脱走、そして捕獲
『空属性魔法Lv.1の登録が完了しました』
俺はその声を聴くと同時に牢屋の壁をすり抜けるイメージをした。
空間に関するなら壁抜けくらいできるだろ。
そう思ってのことだ。
そしてなによりも看守たちと真っ向勝負は避けたい。
「フェネ、お前はどんすんだ」
「……仕方ない」
フェネが光の粒子になって俺の中に入ってきた。
え? これってどういう……。
『ぐずぐずしないで早くいきなさいよ』
頭の中に直接声が響いた。
なんかよくわからないけど壁をすり抜けた。
そして細い路地に出て。
「なんだテメェ!?」
「アァ!」
「オイオイ、ここはガキが来ていい場所じゃねぇぞ」
あ……、いやこれはないでしょうよ。
壁のすぐ向こうがYAKUZA的な人たちの溜まり場ってのは……。
えっとこういう場合は……。
たたかう
はなす
→にげる!!
「あ、えーと、なんか間違えました、さようなら」
アキトは にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!
「おい、われぇ! どこのもんじゃぁあ!」
「ヒィッ!」
どうする! どうする!! どうする!!!
…………。
………。
あ、そうだ、フェネがいるじゃん。
「フェネ! ……ヤッテシマイナサイ」
テンパって変な口調になったけど、これで……。
『あんたの言うことなんて聞かない』
……それはないっしょ。
「おい兄ちゃん、腹ぁ括ってぇもらおうかぁ」
「あ……えっと…………」
さすがに3対1はまずい……。
なにをやってどこを移動したかは覚えていない。
多分、20分くらいは全力で走ったと思う。
ヒキニートが裸足でよく頑張ったと思うよ。
気づいた時にはどっかの倉庫の中の木箱に入ってたし。
『アワード、狂乱者を獲得しました』
そんな声が聞こえたけど、今はどうでもいい。
「おい、見つけたか」
「まだだ。どこに行きやがったあのガキ」
「親分、地下にはいませんでしたぜ」
「あとは2階だけだ、探せぇ!」
詰んだな。
これは詰んだ。
どうやら俺が隠れた木箱は、別のYAKUZA的な人たちの倉庫の中のものだったようだ。
だって今、俺が隠れてる木箱にも白い粉が入った袋がたくさんあるのだから。
ああくそっ! どうする。
なんか方法は……粉、粉? 粉といえば粉塵爆発。
確かネットで見たやつじゃほこりとかがたくさんあるときに火をつけるとドカン!
だったな。
やってみるか。
ただ、誰かさんみたいに自滅しかけるのは嫌だから……。
---
キィと木の軋む音がしてドアが開いた。
「ッ!! いたぞーーー!!」
よし、天井には粉の入った袋を触手で吊るしてある。
それぞれの袋には爆破の魔法を、俺の足元には水の壁が出てくる魔法を発動寸前で待機させてある。
後は怖いお兄さんたちが来たところでドカン! だ。
ドカドカ足音が響いて集まってきた。
「おい小僧、盗み食いは――」
「吹っ飛べ!!」
一瞬で水の壁が俺を包む。
袋が爆発して粉が撒き散らされる。
「うわっ。おいてめぇ、貴重な――」
そして部屋の真ん中あたりに点火!
「空間離――」
ものすごい光の爆発が起こって、すべての音が吹き飛んだ。
なんか詠唱みたいなのが聞こえたけどこれなら。
「うぐ……」
なんか内側から引っ張られるような感じが……。
あ、そっか確か某サイトで見たな。
爆発のあとは気圧が一気に下がるんだったか。
あれ? ちょっとまて、なんで? 爆発したのに部屋が崩れてない?
それになんか炎がだんだん弱くなってないか?
「やってくれたなクソガキ」
「なんで……」
「空属性をなめんじゃねぇ!」
親分的なやつが立っていた。
そいつ以外はみんな倒れている。
1対1なら……。
火炎弾を使うために腕を突き出す。
そして相手も同時に詠唱した。
「空間離別」
俺の手から放たれた火炎弾は相手にあたる寸前で壁に当たったかのように止められた。
「なっ……」
「テメェどこのもんだ?」
「セインツです」
「そうか、なら死ね」
なんか聞かれたからそのまま答えたけどこれってやばいね。
さあ、マジで詰んだか?
