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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第4章 敵対者の離岸 
63/94

やってしまった

 ひとまず開戦日やその他もろもろを決め、俺たちは宿に戻った。

 すでに日は落ちていて空は暗い。

 宿ではすでにラグナロクの兵たちが戦いに向けての準備を()()いた。

 市街戦用なのか銃身の短いカービンライフルにそれぞれがエナジーブレードを所持している。

 そもそもなんでこの世界に銃なんてあるのだろう。

 などと思いつつ部屋に向かう。


 静かにドアを開けてみれば、フライアの隣でリナが寄り添うように眠っていた。

 これはそっとしておこう。

 顔色を窺えば、朝よりかなり良くなっている。

 それでもまだ熱はあるし、少しばかり呼吸も荒い。


 とくにすることもなく、ここにいるのあれな俺はリュックを取って酒場に戻った。

 今日買ったものの確認と残金の確認を今のうちに終わらせておこう。


---


「そんで? お前が家出した原因はあのクソ野郎どもってことでいいんだな?」


 ウィリスの部屋でクレナイは涙を流しながらも質問に答えていた。

 口で答えず頷くばかりであったが、ウィリスは淡々と怒りを募らせている。

 それもクレナイに対してではなく親たちの身勝手な行いに。


「つまり、簡潔にまとめるとだ。

 王位継承権が回ってこない程度の位置でありながら直系だから政治的価値がある。

 それに女であるから竜の支配域(ローラント)内の余所の”国”のやつと無理やりくっつけられて有利な国づくりだのなんだのをしようとした。

 それに便乗した”国”の腐れ外道がこれは使えるとオークションのようなことをして、余所の貴族連中も家の男をくっつけてしまおうと次々と手を出(プロポーズ)してきた。


 (中略)


 それらに嫌気の刺したお前は信頼できるやつだけ連れて、ローラントに来ていたレイズに泣きついて、家出して長らくミズガルド近辺で暮らしていたということで合ってるな?」


 五分ほど長々と、それでも簡潔にまとめられたことをウィリスは言い終わる。

 うつむいたままクレナイは静かに首を縦に振った。


「それであの災害で運悪く王宮に転移、掴まったが女王に手傷を負わせ衛兵を蹴散らして逃走。

 王宮側も大々的に手配できないから賊の女として手配した訳か……。

 それにあの女王め……、美しい体に傷がついているかどうかは娘の価値を決める上で重要だぁ?

 人をモノのようにしか見てねえな。そんなに価値が――」


 後半、ウィリスが愚痴を言い始めるとクレナイは抱き付いた。


「だったらあんたがあたしの……奪ってよ……。消えない傷をつけてよ」

「断る」


 そんなクレナイを拒絶するようにウィリスは引きはがした。


「俺にそこまでの度胸はない。さっきは戦争なんてふっかけたが、まさかアレまで出てくるなんて考えてなかったからな。ま、そーいう訳で俺はどろどろの戦いに身を突っ込む気は、断じてない!」

「……そっか」

「それに、リナとの約束もあるからな」

「…………」

「そんな目で見ないでくれ。それにさ、お前はアイツのことが好きなんじゃなかったか?」

「でも片思いだし、それにアイツはクレスティアのことが……」

「死んだってさ……こないだの大規模な戦闘で」

「そう……なんだ。なんかそういう時にするのもなんかぁ……」


 しばらくの沈黙の後、ウィリスはあることを言った。


「だったらアキトとでも……。あいつは変なところで優しいから既成事実さえ作ってしまえば、な?」

「……そっか、それで恋人のフリでもしてれば」

「ああ、あのクソ野郎どもも利用価値なしとして放っておいてくれるんじゃないか?」


 これらの会話をアキトが知ることは無かった……。


---


「金持ちだなーあんた」


 金貨を数えているうちに俺の周りにはラグナロクの兵士たちがたかってきていた。

 そもそも枚数が多すぎてまだ一袋目の一割も数え切ってない。

 しかしまあ、これだけ金があればこの世界で一生遊んで暮らせるかも……ヒキニート復活!

