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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第3章 辺境へ
34/94

偽りの平穏

「ん、ふあぁ~~」


 よく寝た。

 よく寝たが頭がガンガンに痛い。

 体も痛い。

 特に足腰がかなり激しい運動した後のように痛い。

 昨日のバカ騒ぎの影響だな。

 酒は飲んでないからそっちの影響はないだろう。

 目を開けて天井を見れ――


「はぁっ!?」                    

    

 クロードが天井で寝てる。

 文字通り天井で寝てるんだよ。

 ハンモックを天井すれすれに張ってるとか忍者みたいに縛りつけてるとかじゃなくて、

 まるで天井が床ですと言わんばかりの感じで寝てる。

 そこにコウモリのようにハーピーがぶら下がってる。

 ……いや、重力使いだからその辺はいいか。

 でもなんで天井で――


「うぉっ!?」


 右手になにかとても柔らかい温かい感触が!ちょっと残念な大きさだけど。

 長い白髪はしっとり濡れていて、なんかべつの白いべっちょりとした粘ついた液体が付いてる。棒から出る例の液体じゃねえよ。

 そして素っ裸!の状態のレイズが寝てました。

 俺はやってない!昨日は濃厚ピンクな展開はなにもやってない!

 まだ魔法使いになるための証は残っている。


 思い出せ、昨日の記憶を引きずり出せ!

 シナプス結合はまだ解けていない。

 そうだ確かクロードに負債のことを言われそうになった瞬間に屋根が崩れたんだ。

 シャンパンファイトをしていた下のアホどもが遊び半分で白いドロドロしたお酒をぶっかけて、

 それでブチ切れたレイズが魔法使って、俺が巻き添え食らってクロードとハーピーは食べ物とって天井に避難して……。

 なんでこうなった?


「ん……」


 やばい、レイズが起きてしまう。

 もしもだぞ、もしもレイズが昨日のことを覚えてなくて状況証拠だけで判断されてみろ。

 俺の体は愚か存在そのものを消されるんじゃないか?

 よし、ここは戦略的撤退だ。生存のための聖戦ジハードだ。

 冷や汗を全身の汗腺からダラダラ流しながら動く。

 ナメクジみたいに音を立てず、且つゆっくりと。

 ゆっくりゆっくり体を起こしたら次は足を曲げる。


「よし……」


 体育座りのような恰好から立ち上がる。

 これで、これで何もなければいい。

 音を立てないように、足をそっと上げる。

 音を立てないように、足をつま先から静かにおろして。

 気づかれないように、そっと歩く。

 酒場のドアに手をかけて……ここで爆弾!

 ドアの上にあるベルが邪魔だ。

 窓から出よう。


「は、ははははは、生きてる……俺生きてる」


 危険地帯から安全地帯にでたぞ。

 ああ、いい朝だ。太陽の光が俺の生存を祝福している。


「きゃあああああ!!」


 なんだ?

