魅了封印
ガクンッといきなり体が揺れた。
反動でエアリーが頭からぽすんとベッドに墜落する。
いや、今、部屋自体が揺れたよな? 地震……なわけはないな。
地震だったら連続した揺れが起こるだろう。
手に持っていた進化の珠を箱に戻して立ち上がる。
「この建物って、崩れないよな?」
誰に言うでもなく呟いて部屋のドアを開けると、
「どうぇい!?」
壁に大穴があいていて、すぐ隣の部屋が完全に潰れていた。
いや、おい、これは大丈夫なのかぁ?
瓦礫の山に近づいてなんとなく中を除いてみるけど人の気配はない。
『おぉぉっと!!
レイズ選手、まさかの失格!?
異位相空間を突き破るほどの強力な魔法は気をつけて使いましょう。
それでは、決勝戦の勝者、スコール!!』
「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉーーー!!」」」
え? なに? これってレイズがぶちかました魔法が原因なの?
『はい、それではこれにて全試合が終了いたしました。
今後の予定は夜から表彰式、パーティーが執り行われます。
えー、そしてレイズ選手はこの後審判席までお越しください。
建物の修理費用を請求しますので』
「……なにやってんだ」
若干呆れ気味でとくに心配する必要もないと判断して、部屋のドアを開けた瞬間。
「目、目があああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
不意の強烈な光。
何の構えもしていなくて、直接目に光が突き刺さる。
あまりの強さに頭痛を覚え、目を抑えてその場に倒れた。
今ならわかる、特務部隊のM大佐の気持ちが!!
これで部屋が崩れて瓦礫の生き埋めコンボはないはずだ。
「うぐっ?」
なんだ、なんだ今の感覚は?
俺の体の中から何かが逃げる?
いや、引っこ抜かれる、奪われる!?
「なん、だ……よ」
力を込めても体が動かない。
言うことを聞いてくれない。
無理して瞼を持ち上げると、光はまだまだ収まっていなくて、霞む視界に辛うじて二人の姿が映っていることを確認できた。
「ふざけんじゃねぇぞテメェ、オレの大事な――!!」
レイズの声が聞こえて、そしてすべてを飲み込むような爆発が起こった。
体が浮き上がって吹き飛ばされる。
壁にぶち当たってずるずるとボロ雑巾みたいに倒れ伏す。
感覚が死んだ、音が聞こえない、視界が真っ白に染まる。
なんだい、なんだい、今度こそ俺って死ぬのか?
---
「はぁ……はぁ……これでやっと」
ん? 誰の……これはレイズの声か。
背中にはふっくらした柔らかい感触、ベッドだな。
そして俺の上に、服越しに直接素肌のあたる感触があるのはなぜ?
目を開けば……、
「なにやってんですかね!?」
「さて、アキト。お前の魅了スキルのせいでどえらいことになったわけだが」
「冷静に言ってないでまずは服を着たらどうですかね!!
あんたの状態がどえらいことになってるよ!?」
そう、俺の上には素っ裸のレイズが跨っているわけで。
肌はほんのり上気していて、汗かなにかでしっとりとしている。
艶めかしい姿、揺れる白い髪からほんのり香る甘い匂いが俺の鼻孔をくすぐり……。
「まあ、服を探しに行く前にやることやってしまおうか」
「えっ!?」
なになになになに!!
やるって、ヤるってことかい!?
本番いっちゃうってことか!?
なんて思ってたら、
「魔術構成開始……グレイプニルより縛りのイメージを抽出……」
魔法の詠唱? じゃないね。これは違う。
言ってたじゃないか、魔法の詠唱は属性を言ってから性質を言うって。
これは全然違うぞ。
「さてと、お前のスキルは封印する。ま、しばらくしたら解けるようにしてるけど」
言われた瞬間、頭の中にどろっとしたものが流れ込む感覚を覚えた。
ただそれだけ。
どうなった俺のステータス?
