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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第2章 冒険
24/94

ハーピー

 体が揺れている。

 心地よい風が顔を撫でる。

 まだまだ眠っていたい。

 この無重力感の中で……ん?


 おかしいだろ。


 目を開く。

 地上が霞んで見える。

 まで寝起きだからボケて……。

 ってわけじゃねぇぇぇぇぇっ!!


「この! 放せ!!」


 俺の体をがっしりとホールドする鉤爪。

 適当に暴れてみるがびくともしない。

 いやまてよ、ここで放されてみろ。

 スプラッタ確定じゃねえか……。


「やっぱ放さないでぇ……」


 俺の体をガッツリと掴んでいる鉤爪の主は鳥ではない。

 胸から上が人間、他は鳥の体。

 そう、魔物だよ!!


「なんでこうなった……」


 ちょっと状況を整理しようか。

 昨日は焚火の近くでリナさんと一緒に寝たはずだ。ピンク色の展開はなかった。

 そして目を覚ますと魔物に掴まれてフライト中。

 整理するまでもない状況だな、うん。


 しかし、だ。

 ほんと何でこんなことになってんの?

 ウィリスとかリナさんとか他にも人がいたじゃん。

 魔物が来たなら起こしてくれりゃいいじゃん。


 …………。


 さーて……。

 やれることがねえな。

 解析でもするか。わからないことがあったら即、検索。暇があったら検索。

 これ現代()っ子()の習性。


『ハルピュイア』……ユグドラシル及びその麓の大樹に生息する。危険度S。その翼で大空を飛び回り、地上の獲物を狙い、生け捕りにして巣まで持ち帰り啄ばむ


 絶望的だな。

 俺このままお持ち帰りされて血みどろの惨劇が待っているのか。

 ってか”地上の”獲物を狙うんだろ!?

 俺、地上にはいなかったよね!?


 ……もういいよ。とりあえず逃げる方法を考えよう。


 ここで暴れる、落とされてスプラッタ、却下。

 巣に着いてからファイア!! 俺が焼け死ぬ可能性あり、却下。

 巣ごと氷漬けにする、俺が凍え死ぬ可能性あり、却下。

 触手を……って種がないんだった、却下。

 最後は壁抜けならぬ床抜け。これも却下だ。

 床抜け=飛び降り=死亡、だからな。


 なんもねーじゃん。

 いや、鳥なら卵くらいあるよな?

 だったらそれを人質ならぬ卵質にして……よしこれで行こう。



 やがて巣のようなものが見えてきた。

 高い木の天辺にそのまんま鳥の巣を大きくしたバカでかい巣がある。

 目を凝らすと白いものが見えた。


「あれが卵か? たくさ……」


 違った。頭蓋骨だ。人の頭の骨だ。人の骨だ。

 やばくねっすかぁぁ!!


 どさり、と巣に落とされた。

 まずいまずいまずい!!

 冷や汗を流しつつ、脳をフル回転させて解決策を練る。

 このままじゃ変なところでジ・エンドだ。

 こんなところで死んだら間抜けにもほどがある。


 ブワァッと風が吹いてハルピュイアが飛び立った。

 あれぇー?

 一応まだ死ななくてよくなった?


「よぉし、今のうちに……」


 一歩踏み出そうとしたところで足元に目が行った。

 もろ頭蓋骨を踏み砕くところだった。

 これはデジャブか? 踏んだらスケさんが来そうな予感がする。


 絶対踏むなよ俺、絶対にだ!

 押すな押すなで押せっていう振りじゃないからな。


 慎重に且つ、巣を踏み抜かないように縁まで歩き、下を見る。

 ヒュゥーと風が吹いた。

 まったく地上が見えないんですけどー。

 一歩後ろに下がって、バキッ!


「アッ!」


 やっちまったぜベイビー……。


「すみませんでしたぁぁ!!」


 謝罪と同時にあのパターン。

 骨が勝手に組み合わさってスケルトンが……。


「あ、あ、ああああ……」


 どんどんでかくなっていく。

 これスケルトンなのかぁああああ!?

 スケルトンキングって呼んだほうがよくない!?

 解析だ! 解析ぃぃぃ!!