 女性の叫び声が聞こえてきたぞ。

 そんなことを思って声がした方を見た。


「逃がすな!殺してでもひっ捕らえろ!」

「止まれぇぇ!止まらんと撃つぞ!」

「もう撃っちまえ、あの変態は殺していい」

「ぬはははは!早朝のランニングは気持ちいいですなぁー」


 俺はなにも見ていない。

 何もなかったんだ。

 ああ、いい朝だな。

 全裸でシルクハット被った変態なんてこんなとこにいるわけ……。


「やあ、少年!久しぶりだな」

「とりあえず服だけでいいから着ろ!」

「絶対ブタ箱行きにしてやる!」

「もう撃てよ」


 全裸の変態と赤い軍服を着た兵士たちは俺の前を走り抜けていった。

 ちょっと解析してみようか。


『未確認生物』……人間亜種、進化したのか退化したのか分からないが、並みの者ではその体に攻撃をあてることは不可能


 えーと、魔物とか道具を解析したときと同じ表示ってことは人間として見られてないってことですね。

 さて、後ろに行くか右に行くか左に行くか。

 後ろはデンジャーゾーン。左は変態が走って行った。よって右だな。


---


 久しぶりだ。

 頭の上に何もないこの軽さと感覚。

 これぞ人間のあるべき姿だろう。

 いままでニワトリに乗られて、植物に寄生されて、ロリにパイルダーオン。

 ああ、何もない。平和だねぇ、ずっと戦い続きだったしさ。


「お前、霧崎アキトか?」


 誰もいない廃墟を歩いていると後ろから話しかけられた。


「そうだけど」


 振り向くとそいつはいた。

 俺の印象としては不愛想、無表情。

 そんなやつだ。


「なんでここにいる?お前は死んだはずだぞ」

「は?何言ってんの?」

「お前はどの”世界”でも引き籠もりになって灼熱の聖誕祭で死んでいるはずだ」

「何言ってんだよ、俺は生きているし、なんだよ灼熱の聖誕祭って?」


 すると相手は黙り込んでしまった。

 なんだよこいつ、いきなり俺は死んだはずとか言いやがって。


「そうか……クロードの運命が変わったせいで……そうか、そういう方向もあるか」

「なんだよ?」

「いや、何でもない、”こっち”の話だ。悪かったな時間とらせて」


 そいつは俺の横を通り過ぎて、どこかへ行こうとした。


「待てよ」


 気づけば呼び止めていた。

 振り返る。

 そいつは至極面倒くさそうな顔をしていた。


「なんだ?第三世代のアキト」

「はぁ?」

「……もしかしてブレインチップがいかれてるのか?」

「なんのことだよ」

「お前、記憶喪失だな」

「そうだけど…」


 よく分からん。大前提の主語がない会話だな。

 もしくは俺の抜け落ちた記憶の中にあるのか。


「つーか、お前名前は?俺だけ知られてるのはいやなんだけど」

「名前?名前か、もう一度教えてやる、スコールだ」


 スコール、熱帯雨林の雨か?

 それとも壁とでも話してろの人なのか。

 そして”もう一度”とはどういうことだ? 


「ところで、お前は青い髪の女の子を見なかったか?」

「いや見てない」

「じゃあ、白い髪の乱暴な言葉づかいの女は?」

「白……レイズのことか?」

「そうだ。どこにいる?」

「まだ酒場にいると思うけど」


 そう言って酒場のほうを指さそうと向いたらレイズがいた。

 ちょうどこっちに向かってきている。


「なんでここにいる?」


 かなり怖い声だった。

 まるでここに来られると困るというような感じの。


「いやー、レイアにな」

「お前もかよ……」


 今度はかなり呆れた声だ。

 そういえばクロードもレイアがどうのこうの言ってたな。


「送り返してくれ」

「ちょっと待てよ」


 レイズがスコールに近寄ってまじまじと見始めた。


「う~ん、これは……無理だな」

「ワンモア」

「送り返せないって」


 おや?このパターンは……。


「ワンスアゲイン」

「だーかーらー、送り返せない」


 スコールは崩れ落ちなかった。

 クロードより精神的には強いな。


「じゃあ、原初の世界に送ってくれ。あそこなら」

「送ることもできない」

「なぜに!?」

「お前の構成情報がほとんどない。本来なら存在することすらできないほどに空だ」

「………じゃ、せめて中継界に入らせてくれ、歩いて帰る」


 レイズが手を上げた。

 真っ白な光が虚空から溶け出すように溢れて、そしてパチッと弾けるように消え去った。


「ダメだな」


 スコールは項垂れた。

 崩れ落ちはしなかったけど、項垂れた。


「まあ、そんな落ち込むな。後で入れるようにしとくから」

「いつ頃になる?」

「そうさな……闘技大会が終わるころだな」

「しゃーないか、だったら暇つぶしにエントリーするかな」


 呑気に言い放つとスコールは小さな声で何か呟いて姿を消した。

 銀色の光が舞ってるってことは空間魔法だな。


「さて、アキト。酒場での一件だが…」


 やばい、殺される。

 冷汗がだらだら流れ始めた。


「お前のお蔭で昨日は早く片付いた。だから不祥事についてはとくに言わない」


 ほっ。

 でも何があったのかは聞いておかなければ。


「いったい何があったんでせうか?」

「なんだ?覚えてないのか。お前とオレでバカ騒ぎした連中全員沈めただろうが」


 ん?全員?確かあそこにはウィリスとかフェネとか他に臙脂色の軍服四百人くらいとかいたはずだぞ。

 それを二人でやっちゃった?


