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魔法少女ロザリア  作者: 日向タカト
第二章 誰彼の傲慢
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2-2 黛良太③

 良太と叶が教室に入ると、風邪で昨日欠席していた幼なじみ――白原六花の姿があった。教室の中央が彼女の席だ。

「あ、カナ、リョウくん!」

 六花は良太たちに気が付くと駆け寄ってきた。

 まだ風邪が治りきってないのか、マスクを着用している。

 良太からすれば、叶は姉に近い存在だ。それに対して、六花は妹のような存在だ。身体の一部を除いて小柄な彼女は童顔、振りまかれる愛嬌もあいまって男女問わず人気がある。

 じゃあ、それに対して叶はどうなのか。彼女も六花に負けず劣らず人気を誇っている。大人びた外見から感じ取れる気の強さ、日頃の態度からくるクールさ、しかし話してみれば人当たりの良さが窺える。男子からの人気が高く、一部の女子からも人気がある。現に叶は去年から数人の男女の告白されている。みな全て玉砕しているわけだ。

 そんな二人と幼なじみである良太はクラスの男子から、

 ――この勝ち組め!

 と呪詛を頂くほどだ。

 良太自身、客観的に自分の状況を考えてみれば、美人と可愛い幼なじみがいるわけだから、勝ち組と言われてもおかしくない。

 ――口が裂けても風呂を一緒に入ってた時期があるなんて言えるわけもない。

「よう、りっちゃん、もう大丈夫か?」

 咳をする度に二つのおさげと、自己主張の強い胸が揺れる。

 さすがに胸の揺れが気になるので、視線を外した。

「うん……まだちょっと治ってないけど大丈夫だよ。あ、カナ、学校じゃ、ひさしぶりー」

「ん、久しぶり。幼なじみ三人揃ったね」

 叶と六花が喜んでいる姿をみて、良太は安心した。

 叶が戻ってきたことにじゃない。

 六花が登校してきたことにじゃない。

 この二人と、自分がいる日常が戻ってきたことにだ。叶が事件に遭ったときは不安だった。見舞いに行って元気な姿を確認できて安堵した。

 叶が学校に戻ってきたことで、良太にとって元通りになったはずだった。

 完全に戻ったとは思えなかった。

 それは叶が寂しげに笑うようになったからだ。

 昨日一日考えてみたが、やはりどうしてそうなったのか、そう感じたのかわからない。気のせいと済ませてしまっても構わない。

 ――それでいいのか?

 と問いかける自分がどこかにいる。

 無視するのは簡単だ。

 これまで一緒だった叶が寂しげに笑うなんてみたことがない。悩みがあるのかもしれない、本当に思い過ごしかも知れない。後者ならいい。でも悩んでいるんであれば、解決したい。

 そしてもう一つ、気になることがある。

 昨日の夜、自分が出会った『ロザリア』という少女。立ち振る舞いをどこかで見かけたことがある。黒い三角帽子、赤い唇、暗かったため顔をハッキリとは覚えていない。

 でも、もう一度、彼女に会ってみたい。

 お礼をちゃんとしたいのと、興味がある。

 昨日の夜のことを知りたい。

 あの人狼はなんだったのか、ロザリアは一体何をしていたのか……。

 浮かんだ疑問を一端、保留し、良太は日常に戻る。

「うん、俺は両手に花で嬉しいよ」

「バカじゃないの?」

「わたしも嬉しいかな!」

 六花が笑顔で良太の腕に抱きつく。

 それを冷えた視線で叶が見つめる。

「ふざけんな、黛!」

「黛くんモテモテだねー」

 クラスメイトの皮肉が聞こえる。

 徐々に日常が戻ってきた。

 けど、黛良太の中に生まれたつっかかりは解消されない。

 戻り始めた日常は、本当に以前自分がいたものと同じだろうか?

 ――悩んでいても仕方ないか。

 まずは幼なじみへの違和感から解決しよう。


 高城第二高校の昼ご飯は大きく三つに分かれる。登校途中でコンビニで調達してくるタイプ、さほどおいしくもない学食で済ませるタイプ、そして弁当持参のタイプだ。もっとも多いのは弁当持参だ。良太もそれに分類される。

