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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第1章 激動と波乱
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敗残兵

 アキトが走り去り、後ろ姿が見えなくなるとやつらもオレを包囲しにかかった。

 正直こいつらは倒しても旨みがない。

 ゴツイ武装しているクセして倒せば武装も含めて灰になる。

 しかもゾンビだからタフで恐れがないから突撃してくる。

 さらに魔法まで使うときた。


「おら、こいや。雑魚」


 胸の前で拳を打ち合わせ、ファイティングポーズをとる。


 挑発に乗ったバカどもが剣を振りかぶり向かって来る。

 体を落とし、振るわれる剣を躱し、カウンターの掌底打ちを胴体に叩き込む。

 分厚い鎧ごと心臓を打ち抜いた。


 そして手刀を作り、延長線上に作った光の刃で首を落とす。

 まずは一体。

 ボロボロと灰になりながら崩れていくのを余所目に見ながら、

 次のバカを鎧ごと下から斬り上げる。

 両断された体は宙を舞い、灰に変わる。


「おら! どうした! それだけか!」


 恐れを知らないはずの死人が踏みとどまっている。

 まったく面倒なことだ。

 カウンターメインのオレにとってはやりづらいことこの上ない。


降り注ぐ光(ルクス・プルヴィア)


 レベル20の強力な魔法。

 詠唱と同時に真っ暗な空から真っ白な光の槍が落ちる。

 数十本ほど落ちてきた槍はすべてが死人に突き刺さり、灰塵と化した。

 そしてそれを皮切りに逃げ始めやがった。

 ま、一体も逃がす気はないがな。


焦熱地獄(イグニ・インフェルノ)!  うん、やっぱこれって文法的にはおかしいな」


 レベル30、禁術指定される魔法。

 暗い大地に徐々に赤い光が浮かび上がり、所々から火の手が上がり始める。

 さらに続けて詠唱する。


滅びゆく世界(デカデンス・アケロン)


 レベル32、これもまた禁術指定。

 腐食の特性を時属性で加速させる魔法。

 さっきの魔法の外側に展開する。

 これで、逃げれば塵に、逃げなければ焼かれて灰になる。

 しかし……さっきのやつ、火力が強すぎたな、火柱が木の上まで上がってらぁ。


 それにしても、だ。

 レベル30を超える魔法から上は禁術指定のものがいくつかあって、使っちゃいかんことになっている。

 無闇矢鱈に使えばそのうち『神の裁き(ジャッジメント)』という勢力に狙われる……かも知れない。

 連中は混沌と化した戦場にふらりと出現して、戦闘の鎮静化を名目にすべての勢力に攻撃するし、禁術指定の魔法を使ったものを積極的に暗殺する。

 まあ、警察みたいなもんだが……ばれなきゃ犯罪じゃないんですよね。


 それについて言えば、アキトが使った呪氷結界のバリエーション。

 氷の迷宮は……確かブリザードボムとかあいつは言っていたが、レベルは50くらいだろうか。

 空間そのものを凍結させて一時的な砦を作るものだが……これも確か禁術だったような。

 使ったら……、いや言っても仕方ないな。


 意識を引き戻し、魔法で干渉したエリアへと向ける。

 オレは自分の魔法で干渉したものならば直接見なくても現状がわかる。

 隅々まで確認しても、もう死人は残っていない。


「おっし、しゅーりょー。アキトには悪いが先に飛ぶか」


 空属性の魔法を詠唱して、銀色の光が零れる。

 ああ、やっぱ移動とか転移の魔法が使えるっていいな。


---


「なんだよあれ!?」


 ヒューっていう隕石でも落ちるような音がしたから後ろ向いたら、

 白い何かがたくさん落ちていくのが見えた。

 そしてそのすぐ後にバカデカイ火柱が上がるのが見えた。


「おい、フェネ! レイズは大丈夫なのか!?」

「さあ?」


 さあ?って……。

 そんなこと思っているとフェネがこけた。

 走るときは前を見なさい!


「大丈夫か?」


 止まってフェネに近づく。

 膝を擦りむいたようだけど、その傷口を見ると燃えていた。

 いや、冗談抜きで燃えているんだよ。


「火!? 消さなくていいのかよ!?」

「わたしは不死鳥フェニックスだよ」


 あ、そっか、そういやこいつはそうだったな。

 完全に忘れてたよ。


「よし治った」

「はや!」

「普通だよ?」


 これが普通……いや魔法があるから普通っちゃ普通か。

 完全に炭化した皮膚を払い落として立ち上がった。

 あれって質量保存の法則とかその辺どうなってんのかね?

