聖夜
ラストです!
長い戦いもようやく幕が閉じます。
12月22日。
凪沙と晴は朝月に戻った。
戦況は以前として、若干こちらが不利だが、なんとか凌いでいる。
凪沙と晴で、アイスラーに聞いた話を説明する。
「つまり、あの巨大ビルを倒せってことか。」
「そうなりますね…」
「…タイムリミットは12月24日0時00分。実質1日とちょっとしかない。その間にやらなアカンことは…」
宇佐美がホワイトボードに書き出した。
1、巨大ビルの破壊
2、そのためには、敵をなんとかして食い止めなければならない
3、全員の魔力が限界に近いこと
ビルを破壊すること自体はさほど難しいことではない。
しかし、全員の残り魔力や敵の多さを考えると、難易度は飛躍的に上がる。
さらに、一つだけとても重要なことが残っていた。
「緑明先生の救出はどうしますか?」
凪沙が聞く。
しかし、誰も有効な作戦は思いつかず、時間だけが過ぎた。
沈黙が続く中、それを破ったのは晴だった。
「考えてても仕方ないです。こうなりゃ、強行突破しかないでしょ?」
強行突破。まさにそれしかなかった。
「俺たちがしなきゃならないのは、ビルの破壊。敵を倒すことじゃないです。つまり、ビルさえ倒せればいい。ビルの中にいる人たちをなんとかして外に出し、破壊する。それだけです。」
淡々とカンタンそうに話す。
が、カンタンな実際カンタンなことではない。
「なんか、やり方考えてるん?」
宇佐美が聞いた。
「…俺たちはこの基地を放棄します。全員でビルへ向かう。石里先生。ビルの周りに結界は張れますか?」
「…もう魔力が少ないからギリギリってトコかな。」
「全部を覆えなくてもいいです。1箇所でも多く張って、敵の侵入できる場所を一つでも減らしてくれるのなら。」
「…わかった。やれるまでやろう。」
「お願いします。じゃ、次です。」
晴がホワイトボードにビルの図を大まかに書き始めた。
「ビルは50階建て。まず、凪沙。」
「なに?」
「凪沙がまずすることは」
「緑明先生の救出、だよね?」
「あぁ。わかってんなら大丈夫だな。」
「救出したら一旦脱出して、先生を安全な場所に連れて行くね。そのあとどうするの?」
「…魔法を使えるメンバーはできる限り大量に魔力を使わないようにして、敵を気絶させたり、行動不能にさせ、結界の外へ連れて行く。凪沙も戻ってきたらそれに参加して。」
「了解。」
「宇佐美さん。もう、この方法しかないです。細かいことは考えてるヒマがありません。臨機応変に。ってことで、早く行かないと。」
「…晴くん、僕より頭キレるな。よっしゃ、早速ここ出よ。もう夕方や。この敵の数やったらビルまで行くんに一苦労やしな。」
兵士たちを連れ、総勢100と少しの軍勢はビルへ向かう。
途中敵がこちらを襲うが弱い魔法を駆使したり、武器を使って気絶させたりして、なんとか日付が変わる前にはビルへ着いた。
まずすることは結界を張ること。
全員で手伝う。兵士たちがビルの中へ入り、少しでも敵の数を減らしている間に、魔法を使える者で結界を張る。
凪沙は緑明の救出に向かっていた。
階段を上って上って着いたのは30階。
(…誰もいない…?)
