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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第1章 激動と波乱
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飛ばされた先で

 なあ、さっきまで”確かに”俺は自分の部屋でカレーを作っていたはずだ。

 寮の一室、如月寮という名の実質俺の引き籠もり場所で。

 証拠は右手に染み付いてるカレーの匂いしかないけど。

 でもなんで”こんな”ところにいるんだろうか?

 全く理由が分からないのだがな。

 早く帰ってコンロの火を消さないとカレーが焦げるよな。

 いや、もう焦げてるだろうな。

 だってもう十回くらい同じ自問自答をしてんだぜ?

 ああ、それにしてもカレーを食べたら新発売のVMMMOにダイブする予定だったのに!

 発売日に届くように予約して事前登録までしてたのに! 


 ああもう、覚えているのはフツーにカレー作ってたら上の部屋から騒音が聞こえていきなりピカーって光って、ドゴンッて音がして、気付いたらここに居る訳じゃん。

 服はところどころ焦げて……まさか爆発して俺死にました?

 いやいや、そんな訳はないでしょうよ。

 だってホントに死んでるなら天国に行ってないとおかしいでしょ。

 毎日毎日フツーに(昼頃に)起きて飯食ってゲームして飯食って、

 ゲームして(朝に)寝て……。

 

 うん……天国行きの理由がないね、自分でも分かってます。

 ………ってことはよ! ここって地獄ですか!?

 空はなんかこう、今まさに魔王が復活して世界に災いが! って感じの空だし。

 地面はフツーに草が生えてるけど、ところどころに骨が……人の骨が……。

 もう嫌だ、マジで地獄じゃんここ、もう死にたい。

 いやもう死んでるんだっけか。

 

 ……………。

 …………。

 ………。

 

 やることがない、暇だ。

 どうせ死んでいるのなら怪我とか空腹とか気にしなくてもいいだろ。

 いっそこの地獄を踏破してみるか!

 そんなことを思って立ち上がった矢先、

 人骨が動き始めて人の形になった。

 

 これって、よくゲームで出てくるスケルトンっていう魔物ですかね?

 黒い光がスケルトンの手元に集まって剣が出現した。

 やばくない? やばいよね? これ斬られるよね?

 身構えた瞬間、スケルトンは斬撃を放ってきた。

 俺はそれを華麗に躱してやった。

 伊達にVMMOやらFPSやってねえよ、反射神経なら誰にだって勝て……。

 スケルトンの二撃目が俺の皮膚をズシャァッ!

 雨風にさらされたようなぼろぼろの剣を避けられませんでした。

 やっぱそれは指先の反射神経がってことで……。

 っていうか、そんなことよりも血! 血が出てるよ!

 

 あれ? 俺って死んだんじゃなかったっけ?

 でも血が出てるってことは生きてるってことであって……。

 つまり、まだ生きていて、ここで斬られると普通に死ぬってことですね。はい。


 「Noooooooooooooooooooooo」

 

 死ねるかぁぁぁーーーー、まだ死ねない、死にたくない、走る、走る。

 ああ、草が生えててよかった、裸足じゃ痛いもん。

 バキッ。

 なにか踏ん…だ?

 うわ~、頭の骨踏み砕いちまったよ。

 ごめんなさい、俺を恨まないで。

 そんな思いが通じなかったのか、地面から次々と骨が出てきてスケルトンになっていく。


 やばい! やばい!! やばい!!!

 なんかもう剣以外に弓とか杖とか持ってる奴までいるよ!

 矢とか魔法とか飛んできたらどうしたらいいんだよ!?

 いやいや、そもそも、もう囲まれてるし………土下座でもしたら許してもらえますか?


「すみませんでしたぁ!!」


 ドスッ!

 全力で土下座した瞬間、変な音がした。

 あっれぇ? おかしいな、背中がもの凄く熱い。

 頭だけ上げてみると、スケさんの剣が刺さってました。

 地面に頭を擦り付けながら考える、考える、考える。


 ど、どどど、どどどどど、どうしよ、どうしよ、どうしよう。

 ボキボキ、ジャリジャリ、グサグサ。

 考えている間にさらに嫌な音が聞こえてきた。

 俺の体、今どうなってる? ちゃんと形あるよね? 生きてるよね!?

 どんどん意識が沈んで行く。

 ああ、俺こんな訳わかんないとこで死ぬんだ。

 緩やかな風がふわーと吹いた。

 こんなところでも気持ちいい風が吹くんだ。

 最期にそんなことを思って目を閉じた。


 さようなら俺のニート人生、さようならゲームのギルメン達よ。

 パシィン!

 そんなことを思った瞬間、平手打ちを食らった。

 骨じゃない、人の手だ。


「はいはい君、なんでこんなところにいるのかな?」


 女の人の声だ。


「あれ? もう死んでるかな。仕方ないか、燃やしちゃい……」

「生きてます!! ばりばりに生きてます!!」


 生きながらに焼かれるなんて御免だよ!


「あらそう、だったらちょーっと動かないでね」


 そう行って女の人は俺の背中を触って……


「いってぇーーーーー!!」

「動かないで」


 無理やり押さえつけられた。

 痛い、痛いって!!

 あれれ? だんだんと痛みが引いてきた魔法ですかね?

 さっきのスケさんたちも魔法の杖的なもの持ってたし。


「はい、これでよし。傷は塞いだから、大丈夫!」


 大丈夫! 

 そんなこと言われても、ホントに大丈夫なのか信用できないんですが!


「それで、なんで君はここにいるのかな?」


 女の人の姿をよく見ると、ダボダボのジャージを着ていて、背中には真っ黒な天

使? の翼が四枚ついていた。

 はっ! 天使! ということは俺はこれから天国に召され……イコール死ってことっすか?

 いやいや、第一に天使と言ったら白い翼……黒い翼っていうと堕天使……。


 ……もしかして、さっきのスケさん達よりも厄介なんじゃないですかね?

 このまま地獄の底まで連れていかれてアーーーーーなんてことにならないよね?

 まあ、とりあえず聞かれたことは答えておかないとな。


「自分の部屋でフツーにカレー作ってたらピカーってなってドカンッで、

 気付いたらここにいました」

「なにそれ? ここって簡単に入ってこれる場所じゃないんだけど」


 女の人は考え込んでいた。俺だってそれ以外に言いようがねえよ。


「とりあえず、まずはここから出ましょうか」


 そういって、腕を前に出して何かを呟くと空間に真っ黒な穴が開いた。

 ブラックホール……な訳ないよね。ワープゲート的なやつだよね。


「ほら、さっさと入る」


 急かされて、穴に入ろうとしたら磁石が弾き合うみたいな感じで押し戻された。


「あれ? 入れねえ」


 もう一度入ろうとするが弾かれた。


「うーん、これは……完全にこっち側に登録されちゃったかー」


登録? 何言ってんですかこの人、いやこの天使、じゃなかった堕天使は。

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