【霧崎アキト】
種族:人間
職業:ノービスメイジ
【スキル】
解析Lv.9
魔力吸収Lv.9
魔法妨害Lv.9
剣術初級
【固有スキル】
魅了(封印)
マーレヴェルテクス(封印)
【召喚獣】
【魔法】
火属性Lv.4
水属性Lv.1
生属性Lv.10
空属性Lv.1
ふむ……。
封印。封印ねぇ。まんま封印だなぁ。
そしてなんで「少女の想い」がなくなってるのかな?
なんで俺のプレス機がなくなってるのかな?
最後になんで水属性のレベルが1に下がってるのかな?
「ふぅ、これで大丈夫か」
「……いったい俺が気絶している間になにがあった?」
「簡単に言うとだな。
部屋の外で気絶、完全に抑えの効かなくなったスキルが暴走、ヴァルハラ中の女が殺到、
止めるためにオレたちが出ていくも数の暴力に負け、人の波にもまれているうちにマッパになって、
かくかくしかじかで今に至る。
ということだな」
なに、あのスキルってそんなに強いものだったの?
俺は効果範囲はせいぜい数メートル先くらいだと思ってたのだけれど。
「にしてもだよ、お前はおかしいぞ。あのスキルはサキュバスとかでさえも、
広くて半径十メートルだってのに、お前の場合は半径がキロ単位だからな」
「……マジすか?」
「マジだ。それにせっかくの進化の珠を全部使いやがって……」
ん? 全部? 俺は二つしか使っていないはず。
「えっ、一つ残ってなかった?」
「その一つをエアリーが使ったんだよ」
きょろきょろと左右を見るがエアリーの姿はない。
「エアリーはどこに?」
そう言うとレイズが俺の上から降りて、薄暗い部屋の隅を指差した。
つられるようにそっちに顔を向けると、中学生くらいの青い髪の女の子がいた。
薄い毛布で体を覆って俺のほうをじっと見つめる。
「…………はい?」
「エアリーだ」
「えっ? 違うよね?」
「現実を見ろ。お前とずっと一緒にいたいとかなんとか願ったから完全に人の姿、人の思考パターンを入手して」
「スタップ! ちょい待てよ」
おかしいよね?
そもそもあの珠にそこまでの願いを叶える魔力があったのか?
いくら人の姿を手に入れたからって髪の色まで変わるかい?
お前は覚えていないだろうがこの娘に手をだそうとしたんだよ。
そういわれたほうがまだ納得できる。
いや、そんなことはしないけども。
でも、少しおびえたようなあの表情を見るとなぁ……。
「さて、いい加減現実を見ようか」
がっしりと頭をホールドされて、指で瞼を強制的にあげられてエアリー? のほうへ向けられる。
そして俺の視界に解析を使った時と同じように情報がズラーっと表示されていく。
【エアリー】
種族:人間
職業:ニュービーマジシャン
【スキル】
【召喚獣】
【魔法】
水属性Lv.2
証明は必要なくなったようだ。
だが認めたくない。
同じ名前の別人を用意されたという可能性だってある。
「ちなみに同じ名前の別人じゃないからな」
「…………」
いや、まてよ。
召喚魔法なるものがあったよな?
だったらそれで同じような……。
「そういう方向でもないからな」
全身から嫌な汗が噴き出す。
えっ?
じゃ、本物!?
え、 ええ?
これはかなりショックを……。
あ、でも。
「ぅ……」
「ほら、泣くな。普通の人間はいきなり理解の及ばないことがあると否定するもんさ。
特にそこの朴念仁とかがいい例だ」
頬に伝わる一雫。
それを見たとき、気づけば俺は自然と頭を下げていた。
「ごめん!」
「……ぐすん」
土下座!
「すんませんした」
「……」
土下寝!