敵がいないことを確認し、緑明が監禁されている部屋へ向かう。
慎重に、少しゆっくり目に歩いていると、向こうから足音が。
そっと影から覗くと敵がいる。
凪沙は宇佐美からもらった、睡眠作用のある魔法を閉じ込めたビンを敵の方へ投げた。
パリン!と割れる音がし、一瞬の動揺とその後この階に敵がいると確信すると同時に魔法が効き、そこらにいた数人が眠りについた。
(…よし)
コソッと影から現れ、眠っている敵の横を通過。
次はバッタリと角を曲がったトコで敵と遭遇。お互いビックリしたが、少し反応が速かった凪沙が風系統の魔法を発動し、敵を飛ばして壁に激しく叩きつけられた敵が動けなくなる。
走ってその場を去り、少し走り続けると緑明のいる部屋の前に着いた。
「…やっと…」
部屋にはロックがされていて、暗証番号を打ち込まないと入れないタイプの物だったが、微弱な電流を流して無理やりこじ開けた。
自動扉が開く。暗くてよく見えないが、人がいる。
「…緑明先生…?」
「…その声…涼村か…?」
かなり弱った声をしていた。
「…はい!そうです!先生もなんとか無事みたいですね。」
「一応…生きては…いるよ…。魔力はない…けど」
「先生が無事だっただけで充分です!さ、ここから出ましょう?」
凪沙が緑明に肩を貸して部屋を出た。
部屋を出て外に出るまでの間、いろんな話をした。
緑明は晴が無事戻ってきていることを知らない。
その話をまずすると、やっぱり…とつぶやき、顔には少し笑みが。
仲間が増えたことや、これからの作戦のことを話すとちょうど、1階にたどり着いた。
「先生。外出ますよ。」
「あぁ…。涼村…。大人になったな…」
「え、急に何ですか?(笑)そりゃ、これだけいろいろあれば、大人にもなりますよ(笑)」
「…そっか…へへ。そーだな。」
外に出ると真っ先に駆けつけたのは晴だった。
緑明は晴の変貌ぶりにかなり驚いているようだったが、フっと笑い、晴の頭をくしゃくしゃっとしてお互い温かく迎えた。
一応救出が終わり、結界も張り終え、ビルの中の人を運びだすのはまだだが、一段落ついたので、交代で休憩をとる。
もうすでに休憩に入ったのは23日の朝7時とか、8時だった。
凪沙と晴は一緒に緑明の元へ行った。
緑明はテントの中で休んでいる。
「先生、入ってもいーですか?晴も一緒ですけど」
「お、いーよいーよ。入っておいで。」
少し声に力が戻ってきた。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
凪沙の後ろに晴がついて中に入る。
3人向かい合って輪になって座った。
「じゃあ改めまして、先生、晴!おかえり!」
パアッと笑う凪沙。
晴と緑明は顔を見合わせ、同時に笑って言った。
『ただいま!』
さて、みなさん。この3人の約束…というか、凪沙と晴が緑明にした約束を覚えているだろうか。
「先生。無事戻ってきたんですから、約束、果たしましょうよ!」
「…約束?」
少し考え込んだ緑明がふと思い出したのか、あぁ!と少し声を大きくした。
「えっと、コホン…。凪沙。買い物はまた今度にしよう。」
「わ!全部覚えてた!でも、なんかお父さんみたいな言い方!(笑)」
「え、じゃあやめとくか?」
「いや、そのほーが親しい感じするし、それでお願いします!」
「じゃあ、晴。晴もそれでいーか?」
「ええ、もちろん!親父みたいですけど(笑)」
「晴までそんなことを…(笑)てゆーかお前ホント何から何まで変わったな!」
「元が欠陥人間みたいな言い方やめてください!」
するどいツッコミが入る。
「いや、元から頭はキレるとは思ってたけど、外見までそんなになって…。反則だな。なぁ、凪沙?」
「はぅ!え?」
いきなり振られて焦る。
「凪沙もエラい明るくなったな!」
「そ、そーですか?」
「うん。ずっと親しみやすいよ。」
こんなやりとりをしながら一時間ほど話した。
そのあと、緑明が2人に仮眠を取るよう言い、2人はテントを後にした。
仮眠をとって起きると、お昼1時。
「あ、凪沙。起きた?」
目の前には桜原と戸浦が。
「…おはよ…」
「お昼食べに行かない?」
3人はテントを出て、お昼ご飯の用意がしてあるテントへ。
「あ、男子3人もいる。」
ちょうど、晴と瀬賀と浅瀬がお昼を食べようとしているところだった。
せっかくなので、6人一緒に食べる。
「やっと、終わるんだよね?」
桜原が噛みしめるように言った。
「今度こそ、本当に終わると思うよ。」
浅瀬がそれに応える。
「私はまだ短い方だけど、それでも長く感じたなー…」
戸浦がこれまでの日々を頭の中で思い返す。
「のぞみでそんだけなげーんだから、晴と凪沙ちゃんは相当長かったんだろーな。」
瀬賀がそう言って凪沙と晴の方を向く。
「まぁ、長かったな。俺の場合は一回死にかけてるし。でも空白の時間がちょっとでもあった俺より、凪沙なんかもっとなんじゃねーの?」
晴は凪沙に問いかける。
