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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第2章 冒険
28/94

食糧危機

 あれから2週間もたった。

 2週間だぞ。確実に数えてないから間違ってるかもしれないけども。

 いい加減に俺はまともなものが食いたい。

 いい加減にバナナのような植物の茎をずたずたにして水を混ぜ、取り出した澱粉質を焼いたパサパサしたものは飽きた。

 いい加減にまともな寝床が欲しい。毎日固い木の床の上に直に寝るのは体が悲鳴を上げる。

 いい加減に…………。

 いい加減に……。

 遭難状態から脱したい。



---



 ことの発端は例の全裸変態紳士の捕縛作戦。

 その途中に正体不明の連中、恐らくアルクノアとかいうやつら、に襲われて俺と ハーピー、そして重力使いのクロードは変な階層まで真っ逆さま。

 落ちた場所が偶然にも巨大なキノコの上で良かったけども、すぐに上の階層の穴が閉じて上がれなくなって俺の壁抜けで通り抜けようとしたけども、厚すぎたのか通り抜けられず。

 しかたないので幹の内側すぐ近くに砦を作り、日がな毎日、木を削っている。


 不思議なことにこのユグドラシルとかいう大樹は、木の内側が階層構造になっていて階層ごとに生態系が違う。

 最初の数日はクロードの能力で”地面”をぶち抜いて下へ下へと降りていた。

 陽炎の揺らぐ灼熱砂漠の階層、すべてが停止する極寒の階層、木々の生い茂る多湿のジャングル。

 それらすべてを突破していたが、次第に降りる、戦う、食糧確保、拠点作る、降りる……のパターンが辛くなってきたので、いっそ壁を壊してフリーフォールしようということになった。

 落下中の姿勢制御から着地まで全部クロードがやってくれるとのことなので俺は頑張って壁を削り削って……再生されて。


 そうこのユグドラシルとかいう大樹は生命力の宝庫と言われるだけあって並大抵の攻撃じゃビクともしねえのよ。

 100メートルの壁(クロードの能力で測った)、俺が削ったのは感覚的にのべ1キロくらい。

 凍結、爆破、空間切断、趣向を変えてキノコを生やして分解……エトセトラ、エトセトラ。

 削った瞬間から再生が始まるわけで休みなく削り続ける必要がある。


 昼間は俺が削って、クロード&ハーピーはごろごろ。

 夜間はクロードが再生を抑えて、俺&ハーピーはごろごろ。

 ときおり昼間にクロードが食料の調達。

 ニートハーピー。

 そんなこんなで残り多分1メートルまで来ている……と思いたい。



「おーい、帰ったぞー」


 食糧係りが返ってきた。さて、今日の昼飯と晩飯は何になることやら。いい加減ぱさぱさのあれは嫌だぞ。

 空間魔法で木の再生を抑え込んで、削った木片で作った砦……という名の木製かまくらに移動する。

 この砦は俺が削った木の量に比例してどんどん大きくなっていて、現在3部屋出来ている。


「………これは?」


 なんか、50メートルくらいのバカでかい蛇のようなものが……。

 よくこんなものを運べたな。いや、重力使いだからこれくらいはできるか。


「湖を見つけてな。釣りでもしようとしたら襲ってきたから狩った」


 リンゴを見つけたからとってきました、みたく軽く言うことじゃないよね?

 そしてほんとにこれはなんだい?

