黒い世界へ
俺は現在、奇妙なパーティを組んでいる。
それも4人パーティだ。
まず俺、パーティリーダー、霧崎アキト。住所不定無職ヒキニート……じゃなくて魔法使い。
次にさっきレイズに踏まれてた少女、リナ。
パワードスーツを脱ぐと前は板、残念だ。背中には竜の翼と尻尾、竜人族だった。戦士。
そして自称神様ヴァナディース。ネグリジェのようなかなり薄い布を纏っている。魔法使い。
最後に自称神様ウォーデン。移動中に遭遇したじいさん。とんがり帽子に青いマント、眼帯つき。魔法使い。
明らかにおかしいのが2人。
そしてこのアンバランス、前衛1に対し後衛3。
男女比は2:2でまあいい。
しかしだこの配置は如何せんダメだろ。
盾とタゲ取りの前衛。
殴り前衛。
遠距離攻撃魔法使い。
回復と補助の僧侶。
これが俺の理想。
だが今のパーティは、前衛は女の子、しかも武器なし。
よって盾も殴りもなし。と言うかさせられない。
後衛は俺とよくわからない自称神様の魔法使い3人。
接近戦になったら詰み。
…………のはずだったのだが。
「ふん!」
リナはそこらで拾った鉄パイプを振り回し、瓦礫をぶん投げ。
「愚かなる者に裁きの光を!」
じいさんは魔法を使いながら走り回り飛び回り。
「がんばってぇ~~」
高露出のお姉さんは俺の片腕にべったり絡み付き……。
俺は攻撃が掠った2人に回復魔法を飛ばしつつ、撃ち漏らしを焼いたり凍らせたり。
カオスだな! おい!
あの華奢な腕でどうやったらビュンッ! って音がする斬撃を鉄パイプで放てるの!?
それに魔法使いってあんなにアクロバティックな戦い方するか!?
ってか、あのじいさん元気だな。
そしてお姉さん、当たってます。
胸の小さな2つの丘が当たってます。
さてちょっと訂正しようか。
前衛、凶暴な竜人とパワフルじいさん。
後衛、回復&攻撃&いろんな意味で賢者な俺……と、あれな人。
なんかもう敵が可哀想だな。
サーチアンドキルだよ。
目についた瞬間に警告なしで吹っ飛ばされてるよ!!
「ふぅ、この老体には少々応えるわい」
「危険なじいさんだな! おい!」
「ほっほっほー、まだまだ若いもんには負けんよ」
若いもんには負けん、あんたが寿命でぽっくり逝くまで誰も勝てんでしょうよ。レイズ以外は。
それにしてもなあ……俺がパーティリーダーでいいのか?
いや、俺がやらなきゃダメだな。この中で一番まともなのは俺だろ?
視界の端に地図を呼び出して、周囲の状況を確認する。
敵はいない。
便利な世の中になったもんだ。
さてと、あの子は……近くの路地の奥か。
レイズも一緒にいるみたいだし、さっさと合流するかな。
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現場に到着するなり俺たちはレイズへ向け全力で攻撃魔法を放った。
俺はすべての魔力を使い果たすつもりでマダ○テのようなものを。
じいさんはメ○ガイアーのような太陽のようなものを。
お姉さんはマヒャ○ドスのようなものを。
だがそのすべてが、レイズへと辿り着く前にかき消された。
俺が攻撃した理由はたった1つ。
レイズが青い髪のあの子を殺そうとしていたから、ただそれだけだ。
他2人についてはわからない。
「オレに牙を剥く事がどれほど愚かな事か、お前らは知らないようだな」
「ひぃぃっ!」
これが殺気なのか?
背筋が凍りつくような怖気が走る。
足が、手が震え、その場にへたり込んでしまう。
「フレイアと……そっちは何て呼べばいい? オーディンか、オティヌスか、ヴォータンか、アルフォズルか……」
レイズがゆっくりと近づいてくる。
まずい……殺気は俺じゃなくて隣の2人に向けられてるけど俺も殺される!