『スケルトン合同体』……危険度S。複数のスケルトンが合わさり巨大なスケルトンになったもの。倒すためにはすべての頭を破壊する必要あり。なお頭は一定時間で修復される


「冗談じゃねぇぞぉぉぉぉーー!!」


 だってね!

 あれの頭蓋骨は、ぱっと見でも30以上あるよ!?

 しかも肋骨のみたいなところの中に入ってるのもあるし、壊しようがねえよ!!

 しかもしかも、普通のスケルトンまでたっくさんいるよ!!

 ついでに解析。


『スケルトン』……危険度E。死んだ生き物の骨に霊魂が宿り、動き始めたもの。基本的に身体を構成する骨の半分を砕けば消滅する


 なんでここまでランクの差があるんだろうね!?

 まあ、どっちも俺にとっちゃ超危険!!


 巣の縁に向かって一歩下がるとコツンとべつのなにかに踵が当たった。


「ま、まさかまた骨じゃ……」


 視線を向けるとラグビーボールくらいの大きさの卵だった。

 ダチョウには敵わないが、なかなかでかい卵だな。

 しかも……なんというか……。

 一応解析。


『ハルピュイアの卵』……生で良し、焼いて良し、完全栄養食品。魔力を通せば・・・


 なに最後の意味深な一文は!?

 よし!絶対魔力を与えないぞ。絶対このパターンはよからぬことが起こる。

 そして現在俺は絶賛命の危機ーーー!!

 どうするよこれぇぇぇええ!!


 そうこうしているうちに近くのスケルトンが殴り掛かってきた。


 ちょ! どうする、どうする!?

 えーとこの場合の魔法は、えーと、えーと――


 考えているうちに骨の拳が眼前に迫って、無意識に払いのけるように腕が動いた。

 そして。

 バキッ! ボキッ! バラバラバラ……。

 どうも長い間、野晒しで骨がもろくなっていたようです。はい。


 ……もしかして…これって体当たりで………やれちゃう?

 そう思って近くのスケさんにアタックしてみた。


「うらぁぁーー!!」


 バキッ!

 案外呆気なく倒せた。

 やれる!と調子に乗ってしまった俺は無謀にも真っ先にキングに突っ込んでしまい――


「ぐふわぁっ!」


 軽く払い飛ばされてしまった。

 固い、あいつだけやけに固い。


 そして、立ち上がる前にキングが俺の前に来て拳を振り下ろした。

 俺に、ではなく。俺の足元に……。

 それの意味するところは、即ち、自由落下と地面への激突死。


「うっそぉぉぉぉぉぉーーー!!」


 大樹の枝に激しく体を打ち付けながら落ちた。

 永遠にも感じられる時間で何百回と体を打ち、地面にぶち当たると同時に脇腹が熱くなった。


「あがぁ……くそ、なんだよ――ぐはっ!」


 脇腹を見ようとしたところでさっきの卵が俺の顔面に直撃クリティカルヒットした。


「いっつぅ……」


 とりあえず傷の治癒だ。

 魔法さまさま、なかったらこのまま失血死確定だな。

 そして俺は不用意にも生属性の魔法を使ってしまった……。



---



「なんでやっちまった俺ぇ!! さっき絶対やらないって決意しただろーがぁぁぁーー!!」


 現在、俺の目の前では治癒魔法の余波的な魔力を浴びてゆらゆら揺れているハルピュイアの卵が……。

 ああくそ、どうする!?

 さっさと潰しちまうか?

 いっそこの場で目玉焼きにでもして……。


「クァァァッッッ!!!」

「来やがったか!?」


 巣を壊され、卵を落とされたハルピュイアが急降下してくる。

 思いっきり真横に素っ飛ぶと、さっきまでいた場所が抉れていた。

 あんな攻撃くらったら回復する前に死ぬわ!!


