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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第2章 冒険
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記憶遡行

 夢を見ている。

 とてもはっきりとした夢だ。

 きっとこれが明晰夢というやつなのだろう。

 だがこれは夢と言い切ってしまっていいのだろうか?


 目の前には過去の自分がいる。

 追体験のようなものか?


 とても鮮明リアルな光景だ。

 もう二度と見たくない、思い出したくない。

 はやく目が覚めればいいのに。



---



 始まりはほんのささいな”いじり”だった。

「アキト君て、足遅いね」

 どこででも聞くようなささいな一言。最初はこんなものだった。



「おい鈍間! ちんたら走っとらんで本気だせや!」

 だんだんと一つのことで”いじり”が激しくなった。



「おいデブ、パンかって来いよぉ~」

「ついでにジュースもなぁ~。もちろんテメェの金でなぁ~」

「あっはっは、だっさー、なにあれぇ~」

 年を重ねるごとにだんだんと”いじり”が”いじめ”になってきた。

 周りも見て見ぬふり。

 そもそもおかしな話だが、引き籠もる前の俺は引き籠もりになった後よりも太っていた。これもその原因の一つだ。



「そらよっと!」

「マジですっきりすんなー、このサンドバッグ。いや人間バッグか?」

 時折人気のないところに引きずり込まれては「ストレス発散のためだ」と包み隠さずに言われ、道具のような扱いを受けていた。

 もちろん、変な痣や傷が目立つから、教師や親には「何があった?」と聞かれた。

 でも、「ちょっとこけただけ」とか「階段ですべっちゃってさ」というかんじで誤魔化した。

 言えばもっとひどくなる。

 ただでさえ、見て見ぬふりで誰も助けてくれないのだから、ひどくなったらいつか体も心も壊れるだろう。

 いや、心はもうこのころには殆ど閉ざしてたか。

 心を守るために、別の人格を形成するように、あの時の俺はただ生きるだけ。

 なにかあれば反応するだけの生体機械のようなもんだったな。



「アキト! いつまでこんなことを続ける気だ‼ いますぐに出てきなさい‼」

 いつのころからだろう。

 気づけば部屋に閉じこもるようになっていた。

 誰もかれも、俺を厄介者扱いする。

 多分、俺がいなくなれば笑うやつらもいるだろう。



「では、うちの愚息ならぬ駄息をお願いします」

 中学最後の学年を引き籠もりで消費した後、部屋のドアを叩き壊され、縛り上げられてどこかへと連れていかれた。

 たどり着いた場所は見た目木造二階建ての寮だった。

 実際は壁は合成樹脂、内装は金属面剥き出しのなかなかきついところだ。



「それじゃ、この107号室が君の部屋ね。これが鍵、なくさないように。後は、いるものがあったら何か言ってね」

 そういえば管理人のお姉さんに会ったのはこの日だけだったな。


 長い黒髪に青いTシャツと膝までまくり上げたズボン。

 夢で見ている光景だというのに……俺の頭はこんなときのことまではっきりと記憶して……。


           ―――――ちょっと待て―――――


 どこかで、どこかで見たことがあるぞ。

 どこだ? 俺はかなり……。

 ああ、そうか!

 管理人のお姉さんの姿に()()()を付けて()()持たせてみろ。


 ……………………………。


 ……もろ、あの堕天使にそっくりじゃねえか!!

 上下だぼだぼのジャージ着せたらそのまま本人だろ!?


 まさか、……そんなまさか!?

 いや、待て待て。

 世の中には他人の空似という言葉があるだろ。

 3人は似ている人がいるというだろ。


 違う、違う、違う!!


 否定するほどに肯定してるような気がする……。


 何で……何で……。



 そうこうしているうちにまた光景が切り替わった。

 ガンッ! ガンッ! と部屋のドアを蹴る音が聞こえる。

「おーい、開けろ引き籠もりー」

 あの子だ。

 大人たちは必ずノックした後、「出て来い!!」だの「いつまで閉じこもっている!!」だのと言ってきたが、無視しているといなくなる。

 だがあの子だけは違った。

「開けないなら開けるぞー」

 ガチャっと音がして物理的なカギが開錠される。

 次にピピッと電子音がなって電子ロックも解除される。

 あのときから思ってたけど、これって不法侵入、犯罪では?


 他人の部屋に、心に土足で踏み入ってきた。

 それは強引ではあったが不思議と嫌ではなかった。

 片手にゴミ袋を抱え、部屋を勝手に掃除し始める。


 大抵の場合、自分から見たらきちんと何が何処にあってこれは整頓されている。

 だが他人からみると散らかっているしゴミだらけ、なので手当り次第に掃除されてよく置いておいた物の配置がわからなくなる。

 そんなことが多発するだろう。

 だけどあの子は、俺の目から見ても明らかにゴミと言えるものだけをゴミ袋に放り込み、片づけなきゃと思って放置していたところだけを片付けて、最後に部屋を強制換気してから出ていく。

 まるで俺の思考を読み取っていたかのような行動だ。


 そういえば、あの子の部屋はどこだろう?

 ついて行ってみようかな。


 夢だというのに細部まではっきりと見える廊下を歩き、2階へ上がった。

 そのまま付いて行くと、ある部屋に入った。


「207? ……俺の真上の部屋だったのか」


 何の気なしにドアに手をかけたが動かなかった。

 当然か。鍵がかかってるんだもの。



 また光景が変わる。

「がはっ! がはっ! ……あぁ、くそ、もう死んでやる」

 これは……そうか、あの子を無視し続けてとうとう部屋に来なくなったときの……。

 確か……薬を一瓶、一気飲みして意識がなくなって……で、それで……ああ、起きてから吐いたときのだ。


 目の前の過去の自分が起き上がってトイレに這って行く。


「は、ははは。なんでだろうな、薬を一瓶飲んだ程度じゃ死なないって……え?」


 今、()()()起き上がってトイレに入ったよな?

 なのになんで、()()()()()()()()()()()()()()

 え?

 え?

 なんでぇ?


    …………ちょっと待てよ

      これは俺の記憶の追体験だよな

         なら、なんで俺の知らないはずのことまで体験できる


こんにちは、伏桜アルトです。

いろいろあって執筆が遅れてしまいました。

ごめんなさい。


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