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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第1章 激動と波乱
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マンドラゴラ

 さて、現状を確認しよう。

 俺はなにもせずに丸2日過ごしている。

 働かなくてもぐーたらしていても、朝昼晩と飯は食える。

 この部屋の中で一日中寝ていても誰にも怒られない。


 前は、毎日毎日「万年引き籠もり出てこーい」と、

 部屋のドアを叩く女の子がいたけど、今はそんなうるさいやつはいない。


 しかも家賃も払わなくていい。

 その代わり床は石造りで固く組まれている。

 布団もない。

 テレビもない。

 ゲーム機もない。

 冷暖房もない。

 そしてなにより恋人パソコンがいない。


 …………。


 こんなとこにずっといられっかぁぁ!!

 この部屋の中は魔法が使えないし、粗大ごみを投げつけてみたけど壁は崩れないし!!


 魔法が使えない元ヒキニートの俺にできることは何もない。

 折れた剣で床を掘ってみようとしたら一発目で手が痺れたし。

 鉄格子の窓に飛びついて無理やり抜けようとしたけどダメだったし。


 ほんとに魔法が使えないのか?

 そう思って気絶しない範囲で最大の魔法を使おうかと思ったけど結局、なぜか形にならずに終わった。

 なんかこう、ゲームとかでチートしてパッと状態が変わるみたいな感じで発動寸前で消えるんだよ。


 さて、どうやって脱出しようか。

 病気か死んだふりか……。

 ダメだこれは、どうせほったらかしにされる。


 某映画みたいに飯を持ってくるために近寄ったところを……。

 これもダメだな、飯はドアの隙間から投げ込まれる。

 しかも固いパンとチーズだけだ。

 そもそも俺にそんな技術スキルはない。


 う~ん……。

 あとは……方法がねえな。

 いや、もう一個ある。

「俺も仲間に入れてくださいよ兄貴。

 掃除でもパシリでもなんでもやりますぜ。

 それにいい女もいますぜ」

 て、感じで……。


 うん、ダメだなこれも。

 俺の辞書にプライドはないが、ああいうお兄さんたちと仲良くなったらダメだろう。それにフェネを使うと俺が死ぬ。


 あーーー! もう!!

 どうするよーー。


 そんなことを考えているといつの間にか俺の周りに、赤い光が舞っていた。

 なんだこれ?


『ああもう! 退屈!』


 そんな叫びが聞こえて、一際強く光った途端にフェネが目の前にいた。

 全裸ではない。

 白いワンピースを着ている。

 体のラインが綺麗に透けて見え……下はなんもないんだ。


「あの? フェネさん?」


 そのままドアまでスタスタと歩いて行った。

 片手に赤い燐光を纏わせて、ズゴォォン!!

 すさまじい音を立てドアを吹っ飛ばした。

 変な……何か潰れるような音も聞こえたんだけど……まさかドアに挟まれて……。


 ん? てか今のって魔法だよな。

 なんで使えるんだよ。


 地下から出てみるとそこはもうフェネの独擅場どくせんじょう

 振り下ろされる大振りの剣を真正面から殴って折る、

 とんで来る魔法を蹴って跳ね返す、

 撃ち出される銃弾に当たってもかすり傷。


「お、おい! あんたの召喚獣なんだろ!? 止めてくれ、降参だ!!」


 近寄ってきた強面のお兄さんが泣きついてきた。

 ただでさえ怖い顔がさらにアカんことになってる。

 だいたいそんなこと言われてもねえ。

 ちょっと前に言うこと聞かないなんて言われたし。

 でもまあ……。


「あの、降参したら俺の言うこと聞いてくれますか?」

「聞く聞く、何でも聞く! だからさっさと止めてくれ!」

「本当に何でも?」

「ああ!! だから頼む! 早く止めてくれぇ!」


 泣きながら額を床に擦り付けられちゃぁ、仕方ない。


「フェネ! そのへんでやめろ」


 言った瞬間、怖いお兄さんたち3人が炎に焼かれて真っ白な灰になった。

 こいつほんとに言うこと聞かないつもりか。

 …………。

 あ、最初と同じように触手で……って近くに植物がねえし、種も持ってない。


「あの、すみません。植物の種ありません?」

「マンドラゴラの種ならあるぞ」


 え……マンドラゴラ……。

 人みたいに動き回って、引き抜くと悲鳴を上げて、

 聞いた人間は死ぬとかいう伝説があるあれのことか!?

 そ、そそ、そんなもん俺には……。


「麻薬の原料だが……なにするんだ?」


 あ、麻薬の……って! それはそれでまずいだろ。

 でもなんもないしさっさと止めないと……。

 考えているうちにさらに血祭りに上げられている犠牲者が……。

 ……ええい! どうにでもなれ!