『さっさとやりなさいよ! あんたが死んだらあたしまで道連れなんだから!』
「(なにやれってんだよ!)」
『相手はレベル5のシングル。だったらあんたの複合魔法で吹き飛ばせる』
「(どういうことだよ?)」
『魔法は相性の悪い属性をあてるかより強い魔法で壊せる』
「(ああ、そういうやつ)」
あの堕天使はそういうとこ、教えてくれなかったな……。
まあ、いいか。
もう一度、腕を前にだす。
火属性の爆破と空属性の空間に干渉する特性を混ぜた魔法を放つ。
なにが起こるか分からないけどやってみないとな。
「喰らえ!」
「空間離別!」
今度は壁のようなものに当たった瞬間、空間が砕けた。
なんかそこだけ真っ黒な穴が開いている、としか表現できない。
そして、穴が塞がると敵がいなくなっていた。
「やった? ……のか」
『うん、やったよ。それと……あんた、魔法の属性じゃなくて特性を混ぜたの?』
「そうだけど。それがどうかしたか」
『普通の人はそういうことを思いつかないんだけど……』
「え、そうなのか。でもゲームとかじゃよくあることじゃん」
『はぁ、呆れた。さっさと城壁壊しに行きなさい』
呆れられても困るんだがな。
だって俺の知識は大半がゲームとネットだからな。
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建物からでたところでさっきの3人組と鉢合わせしてしまった。
「あ……」
「いたぞぉぉぉーーーー!!」
気づけばまた全力疾走していた。
細い路地に入って角を曲がって大きな通りに出て路地に入ってを繰り返す。
チラリと後ろを振り向いてみる。
6人。
増えてる!?
――まずいなこれは。
その後も何度も角を曲がる。
だんだんと方角がわからなくなり、仕方なく大通りに出て城壁を目指して走る。
そして追手が見えたらまた路地に入るなり角を曲がるなりする。
またチラリと振り返ってみると。
16人。
「くそ! くそっ! くそぉー! ちくしょーー!!」
『少しは頭使いなさいよ』
「具体的になにしろと!?」
『水属性で地面を凍らせるとか、火属性で地雷を設置するとか』
「なんで思いつかなかった俺ぇぇぇーー」
次の路地を曲がると同時に地面を凍らせる。
後ろから追ってきたやつらは滑って転倒した。
「小賢しいやつめ!」
「よし! ……うおわっ!」
足元をよく見ずに走っていたら泥沼にはまってしまった。
なぜこんなとこに泥沼が?
「こんどこそ仕舞ぇだ!」
あいつらが設置したもんかよ。
まずい、さっさと抜け出さないと……。
なんかもがけばもがくほど、どんどん沈むだけど。
『吹き飛ばしなさい!』
小規模の爆発を起こし、泥を吹き飛ばし脱出する。
だがその頃には追手が増えてきてしかも近づかれている。
じり貧だ。
「さあて、覚悟しろや」
「これでもう逃げらんねぇぞ」
いつの間にか前にも回り込まれていた。
前と後ろから挟まれ、逃げ場がなくなる。
だが壁抜けが出来る俺には逃げ場はまだある。
「ははは、さらばだ諸君」
ちょっと挑発して壁を抜け……。
「なんだ! テメェ!?」
「あ、すんません。間違えました」
なんでここって、こんなにYAKUZAな人が多いのかね?
すぐさま、もう一度壁抜けをしようとして肩を掴まれた。
「おいおい土足で踏み入って、はいさようならはないだろ」
怖い怖い! フェネさんHELP ME!
『……』
なんで何もなにも言わないの!?
そのままずるずる引きずられて地下室に叩き落された。
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……まずいですねー。
地下! 地下ということは壁抜け不可能!
天井抜けでもしてやろうかと思ったけどなぜか通り抜けられない。
てかそもそも魔法が発動してないような感じだ。
「げほ、げほっ」
少しは掃除しろよ。
かなり埃が積もっていて、端のほうには折れた剣とか壊れた椅子とかの粗大ごみが捨ててある。
さっきまでいた牢屋のほうが綺麗だったぞ。
さて、どうやって脱出する?
爆発を起こすか?
いやこれはノーグッドだ。
魔法がどういう原理かは知らんが火を出せば酸素がなくなるだろうな。
水で……これもNGだな。
俺が溺死する。
なんかないか?
ふと魔導書が視界に入った。
嘘だらけの魔導書、信頼できるのはステータスと地図だけ。
【霧崎アキト】
種族:人間
職業:ニュービーマジシャン
【スキル】
解析Lv.9
魔力吸収Lv.9
魔法妨害Lv.9
【召喚獣】
バハムート(魚型)
フェネクス(強制契約)
【魔法】
火属性Lv.4
水属性Lv.3
生属性Lv.9
空属性Lv.1
破壊力:C
速度:C
射程:C
持続力:魔力次第
精密動作:精神力次第
魔力総量:A
成長性:???
あ、そういえば解析スキルあったんだ。
天井抜けできない原因がわかるか?
さっそく天井に使ってみた。
『耐魔レンガの天井』……すべての魔法を無効化する
なるほどね。
ついでに壁と床にも使ってみた。
『耐魔レンガの壁』……すべての魔法を無効化する
『耐魔レンガの床』……すべての魔法を無効化する、空間を耐魔レンガで囲んだ場合その中での魔法行使は不可能
……さあーてどうしようか。
魔法はダメ。
ならバハムートやっちゃう?
でもこれやると瓦礫で俺が生き埋めになるな。
というか召喚できるのか?
…………。
光がある、ということは窓があるはずだ。
斜め上を見れば頑丈そうな鉄格子付きの窓があった。
さすがにあの隙間からは出られないな。
………マジでどうしよう?