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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第1章 激動と波乱
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最強のニワトリ

 さて、イザヴェルに向かって歩き始めてはや10分。

 俺の目の前には阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。


 頭の潰れた死体が20体以上。

 武器を持った人間が10人と、

 多分召喚獣であろうドラゴンが30体。


 これだけだったら、見た瞬間に俺はすぐに逃げていただろうよ。

 だがな、それをたった1羽で去なしているやつがいたんだよ。

 そうさ!! あのニワトリ……もといフェニックスの雛ですよ!!

 ドラゴンのブレスを華麗に躱して人間の脳天にpeck a hole。

 ……!?

 あの嘴にそんな破壊力があったとは……俺はよく死ななかったな。

 それにしても……うげぇ。

 もう赤色は見たくねぇんだよ。


 俺が吐き気を抑えてもう一回見てみると、

 残っているのは、これぞバハムート! ってドラゴンが一体だけ。

 どうなるか見てみようか。

 ニワトリ選手、走り出しました。

 バハムート選手のメガフレアを華麗にサイドステップで回避。

 そのまま飛び上がります。これは世界新記録だ!!

 そして、バハムート選手の脳天に嘴でスドンッッ!!


 ………パイルドライバーって重機知ってる?

 あれが杭を打ち込むときよりでかい音がしたよ。


 バハムートが消えると紫の珠が落ちた。

 ニワトリはそれを銜えると俺のほうを見た。

 次はお前だ的な目付きで。

 そして俺に向かって走ってきた。

 あんなものを見た後だ勝てる気がしない。

 逃げる!

 あの嘴は脅威だ。

 あれで脳天ぶち割られたらたまったもんじゃねえ。

 

 後ろを見ればアイツが……いない?

 立ち止まって辺りを見回す。

 どこだ?どこに消えた!?


「コケーーー」


 上だとぉ!?


「いつの間にぃぃ!!」


 ニワトリの頭が振り下ろされる。

 俺は咄嗟に後ろに飛んだ。

 そして地面が割れた。


「………あ、あの、見逃してくれませんかね」


 言葉が通じるとは思っちゃいない。

 だが気持ちは通じるはずだ。


「コケェーーー!!」

「ダメですよねぇぇぇーーーー!!」


 俺はこの瞬間マジで死を覚悟した。

 反射的に腕で顔を覆って目を閉じた。

 今度こそホントにさようなら、俺の人生。

 

 ……ポスン。

 

 はい?

 なんでしょうか。

 頭の上に羽毛が乗ってる気がするんですが。

 腕を頭の上に伸ばすと柔らかい羽の感触がある。

 そしてざらざらした感触もある。

 顔の前に手を下して見てみると、

 それは真っ白な灰だった。

 そういえばフェニックスって燃えて灰になってその中から蘇るんだったな。

 ってことはその灰ですか。


 うむ、どうでもいいな。

 まずはこいつを俺の頭から降ろさないと。

 そう思って両手でつかんでどかそうとしたら、


「いだだだだだだ!!」


 思い切り鉤爪が頭皮に食い込んできた。

 そこから動く気はねぇんだな、テメェは……。

 どうしようもないので俺はそのままイザヴェルに向かって歩き出した。

 

 コイツは怖い。

 触らぬニワトリに祟りなしだ、このまま放っておくのが一番安全だ。

 ちょっと重いのが難点だが。


---


 しばらくしてイザヴェルというエリアに到着した。

 どうやらイザヴェルというのは地名のようだ。

 地図を見てもさっきまでのところとここは線引されていて、

 さっきまでいた方はただ平原と表示されていた。

 それにしてもな、ただイザヴェルに行けとしか言われてない。

 具体的にどのへんに行けばいいのか分からないんだよ。

 とりあえずイザヴェルの中心に、

 石柱のようなものがあるらしいのでそこを目指すことにした。


 しばらく歩いているが、


「さっきからパラパラと灰が降ってきてうぜぇ」


 そう、頭の上のコイツ(ニワトリ)から常に灰が降ってくるのだ。

 襟には雪が積もったみたいに灰が積もってるよ。

 決して俺のふけではない。

 しかも少し服の中に入ってくるもんだから痒いんだよ!

 

 さっきちょっと洗ってやろうかと思って水の魔法を使ったけど、

 避けやがって俺が無駄に濡れたんだよ!

 すぐに火の魔法で乾かしたからいいけどさ。

 しかしだ、そろそろ俺も我慢の限界だ。

 引き籠もりの辞書に我慢なんて単語は載ってないのさ。

 よし、そうと決まればさっさと洗ってしまうか。

 多少強引な手段でも今の俺は容赦なく使うぜ。

 いつもの俺なら『今日できることは明日できる』だが今は違う。


 計画はこうだ。

 まず普通に水を当てようとすればさっきの二の舞になる。

 だから俺の周りを一気に水の壁で囲む。

 これで逃げられなくする。

 そして生属性の魔法で蔓を発生させてコイツの足を縛って吊るす!!

 生属性の魔法は生命力を操作する。

 さっきの訓練で植物を一瞬で成長させて敵を拘束する方法も習ったからな。

 さっそく役に立つぜ。


 そして……。


「コケー、コケーー」

「呆気ないな、おい」


 今度はあっという間に捕まえることができた。

 そりゃね、あの時は魔法なかったしね。

 さてさて食ってしまおうか。

 ちょうど俺の胃袋も飯を寄越せと吠えているわけだし。

 いや、でもニワトリってどうやって捌くんだっけ?

 たしか首を折って血を抜いて……って!!


 そうじゃないだろ俺!!

 洗うんだろうがぁ!!

 水の壁に囲まれた空間で俺は容赦なく、

 ニワトリを水没(除・頭部)させて洗い始めた。

 

 逆さ吊りの状態でコイツも抵抗しても無駄とわかっているのか大人しい。

 それにしてもコイツはトサカが小さいな。

 ということはメスか。

 卵でも産ませて食いますか。

 いやいや、それはまずいでしょ。

 だってフェニックスだもの。

 

 そんなことを考えながら洗っていく。

 首を洗って、背中を洗って、翼を洗って。

 なんか羽の色が燃えるような鮮やかな赤色になってきている。

 だいぶ綺麗になったぞ。


 さて、最後に総排泄腔な訳だか……。


「コケー、コケー」

 

 バタバタ暴れております。

 おいおい、お前鳥だろ。

 まさか恥ずかしがってるのか?

 雌だからなのか?

 まあどうでもいい、さっさと洗っちまうぜ。


 洗い終わって温風を送って乾かしてやる。

 なんだろう、態度が洗う前と全然違うよ。

 なんかすんげーふて腐れてるよ。


 乾かし終わった後はまた俺の頭に何食わぬ顔で乗ってきたよコイツ。


「降りて自分で歩けよ」

「…………」


 ご自分で歩く気は全くないようですね。

 それにしても洗う前より鉤爪の食い込みが強いのは気のせいですか?

 俺の頭皮が悲鳴を上げてるような気がするんだよ……。


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