「さて――」
じいさんが強烈な青白い火炎弾を放った。
しかしそれは右手で払われる。
「いちいち作業的な戦いばかりじゃ――」
お姉さんが岩の塊のようなものを撃ち込んだ。
そして左手で叩き壊された。
破片が飛び散るとチリンチリンと金属音が響いた。
「退屈なんでな、空間、壊して見るか」
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原初の世界。
何もない真っ黒な世界。
光もないはずなのに存在を認識できる。
空気もないはずなのに呼吸ができる。
空間が無いはずなのに存在できる。
「さあ、始めようか」
何もない『地面』に突っ伏している1名を余所目に虐殺が始められた。
「そーら、逃げろ、逃げろー!」
光弾を乱射しながら2人の神を追い込む。
すでに魔法も魔術も破壊された上、神としての力も消された2人は瞬く間に肉塊 へと変えられていった。
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「起きろ」
乱暴な声が耳に叩き込まれる。
「ん……んぁ?」
なんだこれ?動けねえぞ。
それに……ここはどこだ?
「起きたかな?」
目は動くか。
なん…だ、ここ、何もない?
「おい、聞いてるか? そもそも目を開けたまま、まだ寝てんのか?」
レイズの手に太陽が生まれた。
それを見た瞬間、飛び起きた。
「起きてます! ビンッビンに起きてます!!」
「ならよし」
太陽が消える。
「言いたいことを言え。面倒事は嫌だからな、要求は力尽くで、だ」
「力尽く?」
「さっさとお前の言い分を言え」
面倒な事は一切抜きでやりましょうってか。
「なんであの子を殺そうとした」
「やっぱそれか。そうさなぁ………お前は自分の一部だからと言って悪性腫瘍を放置するか?」
「………あの子がなにしたってんだ」
「操られただけだ。不良品はさっさと処分するに限る」
処分? こいつは……いや、こいつもあの堕天使と同様に人の命をなんとも思ってねえのか……。
「お前のいいたい事は分るさ。オレも何回か同じことを経験したからな」
「だったら何であんたも同じことを!」
「ま、それぞれ理由があるんだなこれが」
話すだけ無駄か? それに要求は力尽くでって言ってたし。
「話すのは面倒だ。さっさと交渉しようか」
瞬間、轟音が炸裂した。
空気を押しのける轟音、そして視界を焼き尽くす閃光。
なんだよあれ!溶接のときによくみるやつだけど!!
すっと腰を落としてレイズは構える。
「おいおい! なんだよそれは!?」
「アーク放電だ。人間の体なら簡単に斬れるぞ」
そう言って、ふっと腕を振るうと閃光も動き、ブォォン! と音が響いた。
それぞれ五本の指から放射されるブレードは凄まじい光を放っている。
「条件は簡単だ。勝った方がすべてを持っていく、これだけだ」
「あんた、俺に勝たせる気はないんだろ?」
「もちろんない、が、それじゃあ不公平だからな。
あー……そうさなぁ……全力の攻撃を1発、先に放て。
放つまでは待ってやる。それからガチの殺し合いをしようか」
1発、全力で1発の先制をさせてくれる。
メチャクチャ舐められてるな。
まあそれだけ実力に差があるから仕方ないか。
しかし、1発か……確実に仕留める、なんてのは無理だ。
だったら動きを鈍らせる程度にはダメージを入れられるものがいいな。
そういえば何か忘れてないか?
何だ? 何を忘れて……あ。
レイズがパワードスーツをガラスまみれにした時だ。
あのときに『教えない』って言われたときのだよ。
どこで聞いた、いつ聞いた、誰に聞いた?
………………………。
あ、宿屋でキニアスから聞いたんだった。
『リーダーは相手の魔法を視る、壊す、盗む、なんでもありだからだ』
そう言ってたな。
……つまり魔法による攻撃は意味がない?
どうしろと!?
魔法のない俺はただのヒキニートじゃねぇか!?
あ、違うか。もう引き籠もるべき聖域がないじゃん。
いやいや、そうじゃなくだな。
全力の攻撃。
どうする!?
魔法以外だ、魔法以外。
なんかあるか?
なんか……。
なんか………。
なん……あるじゃん、バハムート。
まあ、まずはバハムートでプレスだ。
ダメなら次は……こういうときのお決まりのパターンを試してみようか。
「さっさとしろ、無駄な時間稼ぎをするなら消し飛ばすぞ」
「い、いや、もう準備は出来た。行くぞ!」
さて、通用しそうにないけどこれ以外になにもねぇし。
「来い! バハムゥゥゥーーートォォ!!」
真っ黒な空に紫色の魔法陣が描かれ、どうにもぱっとしない見た目のバハムートが出現した。
「はっ?」
レイズが気の抜けた声を出した。
そして赤色が飛び散った。