「アホかお前は!」
素足で踏まれ固いはずの石材の床に頭がめり込んだ。
いや、わかってたよ。諸刃の剣、必殺土下寝。
そして初めての土下埋……。
「あ、あの、足のけてくれません? このままだと窒息しそうなんすけど……」
「いっぺん、死んでみる?」
「嫌だよ!! 全力で否定してやる!!」
某黒髪の少女のような声で言われた俺は全力で両腕に力を込めた。
そして勢いよく頭を振り上げると、レイズがバランスを崩し、
眼前に一昔前ならブラックホールと揶揄されていた部位があった。
「……これが目的なら太陽の中心に転移させてやろうか?」
「いえ、すみませんでした。やめてください」
毛の一本もない割れ目から視線を引き剥がして正座する。
そしてレイズが体制を立て直す前に人が入ってきた。
「…………邪魔したな」
そいつはそう言って静かにドアを閉めた。
……………。
「「誤解だっ!!」」
初めての同調。考えが一致した最初の瞬間であった。
俺とレイズは同時に立ち上がり、ドアを突き破って廊下を歩き去るスコールを捕まえた。
その手には俺のリュックとレイズの来ていたらしい服が握られている。
「「ちょっとこっち来ようか」」
二人で左右両方から腕を回してたったいまドアをぶち破った部屋に引きずり込む。
俺はどうイメージしたのか分からないがドア枠にぴったり嵌るように空間魔法で音や光を遮断する壁を作った。
これで外からは一切なにが起こっているか知られない。
そしてレイズはさっと着替えを済ませていた。
「なんだ? そういうことをしようとむぐぅ!」
「だ ま れ よ」
レイズがスコールの首を絞めて黙らせる。
一応確認しておくが、こいつら大会の優勝者とそれに負けたやつだよな?
「っ!!」
スコールが思い切りタップして解放される。
「……さて、風呂を除いて変態と言われたレイごふぁっ!」
「余計なことは言わんでいい」
「いっつぅ……、で、帰り道のほうはどうなってる?」
「出来ている」
「じゃあさっさと」
「が、タダで入れてやるつもりはない」
「……守銭奴め」
---
一連のごたごたが終わった後、レイズは会場の係員に囲まれて連れていかれた。
どうも修理費が多すぎて返済不可能だとかで体を張って返すことになったらしい。
そして俺はというと、なんともギスギスした感じでエアリーを連れてパーティー会場へ向かっている。
服はなぜかスコールが持っていたレイズの予備。
それを着ている。
青いショートヘア、男物の服。
なんとも中性的な見た目だな。
しかしだ、初日同様になんとも人が多い。
また厄介ごとに巻き込まれなければいいんだがな。
なんて思ってたら。
「なぁなぁ、そこのお兄さんがた。今俺らバイト中なんだけど協力してくんないかな?」
「人を連れていくとお金がたっくさん入る仕事なんだよね」
「ちなみに黙って身包み全部出しても連れていくし、逃げようとしても連れていくから」
「と、いう状況。分かった?」
なんていったらいいのかな、こいつら。
典型的な不良か?
………んなわけねぇだろ。
うすうす思ってたけどさ。
最初の日にミズガルドで見た奴隷市場のようなところ。
あんなもんがあるなら当然そこに商品を持っていく連中がいるってことだろ。
つまりは、連れていくなんて言ってるところからして人攫いか。
「ひっ……」
「エアリー、俺の後ろにいろ」
エアリーを背後に庇いながらさっと相手を確認する。
一様に黒い布を首に巻いているチャライ男どもだ。
見える範囲に八人程度、こんなことは結構な人数でやるはずだからもっといるだろうよ。
武器は無いようだけど、この人数。
俺一人でエアリーを守りながら勝てるのか?
「抵抗するってんなら、容赦しねぇぞ?」
人攫いたちが構える。
目についたやつに適当に解析を使ってみるが、どいつも魔法は一つ、召喚獣はなし。
やれるだけやるか。
レイズたちはどこにいるか分からないし助けは呼べないしな。
無抵抗でやられるくらいなら……。
「やってやる。あんたらみたいなのに比べたらレイズのほうがよっぽど怖ぇんだよ」
「そうか、そら残念だ。傷がつくと値が下がるが……しかたねえな」
俺たちを囲むならず者の手に魔法の光がともった。
赤色は炎、青色は水、黄色は土か? 紫色は……なんかわからん、毒ではないことを祈ろう。
「大聖堂所属、レベル6の火属性」
リーダーのようなやつが前に出て言った。
なんだ、自己紹介か?
