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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第2章 冒険
29/94

脱出

長らくお待たせしました。

今日からまた不定期更新で書き始めていきます。

それと文字サイズと背景、カラーコードを変えてみましたがどうでしょう?

 この日、俺は自分の才能に絶望した。


 コスプレの衣装上下、ブラジャー、ショーツ、ニーハイソックス、ブーツ。

 穴の開いた鉄鍋、ゴム長靴、汚れたリュックサック、よく分からない杖、投げナイフがたくさん入った袋、エトセトラ、エトセトラ。


 魚釣りに来たはずなのにゴミばかりが釣れる。

 隣の師匠はもうバケツ一杯の魚を釣り上げているというのに。


「あー、もう」


 竿を横に置いて一服。景色を眺める。

 水面に魚の影が映って、魚が跳ねている。

 魚はたくさんいる。だというのに俺は一匹も釣り上げることができていない。


 あーいい天気だ。もう食料は澱粉焼きでいいか。

 朝飯にと持ってきた澱粉焼きをもそもそと食べながら湖を眺める。

 きゃっきゃ言いながらさっきまですぐそこの浅瀬で水遊びをしていたはずのハーピーはいつの間にか結構遠くまで行っていた。

 そしてその後ろから黒い影、恐らくは魚が接近している。


 どうせ魚なら逃げるだ……ちょっと待て。

 さっき師匠のバケツには()()()()のようなものが沢山入ってなかったか?


「逃げろハーピィィィーーーー!!」


 叫ぶが水遊びに夢中になっているようで気づいてくれない。

 不味い、不味いぞ!

 俺は咄嗟に湖に入って、ばっしゃばっしゃと水飛沫を上げながらハーピーのもとへ急ぐ。

 だがこれじゃ間に合わない。


 そして、水面に鋭い牙をもつ魚が飛び出す。


「ハーピィィィィーーーー!!」


 きらりと光る鋭くとがったものがその小さな頭に突き刺さり、白い体を赤く染める。


「あ……」


 血に塗れたハーピーは、その小さくも鋭い鉤爪で肉食魚の脳天を突き刺し、文字通り鷲掴みにして俺のほうに飛んできた。

 なんだろう、この子は俺よりもよっぽど頼りになるのではないだろうか。


 そして俺の頭の上に着地すると魚に噛み付いた。


「こら!」「ダメですぞ」


 俺はピラニアを取り上げた。

 まったく。寄生虫とか変な菌とかいたらどうするんだ……。

 いや、俺が治すけどね。



---



 そして昼飯。

 メニューはピラニアの刺身と姿焼き。

 調理は師匠こと変態紳士。

 俺は教えてもらいながら殺菌。

 どうも魔法の原理が分からん。

 過剰な治癒力は生物を殺す、ということで寄生虫やら雑菌やらをまとめて退治した。


 それにしてもだ「生属性とは、これまた珍しい」と師匠に言われた。

 そういえばキニアスも「人数が一番少ない」って言ってたな。

 魔法ってどうやって得ているんだろうか?

 その方法に難易度とかがあって取得している人数に偏りがあるのか?


「できましたぞ」


 お、よし、今は飯だ。

 悪いなクロード、俺はまともなものが食えそうなんでお前のことは忘れることにするよ。


 まずは刺身だ。


「ワサビとショウユはないのか?」

「なんですかな、それは?」

「いや、なんでもない」


 なんだ、この世界には刺身のお供がいないのか。

 まあいい、食うぞ。


「どうですかな?」

「……………」


 こ、これは!


「うまい!」


 刺身にしているときになぜかザクッザクッと音が聞こえていたが、薄く切ってあるからなのか小骨がいい触感を出している!

 さらに甘みがある。これが素材本来の旨味。

 ああ……わさびと醤油は邪道だったのか……。


 次は姿焼きだ。


「レモンはないか?」

「ありませんな」

「そうか」


 まあいい。まずは一口。

 これも美味い!

 川魚特有のクセがあるけど美味い! 味は……そうだな、鯛のような感じかな?

 しかしだ、同じ所に生息しているのにあの水龍の不味さとは比べ物にならんな。


「なあ、水龍をおいしく食う方法ってあるのか?」

「ドラゴンですか……。うーむ……『鋼の美食者』の方々にでもお聞きすれば分かるかと」

「何?そいつら」

「『ありとあらゆるモンスターをおいしく食べよう』という名目のもとに集った、まあ変態の集まりですな」

「……あんたも変態じゃないのか?」

「なんと! 私は生まれたままの美しさをおぐぅ!」

「もう黙ってろ」


 邪なことを吐き出す口に焼ピラニアで栓をして食事を続けた。



「げふっ」


 食いすぎた。

 久しぶりのまともな食べ物だったもんでついつい手が動いて口に押し込んでしまった。


「けふっ」


 どうやらハーピーも満足しているようだ。

 とくにこやつは刺身のほうをよく食べた。


「全能の主よ、感謝のうちにこの食事を終わります。命のいつくしみを忘れず、すべての人のろしゅむぐぅ!」

「何だ最後の締めは!?」

「食後の祈りであーる」

「…………」


 よっし、今なにもなかった。

 食後すぐの運動は嫌だから釣り上げたものを鑑定しようか。


『穴の開いた鉄鍋』……穴が開いて使えなくなった鍋。一応兜にはなる

『ゴム長靴』……釣りの定番。誰が落したかは分からない

『無限収納のリュックサック』……生き物以外、無限に物を収納できる。収納した物の重さは感じない。念じれば収納物をリスト化して表示でき、取り出すことも同様に出来る。作・レイズ

