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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第1章 激動と波乱
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気絶と拉致と

 気付けば夜。

 宿屋の隅の部屋のベッドで目が覚めた。

 誰かが運んでくれたんだな。

 あのまま放置とかじゃなくてよかった。


 そして布団の上にごそごそ動く気配。

 また来たか、素っ裸の美少女。


 俺は天井に触手を配置する。

 どこぞの誰かさんみたく、拘束した後に凌辱はしませんよ。

 俺は紳士だから。

 寝ているふりをしてターゲットがマウントポジションに着くのを待つ。

 

 ………。

 ……。


 今だ触手ども!

 瞬間、触手の悲鳴が聞こえたような気がした。

 俺はどこぞの中二病の王様じゃないぞ。


 目を開けてみれば燃える触手、赤色に煌めくターゲットの拳。


「なに!」

「死ね」


 (ウォーハンマー)が振り下ろされた。

 今度は2発殴られたあたりで骨が悲鳴を上げた。

 

 魔法を使って脱出を試みる。

 水を作って爆発させ、吹き飛ばす。

 視界が揺れるが無理やり立って、迎撃するために構える。

 水の塊を撃ち出したがターゲットはいない。


「どこ行った!?」


 言った瞬間、下からアッパーカットを食らった。

 バランスを崩したところに足払いを掛けられ、倒された。

 さらに膝で両腕を抑えらえれ、

 あっという間に再びマウントポジションを取られた。

 

 まずい! 非常にまずい!

 これは殺される。


 レイズの爆裂を真似て大爆発を起こした。

 部屋が消し飛んだが今はどうこう言ってる場合じゃない。

 横に転がって、起きようとしたところで胸を蹴られ、

 顔面に(パイルバンカー)が振り下ろされた。


 一撃で視力がなくなった。

 その後も連続的な打撃音が響き、

 俺の意識は奈落の底に叩き落された。


---


 目覚めると窓から光が射していた。

 病院のようなところのようだ。

 レイズが俺をのぞき込んでいた。

 顔には玉のような汗が滲んでいる。

 そして周りには緑色の燐光が待っている。

 隣には手に緑色の光を灯したくすんだ金髪の若い男がいた。


 緑色って生属性の色だよな。

 ってことは回復魔法か。

 もしかして俺って瀕死の重傷?


「――――――」


 男が深刻な表情で何か言った。

 何言ってんだ。

 ボンヤリとしか聞こえなくて、内容が全然わからない。


「―――――」


 レイズも何か言ったが全然わからない。


「――――――――」


 視界の外からも声が聞こえた。

 これは多分キニアスの声だ。


「……う…ぁ……ぁ」


 声を出そうとしたが口から出たのはうめき声のような音だった。

 もしかして声帯をつぶされたか?

 とりあえず起きるか。

 ……体が動かない。

 指先や腕、足の感覚もない。


 もしかして脊髄が損傷してる?

 達磨は……ないと願いたい。

 が、あの(きょうき)で何度も殴打されたからその可能性は十分にある。

 もしかしたら顔の形がなくなっている可能性だって……。


「―――――――」


 レイズが何か言って、俺に桃色の光が降りかかった。

 そして強烈な眠気がきた。

 俺は抗うこともできずに意識を手放した。


---


 空が暗くなったころまた目が覚めた。

 今度は頭を動かすことができた。

 あいにく体はまだ動かないが。


 横を見れば竜人族の少女が椅子に座ったまま寝ていた。

 器用だな。

 そして膝の上にニワトリが……もといフェニックスがいる。

 青色の縄で厳重に縛られ、鉄球に繋がれている。

 鳥にそこまでする必要は……いやコイツならあるか。


 それにしても体が動かないのは不便だ。

 自分で治すか。

 適当に3つ合わせてレベル100の治癒を使った。

 どこからともなく緑色の光が溢れてどんどん俺の体に入っていった。


「ん、起きたの」


 光があまりにも眩しかったのか竜人族の少女を起こしてしまったようだ。


「どうも」

「とりあえず、今回の件はあんたも悪いしコイツ(フェニックス)も悪い」


 よくわからん。

 俺は鳥じゃなくて人に殴られたはずだ。


「どういうことだ?」

「こういうこと」


 少女はフェニックスを持ち上げると、火を付けた。

 フェニックスは一瞬で燃え上がり、その炎はすぐに人の形になった。


「え?」


 そして炎が収まるとそこには例の全裸がいた。


「ピギャーーーーアアーーーーーーーーー」


 我ながら情けない叫び声だったとは思う。

 だがな、脳裏に恐怖がフラッシュバックした俺にはどうでもいいのさ。

 ガラスがびりびり振動するほど叫んだあと、ベッドから転がり落ちて、

 ドアに思い切り走った。

 そして弾かれた。

 ゲートに入れなかったときと同じように押し戻されたんだよ。


「そんなに怖がらなくても……あ………気絶した」


---


「というわけで第……えーと何回目だったかな?