 解析をば。


『水龍』……危険度S。淡水、海水問わず水が豊富に存在する場所に棲息。高レベルの水属性魔法を使うため討伐は困難を極める


 ……さーて、今日の昼飯はドラゴンステーキだ。わーい。

 …………。

 もう俺の周りはチートな人ばっかりなんだよね……。


「ドラゴンって食えるの?」

「……たぶん、食える。昔レイズが『海竜の肉って結構美味いぞ』って言ってたから水龍もいけるはず……だ」


 そういいながらクロードがナイフを入れて解体作業を始めていく。

 これまたハーピーの教育上よろしくないので砦の中でお留守番させておく。


「泥臭え……」


 クロードが解体を始めて最初に言ったこの一言。

 もう食べたいという思いが一気にフォールしたよ。


「お湯沸しとけ」

「なんで?」

「ナイフに脂がついて切れ味が悪くなるからな」

「はぁ」


 砦の一部を削り取って薪代わりに火をおこす。

 鍋はウィリスたちのものをどさくさに紛れて1つもらってきているのでそれを使う。


 俺が湯を沸かす間にもクロードはどんどん皮を剥いでいく。

 かといって、でかすぎるので全部剥ぐわけではなく一部だけ剥いで肉のブロックを切り出すんだとか。


 そして数十分で大きな肉塊が5つほど切り出された。


「これってさ……」

「言うな。色的に食っていい色じゃないが……」


 敢えて言うならば冷蔵庫のチルド室の奥で忘れさられていた牛肉の色、とでも言おうか。


『水龍の肉』……固く筋が多い。食えないこともないが最高に不味い。色が悪いがこれはノーマルだ。栄養価は良い。塩につけておけば……まあいけるbyレイズ


 解析するとこう表示された。最後のbyレイズってなんだろうね。

 もしかしてアイテムの説明ってレイズが書いてるのか? いやまさかね……。

 というよりも久しぶりの肉! 不味くてもいいから取りあえず食ってみるか。


 一口大に切り分けて木の枝を串代わりに焼き始める。

 遠火で焦がさないようにじっくりと。


「……うまいのか?」

「なあ、クロードよ。お前がそれ言うかえ」

「俺だって食ったことはないからな。レイズに聞けばすぐだろうが……」


 レイズって一体どういう人生を歩んでいるのやら、と気になった俺は聞いてみることにした。


「クロードってさ、レイズとどういう関係なんだ?」

「どういうって言われてもなあ……最初は海岸でいきなり攻撃されて、そのあとは拉致されてそれっきりだな」

「なかなかクレイジーな関係だな」

「だろ。それに俺がもといた世界に帰るためにはレイズに会えって言われて探してる途中だしさ」

「帰る、ね……俺は……」


 そのときジュウと肉汁が落ちて焼ける音がした。

 見ればいい具合に焼きあがっていた。


「さて食ってみるか」


 クロードが串を持ち上げて、あれな色の肉に齧り付く。

 そしてすぐに。


「…………食えたもんじゃねえ」


 俺も一口。


「…………だな」

「ガシガシ、ペッ!」


 いつの間にか出てきていたハーピーも同じようだ。

 とりあえずクロードの「放っておくとゾンビになる」という一言で俺は現状出せる最大出力の炎で水龍を消し炭にしておいた。


 そしてまたいつも通りの白いパサパサしたデンプン焼きをもそもそと食べる。

 ハーピーはリスのようにチョビチョビ齧る。

 そしてクロードは。


合成食料レーションのほうがマシと思えるな」


 などと言っている。

 俺はレーションは粘土みたいなやつで栄養バランスがいいものとしか知らないが。


「で、まだこれを食べ続けるのか?俺はもう嫌だぞ」

「よし。だったら明日は交替だ。俺が削って、お前が食糧確保。いいな?」

「ああ、やってやるよ」


 この日は作業を中断し、永続型の空間魔法を使って再生を抑えつつ昼間から寝た。



---



 翌日。

 俺が起きた時にはすでにクロードもハーピーも起きていた。

 体内時計は大体6時を指しているんだが、こいつら朝が早いな。


「おーし、さっさと行ってこーい」

「起きてすぐ!?」

「早朝のトレーニングがてら走ってこい。俺が木に印つけといたから、辿れば湖に着くぞ。ついでにこれを持っていけ」


 針と糸、そして朝飯の澱粉焼きを渡されて砦から出発した。

 とりあえずは湖で釣りでもするか。

 いつものようにアルビノハーピーを頭に載せて湖を目指す。

 そういえばアルビニズムの場合って紫外線に弱いとかなんだとか知識として知っているけど大丈夫か?

 ……いや、大丈夫だな。この2週間しょっちゅう外で日向ぼっこしてたからな。

 なんか異常があるならとっくに症状が出てるはずだ。


 クロードの目印を辿り、途中遭遇したキラートマトをフリーズドライして湖についた。

 この前みたいに氷塊でバラバラにせずに、凍結乾燥させるという手段を思いついてよかったよ。

 それにしてもなんでだろうな。どこで習ったかは知らないのに知識はあるんだよ。

 水属性魔法でなぜか冷却ができるので芯まで凍らせて、空属性で囲んで、火属性で空気を加熱、そしてもう一回冷却。

 これで似非真空状態を作って水分を昇華、ドライトマトの完成


 それにしても、だ。

 なぜだ?

 ここはユグドラシルという木の内部のはずだ。

 な・の・に、明るい、湖がある、独自の生態系がある。

 平べったい岩の上に上がって、あたりを見回せば。

 鳥が飛んでいる、魚が跳ねている、草むらに虫がいる、隣の岩に毛深い肌色がある。


 …………。


 え?