「やってやる」


 氷の砲弾を作り出す。なるべく鋭く、固く、高速で打ち出す。


「いっけえええ!!」


 ハルピュイアの人間の部分にぶち当たり、皮膚を抉る。

 それでも止まらない。向かってくる。

 再び狙う。今度は脚だ。


「クァア!?」


 バランスを崩して、そして俺に向かってその巨体が倒れてくる。


「お、うぉぉおあああ!??」


 咄嗟に腕で顔を庇った。

 庇うなんて意味ないだろう、と冷静なら考えることができたはずだ。

 このまま俺はスプラッタか……。

 と思ったら、ザンッ!と骨ごと肉を斬る音が聞こえた。


「お前はなんつーもんに手ぇだしてんだバカ野郎!」

「ウィリス!」


 もう少しで俺にぶつかるところだったハルピュイアを斬り飛ばしてくれていた。

 よくあんな巨体をエナジーソードで飛ばせるな。


「たすかったぁーー」

「気を抜くな、ハルピュイアは縄張りに入ったやつにはしつこく攻撃してくるからな」


 上を見上げれば複数のハルピュイアが旋回している。


「俺が寝てる間に何があったわけ?」

「トマトに襲われて、その間にお前が連れていかれた」

「トマト?」

「キラートマトだ。ユグドラシルの内部に生息する植物系モンスター。魔物だ」

「ちなみに大きさは?」

「あれくらい」


 ウィリスが後ろからくる何かを示した。

 そこにいたのは体は小人、頭はまんまトマトに凶悪な口が付いたモンスターだった。俺の背の半分くらいだ。

 某トマトの攻撃より怖そうなだな。これは。


「え? ちょっとなんでいるんすか!?」

「俺も逃げてきたんだよ」


 言いながらウィリスが俺を引っ張って走り出した。


「いいか、あれに捕まると大層悲惨なことになるぞ」

「具体的には?」

「体中トマトでべとべとプラス、頭からトマトが生える」


 なんだよそのギャグ漫画的な展開は……。いや、食われないだけマシか?

 まあ、頭の上ねぇ……フェネとかアルとかが乗ってたから俺は別にいいと思うけど。

 というかあの二人(一羽と一匹?)は今頃どうしてるのかね?

 フェネは殺人罪で手配されてないか?

 アルは精気を吸いすぎて誰か帰らぬ人にしてないか?

 いろいろと心配だな。あの二人の周りが。


「このまま飛ぶぞ!」


 やがて”地面”の終わりが見えた。


「ここって地上じゃなかったの!?」

「まだユグドラシルの中層だ!!」


 そして引っ張られるがままに飛んで……。


「ちょぉぉぉぉ!!全然下見えないんですけどぉぉぉ!!」

「大丈夫だ」


 なにが大丈夫だ! 畜生!!

 そして気づけばなぜかあの卵が俺の頭に乗っかてるし!!


「おい! ウィリス! このあとどうすんだよ!!」

「下で仲間が待機している。そいつに受け止めてもらう」


 やがてバカみたいに大きなユグドラシルの枝が見えてきた。

 車が余裕ですれ違えるくらいの幅があるぞ。

 そしてその枝の上で臙脂色のやつらが魔法を使っていた。

 紫色の光? なんの魔法だよ?


「さ、来るぞ」

「何が?」


 瞬間、真下から強風が吹きつけてきた。風属性か?

 俺の下方向の加速度は一気に相殺されて、それでもだいぶ速い速度で枝に叩き付けられた。

 肺の中から酸素が押し出される。

 これ……肋骨が……。


「ゴフ……」


 もういやだ……なんか着地の瞬間に体の中が潰れたような感じがしたし。


「ガハッ、ゴボ」


 くそぅ、血を吐くってことは内臓破裂してんじゃんよ。

 治癒だ。すぐに治癒だ。

 全力で回復魔法を使った。

 あたり一帯がものすごい緑色の光に包まれる。


「おま……どんだけ無駄使いしてんだよ」

「無駄使い?」

「それ明らかにオーバーヒールだろ。その程度の怪我ならレベル20ありゃ十分だ」

「へぇ……知らなかった」


 多分、今の魔法はレベル80くらいだったと思う。

 とりあえず強ければいいってイメージしたから正確なレベルは俺でも分からない。

 そもそも魔法のレベルと威力がどれくらいの関係なのかすら分からないんだよ。

 てかなんでウィリスは過剰な回復だって分かった?


「なあ、ウィリス?」

「あ、おま、なんてことを……」


 俺の後ろを指さしながら口をパクパクさせている。

 なんだ?

 後ろを振り向けばコツコツと音を出しながら揺れている例の卵が……。


 魔力を通せば・・・


 あの意味深な説明って……。

 いやいや、まさかアルの時みたいに亜種が生まれたりしなよね?