「うーん…。確かに長かったよ。しんどかったし、イヤだった。でも、朝月を取り戻したいって気持ちはずっとあり続けたから、ここまで来れてる。それは私だけじゃなくて、いろんな人がお互いの助け合いとか、支え合いがあったからだと思うんだよね。だからさ」
と、ココで急に晴が遮った。
「あー、ココで湿っぽいのダメダメ!ありがとうとか、嬉しいよーとかは、最後まで仕事してからな!」
全員一瞬止まったが、そのあとみんなニッと笑い、そうだね!なんて言って笑いあった。
15時から再び活動を再開する。ビルの中にいる人を結界の外へ運び、ビル破壊で被害が出ないよう、細心の注意を払って確認を行った。
敵も疲れてきているため、攻撃が止み、逆にこのまま攻撃を続ければ死んでしまうかもしれない状態になっていた。
流石に自分たちが死ぬかもしれないという意識はあるらしく、攻撃はしてこない。
20時。全ての準備が整った。
「それじゃ、これからビル破壊計画を実行します!」
宇佐美が前に立ち宣言した。
「兵士たちは安全な場所まで避難を。子どもたちは僕と一緒にココに残って最後の仕事、やってもらいます!」
『はい!』
全員が揃った返事を返す。
「それでは全員、持ち場について!」
ダッと全員が走り出した。
兵士たちは結界ギリギリのところまで引き、子ども6人と宇佐美がそれぞれ配置につく。
例の黒いヤツで宇佐美が指示を出す。
「えーか?一斉攻撃でやんで。僕が合図したら、それぞれの場所に魔法打ってや。」
みんなからの返事が来る。
「…じゃ、いくで。Set up!」
みんなそれぞれ魔法発動の準備に入る。
「3、2、1。ーはじめ!」
宇佐美の掛け声と同時に全員一斉にビルに向かって魔法を発動した。
様々な魔法が入り組み、ビルはたちまち魔法の渦の中へ。
しばらく発動し続け、やがて宇佐美のストップの合図がかかった。
全員ストップして、ビルを見る。
「…あれ?」
ガラスは割れ、ボロボロになっている。が、ビル自体は破壊されていなかった。
「…宇佐美さん!これ、どーゆー?」
黒いのを通して、凪沙が宇佐美に聞いた。
「…存在そのものを消すにはもっと力がいるんかもしれん…」
用は純粋にビルを破壊するだけの力が足りなかったのだ。
「…どうしたらいーんや…。」
きっとこのまま続けても破壊には至らない。
日付が変わってしまえば、朝月はなくなる。つまり、自分たちも消える。
そんな考えが頭の中を過った。
「…一つだけ、俺に考えがある。」
黒いのを通して聞こえたのは晴の声。
「正直、この方法しかないと思う。でも、これは賭けだ。もし失敗したり、成功しても破壊できなければ、俺たちは死ぬ。もしかしたら、このまま魔法をぶつけ続けるのが正しいのかもしれない。…でもそれじゃ、時間が足りない。この賭けに乗ってくれるなら、話を聞いてくれないか?」
晴は最後少し弱気な声になっていた。
これまで晴の考えで何度となくみんな助けられた。晴も自信を持っていた。
しかし、ココは自信がないのだ。
晴も流石に戸惑っている。そう感じられた。
「…私は晴の考えに乗るわ。」
凪沙が低く言った。
「晴は何度も私を助けてくれた。今回も助けようとしてくれてる。なら、私のやらなきゃならないことは、晴の考えをサポートすること。どうせこのままだとダメなんだし、ならいっそやることやろう?賭けるだけの価値は充分すぎるくらいある!」
「…凪沙…」
「俺も晴の賭け、乗るぜ。」
瀬賀が明るく答えた。
「僕も乗るよ。」
浅瀬も続く。
「私も乗る!」
桜原が叫んだ。
「…なんか、みんなに先に言われちゃったじゃない!私も!」
戸浦が最後に言った。
残っているのは宇佐美だけ。
「…みんな僕より度胸あるし、知恵も行動力もある。僕大人やのにな。…やからここはやらなアカンな!僕も乗った!」
全員が晴の賭けに乗った。
晴は少し涙声で ありがとう… と、つぶやいた。
7人は同じ一つの場所に集まった。
「俺、この前UNISON魔法のこと調べてたら見つけたんです。絶対魔法。」
絶対魔法。3人以上が集まって発動させる魔法。
人数が増えれば増えるほど難易度も上がる。が、威力や性能も上がるという、ハイリスク、ハイリターンの魔法。
それが故に使う人はいない。
というか、使えない。全員がある程度しっかり魔法を使えないといけないし、協調性がないと致命的だ。
その時の心理状態にもよるし、UNISONと一緒でやはり信頼関係という部分は大きい。
そんなたくさんの壁を乗り越えて初めて絶対魔法は成り立つ。
なので、人が多ければ多いほど難易度が上がるのだ。
もし、失敗すれば朝月はなくなる。
逆にその状況こそが、絶対魔法を成功させれる鍵だとも言えるかもしれない。気分的にはまさに、天国か地獄か。そんな感じだった。
「絶対魔法は相当量の魔力がいるので、成功してもしばらく、長くて一週間は魔法が使えなくなるかもですけど…。…そんな心配より、今は朝月を守れるか守れないか…ですね。」
晴が最もなことを口にすると、みんな笑った。
「さて、時間はないです。」