 ……は、やめておこう。今はまだそのときじゃない。

 まず安全に暮らせる場所を確保したのち、ニートライフへ向け準備するんだ。

 いきなりヒキニートになってもスコールやらクロードやらレイズに壊されたらたまったもんじゃない。


「おい、あんた。ちょっと賭けないか?」


 兵士の一人がトランプを持ってきた。

 他に二人がイスに座って、それぞれに二枚ずつ、テーブルには四枚のカードを伏せる。

 ポーカーだな。

 このルールはあんまり馴染みがないけど。


「こいつはウィリスが持ってきたもんで、トランプってやつだ」


 んなこと知ってる。


「なんでも、異世界の遊びらしくてな。賭け事に向いてんだよ」


 ああ、そうか。この世界ってそういうもんがないんだ。

 ということはテレビとか聞いても分からないんだろうな。


「なあテレビって知ってるか?」

「なんだ? 新しい食い物か?」


 うーん、なんともありきたりの反応をありがとう。


「いや、やっぱりいい。気にしないでくれ」



 その後は存分に負けさせてもらった。

 だって賭けポーカーは初めてだったんだもん!

 そして最後に、一回だけ全賭け(オールイン)して他の奴らもコールしてきて、まさかの一人勝ち。

 結果的にプラスマイナスゼロで終わった。

 俺のニートライフへの財産は減りもしなければ増えもしなかったわけだ。

 終わったころはちょうど食事の時間。

 厨房のほうからはいい匂いが漂う。

 今日も変わらないメニュー……朝も同じだったそれを食べて考えた。


 部屋をどうするか。

 フライアの看病にリナがいる。

 ならば俺がいては邪魔だろうからもう一つ部屋をとるか。

 幸いお金は腐るほどある。まあ、金属だから腐らないけどさ。


「すみません、部屋空いてますか」


 カウンターへ行って聞いてみると、


「一番奥の部屋が空いてるよ、金貨一枚」


 随分とぶっきらぼうな答えが返ってきた。

 結構な人数が出て行ったのになんで一部屋しか空いてないんだよ?

 などと思いつつも金貨を一枚出して部屋に向かった。

 そしてドアを開けた瞬間言葉を失った。


「んなぁ………………」


 部屋は昨日の部屋とは違ってテーブルとイスがワンセット。

 窓にはカーテン、ベッドはキングサイズよりもでかかった。

 セミダブルを二つ並べたくらいの大きさだ。

 しかもふかふかで四隅に柱があってレースがかかっている。

 天蓋付の高級ベッド。

 こっちにフライアを移して俺はあのごわごわで寝ようか。

 そう考えもしたが病人を無理に歩かせるのも、と思いやめた。


 荷物を置いてベッドに座る。

 あまりに柔らかすぎて沈み込み、バランスを崩して後ろに倒れた。

 そのまま身体がベッドに沈み込む。


「はぁ……」


 自分ではたいして疲れてないと思っていても、思った以上につかれているらしい。

 今日も今日とて本意ではないがやってしまったわけだ。

 あれが妙なストレス、ひいては疲労になって体の内側にべっとりとギトギトの油汚れみたいに張り付いているのだろう。


 そして流れで大きな戦争に巻き込まれてしまった。

 どうしようか。

 逃げるという選択肢は今のところない。

 ベインが返ってくるのを待つ、それとフライアの完全復帰を待たなければいけない。

 あんな状態で無理に動けば変な悪化をするかもしれないしな。

 それにどこへ逃げたところで現在の俺は敵だらけだ。


 そんなことを考えているうちに意識が沈んだ。


---


 夜半、何やら隣でごそごそ動く気配を感じて意識が覚醒した。

 泥棒だったら下手に刺激したらまずい。

 うっすらと目を開けて、顔は動かさずに視線を目いっぱい横に向ける。


 ――――!? 


 いや待て、これは夢だ。

 幻覚だ。

 ありえないのだ。


 薄赤色の地肌が透けて見えるほどのランジェリーを着た、扇情的すぎる格好のクレナイがいるわけないの!


 あぁ、俺はそんなに飢えていたか?