「いけ! マンドラゴラ!」


 生属性の魔法をイメージする。

 鮮やかな緑の光が種に移る……ん? なんか違う。

 そしてそれを投げる。

 床に落ちると同時に爆発的に根っこが伸びて、あっという間に部屋の中がジャングルっぽくなった。

 種が落ちたところには大きな蕾(ハンマー投げのハンマーくらいの)が生まれていた。

 ……あそこからなんか出てきそうなんですが。


「……マンドラゴラってどんな植物なんですかね」


 泣きついてきたお兄さんは耳を塞ぎながら答えてくれた。

 よくみればほかのお兄さんたちも耳を塞いでいる。


「テメェそんなこともしらねぇのか!?

 叫び声聞いたら死ぬぞ!!」


 あ、やっぱそういうとこは……。

 蕾が開いて中から小さな人の形をしたものが出てきた。


「アルちゃんひっさしぶりーー!!」

「フェネちゃんもー」


 そして黄色い声が聞こえた。

 どういうことだろう?

 フェネとマンドラゴラが話しているように見えるのですが。

 いや、実際に会話してるな。

 てかあれほんとにマンドラゴラなのか?

 ちょっと解析してみようか。


『アルルーナ』……マンドラゴラ亜種。種、もしくは未成熟のマンドラゴラに魔力を与えると生まれる魔物。人に寄生し精気を吸い取るため危険度はSランク。種は幻覚作用などがあり、麻薬に使われる。また、使い方次第では様々な病の治療に使える。


 いろいろと危ないということは解った。

 さてどうしようか。

 強面のお兄さんたちが冷や汗かきながらこっちを見てんですよ。


「すみません、上の部屋使ってもいいでしょうか?」


 話しかけたお兄さんがビクッっと震えた。


「ど、どうぞ」


 よし、許可はもらえた。


「フェネ、ちょっと来なさい」


 俺たちは2階の部屋に行って少し話し合いをすることにした。

 危なそうなマンドラゴラを抱えて。


---


 協議の末に俺は、「緊急時を除いて人を殺めてはいけない」という条件をフェネにつけることに成功した。

 ただその代償に今度はアルルーナのアルが俺の頭に乗っかる(寄生する)ことになった。

 なんでもある程度成長するまでは、自由に動き回れない+定期的に精気を吸収しないと枯れてしまうから、だそうだ。


 正直こんなことはしたくない。

 精気つったら生命力のことじゃん、寿命みたいなもんじゃん。

 でも俺のせいで人が死ぬと変なストレスがたまる。

 だから仕方ないのである。


 それにしても、フェネは燃えて転生、アルは種になって転生。

 どんだけ生きてんだこいつら。

 そもそも死ぬのか?


---


 頭にアルを乗せて――傍から見ればマンドラゴラに寄生された危ない人でしかない――俺は会談を終えて階段を降りた。

 せめてパラサイトがライトハンドに寄生して超人的な能力が手に入ったほうが……言っても仕方ない。


 階下に降りると強面のお兄さんたちが物々しい雰囲気で整列していた。

 なんだ? ヤる気か?

 と、思っていたら。


「兄貴! さきほどはすいやせんしたぁ!!」


 一斉に床に手をついて頭を下げた。

 なんだろうね。

 こういう人たちと関係を持つだけでも問題だと思うのだけども。


「いやぁ、まさかあれほどお強い方とは露知らず――」


 なんかもう聞く気はないけどさ。

 これってもう断れない感じじゃん、逃げらんないじゃん。

 俺、いやだよ。こんな変なのと関係もつの。


 それにしても長い。

 こいつどんだけ褒めちぎれば気が済むんだか。

 なんだか、そろそろ鬱陶しくなってきた。


「――なのでこれからボスと呼ば」

「俺、やることがあるのでこれで」


 さっさと終わらせて出て行こう。

 きっとそれが一番いい選択だ。

 正座している強面の間を通り抜けて出口へと向かう。

 だが。


「待って下せえ、何をやるんですか」


 何を? 怖い人、もといベインに言われた、城壁を壊せを実行するんだよ。

 そのまま言ってやろう。


「ここの城壁を壊します」


 言った途端にざわつき始めた。

 そりゃ城壁とかって大事なもんだから、それ壊すって言ったらねえ。


「ボス! あっしらも付いて行かせて下せえ。

 ベインさんを恐れないその――」


 聞かずに建物から出た。

 ああいうのには付き合っていると日が暮れる。


 今度は大通りを歩くと人垣が自然と割れる。

 あ、やっぱり頭のコレが原因なんでしょうね。

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