『ディース・ノルンの杖』……泉の管理者たる者の杖。遥か昔の神界戦争の折にレイズが掻っ攫ったもの。水属性の魔法を強化する

『トラクト・ダガー』……遥か昔の神界戦争の折にレイズが掻っ攫ったもの。所有者の意思によってどこに投げても戻ってくる


 おかしい。

 性能がおかしいぞ!?

 レイズはなんて物を盗んでんだ!?

 ってかそれだけ生きてるのかよ!

 しかもなんでこんなところに沈んでいるんだ!


「まあ……すごいけど俺に使いこなせそうなのはリュックだけだな」


 とりあえず残りのゴミ以外をまとめて入れとくか。

 ナイフはクロードにでもやろう。

 そしてレイズにあったら聞いてみようか。


 それにしてもあの杖……使ってみたいな。

 先端に青色の石がついてて如何にも魔法使いの杖って感じじゃん。

 まあ、過ぎた力は身を滅ぼすと言うが。



---



 焼き魚をリュックにしまい、変態紳士に別れを告げて帰り始める。

 時刻は昼過ぎ。

 食料はそれなりにゲットした。

 これなら数日は持つな。

 でも今度は魚ばっかりか……。


 印を辿って自作の砦に近づいてきた。

 とてつもなく騒がしい。

 爆発音とかバリィィンってガラスの割れるような音とか聞こえてきだした。

 おいおい、クロードさんよぉ、何やってんすかねぇ?


 茂みの陰からようすを見るとあらまあ、俺が超苦労して開けた穴がきれいに塞がっているではありませんか。

 そしてあの明らかに中毒者な顔つきの連中は……?


「逝ねやぁぁ!」

「黙ってろヤク中どもが!」


 バゴッ!とくぐもった音を立てて人が宙を舞う。

 クロードが蹴り上げた1人が俺のすぐ横に墜落する。

 こんな顔、どっかで見たような……。

 …………。

 あ! イザヴェルで戦ったチャーチとかいうやつじゃん。


 にしても数が多いな。

 にの、しの、ろの、やの、パガンッ!

 ああもう! 数えてる時に地面を吹き飛ばすなよ。

 もう1回。

 にー、しー、ろー、ボゴンッ!

 だーかーらー、数える時に……。

 なんだあれ? ゴーレムか?


「うぉらぁぁ!」

「いい加減にしつけぇんだよ!」


 クロードが煉瓦ブロックで作ったような人形ゴーレムを浮き上がらせて遥か彼方に蹴り飛ばす。

 でもそれを皮切りに次々とゴーレムが地面から出てくる。

 ちょっとこれはまずくないか?

 クロードでもこれは危ないだろう。


 リュックから例の杖を取り出す。

 試すにはいい機会だと思う。

 的はたくさんあるからな。


 それにゲームや漫画で属性的に地面や土は水が弱点だろ?

 というわけで杖の先端を一番近いゴーレムに向ける。

 イメージは拳くらいの水弾。速度は秒速100メートル。真っ直ぐ飛ぶ。

 これならどれほど強化されるのか確かめやすいと思う。


 そんなことを思っていると杖の先端から水弾が撃ち出された。

 ちょっと予想外だぞこれ……。


 ヒュッドゴォォオオオオン!!


 てっきり、ちょっと大きく、ちょっと速くなるだろうと思っていた。

 だがそれは音から分かる通り、杖先から一閃。

 一瞬きらりと光ると射線上のすべてのターゲットを貫通して、ユグドラシルの壁 に人が通れるほどのきれいな丸穴を穿った。

 クロードに当たりかけたけど別にいいよね!


「やべぇ……これは危険すぎる……!」


 これはウォーターカッターだな。鉄板すら余裕で切り裂くあれだな。

 研磨剤でも一緒に飛ばしてアブレシブジェットでもやってみようか。

 いや、やらねえよ?