「足裏に爆発を起こして高速移動ってのは凄いな。反作用を打ち消せるだけの技量がないと自分の足がはじけ飛ぶのによく使えたな」

「へ、へぇー」


 俺ってそんなもん普通に使っちゃってたのね。


「それに三つの属性を同時に使えるってのも、オレみたいなのを除くとそういうのってほとんどいないからな。それから―――」


---閑話休題それはおいといて


 最初の褒めはすぐに終わって、そのあとはここが無駄だのあれがダメだのと、かなりのお説教&魔法のレクチャーを受けた。


「ほら、やってみろ」


 さっき言われた通り、俺の手に炎の剣を出す。

 教えてもらった魔法剣というもの。

 これ実はレイズも使わない超危険な魔法らしい。

 なんでも、自分の手と剣の間にほんのちょっとの隙間を開けて魔法をイメージし続ける必要があって、うっかり触ろうもんなら自分の腕を炭に変えるとか…。

 で、なんでそれを俺が扱えるかというと、正直よくわかりません。

「爆発ダッシュができるならやってみ?もし燃えたらすぐに治してやるから」

 と、言われて、やりたくなかったけどなんか怖い笑顔だったのでやらざるを得なかった訳ですね。


「よし、次は氷だ」


 炎の剣を消して氷の剣をイメージする。

 これも同様にうっかり触ろうもんなら腕の細胞を凍結、死滅させるという……。

 そして剣なら棒のイメージでもいいんじゃないかと思って棒のイメージでやったら簡単にポキッといってしまう。

 原理がよくわからないな。


「なあいつまでやればいいんだ?」

「これで仕舞いだ。よくやった明日から本格的に教えてやろう」

「なんで?俺はもっとこう普通の生活を」


 したいのに、そう言おうとしたが遮られた。


「お前には闘技大会に出てもらう。拒否権はない」

「……じゃ、せめて理由を」


 いきなり何!?

 なんでそんな話が出てくるの!


「てめーの借金返済をいつまでも待つのは御免だからな。優勝賞品の進化の珠でチャラにしてやる」


 ああそういう。


「それでだ、大会まで時間がない。たった三日だ」

「ほんとにねえな!」

闘技場アリーナはヴァルハラ宮殿だ、移動は転移魔法でやるから考えなくていい。ということで簡単にルール説明と訓練をする」


 嫌だぜ、勉強も鍛錬も……。


---


 大会参加規程

 大会には以下五つのリーグがあり、各リーグごとのルールに従うものとする


 ニュービーズ・インパクト

 条件

 ・2人以上5人以下のチームであること

 ・魔法レベルが10以下であること(複数使用できる者は最もレベルの高いもので判断)


 ノービス・ブレイク

 条件

 ・2人以上3人以下のチームであること

 ・魔法レベルが20以下であること(複数使用できる者は最もレベルの高いもので判断)


 アーク・パニッシュ

 条件

 ・2人以下のチームまたは個人であること

 ・武具の使用に制限あり

 ・指定した道具以外の持ち込みを禁止する

 ・召喚獣は原則3体までとする

 ・魔法レベルが30以下であること(複数使用できる者は最もレベルの高いもので判断)


 マスターズ・リガーレ

 条件

 ・個人出場のみとする

 ・武具の持ち込みを禁止する

 ・道具の持ち込みを禁止する

 ・召喚獣は原則1体までとする

 ・試合は異位相空間内にて行うものとする


 クラン・リーグ

 条件

 ・1チーム10人以下で1勢力クランにつき3チーム参加可能

 ・試合は異位相空間内にて行うものとする


 以下禁止事項と注意事項                     

 ・相手選手の殺傷及び精神的後遺症の残る行為は禁止する      

 ・フィールドの修復不能な過度の破壊は禁止する        

 ・相手選手の素性を調べることを禁止する          

 ・試合中にフィールド外に出た場合はいかなる理由においても失格とする

 ・異位相空間内では、棄権する場合は自らのタグを破壊すること    

アキト君の(死の)ハーレム入りは5章くらいに予定しております。

と言っても死にはしませんよ、死には。

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