前はこれからどうするかは知らんが、死なれるとレイズになにされるか分からん。よって魔狼のステッペンウルフを一時的に護衛として付ける」
手で何か指示を飛ばしている。
そしてすぐに宿で見た連中が集まってきた。
総勢十名。
いずれも軽装で武器はバラバラ、胸元の徽章以外に統一性が見られない。
角があったり、獣耳があるわけでもない普通の人間。
なのに気配は野獣そのものだ。
「一応この戦争についてはあの紙を見させてもらった。見かけ上は”国”どうしのぶつかり合いだが、実際は勢力どうしの抗争、戦争の終了条件はどちらかの代表者が死ぬ、もしくは全面降伏するかしかない」
「それで、俺に何をしろってんだ?」
「なぜそう思う?」
「いろいろと聞かせるってことはなにかやらせたいからだろ、直接じゃなくてもそれをもとに動いた結果があんたの得になるとかそういうことだろ」
「ああ、ここでウィリスとフライアとお前に死なれると後でレイズに何されるか分からんからな。それだけだ」
思いっきり自己保身しかなかったよ。
まあ確かにレイズは怖いけど自己保身のためだけに人を使うのは最低だね。
ただウィリスとフライアを連れてきてくれたらしいところはいいやつだと思うけど。
「にしてもだ、あいつら邪魔だから始末しようと思ったんだが……まあいいか」
……全然いいやつじゃなかった。
レイズが何言ったか知らないけど、それがなかったら俺たち全員あの戦場で旅立ってたということか。
とまあ、それは置いといてだ。
「いい加減その……わけわかんないやつ解除しろよ」
「はぁ……次何かしようとしたら最大出力で浴びせるから」
スコールが無線機のようなもののスイッチから指を離した。
途端に体に力が戻ってくる。
一体何なのだろうか。
「しかしまあ、クロードに効いたからもしやと思ったが、ほんとにお前にも効いたな」
手の中でくるくる無線機のようなものを回しながら軽い口調で言っている。
「なんだよそれは……」
「あ、これ? レイズが無線機失くしたから、もっかい作った残りのパーツで組んだジャマー。高出力高周波で頭んなか弄ってるやつら限定でダウンさせられる」
「…………」
もういいや、なんかいろんなチートなアイテムばっかりだわ。
気にしたら負けだな、うん。
次回更新、5月12日の予定です。