 

「ほらさっさと行くよ」

「お、おう」


 ケガしてすぐ直って走れるって……。

 呆気にとられながらも後を付いて行った。



 その後10分ほど走ると石碑が見えてきた。

 俺の体力ってこんなにあったんだ……。

 いや、そういうことはどうでもいいとして。

 その石碑の周りにフード付き黒コートを着ている連中がたくさんいた。

 なんか怪しいな。

 いや絶対怪しい。

 森の奥でぶつぶつ呪文唱えながら悪魔召喚とかやってそうな感じの奴らだ。

 しかも全員フード被ってて、顔があるところがブラックホール並みに黒い。

 ヴァンタブラックじゃあるまいしなんでそこまで黒いのか……。


 そしてフェネはそこに近づいていく。

 俺は、立ち止まる。

 なぜかって?

 変な宗教団的な感じもするからいろいろ怖いんだよ!


 眺めていると話し始めて、なんか言い合った後に石碑の後ろの空間にピキッとヒビが入って、パリンと割れた。

 割れた先には石造りの空間が除いていた。


「おお、すげえな」


 って見とれている場合じゃない。

 みんなあの中に入って行ってるよ。

 俺だけ置いてけぼりは嫌だよ。

 穴が塞がりかけたところに飛び込んだ。


「うっ……」


 なんだよ……。

 入ってすぐに消毒薬の臭いと血の臭いが鼻を刺した。

 目についた部屋を除いてみると傷だらけの人がたくさんいた。


「おいおい! 全滅かよ!」

「落ち着けって。まだ…」

「落ち着いてられっか!!」


 また別の部屋からは怒鳴り声が聞こえてきた。


 さらに別の部屋を除くと。


「死体? ……か?」


 動かない人間でいっぱいだった。

 銃弾が当たったような傷、抉られた傷、切り付けられた傷。

 これって戦死者か……。


 さらに奥に行くと壁際にレイズが座り込んでいた。

 なんでだ?