 夢でまでもこんなことを見るなんて……。

 まあ、最近は若きリビドーを鎮める行為はしていないのだが。

 よし寝よう。

 夢とはいえこの世界には思考を読む悪魔がいる。

 夢だからといって手出ししようものならば明日の俺はお空の上で永眠していることだろうよ。

 夢だからといって……………………。


 …………………………………。


 脳内時計で約五分後。

 薄闇の中、俺は目を覚ました。

 寝ぼけ眼で隣を見る。

 もちろんいない。

 ああ、変な夢を見たもんだ。

 もう一度寝よう、そして忘れよう。


 そして寝返りを打とうとしたところで――

 身体が動かないことに、正確には俺の上に誰かが跨っていることに気付いた。


「…………ぇ」


 その誰かを見れば夢で見た格好の扇情的なクレナイ。

 夢じゃなかった、現実だった。


「なにしてんですかね?」

「よ、よよ、夜這い………?」


 おかしいな、部屋のカギは早速使えるようになった土属性で作った南京錠と空属性の防壁とそのほかで五重にしておいたはずなんだが……。

 首を無理に曲げて、クレナイの体の向こう側、部屋の入り口を見る。

 ものの見事に溶解したお手製のカギの残骸が転がっていた。

 そしてその周囲に散らばる不可思議な揺らぎ、これは防壁の破片。

 恐るべし、音もなくあれを破壊するとは……。

 というか軽くへこむ。

 それなりに自信作だったんだよ?

 思い切り魔力こめて、記憶の奥底からシリンダーの構造を引っ張り出して作り上げたんだから。


「………いや?」


 クレナイの翼がバサァっと広がる。

 片方だけでも軽く二メートルはあるぞ……でけえ。

 そしてルビーのような潤んだ瞳で俺を見つめてくる。


「その前に、なぜ?」

「理由なんて……いらないでしょ?」


 俺(悪魔)としては――したい、やりたい、証を捨て……。

 俺(天使)としては――ダメだ! エアリーが、フライアがいるだろ!


 おい天使、そこはもうちょっと言い方ってもんがあるだろ?

 さらに三つめが語り掛けてきた。

 女の声と男の声が混じった不思議な声だ。


『やれば後悔する、だがやらなければ後悔する』


 どっちもどっちだ! ってか同じだろ!?


『だったらなにも聞かずにされるがままで後悔するか、断ってクレナイを永久に不幸に、絶望のどん底に落として知らん顔するか』


 事情を教えてくれよ。

 こんなことしなくても、なんか知らないけどさ、解決する手段だってあるだろ?

 それにあんた誰だ?

 俺の脳内天使&悪魔(バカコンビ)って訳じゃねえよな。


『まあ、自棄やけになってるしなぁ……それ――だ―――――また―――い――』


 プツン……とそれきり声が聞こえなくなった。

 おいおいおいおい? じゅーよーなところが一切聞こえてませんけどねぇ。


「しよ……」


 ピキッと俺の天使りせいにヒビが走る。

 悪魔よくぼうのほうは黒いオーラを纏って真っ黒な魔剣を引き抜き始めた。

 意思の力で押さえつける! それはまだ早い!


「ねぇ……」


 甘いどくで俺の天使りせいが悶え苦しんでいる。

 早く楽にしてくれと叫んでいる。

 いっそさっさと死んでくれ。

 聖天使よ、今こそ降臨の時ですぞ。

 ついでにマイサン、あんたもまだ封印を解くには早すぎるんだ、まだまだ眠っていてくれないだろうか?


 さて、色々と思考の外に吹き飛ばして無我の境地(パーソナルスペース)に入って考えよう。

 おかしい。

 おかしすぎる。

 ついこないだ俺たちは惨劇の被害者と加害者という関係だったはずだ。

 ヤンだけでデレは全くなかった。

 好意を寄せてくるようなイベントはない。

 むしろダウンイベントばかりだった。

 つまりフラグが立つようなことは何一つしてないわけでこうなっているのはおかしい。


 ならばこうなる原因に思い当たるものは?

 あのスキル、『魅了』しかねえよ。

 解析・対象は自分。


 【霧崎アキト】

 種族:人間

 職業:ノービスメイジ


 【スキル】

 解析Lv.9

 魔力吸収Lv.9

 魔法妨害Lv.9

 剣術初級


 【固有スキル】

 魅了(封印)

 マーレヴェルテクス(封印)


 【召喚獣】


 【魔法】

 火属性Lv.4

 水属性Lv.1

 地属性Lv.2

 生属性Lv.10

 空属性Lv.1


 なんてことはなかった。

 しっかりと封印されたままだ。

 ならばなぜ?

 さっきの話によるとヤケになってるとか言ってたが……。

 なにかそれほどショックなことがあって、それを癒すために誰かと慰め合う。

 簡潔に言うならば、身体の関係を結ぶ。

 そういう展開?