 なんか危険な変種とか生まれたりしないよね!?


「俺、もしかしてやばいことしちゃった?」


 無言で周りの全員が頷いて、俺から、正確には卵から離れていく。

 よし、変なものが出てきたら即、吹き飛ばそう。

 なんですぐにやらないかって?

 好奇心だよ!!



 俺の周りから誰もいなくなった頃。

 ピシィッ!


「お!」


 卵の殻にヒビが入った。

 コツッ! コツッ! パリンッ!

 ついに穴が開いた。

 さあ、デビルが出るかエンジェルが出るか。蛇のことは考えないよ。


 念のため片手に水弾を用意しておく。

 鬼なら凍らせてズドンッ、仏なら温水にしてザバァだ。


 パキッ、パキッ。

 あと少しだ、あと少しで出てくる。


 さあ、さあ!

 バリンッ!!


「     」


 片手の水弾の制御を手放した。

 鬼でも仏でも鳥でもなかった。

 ………。

 ……………。

 ロリだ、トリじゃなくてロリがでたぁ!!

 身長15㎝くらいのロリがでたあぁぁぁぁ!!!


 ……分からないものは解析だな。


『ハーピー』……危険度F、条件次第でS+。ハルピュイアの卵に人間が魔力を与えると生まれる。ハルピュイアよりも人間に近く、育て方次第では恐ろしいものに・・・


「危険度S+………初めて見たぞ、このランク…………。そして最後の恐ろしいものってさあ……」


 う~む、これは……まあ、よくゲームとかで見るハーピーだよな。

 モンスター娘だよな?

 腕の代わりに翼があって、腿から下は鳥の足。

 特徴はアルビノってとこかな。



---



 例によって例の如く、当然のように実行されたパイルダーオン。

 俺の頭はテメェらの居住地か!?

 いやもういいよ。

 3回目だもの。

 二度あることは三度あるっていうだろ?

 だから次は、四度目はないよね?

 ないよね?

 俺の記憶がなくなっている範囲でも女の子の知り合いはいなかったはずだ。

 このままハーレムが形成されていくルートに入ってしまったのか?

 いや、それはないな。


 あるとしたら分岐なし、ピンク色なし、デッドエンドまっしぐらのデスハーレムだな。


「アキト。お前の頭に乗っているものはなんだ」

「えっとですねぇ……」


 俺の周りには赤やら青やら紫やらの球体がたくさん浮かんで、さらにその周りに アサルトライフル持った臙脂色の人たちがいるわけですねえ。

 ちなみにこの球体を解析したところ魔法で作った機雷なんだよなー。

 もう怖すぎて恐怖メーターの指針がポッキリいっちゃったよ。


「ハーピーです。はい」

「そんなことは分かっている」


 俺を囲んでいるやつらはウィリス以外ひきつった顔になっている。

 なんでだよ。

 いつぞやのお兄さんたちと同じだよ!! 


「一応聞くが魔力に影響された生物の事は知っているか?」

「まったく知らねえよ」

「そうか……」


 なんか仲間と話し込み始めやがった。

 さてどうする?

 なんか流れ的にハーピーを処分する方向に行きそうな気がする。

 それはいやだぜ、なんか知らないけど懐かれてるんだ。


 それにしてもどんな話をしてるんだろうか?

 耳を澄ませてみる。


「だったら――――して――――でいいだろ」

「しかし――――すから――――が――――」

「――――らさ――――レイズでも――――」

「それ――――なら――――のほうが」


 肝心なところが全然聞き取れんわ。

 うーむ、どうしたものか……。


「おい、魔法を消せ」


 ウィリスの一声で一斉に俺の周りの機雷が消えうせた。


「さーてと、お前には2つの選択肢がある」

「な、なんでせうか?」


 ハーピーを処分するか全員相手に死闘をするかなのか?


「1つ、自力でミズガルドまで帰る。1つ、俺たちの任務を手伝って一緒に帰る。どっちを選ぶ?」


 そりゃあ……ねぇ。

 この俺が自力で帰れると思うか?


「手伝うぜ!」

「言ったな。確かに手伝うって言ったな」


 なんだろう。どっちを選んでもハズレだったような気がしてきた。

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