 俺より後ろにいたはずだろ。


「な、なあ。ここって……」

「今は一人にしてくれ」


 それだけ言われて手でどっかいけと示された。

 振り返るとちょうどベインがいた。

 全身傷だらけで、片腕は血で真っ赤だ。


「おい、ベイン!」

「ちょっと退いてくれ」


 横をすり抜けてレイズのほうへ歩いて行った。


「レイズ、すまん。睦月と鈴那は見つけられなかった」

「そうか……」

「双子も行方不明で、黒尽くめの野郎もいなかった」

「……月姫は」

「ずたずたに切り裂かれてた……」

「……アカモートは」

「あと2、3時間もすりゃ陥落するな」

「……」

「俺はもう一度行ってくるがお前はどうする?」

「………」


 そのままふらりと立ち上がるとぶつぶつと呟きながら外に出ていった。

 なんか大変そうな話になってんな。

 俺がどうこう言えることはないけど。

 レイズがどこかへ行くとベインが話しかけてきた。


「アキト、無茶な頼みを聞いてくれてありがとう」

「今俺にそんなこといってる時なのか?」

「違うな……でも言えるときに言っとくもんだ。

 明日には俺が死んでるかもしれんからな」

「死んでるかもって、あんたを殺せるやつがいるのかよ」

「知ってるだけでも8人はいるな」

「oh……結構いるんだな」

「ああ、探せばもっといるだろうな。

 と、いつまでも血生臭いところにいるのもなんだ、

 外に出ようぜ」


 首に手を回されて、外に連れ出された。

 気づけば寄生植物がいつの間にかいなくなっていた。

 まあ、これはどうでもいいけど。


 にしてもだ。

 また黒コートの連中がいる。

 なんなんだこいつらは。


「なあ、この黒コートのやつらって何?」

「レイズの配下だ。一応言っとくが、そこらの暗殺組織相手にそれぞれが単独でやりあえるほどの凄腕だぞ」

「マジで?」

「マジだ」


 こんなのを従えてるって……ますますレイズが怖くなったよ。

 てかなんでそんなに強い奴らがこんなに集まってんだよ。

 いつまでも視界に収めておきたくないので、誰もいない茂みのほうへ視線を逸らした。


「なんだ……あれ」


 茂みの下のほう。

 篝火の明かりが届かず、陰になっているところになにかがあった。


「どうした?」

「いや、なんか見つけた」


 拾ってみればそれは、青い布きれだった。

 ただの布きれ……のはずなのに、触っているだけで気分が悪くなってきた。


「おい、なにが……!!」


 後ろから除きこんできたベインが布きれを見た瞬間に叫んだ。


「敵襲ーーーー!! アルクノアだーーー!!」


 叫びと同時にヒュンッと風切りの音がしてドサッ何かの倒れる音がする。

 音のした方を見れば黒コートの周りに青と白の布で全身を包んだ人間? が倒れていた。


「いま……なにがあわ!?」


 ベインに蹴り飛ばさると同時に顔に血が飛んできた。

 視線を上げればベインの魔法剣が敵に刺さっていて、敵の”爪”がベインの腕を貫いていた。


「あ……お、い。ベイン?」


 グシャァッ!と聞きたくない音を立ててながら敵の体が引き裂かれた。

 だがモザイク必須の何かが零れ落ちるでも、ヘモグロビンが飛び散るでもなかった。

 布の中身は真っ黒な何か。

 その何かは虚空に溶けて消えてしまった。


「ベイン! すぐに治癒を」

「必要ない!」


 言ったときにはもう傷がなくなっていた。

 なんだ回復魔法を使えるのか。

 それにしてもなんだこれは? マネキン……というわけじゃないよな。


「なんだよこいつら」

「アルクノア家の人形だ」


 アルクノア? ……あ。

 それを聞いて思い出した。

 レイズ・アルクノア・レイシス。

 あいつのフルネームにアルクノアって入っているってことを。


「あのクズ野郎め……いい加減俺もブチ切れるぞ」

「ベイン、なにが起こってんだよ」

「別の世界で戦争やってんだよ。その煽りがここまで来てるわけ。」

「別の世界?」

「この『九つの世界』とは別の位相。お前の元いた世界だ」

「こんなときに聞くのもなんだけど……俺って、帰れるのか?」

「……………」


 なんで黙り込むんだよ。

 やっぱり帰れないのか?


 にしても戦争か。

 帰って戦争に巻き込まれて死ぬっていやだよ。

 そもそも、帰ったとしてもヒキニート生活ができないならこのままでもよくねーか。

 いやもう、むしろこの世界のほうがいいんじゃないか?


 毎日毎日ネットに入り浸る日々。

 ゲームばっかに時間使って浪費する人生。

 だったらファンタジーなこの世界で暮らしたほうが楽しくないか?

 こんなことを言うのもなんだけどさ、嫌な過去から逃げたいんだよね。

 いじめ、失敗、喧嘩、いやがらせ、部屋から連れ出せば何とかなるって思っている人たち。

 人から拒絶されるのが嫌で逃げた。

 人に嫌われるのが嫌で関係を持たないようにしてきた。

 恥をかかされるのが怖くて誰も信じなかった。

 ほかにもいろいろ思ったさ。

 そのうちこう思い始めたんだ。

『自分はここにいないほうがいい』

 いつも強烈な不安を抱えていた。

 そして、人に会わない=引き籠もるの選択に行きついた。

 引き籠もりになってからはあの青い髪の女の子以外は信じられなかった。

 あの子だけは……なんというか、嫌な感じが全然しなかったんだ。

 だから初めのうちは会話もしたさ、でもだんだん俺のせいでかなり迷惑がかかってることが分かってからは無視している。

 そうすれば、勝手に離れて行って、もう俺の部屋の管理者以外には迷惑が掛からないと思ったんだ。


 ま、自分勝手な理由だけどさ………戻ってニート続行なら……。


「………帰れる」


 え、マジで!?


「が、……今頃お前の家があった場所は戦火の中心だぞ?」


 なん、だと……。

 ということは俺の恋人が……。


「それでも帰りたいか?」

「今すぐにでも送ってくれ! 俺の恋人パソコンが!!」

「一応一つ言っておくが、お前が”正式に”帰るためにはお前を転移させた術者に送り返すための魔法を使ってもらう必要がある。

 そしてその術者は今、生きる望みのない危険な戦場にいる。

 助けたくはないか?」


 軽く首を振る。横にだ

 俺を転移させたやつなんてどうでもいい。そんなやつ助けたくもない。

 俺は恋人パソコンを助けることができればそれだけでいいんだ。

 まあ、正直なんで俺を転移させたのか、これだけは聞きたいが危ないことしてま で聞きたいことではないし。


「そうか、そいつは青い髪の女の子なんだが……」

「なんでそれを先に言わねえ! いますぐに助けに行くぞ!」

「女、だからか?」

「違えよ!」

「ふっ……それならいいだろう」


 ベインがパチンと指を鳴らす。

 すると俺たちの周りがぐにゃりと歪み始めた。


「え、ちょ、これなにが」

「動くなよー。下手したら体がなくなってましたってことになるからな」


 風景がぐちゃぐちゃになって何が何だか見分けがつかなってゆく。

 気持ち悪いな、これは。

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