 確かに泣きながら逃げてたし……。

 だとしても俺のところに来るのはおかしい。

 もっと付き合いの長いウィリスのほうに行くはずだ。

 助けたウィリスのほうに行くはずだ。

 

 …………。

 そしてそれを考えないとしても。

 この状態で手を出す俺はなんだ?

 まるで弱みに付け込む獣そのものになるんじゃないか?

 そうさ、こんなことはもっと正常な精神状態でやるべきじゃなかろうか。

 お互いちゃんとしたステップを踏んでの合意の上という形で。


 こういう形でなし崩し的に勢いだけでやってしまったら絶対に後で後悔……。

 そうかこれがやったら後悔のほうか。


 なんか……考えてて空しくなってきた。

 自分でハーレムルートのフラグ、ポキポキ圧し折ってない?

 まあ、とは言ってもだな。

 優柔不断なハーレム野郎になるくらいだったら全員平等に愛せて守れるくらいの――


 カチャッ……。


 ベルトが外されて服を脱がされる。

 細い指が、あのハルベルトを振り回しているとは思えないすべすべした指が俺を触る。

 バサァっと翼を広げたまま俺に倒れ掛かる。

 柔らかい双丘が触れる。

 いつかのように、竜族特有とでもいうべき赤いオーラがうっすらと漂う。


 首から上、クレナイの顔が視界いっぱいに広がる。

 予想外に大きかった翼が周囲を覆い尽くす。

 そういや、はじめて見た時って……。


「なによ……」


 いつの間にやら絶命して何かわからない破片になっていた天使。

 気づけば最っ高に黒いオーラをまき散らす悪魔。

 その手にはすでに抜き放たれた魔剣があった。

 俺の魔剣も気づけば覚醒状態にあった。

 クレナイの柔らかい肌が魔剣をぐりぐりと……。


 なんだかなぁ……魔剣っていえば人の意識を奪おうとするとか、悲劇の結末を運んでくるとか良いイメージがないんだけど。

 というか、おい悪魔! 

 俺の脳内スペースを訳わからん薬品使った霧で汚してんじゃねえ!

 その後ろにある、ぼこぼこ泡立つビーカーはなんだ。


『アントラセンだ!』


 脳内に幻聴が響いた。

 なんだそりゃ?

 まあ、俺の頭の中から出ていけ。

 というか放り出してやる。

 こうして黒い意識を加速させる悪魔エンジンも、止めるための天使ブレーキもいなくなったわけだ。

 残ったのは速さ、止めるものはない。


「これって、いやじゃないってこと……?」


 言いながらわざとらしく腰を動かす。


「ぅ……ん」

「ねえ、しよ」

「う――」


 ん、とは言えん!

 最後のストッパーは俺のほぼ壊れかけの良心だ。

 どういう理由か知らんがマジでこういうのは――


「んっ」


 唇を奪われた。

 初めてだ……。

 何とも言えない甘い感覚が全身を走り抜け、壊れた。

 そのまま身体を押し付けられる。

 真空を走り抜ける光子の如く、遮るものが本当になくなってしまった黒い意識が暴走を始め――







 それでも理性の欠片が一時的にストッパーをかけてくれた。

 そりゃエロいことは好きさ。生物の本能だ。

 こういう状況は夢見たさ。

 しかしだ、勢いで好き放題してしまうのはいいわけない。

 理性なしで好き放題にするのは、俺が勢い任せで攻めるなんてのは今回は違う気がする。

 個人の尊厳を大事にしよう、適度に求め求めらるように……。 

 あくまでも野獣ビーストになってしまわないように……。


―――


 その夜

 俺は人生初体験をした

 クレナイに乗られる形で

 とても痛がっていたし、あれの証拠の鮮血を流していた

 俺も思い切り抱き付かれて背中に傷を負った

 一生忘れることは無いだろう傷を


―――


 翌朝目を覚ました俺は即座に激痛に襲われ、意識を手放しかけた。

 それでも何とかつなぎとめて隣を見る。

 幸せそうな寝顔のクレナイ。

 そして血だけらのシーツ。


 九割がた俺の血です。

 竜人族をなめてました。

 まさか興奮するとあの赤いオーラが剃刀みたいに鋭い刃になるなんて思ってもおりま――


 プッツン……と、意識の糸が千切れた。


―――

 

 一週間たってもベインは帰ってこなかった。

 そして万全とは言い難い状態での開戦となる。

次回更新は4月30日の予定です。


※4月28日、微修正

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