 もう一度見渡す。

 鳥が飛んでいる、魚が跳ねている、草むらに虫がいる、隣の岩にシルクハット被った全裸がいる。


 えーと、これは幻覚というやつだろう。

 毎日のストレスで嫌なものが見えているだけだ。

 ごしごしと目を擦ってもう一度だけ見る。

 お隣の平べったい岩の上にシルクハット被ったチョビ髭全裸の変態が座っている。


 …………。


「ええぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!?!?」

「どうしました?そんなに大きな声を出されて」

「なんでいる!?」


 確かこの変態の家はもっと上の方にあったはずだぞ!?


「いえ、たまには釣りでもしようかと思いましてね。よっ」


 竿を振り上げて餌のとられた針を掴み、再び餌をつけて投げる。

 すでに変態の後ろにある、俺がすっぽり入りそうなくらい大きなバケツには悠々と5匹のピラニアのようなものが泳いでいた。


 …………。


 まずは脳内フィルターで不可視化処理を……。

 あたりを見てもほかに座れそうな場所がないので俺は平べったい岩に座って、近くにあった棒に糸と針をつけて適当にミミズのようなものを取り付けて投げた。



 30分後。

 一匹も釣れない。

 トライアルアンドエラー。

 そして何度餌を付けたことか……。

 隣のバケツにはどんどん魚が増えているってのにさ。

 ハーピーに関しては退屈すぎたのか浅瀬でばちゃばちゃ水遊びをし始める始末。


 脳内フィルターの不可視化処理を中断して変態のほうを向く。


「師匠、釣りの極意をどうか伝授してくださいませ」

「ふむ。まず、エサは小さくしてから付けるべきですな。そのまま付けたのでは小さな魚は食いつきますまい」


 ストックのミミズのようなものを5ミリくらいにして針につけ、投げる。


「竿は小さくときどき揺するのがコツですな」


 言われたとおりのゆっくり小さく揺らす。

 すると竿が引かれた。あたりだ。


「そこで慌てて引いてはダメですぞ。魚が落ち着くまでは静かに………今ですぞ!」

「はあっ!」


 重い、だがこれで一匹目!

 竿を思い切り振り上げ、空中に獲物が飛び上がる。

 大物ゲッ……。


「へ?」


 どぼっと音を立てて”獲物”が俺の前に落ちる。


「……こういうこともありますぞ」


 変態が俺の肩をやさしく叩く。

 …………。

 なぜにこんなところでブーツが釣れる?

 てか誰のもんだ? この白いブーツは。

 解析をば。


『シェンロンブーツ』……メティサーナ特注のブーツ。レイズへの悪戯に使われた。神龍の脱皮した皮で作られ、最高峰の強度を誇る。廃棄したものだ勝手に使うなりなんなりしてくれbyレイズ


 …………。

 突っ込むだけ無駄だよね。うん。

 絶対に履かないぞ。

 ”絶対に”は二度目だな。これでやってしまえば何か三度目があるだろうよ。

 だ・か・ら、絶対に履かない!

 うっかりもなしだ。


 さて、2連チャンなるか。再び餌をつけて投げる。

 今度はすぐにかかった。


「今度こそ!はぁっ!」


 今度こそ大物ゲッ……。

 再び俺の前にブーツがどぼっと音を立てて落ちる。さっきのやつの片方だな。

 二度あることは三度あるというだろうが、ブーツは2つで1つ。三度目はないのさ。


 再々チャレンジ、餌は付いてるからそのまま投げる。

 少し揺らすと何かがかかった。


「今度こそぉ!」


 ざばぁ! と音を立て、獲物が……。

 今度は青色のスカートが釣れました。


『シェンロンスカート』……メティサーナ特注のスカート。レイズへの悪戯に使われた。神龍の脱皮した皮で作られ、最高峰の強度を誇る。廃棄したものだ勝手に使うなりなんなりしてくれbyレイズ


 …………。

 俺は今、()をしているはずだよな?



---



 10分後。

 シリーズコンプリート!

 俺はすべてのシェンロン装備を揃えた!

 マネキンでもあればいつかレイズの来ていた様子が再現できます! 


 …………。


 なんで魚が釣れないの……。


『アワード、コレクターを獲得しました。下着収集家を獲得しました。最高峰の装備を持つ者を獲得しました。廃棄物収集家を獲得しました』


「もういやあぁーーーーーーー!!」

「ここまで釣れるとは、中々やりますなぁ」

「なんで!? なんで俺は魚を釣ることができないの!?」

「うむ。才能がない! ……のであろう」


 諦めない! 俺のまともな飯を!

こんにちは、伏桜アルトです。

所用で東京まで行くのでしばらく更新は停止します。

ごめんなさい。

次回更新は恐らく来月になると思います。

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