 良太は弁当を五分で食べ終えて、六花と雑談してる叶に声を掛けた。

「叶」

「うん?」

 叶は、そんなに小さな弁当箱で空腹は満たせるのかと心配になるほど、小さな弁当箱を突っついていた。

 どうしてこうも女子は、ウサギの餌ぐらいの量しか食べないのだろうか、普通サイズの弁当箱を持ってきてるのは運動部の連中ぐらいだ。

 返事をした叶は、箸を咥えたまま良太を疑問の瞳で見る。

「ちょっといいか」

「いいよ」

「リョウくん、お昼もう食べたのー? 男の子は早いよねー、まだ昼休みに入ったばかりだよ?」

 野菜中心の彩り鮮やかな弁当を食べていた六花は、良太の完食の早さに称賛を送った。それを良太は困ったように、そうじゃなくて。と受け止めるしかなかった。

「なになに、リョウくん、わたしに告白?」

「なんで、そうなる。ちょっと叶に話があるの」

「ふーん」

 六花は唇を尖らせて不満そうにしているが、話を進める。

「ここじゃああれだし、場所移さないか?」

「えー、わたしを無視して、カナに告白?」

「違うって」

 真剣さをまとった声で否定して、

「そんなに怒らなくてもいいじゃん。ぶー」

 このままフォローしないで放っておくわけにもいかないので、六花の頭を撫でる。

「ごめんな」

 叶の返答を待った。

 彼女はうーん。と唸りながら、唐揚げを口の中に放り込んだ。

 もぐもぐと唐揚げを咀嚼し飲み込んだ。

「じゃあ、屋上にいきましょう」

「ふたりとも、わたしがいないところで変なことしちゃだめだからねー」

 不満さ爆発させてる六花に見送られ、教室を出た。

 叶を連れて出た後、

「なに、黛くん告白なの?」

「え、うそうそ」

「幼なじみの壁は厚いと思うよー」

 と女子勢が盛り上がっていたが、弁解しても仕方ないだろうから、放置することにした。

 高城第二高校の屋上は普段は施錠されているが、昼休みに限定されて開放される。主に弁当を食べている生徒ばかりだが、ごくまれに告白するのに使われることもあり、昼休みにぼんやりと屋上に残っていると、こちらの気配に気づいていない生徒の告白劇を目撃することができる。

 屋上に出ると、頭上で自己主張している太陽の日差しに、目を細めた。

 弁当中の生徒達を横目に見ながら、端までいく。

 金網越しにグラウンドが見え、その奥には駅へと続く道路が見える。

 叶が金網に身体を預けると、軋む音がする。

 髪を掻き上げながら、叶が聞いてきた。

「それで私に話ってなに? まさか本気で告白するつもりじゃないでしょうね?」

 からかうように笑みを浮かべる叶に、良太の鼓動が跳ね上がった。

 幼なじみである彼女を、『異性』としてみることはないが、時折見せる『異性』としての部分を感じ取ってしまい、ドキドキとしてしまう。

 叶も六花も、自分たちが男子にどれだけ人気があるか自覚していない。人気があるのは知っているが、良太が屋上に呼び出したのは告白することが目的ではない。

「バーカ、そんなことしないよ」

 息を吐いて、気持ちを切り替えた。

「それよりも叶さ、おまえ何か隠し事してないか? 事件のあとから絶対変わったよ。なんだろう、うまく言葉にできないけど、そんな気がするんだ。俺たち別に隠し事するような仲でもないだろ」

「良太のエロ本隠してる場所も知ってるしね。いい加減引き出しの中の教科書に紛れ込ませるのやめた方がいいわよ。あと趣味がわからないようにバラバラのもの入れた方がいいんじゃない? なんで男の子って胸が大きい方が好きなのかしらねー」

「いつのまに?!」

「ずいぶん前よ、中学生ぐらい? てか、まだあの場所に隠してるんだ。私は平気だけど、六花は騒いで大変だったんだから」

 帰ったら秘蔵コレクションの隠し場所を変えようと決めて、いやいやいや、と首を振った。

「いや、そうじゃなくて、誤魔化すなよ」

 本題は、叶の胸の内に秘めているはずの何かだ。

 彼女はほんの少し間を開けて、口を開いた。

「別に何もないわよ。これまでどおりだし、これからも同じよ」

 沈黙。

 良太はまっすぐに叶の切れ長の瞳を見つめた。

 叶と良太は、これまでの付き合いの長さから、目を見ればウソを吐いてるかどうかぐらいわかる自信がある。

 五秒ほど経過した後に、ため息を吐いた。

 観念して、良太は頭をガシガシと掻いた。

「本当だろうな」

 叶は自分の髪の毛をいじりながら答えた。

「本当よ。――幼なじみとして一つ、良太に教えてあげるけど、あんまりお節介にならない方がいいわよ。良太のいいところだと思うけど、ちょっと悪いところでもあると思う」

「忠告ありがとう。なら、俺からも一つ。おまえは抱え込みすぎるところがあるから、心配なんだよ」

 どちらともなく笑い出した。

「もういいよ、俺は叶を信頼する。だから、もし、本当にダメなら言えよ」

「うん。私は少し風に当たっていくから、良太は先に戻ってて」

「あいよ」

 屋上の出口へ向かい歩きながら小さな声で、

「お前は嘘がヘタなんだよ」

 ドアノブに手を掛けた瞬間、ある疑問が浮かんだ。

 きっかけは叶が困ったときに、髪を弄る癖だ。

 ――俺はあの仕草をどこかで最近見たぞ?

 どこだ?

 どこだ?

 記憶を探る。

 昨日の学校か? 違う。

 本屋? 違う。

 ああ、思い出した。

「ロザリアに助けてもらったときだ!」

 そうだ、なんで気付かなかったんだ。

 昨夜の映像を必死に脳内で再生する。

 黒い三角帽子、紫色の髪、赤い唇……印象的な特徴はすぐに出てくる。思い出したいのはそれらじゃない。

 月を背後に立っているロザリアの姿を、記憶の海から再現した。

 それに先ほどの、叶の姿を重ねる。

 困ったときに髪を弄る仕草、立ち姿が脳内で一致した。

「おいおいおい……まさか……な」

 思わず叶の方を振り返った。

 彼女は笑顔で手を振っていた。

 良太はそれに頷いて、校内へ戻った。

 ――勘違いならいいんだけど……。

 二つの点が、徐々に一つの線で結ばれていく気がした。

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