アワード
歩き続け早くも4時間。
正直、引き籠もりな俺にとっては部屋の中を移動するのですら億劫。
4時間も歩き続けりゃ足が痛くなるさ。
しかも裸足で!
さっきまで草が生えてて少しは歩きやすかったけど、
いまはもう土と石ばっかりの地面ですからね。
ぐぎゅるるるるる~。
うむ、それにしても腹が減った。
本来なら昼にカレーを食うはずだったのだ。
なのに!
なにあの爆発的なもの!?
御蔭で俺は昼飯抜きでこんな世界に飛ばされてんですよ!!
何か食えそうなものは……。
辺りを見回しても特に何も……いたよ、ニワトリのようなものが。
尾っぽが赤いけどニワトリはニワトリ。
捕まえて食おう!
大丈夫さ、ここは現実だ……多分。
誰かの伝説みたいに攻撃したら、
どこからか大量のニワトリが来て襲われるってことはないだろう。
ないはずだと思いたい!
いやだよあれ、どこへ逃げても、
どれだけ逃げてもしつこく追いかけてくるのって。
さて、善は急げだ。あいつにとっては悪だろうがな。
助走をつけ、飛び掛かる。
「俺のメェェェシィィィィーーーーーー」
スッ……ドサァァァ。
ニワトリって結構俊敏なんですね。
顔がえらいことになりましたよ。
「こんのぉぉぉぉおおおおーーーー!!」
今度は猛獣のような構えから一気に飛びかかる。
サッ! ……ドシャァァァッ。
なんだ?
今このニワトリがサイドステップしたように見えたぞ。
はははは。
そんなわけあるまい。
ニワトリだぞ。
「コケーーーーー」
グサッ!
うん、これは間違いない。
今、ニワトリが俺の顔に跳び蹴りをしてきた。
「ンギャァァァァァーーーーー」
やめてぇぇぇ! そのまま嘴で突かないで!!
俺が悪かった、もう君は襲わない!!
俺の負けだ。
そんな思いが通じたのかニワトリは突くのをやめてくれた。
そして、
「コッケコッコーーーーーーーー!!!」
勝者の雄たけびのように一鳴きした。
むかつくな、ニワトリのくせに。
グサッ!
爪がさらにめり込んできた。
分かりました、俺の負けです。
完敗です。
そうして今日も平和にニワトリは歩いて行くのであった。
後に残された俺の頭の中には声が響いた。
『アワード、鶏に負けた人間を獲得しました』
「いらねぇぇぇー!! そんな称号いらねぇよ!!」
いや、もういいよ。
どうせ、こういう称号的なものって外れないんでしょ。
引き籠もりの方がもっとひどいだろうし、マシかな。
『アワード、自他共に認める引き籠もりを獲得しました』
……なんだろうね、虚しいね。
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俺、現在某FPSでみた第五匍匐前進を真似ています。
ぐるるるるる~。
腹の虫が獣の如き唸り声を上げている。
だが、今は吠えないでくれ。
それどころじゃないんだ。
50mくらい後ろに明らかにやばい連中がいるんだよ。
見た感じまんま山賊な格好だったんだよ。
13人いて、うち2人は蹲っていたけど。
片方は男の大事なところを抑えて……いや、あそこが潰れていたと思う。
なにがあったかは知らんがご愁傷様です。
もう片方は見るからに顔が真っ青だった。
後ろ手に縛られて、鞭で叩かれた様な跡があった。
ついさっきまで拷問されていたような感じだった。
こっちもご愁傷様です。
いやいや、やつらの事を考えてる場合じゃない。
ゆっくりとこっちに向かって来てる。
今から起き上がったら一発でアウトー。
見つかったら逃げ切る自信がない。
起き上がらなくても見つかるけど少しは時間稼ぎができる。
さて、どうしようか。
スケさんの剣があるけど1人じゃ勝てる訳ない。
ちらりと後ろを見る。
山賊がこっちに来てるよ!!
おえぇ……、さっきのスプラッタを思い出した……。
いっそまた潰して吐くか?
死ぬよりましだろう。
うん、そうしよう。
俺は山賊たちの上あたりに右手を向けた。
「バハムート、潰してしまいなさい」
山賊たちの頭上に巨大な魔方陣が出現した。
それと同時に、鐘が鳴った。
ゴーンゴーン、ゴーンゴーン。
『競技開始』
ゲーム?そういやそんなことが魔導書に書いてあったな。
「うわっ!?」
そして、気付けば俺の前に半透明の青いパネルがあった。
パネルにはこんなことが書いてあった。
『あなたは当選しました以下の条件を満たして下さい。 他のプレイヤーを3人倒す』
はい?
ドスン!! ベチャ……。
気を取られている間に後ろの山賊たちにバハムートが落下した。
『条件の達成を確認。競技達成』
はいいいいいい!?
え?
なに?
これでもういいの?
タイミング良すぎじゃね!!
起き上がって小躍りしたよ。
やったよ!
これで帰れるよ!
そして、後ろを見てしまった。
おげぇぇぇぇ……。
吐くものがないときは胃酸がそのまま出るらしい。
喉が焼けるように痛いです。
少しして落ち着いたので彼らに手を合わせておく。
怨念とか信じないけど、怖いじゃん。
それにしてもなぁ……これぞ血の海だな。
『アワード、殺戮者を獲得しました。
アワード、血に飢えた獣を獲得しました
アワード、マルチキルx10を獲得しました』
そういう称号はいらないんですが。
俺はまだ猟奇殺人なんて……ああ、いまやったか。
いやでも、誰かさんみたいにプレス機に投げ込んでないだけ……。
………同じですねぇ、バハムートでプレスしちゃったねぇ。
結構、後ろめたいことを思っていると、
また半透明の青いパネルが出てきた。
『「復活」or「ここに残る」』
どちらを選ぶか。
考えるまでもない。
「復活」に決まってんだろ!
俺は「復活」を選んだ。
そして…………。
…………………。
はい?
なんで?
何も起きないの?
え? え?
ゲームクリアで戻れるんじゃないの!?
「はぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!?」
ちょっと1人にさせて……ああ、誰もいないんだった。
体育座りになって、膝に顔を埋めて、目を閉じた。