遭遇戦 白の欲望
「どこだよここ……」
「どこだろうなぁ……」
俺たちは現在だだっ広い平原の崖っぷちに居る。
辺りを見回せば虹色の欠片と、クロードに引き摺り落とされた可哀想な飛行生物たちの死骸がある。
さらに向こう側ではデカい火柱が上がったりしている。
これは多分戦争でもやってるんだろうと思う。
近づきたくはないな。
「あ?」
「どうしたクロード?」
「あいつが……ちょっと待ってろ」
言うなりクロードは超高速で草地の上を滑って行った。
なんだ、重力操作って便利だな。
……残された俺はどうしろと?
「…………」
待ってろ言われた手前、動き回ることはできないしなぁ……。
暇すぎるので虹色の欠片を調べてみることにした。
しゃがんで片手に欠片を拾う。
『ビフレストの欠片』……遥か昔、神界戦争の折にレイズが叩き壊した
……ほんと、何やってんすかね?
立ち上がって欠片を投げ捨てる。
「ああ、暇だよ。俺は待つことが苦手なんだよ」
なんてことを言って一歩踏み出した。
バキッ!
ナンダロウナ? ナンカキイタコトアルゾ?
ギチギチと音がしそうな感じで顔を下に向けると例によって例のごとく骨があった。
しかもそれは人の骨、スケさん、今はお呼びじゃないんだ。
出てこないでいいよ。
「出てこないでいいって!」
そんなことを思って言って、骨はひとりでに組みあがってスケルトンを形作る。
もうスライディング土下座もしない。
無駄だってわかってるからな。
速攻で終わらせてやる。
杖を構えて、水のレーザーをイメージする。
やりすぎだ? そんなことは分かってらあ。
「吹き飛べ!」
水のレーザーが正面方向の地面を抉る。
水のくせにキュィィィンって音出るんだもん。これは怖い。
ついでに戦争してるっぽいほうに飛んでいったけど……まあいいか。
と、思っていたら。
「それはないよね?」
さっきのスケルトンを吹き飛ばしたのを合図に次々とスケさんが出現し始めた。
さらに黒い光が集まって剣やら弓やら杖を構え始める。
なんだよ、最初と同じじゃないかよ。
でも、今は魔法がある。負けはしない…多分。
カタカタと音をたててスケルトンが迫る。
ちと怖いがもうあの時みたいにやられはしない。
それに今度は負けられない。
頭上のハーピーのために。
「らぁぁぁ!」
杖の先から大分威力を落とした水のレーザーを放つ。
それを横一閃。
それだけで射線上のスケルトンは一気に崩れ落ちる。
だがそれでも次々にスケルトンが組みあがり、倒す量より出てくる量のほうが多く、徐々に押され始める。
「うおっと!?」
横合いから突き出された剣を避け、足元に突き刺さった矢でバランスを崩す。
まずい!
剣が振り下ろされる。
俺は咄嗟に左腕を顔の前に出した。
ドスッ!
「ぐっ!」
腕が焼けるように熱い。
剣が離され、血が流れ落ちるなか肉のついていない骨だけの足が俺を地面に倒す。
「くそっ」
右手を向け、魔法を放とうとした。
その瞬間、黒い光が飛んできて俺の魔法が消される。
飛んできたほうを見れば杖を持ったスケルトンがカタカタと笑っていた。
『ウィザースケルトン』
ウィザー? 衰えさせるか?