それとも殺し合いの前には名乗りましょうっていう魔法使いの決まりか?
「所属と属性は? さっさと名乗れよ」
どういったらいいんでしょうかね。
俺は一応、組織(断じて暴力団ではない)のリーダーだが組織名は知らないし、属性も四つあるからどう言ったらいいかわからないし。
「なんだぁ? 俺らみたいなのには教える必要はないってのか?」
「あ、えーと……」
「まあいいか。売り払えばそれまでだ。……やれ」
男の号令の下一斉に魔法が放たれる。
あれ? 売り払うって言ってなかった?
これ普通だったら死ぬよ。
「消えろ!」
レイズに教えてもらった通り、飛んでくる魔法に手を向けて念じる。
手のひらから何かが飛び出すような感じがすると同時に魔法が消えうせる。
「な!? テメェ、アークか!?」
「知るか!」
殺したくはない、そしてちょうど地面には草が生えている。
俺には男を触手で……という趣味はないけど仕方ない。
「行け、触手!」
イメージ通り、突然雑草が成長してうねうねしたてらてらした気色悪い触手に変わる。
だが、まあ、ねぇ? 怪我しないだけありがたいと思ってくれないと。
「ぎゃあああああ! 気持ち悪いぃぃぃ!!」
あっという間に触手を使った逆さ吊りの完成。
新緑色の下草は今や、赤黒く脈打つほんとに気持ち悪いモノになっている。
そのうちの一本が俺にじゃれ付くように近寄ってくる。
「ひぃぃぃ……」
いや、出した俺が言うのもなんだけどさ、これは精神的大ダメージを与える生物兵器ですな。
ほら、某ウイルスで町がゾンビだらけになるやつがあったじゃん。
それに出てくるあれだよ、あの……なんか気持ち悪いやつ。
「エ、エアリーに手を出したら焼くぞ?」
軽く脅してみると、言葉が通じたのかすっと引き下がった。
……あれ? 言葉通じる?
だったら。
「全員を後ろ手に縛ってまとめろ」
命令を下すと触手たちはさっと言ったとおりにしてくれた。
だが、これだけやれば当然目立つ。
連中の仲間らしきやつらが俺たちを包囲する。
「生属性か。面白い使い方をするもんだな」
「や、やる気か?」
肩に燃え盛る真っ赤な鳥を乗せたやつが前に出てきた。
俺たちを包囲するのは、ぐるり一周囲めるほどの人数。
「行け、アヴェス。触手どもを焼き払え」
そいつの命令で燃え盛る鳥が触手に向かって飛び、少し手前で火炎に変わった。
そして、触手の叫び声が聞こえたような気がした。
……俺は某独語癖の王様じゃないからな。
「こちらとしては君たちを傷つけたくはないのだがな」
「お、俺も無抵抗で捕まる気はねえよ?」
精一杯の虚勢で抵抗する。
警備員とかはなにやってんですかね?
さっさと来なさいよぉ!!
そして野次馬諸君。
それだけの人数がいるなら助けるなり、警備員呼ぶなりしてください。
割とマジで。
「親分! こいつ、アークですぜ。魔法を消しやがった」
「アークだと? おい、小僧。レベルを教えろ」
アークってなんだ?
ノアの箱舟のことじゃないだろうし……。
ああ、支配者とかの意味のほうか。
てか答える必要あるのかね?