 まあいい、被害者の会を開会しまーす。」


 気付いたらどっかの平原にいた。

 真っ白な龍が円を描くように体を横たえ、

 その内側に俺たちはいる。

 白い少女、レイズ。セインツのリーダー。

 竜人族の少女、クレナイ。通称レナ、紅龍隊のリーダー。

 優男、キニアス。

 臙脂色の軍服野郎、ウィリス。ラグナロクのサブリーダー。

 くすんだ金髪の男、ヴァン。ラグナロクのリーダー。

 黒髪ピアスDQN風の男、ベイン。ヴィランズのリーダー。

 そしてニワトリ……もといフェニックスで現在全裸のフェネ。

 それがすぐ隣にいる。他にもやばいのがたくさんいる。

 

 変なところが変な反応して大変なことになりそうだ。

 具体的に言えば、

 本能的なところが拒否反応起こして幽体離脱して逃げ出しそうだ。

 つまり恐怖で死にそう。


「あ、あのーなんで俺がこんなとこにいるんですか」

「気絶している間に運んだ」


 さらっとレイズは答えてくれたよ。

 それを拉致もしくは誘拐っていうんですよ。


「もう帰っていいですか」


 いろいろと自己紹介されたけど、

 一人ひとりがそれなりにやばい人だったし、

 なんか敵勢力のリーダーまでいるし。

 俺がここに居ていい理由が見当たらないんですよね!!


「ダメだ」


 マジで!? なんで!?

 俺の恐怖ゲージがそろそろMAXに達しそうなんですが!!

 そもそもなんでここに運ばれたのかすらわからない。


「おいおい、僕だって始めて拉致られたときは混乱したもんさ。

 だからちょっとくらい息抜きさせてやってもいいだろ。

 それに()()()()も来たみたいだしな」


 ナイスだキニアス!

 俺をこのよくわからない空間から連れ出してくれ。

 そう思って期待の眼差しを向けた。


「よし、行って来い。他もいいな」


 周りのやばそうな奴らは皆頷いた。

 よっしゃぁ!

 そうして俺とキニアスはわけのわからん空間から解放された。


---


 そして、


「イザヴェルじゃねぇか!!」


 すぐ近くにあの石柱があった。


「大声出すな。お客さんが来たぞ」

「はい? 客?」


 100mくらい離れたところに明らかにおかしい奴らがいた。

 中二病じゃない俺でも分かるほどオーラ的なものを纏っていた。


「あのーキニアスさん。あれはどちら様でせうか?」

「チャーチっていう戦闘狂の集まりだ」


 お客さんって言ってたけどあれがほんとに客か?

 なんか今にも殺し合いを始めようって感じだけど。


「ほら来るぞー、構えろ」


 キニアスは至極面倒臭そうに言いながら銃をぶっ放した。

 それで一人の頭が吹き飛んだ。


「え!? 敵なのか」

「当たり前だろー、お前はこっちを頼む。

 僕は反対側をやるから」


 キニアスは龍の体に沿って反対側に行ってしまった。


「はぁ……なんだかなー」


 ほんの数日前までは引き籠もりでネトゲばっかやってたはずなのになー。

 恋人パソコンと一緒にあったかーい部屋でぐーたらしてたはずなのになー。

 あのわけのわからん爆発さえなければこんなところには来なかっただろうなー。


 いやもういいよ。

 どうにもなんねーよ。

 さて目前の敵を観察しようか。


 顔を上げて前を見た瞬間、空が見えた。

 殴られたってことはわかった。


「あひゃひゃひゃ」


 おいおい、冗談じゃねえぞ。

 ネットでしか見たことないけど、

 この顔は薬やってる人の顔じゃねえか!


『一応言っとくけどな、そいつら常習者だから』


 いきなりレイズの声が頭の中に直接響いてきた。

 今更遅いっての。

 ってかどうやって話しかけてきてんだ?