「「「……………」」」

「………なんでせうか?」


 チャーチもクロードもみんな無言で俺を見てくる。

 こういう空気いやだからやめて……お願い。


「おい、テメェら。逃げるなら今だぞ」


 クロードが静かに言い放つと、チャーチの連中が全員一斉に顔を真っ青にして回れ右。

 そのまましずかーに穴から出ていった。

 残された俺は。


「…………」

「すんませんしたぁぁぁ!!」


 その後の無言の圧力が超怖いのでひたすらに平謝り。片手に光るナイフが背筋をゾクゾクさせる。

 お土産の焼いたお魚とチートなナイフを渡したら許してくれた……多分。



「…………で?」


 クロードは焼き魚片手に俺に尋問……もとい成果の報告をしろと言ってきた。

 どこぞの大将みたいだな。


「かくかくしかじかでこういうことがありまして」


 俺の成果を簡単に報告。

 ついでに例のナイフのチート性能を教えると「レイズのどこまでも追いかけて爆発するナイフのほうが危険だな」と言われた。

 もうなんだろうね。この世界はじつはチートで溢れているんじゃないのか?


「お前はアレか、運の値が0な人間か」

「…………」


 釣りの成果からして言い返せる言葉が何もないんだよな。

 ていうかあの服どうしよう?

 レディース一式、俺が持ってたら変質者扱いされ兼ねんぞ。

 最悪はこれを知らない連中に「下着泥棒!」とか言われてフクロにされる可能性が……。

 

『アワード、下着泥棒を獲得しました』


 なんで!?

 ねえ!! なんで!? なんでなの!?

 俺もう下着収集家っていう十二分に色んな意味で危ないアワード持ってるよ!?


 …………。


 もういいよ。

 心の中で叫んでも仕方がないよ。

 というか……今までパターンからして俺がやったことを認めるとアワード獲得してるな。

 よし! 疚しいことは認めない!


『アワード、開き直った者を獲得しました』


 ……………………パターンが読めない、泣いていい?


 俺が心の中で嘆いていることなんざ、いざ知らず。

 クロードはきれいに骨だけになった魚を投げ捨てると容赦なく言ってくる。


「おし、さっさと壁をぶち抜け。あれだけの威力を出せるなら余裕だろ?」


 ああ余裕ですとも。

 この変な虚しさとストレスを一気にぶつけてやる。


 イメージは艦砲射撃。明らかにやりすぎではあるがどれほどやれるかを見ておきたいんでな。

 ついでにちょっと細工しよう。


 砲弾型の氷の塊。

 超固く。

 ドリルのように回転。

 最速で射出。

 先端に丸い凹みを。

 凹みにもう1つ魔法をセット。

 着弾と同時に前方へ爆発。


「シュートォォォ!!」


 杖の先端、青い石の先から青い光が溢れた瞬間。

 耳を塞ぐ前にすべての音が消え去った。

 明らかにやりすぎた。

 光が溢れたと思ったらすぐに壁が粉々になるのが見えて俺たちは衝撃で後ろに倒れる。

 そして俺の頭皮が現実逃避したいくらいに悲鳴を上げる。

 ハーピーが思いきり鉤爪を食い込ませてしがみ付いているからな。


「……ぉぉ」

「……レイズに通用するんじゃないか? これ」

「……だな」


 しかし……いやこれは……。

 俺達の前、さっきまで”地面”と木の壁があったところはきれいに消し飛んでいた。

 某旅人がホローポイント弾の先端に液体火薬詰めるのを真似てアレンジしただけなのに……。


「お前、2つ目は考えて入れたのか? あれがなけりゃ今頃俺たちは破片で死んでたぞ」

「……マジで」


 入れててよかったよ。

 俺の運は0じゃなかった。


「さて、飛ぶぞ」


 縁まで移動して下を見ると雲がかかっていて地上は見えない。


「だ、大丈夫だろうな?」

「そこは安心しろ。重力場を歪ませて着地するから。ま、地上がどうなるかは知らんが」


 そして飛んだ。

 ものの10秒で目に映るものすべてが認識できないほどの速さで流れていく速度に達する。


「い、息が!」


 凄まじい風圧で息が出来ない。

 だんだんと耳が詰まったような感じになる。

 確かこういう時は鼻をつまんで。


「ふん」


 よしオーケー。

 俺の上と横からは「いやっほぅーーーーーーーー」って感じの声が聞こえるんだ。

 どうやらこの2人は楽しんでるようだな。

 そんなことを思っていると雲に突っ込んだ。

 視界が一面真っ白だ。


 そんな中、後ろから手を回された。クロードだ。


「歯ぁ食いしばれ!」


 言われた通りにした瞬間、雲から抜けて、体に凄まじい力がかかった。

 これがGというやつか!?

 下を見れば霞んではいるが地上が見えている。

 真下は森だけど……ハルピュイアもいるけどぉ!?


「どうすんだ!?」

「大丈夫だ! もうフィールドは展開してある。近づいて来れば重力10倍で墜落だ!」


 そうして真横から飛んできたハルピュイアが不自然に歪んだ場所に触れた瞬間、ガクッとバランスを崩して墜ちていった。

 その後は特に攻撃もなく、ゆっくりと減速しつつ進路を変更、平原に着地した。

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