まあいいか。
「レベル10だ」
「ノービスじゃねえか。一応聞くがどこかの勢力のリーダーか?」
「一応は」
リーダーだ、そう言おうとしたところで包囲網の外側から声が聞こえてきた。
「ようよう、そこの兄ちゃんたち。今俺達ってバイトしてんだけどさ、協力してくんないかなぁ? 人を連れていけばいくほどお金がたんまりもらえる仕事なんだよねー」
「ついでに言っておくと、黙って金目の物全部出しても連れていくし、逃げようとしても連れていくから。分かったか?」
……この声はクロード君とさきほどのスコールではありせんか。
いや、もうこの展開はやばいでしょう。
というか今、俺とエアリーを囲んでるやつらよりも様になってるし。
「あんだぁ? 二人で何しようってんだ?」
「失せろ雑魚が」
断末魔を上げさせることなく絡んだ一人を撃沈。
「な!? おいてめえふざけんじゃねえぞ!」
「まとめてかかって来いよ」
クロードが指をくいっと動かして挑発する。
そしてそれに煽られた奴らが一斉に魔法を使おうとして、スコールが何かを呟く。
魔法は一つも出なかった。
気づけばスコールの周囲に色とりどりの球体が浮かんでいるだけだ。
「さぁーて、覚悟してもらおうか」
静まり返った場に死神の声だけが通る。
その後おこったことは俺はみていないことにするとしよう。
---
あの人攫いを攫ってどこかに行って戻ってきた悪党二人が金貨袋をたくさん持っていたことなんか全然見てないもんね。そんなこと全然知らないもんね、二人仲良く黒い笑みを浮かべて金貨を数えながら話してたとこなんて見てないもんねぇ!!
とにかく、ほんとに終わった。
厄介ごとはもうほんとに終わった。
もう何もないと信じたい。
空は満点の星空でとてもきれいだ。
空気が澄んでいる証拠だな。
辺りを見渡せば屋台が立ち並んでいい匂いが流れてきている。
アーク・パニッシュとマスターズ・リガーレの出場者は別のところでパーティー。
俺らは外の屋台で適当に食ってろだとさ。
まあ、金はある。勝手に俺が賭けたことにされていたやつの金だ。
借金の返済をして尚、ものすごい量だったがこの無限収納リュックには難なく入ってしまった。
ほんとに便利だよ。青狸の四次元なポケットくらいに便利だよ。
二つ用意したらあっちとこっちで行き来できなかな?
と、いうことはさておいて。
ぐるるるぅぅ~~。
腹が減った。
食料を漁るとしよう。
「エアリーは何か食べたいものはある?」
「お肉!」
「野菜も食べなさい!」
「え~~」
そう言われ、さっと屋台を見ると端っこのほうにケバブのようなものを売っているところがあった。
食ったことはないが、何事にも初めてはつきものだ。
「すみません、二つくだ――」
「棒ごとください!」
「はぁっ!?」
いやいや、エアリーさん。それは食べきれないからね。
「金貨四十枚だ。兄ちゃんたち食い切れるのかい? 残したら承知しないよ」
「いや、あんたもそれ売っていいの?」
「なーに、まだまだあるからな」
ということで俺はケバブ棒(およそ三十キログラム)を購入した。
ナイフとフォークもおまけで二本ずつもらった。
たしか……名前の無い誰かさんが振り回してたような気が。
まあそんなことはさておいて。
外れのほうにある、人気のないベンチに座って食事といこう。
切り分けて一切れ口に運ぶ。
「う、うまい!」
思っていたよりも柔らかくて、ピリッと香辛料が効いている。
そして溢れ出す肉汁。買ったかいがあったな。
だがな、棒の重さを除いておよそ二十キロだぞ、食切る自信がない。
少し手を止めて眺める。
これってリュックの中に入れることはできるか?
いや、入れたらほかのものに臭いが移るしべたべたになるだろうな。
「ん? アキト、食べないの?」
「ああいや、食べるよ。でもさ、これだけの量食べ切れるのかな……!?」
ちょっと待って。エアリーのほうを見ればすでに一割ほどなくなっている。
食べるペース早くないっすか!?
「全部食べ切れる?」
「うん!」
とほほ……。こいつの胃袋はブラックホールか?
にしても白飯が欲しくなるな。
そう思って再び屋台のほうに目を向けるが、どこにも米を扱っているところはなさそうだ。
諦めて視線を前に戻すと、離れたところ。薄暗闇の中に光る眼の白いものが見えた。
なんだ?
直接見に行くより解析を使ったほうが早い。
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なんだ!なんだ!!なんだよ!!
めっちゃやばそうなのが来てんじゃん!!
「エアリー! 逃げるぞ!!」
「えっ?」
立ち上がってエアリーの手を取った瞬間、俺の体にそれは伸し掛かってきた。




