「御客人」様・・・なのか?
突然だが、この村には偶に『御客人』がやって来る。
しかし、一般的な意味ではない。その意味はこの村以外では恐らく、いや絶対に通用しないだろう。
この村では「異世界からの来訪者」を、通称として『御客人』と呼んでいるのだ。
原因を初めとして、判っている事は殆ど無い。ただ、どんな世界の住人であっても言葉だけは通じるのだから「もうそれでいいかな」とも思う。
ぶっちゃけ、頭の良さそうな政府の人間が、どれだけ調査しても解らないなら、考えるのも無駄だろう。
そこまで考えて、現実逃避も時間の無駄だと溜め息を付いた。
そして、―そして目を逸らしていた方向に目を向けた。
「あのさ、俺の言葉、分かる?」
答えは返ってこない。
それはそうだろう。今まで色々な形態の『御客人』が来たが、完全な獣の姿は初めて見る。
そう、目の前にいるのは、紛れもなく獣、しかも(恐らく)狐の姿をしていた。
異世界ではなく、単なる裏山の住人(動物)かもしれないと、脳裏を過ぎったが、敷地内に現れた場合は一応声掛けするのが暗黙のルールだ。
しかし回答が無い分迷いが生じる。
やはりここは誰かの助言を受けるべきか、と家の方をチラリと見やれば、タイミング良く祖父が庭に出ている俺に気付いた。
流石年の功と言うべきか、祖父は俺と獣を目にするなり状況を察したらしく、呆れた様な目を向けて来た。
「いやほら、狐なのは見たら分かるんだけど、万が一って事もあるかなって」
「阿呆。―ウチの馬鹿孫が失礼した。此処はあなたに危害を加える者はおりません。恐らく居られた世界とは違う所にございます。この村には、古来よりそういった方々が一時的に訪れて来られますが、その『御客人』が滞在される間は責任を持って村民がお世話しております。お疑いになるのはご尤も。なれど、安全の為に話だけでも聞いて頂けないでしょうか」
お前後で説教だ―と言わんばかりの目線で一言くれた祖父は、いつになく畏まった口調で狐(暫定)に話し掛けていた。
えーでも狐だよなぁ。 説教は嫌だが、祖父のお陰で余裕が出来た俺は、ゆっくりその狐(暫定)を眺める。
毛色は裏山でもテレビでも見る狐と遜色ない。形も恐らく狐。尾も耳も胸元の白い毛も―あれ?
違和感に気付くと今度はソレばかりが目に入る。
「あれ?やっぱり『御客人』?」
「どこの地球に身体に宝石を付けた住人がいるんだ阿呆。もう少し冷静さと観察力を身に付けろ。未熟者が」
お前後で本格的に説教だ―と、呆れを通り越して情けなさを含んだ視線を寄越した祖父に、返す言葉も無く頬を引き吊らせた。
姿は狐。しかしその白い毛に覆われた胸元には、赤い宝石が埋まっていた。
「成る程。あなた方は私に危害を加えるおつもりは無いようですね。詳しいお話をお聞かせ頂けますか」
突然、ここに居ないはずの青年と思われる冷静な声が聞こえた。
まさか、と目の前で「お座り」の体制で鎮座している可愛らしい狐を凝視してしまい、横にいた祖父に溜め息を付かれた。いやでもこれは仕方ないと思う!
「どうかなさいましたか?」
「いえ、この馬鹿孫の事はお気になさらず。庭では何ですので、宜しければ我が家にお入り下さい」
てっきり少年(もしくは少女)という俺的予想を裏切りながら、可愛らしくも小首を傾げた狐の『御客人』な青年(暫定)を祖父が案内する。
まあ、詳しい話はこれからだ。
ところで、やっぱり茶請けは油揚げがいいのかな。
そう思い付いて、祖父にひっそり聞いたら拳骨が落ちてきた。目から火花が散ったかと思う程痛い・・・。
とりあえず、『御客人』一名様ご案内?
願望を書き綴った第二段。もふもふに埋まって癒されたいです・・・。