4-1 倉田叶⑦
世間を賑わしていた殺人事件の犯人が逮捕され、近隣の高校では安堵が広がっていた。
報道に寄れば、犯人は警察の質問にも、意味不明な言動しか返していないとのことだ。
今後の焦点は、責任能力があるかどうかになるだろう。
どうであれ、注目されていた事件がひとまず終わりをみたことは、叶の隣を歩く白原六花も安心したようだった。
「少し安心したね、カナ」
六花と二人で登校するのはずいぶん久しぶりだ。
本来なら良太も一緒だが、今日は日直の仕事があるとかで、先に学校に行っている。
「ん? ああ、事件のこと?」
そう。と六花が頷くと、彼女の二つのお下げが揺れる。
「だって、恐いじゃん? 夜、人気の無いところにいったら、ガオー!って襲われるんだよ?」
「ガオーはどうかな?」
叶は困ったように頬を掻く。
五月中旬、夏には少し早いがそれでも季節が変わり始めたのがわかる。
ここ数年は梅雨入りも実感がないままで、それにともない梅雨明けも気が付いたらきているものだ。
「ふわぁ……」
隣を歩く六花が大きく欠伸した。
「寝不足?」
「最近ね、あんまり良くない夢みるの」
ぐしぐしと目を擦りながら、六花は答えた。
「どんな夢?」
「うーんとね。夢の中でわたしがわたしに殺されるの。いつもそこで終わるんだけどね、よくわかんない」
「自分に殺されるなんて物騒ね……強迫観念でもあるの? ほら、試験近いし」
学生にとって五月というのは一つの山である。
中間試験。
叶も他の学生と同じく、テストに頭を抱える。
週明けからは問題の、テストが始まる。
今週頭から中間テスト前であるため、部活は基本的には休部となっているところが多い。しかし、例外としてはサッカー部や野球部あたりだろう。
叶からしたら、ああいう運動部は勉強が出来なくても、ある程度は教師の間で評価される。
――同じ学生なのに、不公平よね。
文武両道もできず、部活をやっていたんだから試験ができなくても仕方ないとなる。
「六花は試験どう?」
「うーん……そこそこ?」
あどけない笑顔をうかべ耳を塞いで、聞かないでーとアピールする。
「そういうカナは?」
「アハハ……どうかな?」
叶は自分の髪を弄りながら肩を竦めた。
事故に遭ってから一ヶ月分の遅れを取り戻すために、教師陣が補習をやってくれたおかげで、遅れはどうにか挽回することができた。
だが、魔法少女ロザリアの活動して、夜な夜なメアと戦いを繰り広げている叶には、試験に向けて勉強をする時間が足りない。
「お互い大変だねー」
「私たちも大変だけど、良太はどうなんだろうね」
「あっ、じゃあ!」
六花は何かを思いついたのか、嬉しそうに、
「リョウくんも誘って、三人で勉強会しよう」
「いいけど、良太が大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫」
「だといいけど」
黛良太は、人当たりがいいからか、交友関係が広い。その広い交友関係があるため、いろいろなメンツから声がかかる。
そうなると、六花が提案した勉強会の開催が危うくなる気がした。
「あいつ人気だからね」
「ホントにねー。予定が重なっても、わたしたちの方を優先してくれるかもよ?」
「優先できなくても穴埋めぐらいはするかー」
「試験勉強? おお、いいね!」
登校途中に六花と話していたことを、帰り際の良太に提案すると彼は快諾した。
「今日の放課後大丈夫?」
「わたしは大丈夫だよー」
「俺もいいよ」
「じゃあ、良太の家でやろう。えっとじゃあ、良太はお菓子の準備ね」
「あいよ」
「それじゃ、帰って着替えたら良太の家ってことで」
良太と六花、そして叶の家の距離は徒歩三分圏内だ。少し出かけるにも最適であるため、何かあれば、三人の家に簡単に集まることができる。
良太の家の二階。二つある部屋のうち廊下を進んで突き当たりが彼の部屋だ。
叶と六花は良太のお母さんに挨拶して、彼の部屋に向かう。
六花はふわっとしたワンピース姿、叶はわざわざ良太の家にいくのに気を遣う気もなくGパンとTシャツ姿だ。
部屋のドアをノックして開けると、
「お前ら……早すぎだろ。まだ買い出しから戻ってきたばかりだよ」
「早く着替えなさいよ」
制服姿の良太が、学校帰りに寄っただろう大型スーパーの買い物袋から、お菓子や飲料水を取り出していた。
良太の部屋は見慣れているが、本当に中学から変わっていない。男子にしては部屋は片付けられていて清潔感がある。
――と誉めたいけど、クローゼットに放り込んだな。
クローゼットからはみ出しているプリントをみる。
「リョウくん、部屋キレイにしてるねー」
「ハハハ、そりゃあな!」
笑いながら良太は着替えを進める。
Yシャツを脱いでTシャツを被り、ズボンもジャージへと着替える。
叶も六花も良太が隣で着替えていようがあまり気にしない。今更良太のパンツ姿ぐらいで動揺しない。
「……まあ、気が付いてないことにしておくわ」
部屋の中央にある机を整理して、三人はノートを広げた。
三人でテーブルを囲んでいる要するはこれから重要な会議を実施するようだった。
「さて、問題の中間テスト……どの科目からやる? 俺は数学と英語がやばい」
「わたしは物理と数学かな……」
「うーん、英語と歴史」
各自がピンチの科目を自己申告。
勉強会は、各自の苦手部分を得意な人間に教わるところに大きな利点がある。
「数学と英語が二人……。ここは先に数学を! 叶様お願いします!」
「お願いします!」
良太と六花が深々と頭を下げた。
この三人の勉強会の決まりは、勉強科目を多数決で決まることだ。三人いればそれなりに得意科目にばらつきが出るため、一人が教える側になり、二人を教えることになる。
「はぁ……じゃあ、いいよ。でも、次は英語をお願いね」
「さすがカナ!」
「とりあえず、試験範囲の練習問題をやってわからなかったら言って。……あのさ、なんで補習受けてた私の方が教える側なの!?」
「それは言わない約束だよ、カナ!」
「……まあいいわ、じゃあ、始めよう」
パンと叶が手を叩くと、良太と六花がカバンから数学のノートと教科書を取り出した。
二人がカリカリと問題を解いていくのを見ながら、叶は良太が買っておいたお菓子と飲料を開けた。
「あれ? 良太コップは?」
「あ、ごめん持ってくるの忘れた」
「むー、仕方ない。おばさんにもらってくる」
不満を漏らしながら、叶は立ち上がって、部屋を出た。