 まあいいか、今は目の前のやつをなんとかしないとな。


「イッ、イヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」

「せいやぁっ!」


 殴ってきた薬中を魔法で吹っ飛ばして気絶させる。


「次は……あいつらか」


 俺は昨日の触手で思いついた魔法を使ってみた。

 燃え盛る植物の蔓をイメージして種に魔法を掛けてばら撒く。

 威嚇程度にはなるだろうと思う。


 種が大地に落ちると地面が割れた。

 そしてそこから焼けた鉄のように真っ赤な触手が姿を現した。

 予想以上に危なそうなのを出してしまったな。


「ぎゃああああっ」

「迎撃しろー!」


 魔法で俺の可愛い触手たちが切り刻まれるが流石俺の触手。

 3人も絡めとってそのまま丸焼き……。

 やりすぎだ!

 やめろ触手ども!

 意に反して触手はさらに締め付けを強める。


「くっ……」


 ゲームでいくら殺しに慣れているとはいえ、俺はごく普通の引き籠もりニート。

 ごく普通の一般人なのだ。

 現実(リアル)でこういうのは変なストレスが溜まる。

 人としてやっちゃいけないことしたときのような何かが。


 残った一人は逃走を始めた。

 俺は手を銃の形(親指と人差し指を伸ばし、中指、薬指、小指を曲げて手の平にくっつける、あの形)にして火炎弾を撃った。

 当たった敵は前のめりに倒れて動かなくなった。

 かなり弱めにしたつもりだから死んではいないと思う。


『次、南側から50』

「は?」

『さっさと行け。それと躊躇うな、躊躇ったらいつかは死ぬぞ』


 なにこれ?

 俺ってパシリのヒットマンか?


 生体磁石に従って南のほうに行くとキニアスが1人で銃をぶっ放していた。


「なにやってんの?」

「見て分かれ」


 キニアスがぶっ放している方向は何もない平原。

 しかも使っている銃は見たこともない古い型のライフル。

 スコープなんて付いてない。


「マジで何やってんの」

「お前目が悪いな」


 それがなに?

 確かに俺は目が悪いよ。

 ヒキニートやってたころはいっつもネトゲ、ネトゲ、ネトゲのオンパレード。

 最後に視力測ったときは0.05だったもん。

 だけどそれがなに?

 俺の目が悪い事と何か関係があるの?


『狙撃してんだよ。ちなみ勘で㎞クラスの狙撃するからな』

「マジで……」

『1つ話すならハンドガンでカウンタースナイプしたっていう武勇伝があるな』

「ハンドガンって50mくら」

『細かいことは気にするな』

「へいへい」


 それきり会話が途切れた。

 俺はキニアスがぶっ放し続けている方向を見ているが全然どこを撃っているかが分からない。

 そのまま1分くらいがすぎたころ。


「終わりだ」


 キニアスがそういって銃を肩に担いだ。


「はぁ、つまらんな」

「それが人を殺して言う事かよ」

「ああ、そうだね。僕としては、彼らは人と言うよりも戦闘機械のようなものだからね」

「だからって!」

「いいか、躊躇ったら僕たちが死ぬんだぞ」

「だからって殺さなくても――」


 俺はいくら敵があんなだからって殺してしまうのには抵抗があった。

 もう何人も潰したりしてしまったけど、でも殺すのには抵抗があった。

 いままでに溜まっていた変なストレスにキニアスの一言で爆発寸前になった。


『黙れ、新入り(ニュービー)ども。

 喧嘩するなら次元の狭間に叩き落としてやるからそこでやれ』


 ベインの低い声が響いた。

 見た目も然る事ながら声も怖い。

 俺たちは怯んだ。

 爆発寸前だった変な感情も一瞬で引っ込んだ。


『おいベイン、落としてもいいが回収はお前がやれよ』

『レイズさんよぉ、あそこからのサルベージは非常に面倒なんだ。

 俺がやるわけないだろ』

『そりゃそうか。でもニブルヘイムあたりには落としそうだな』

『やらねーよ。あそこはあそこで寒すぎる。まあ、ヨトゥンヘイムには連れていくがな』

『ああそうだったな。罪状は何にする? 痴漢か? 強姦未遂か?』


 なんか不穏な単語がいくつか聞こえたんですが。


 龍の体が消えてベインこっちに来た。


「と、いうわけなのだよアキト君。

 気絶と移動ばっかりで悪いな」


 明智君的なノリで言わないでほしい。

 こうして俺の意識はまたも沈められた。

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