某砦に燃えているあいつと一緒に出るヤツではないしな。
…ってそんなこと考えてる場合じゃねえよ。
「がぁっ!」
今度は剣が右腕に突き刺さる。
回復魔法を使おうとしたがまたも同じように消される。
万事休す。
諦めたくない、でもできることがない。
「ごふっ……」
腹に別のスケルトンが剣を突き立てた。
くそ……こんなとこで死ねるかよ。
体から力が失われていく中、緩やかな風がふわぁーと吹いた。
あれ?これ前にも……。
ガラガラと音をたてて一斉にスケルトンが崩れ落ちた。
顔を動かせば、そこには例の堕天使が立っていた。
ゆっくりと俺に近づいてきて傷口に触れる。
そして激痛が走り、俺の意識は落ちた。
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ビフレスト跡地近辺。
薄暗い天候の下、空間が歪んで彼らは出現した。
「見つけた」
「確実に罠だぞ」
「そんなことわかってる」
「でもやるのか?」
「やる。倒すことが勝利じゃない。あいつを助けて逃げれば勝ちだから」
「なるほど……まともにやりあったら俺らが死ぬもんな」
そんな会話をしながら2人は悠然と戦場を歩く。
あちらこちらで爆発が起こり、召喚獣が食い合い、怒号と悲鳴が響く。
教会、大聖堂、聖人、悪人、紅龍、アルクノア。
多数の勢力が入り混じった戦場の中心に異質な者がいる。
白い髪に赤い瞳の男。
そしてその足元に、長い白髪に赤い瞳の女性が後ろ手に縛られて座らされている。
その座らされている女性を助けるために、罠と分っていながら2人は戦場を歩く。
「しかしだ、お前がここに送られるのは珍しいな」
「と言うか、これはあっちゃいけない」
「まあそうだな。管理者が強制転移なんて洒落にならんからな」
「つくづくあの堕天使は……いや今回ばかりは許そうか。死に際にあなただけは生きなさいとか言って……ついでにまた変な魔法かけるし!」
「そういや、中継界を作り直したらどうだ? タイムラグがひどすぎるぞ」
「めんどくせえ……まあ今度やっとくよ」
どこかから飛来した火炎を片手で払いながら青年は小さな声で詠唱する。
地面の血溜まりから水分だけが浮かび上がり、細い糸になって先ほどの術者へと飛んでいった。
「相も変わらず詠唱するか」
「無詠唱も出来るが……ま、このほうが楽だからな」
「そうか、よ!」
もう片方、白い髪の少女は詠唱はせずに踵を打ち付ける。
すると、数十メートル先のヴィランズの兵士たちが空高く打ち上げられた。
頂点まで達すると重力に引っ張られて地面に落下、そのまま動かなくなる。
「あまりうちの駒を潰さないでくれよ」
「そうは言ってもだな、最近勢力バランスが崩れているだろ? だから調整だ」
「ああ、そうですかい。いつまでこれを続けりゃいいんだか」
「いずれ来る決戦までだな」
向かってくる魔法や召喚獣を物ともせず、やがて2人は目的のモノを視界にいれた。
「さぁて、どうする?」
「突っ込む。その間に頼む」
「そりゃダメだろ。捕まった場合のリスクがでかすぎる」
「じゃあお前が囮になるか?」
「俺の場合は瞬殺決定……さっきの案で行こう」
「よし。一応障壁は展開しておけ」
青年が詠唱を始め、珍しく白い少女も詠唱をする。
「精神障壁」
「境界性魂守」
青年の周りにはうっすらと桃色の膜が張り巡らされ、少女の周りには、はっきりと形の認識できる桃色の砦が形成された。
「わーお、さすがマスタークラス」
「魔法じゃどんだけレベルが高くても意味がない。あのやろうには魔術じゃないとな」
「だったらなんで魔法を……」
「これで周りの雑魚の攻撃をを無視するためだ。それに魔術でも、ヤツの攻撃は当たれば終わりだ」
少女が手で指示を出すと同時に、2人は分かれて駆け出した。
青年はさらに魔法を使い、気配と姿を完全に消す。
一方少女は真っ白な鬼火を複数召喚し、一直線に突き進む。
途中、様々な方向から魔法が撃ち込まれるが”砦”に当たり消え失せる。
「うまくやってくれよ……」
鬼火が一際強く光ると少女は天使の翼を模し、外側に刃のついた双剣をその手に召喚し飛び上がった。
その剣は大切な人から託された魔法の籠められた剣。
羽の1つ1つが強力な魔法を内包し、念じることで魔法を行使できる。
鬼火が先行し、激しい閃光を撒き散らす。
男が顔を覆うと同時に少女はそれ目掛け、剣先を向けて落ちた。
「罠と知りつつ来るか」
後少しで刃が届く瞬間、不可視の障壁にぶつかり、弾き飛ばされる。
空中で器用に体制を整え、着地。
すぐさま残りの鬼火をぶつけ、障壁を破壊。
そのまま正面から斬りかかる。
「無駄だ」
しかし剣を素手で弾かれ、体制を崩す。
別段相手の皮膚が強固なわけではなく相対座標ゼロでまたも展開された障壁に防がれただけだ。
「あんたはいつまで昇華せし者の力を狙うんだ!」
男の真後ろから、姿を隠していた青年が散弾のように飛び散る魔法を撃ち出す。
回避のために男が身を捻り、青年はさらに魔法を使う。
金色と銀色の混じった燐光が舞い散る。
次の瞬間、縛られていた女性が青年のすぐそばに転移していた。
「ぬっ……」
「余所見してる暇はねえぞ!」
青年に対し魔術を放とうとした男に、少女が再び斬りかかった。
今度は魔術を併用した空間切断も同時に放つ。
「姑息な…」
「一瞬で十分なんだよ!」
すでに見渡せる範囲に青年と女性の姿は無く、銀色の燐光が残滓として残っているだけだった。