現在21時。さきほど魔法をかなり使ったので、魔力の回復を待たないと絶対魔法は成功しない。
どうせ賭けなら少しでも可能性が高くなるよう、ギリギリに発動させることにした。
決行は23時50分。
晴が絶対魔法に必要な呪文を全員に伝えた。
呪文を1人づつ唱え、合図で一斉に魔力を解き放つ。
それが絶対魔法の発動のさせ方。
22時。これまでにないほど時間が長く感じられた。
「緊張してんのか?」
晴が凪沙に後ろから声をかけた。
「うん。そりゃ緊張するでしょ?晴だって一見平気そうにしてるけど実はそうじゃない。よね?」
「…やっぱ毎日一緒にいりゃ、お互い見ただけでいろんなことすぐわかんな。」
「あはは(笑)多分世界中どこ探しても、晴ほど見ただけでいろいろ感じ取れる人っていないと思うなー。親よりわかる。」
「俺も凪沙の考え親よりわかる気がする…」
「晴は、私にとって大切な人。相棒。」
「…俺も凪沙は大切な人で相棒だな。」
「晴となら誰だって負ける気がしない。」
「俺も凪沙とならどんな敵だって勝てる気がする。」
「…うん。」
「うん…」
少し沈黙。
『よろしく、相棒!』
全く同じセリフを同じタイミングで言ったので、驚きと同時に笑いがこみ上げた。
それを遠目に見ていたのが他の4人と宇佐美。
「アレで付き合ってねーとかマジか」
「まー2人ともそんなこと考えてなさそうだけどね。今は」
「?のぞみ。今はってどーゆーこと?」
「え?理菜。考えてみなよ?今は戦ってるからそんなこと考えるヒマなんてないけど、終わったら絶対そんなこと考えちゃうよ?」
「あー…。智哉はどー思う?」
「ま、それは今後の2人次第じゃないかな?案外どっちも自分の気持ちに気づかない何てことも充分考えれるしね。」
「そんな2人鈍感かな?」
「鈍感ってワケちゃうけど、かと言って近すぎて気づかんってのはあり得る話やな。」
などと5人、言いたい放題いろんな話をした。
「さ、あと20分で俺たちの未来が決まります。」
時刻は23時30分。全員で集まり、再度確認をした。
「大丈夫そうですね。」
「なー、晴。」
瀬賀が呼ぶ。
「なんだ?」
「折角だしさ、円陣組まねー?」
「…そうだな。こんな時こそそーゆーのいーかもな!」
「だろ?」
ニヤリと瀬賀が親指を立てた。
全員で輪になってお互いの肩に腕をかける。
「じゃ、宇佐美さん。ココは一つよろしく。」
「え、僕なん⁉︎」
「それ以外に誰がいるんですか?」
「…。…はい。」
宇佐美が周りを見回して自分しかいかいとわかったようだ。
「えっとー、それじゃ。僕らの未来のために。朝月の明日のために。全世界のために。突っ走るぞ!」
『オーーー!!!!』
23時49分。
全員が手をつないで輪になった。
静かに時を待つ。
こんなに長く感じる1分は今までも、そしてこの先もきっとないだろう。
あと30秒。深呼吸する。
あと15秒。ゆっくり目を開ける。
あと10秒。お互いの顔をみる。
あと5秒。全員で よし! と声を出す。
あと3秒、2秒、1秒。
ーー0
晴
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
凪沙
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
瀬賀
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
桜原
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
浅瀬
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
戸浦
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
宇佐美
「暗闇の中手を伸ばしたその先の」
全員でスッと息を吸った。
『ヒカリへ!!』
激しい光が発せられる。次にそれは光の渦となり、ビルへ向かう。
あと少しでビルへ当たる。
『いけー!!!』
ビルへ当たった。眩しくてよく見えないが、吹き飛ぶ気配はない。
ビル全体が光に包まれた。
しばらくそのままだったが、やがて、キラキラと輝き出し、光は消えていく…
夜空に輝く星のように…
ちょうど雪が降り始めた。輝く光と雪が絶妙にマッチしていて美しい。
光はゆっくりと上から消えていく。ビルも跡形もなく光と共に消滅し、全てが消えた。
しばらくの沈黙のあと、朝月に歓喜の声が響いた。
みなさん、いかがでしたか?
個人的にはうまく表現できなかった所もあり、残念なこともありますが、ひとまず、書けたことは、大きな一歩です。
何度も言うのですが、これは本編ではなく、前章にあたります。
本当に書きたいのは次のお話。
あと一話後日談を掲載させていただいた後、8月1日から本編に入りたいと思います。
ともあれ、今までひとまずありがとうございました!




