◆忌子
更新が遅くて申し訳無いです!m(__)m
「今度さ〜藍ん家に遊びに行っていい?」
寝転び雑誌を読みながら、『彼女』は私に聞いてきた。
「……あんまり面白いとこじゃないよ。ほら、床に寝てちゃ汚いって。」
ハンカチを渡しながら私は答えた。
いくら掃除してあるとは言え、ここは教室。いくら何でも不潔だ。
「あはは、怠くてさ〜。そんなこと言われちゃ、余計気になるよ!」
上半身に力を込めて『彼女』は起き上がる。一種魅力的な笑顔を浮かべながら。
「何と言うか、山奥にある小さい家だよ。小さくてありふれた…。」
※
「……桐島さん顔色悪いよ?大丈夫?」
私達の高校は少し高地にあるので、決まった時間にバスが来る。
バスから見える流動的な景色をボンヤリ眺めていると、木之瀬さんが心配そうな顔で私に話しかける。
その場にいた全員が何となく薄気味悪い物を感じた『神隠し』の検証作業。洸太と大和さんは部活、結城君はバイトがあるらしいので、私は木之瀬さんと帰る事になった。
「あっ。うん、大丈夫。」
木之瀬さんの背後の鼠のイメージが小さく震えているのを見て、私は笑顔で答えた。
「でも、『神隠し』だなんて怖いよね。何となく触れてはいけない物な気がするよ…。」
「うーん…。私も怖い。何か化けて出てきそうだし?」
多少冗談めかして返すと、木之瀬さんが小さく笑う。
「…ふふっ。よかったぁ、私だけだったらどうしようかと思ったよ。」
私に警戒を少し解いてくれたのか、鼠の震えは小さくなっていた。
「まぁ、いざとなったら男子を盾に私達は逃げれば大丈夫だよ!」
「……桐島さんって、面白いね。最初はちょっと冷たい人かと思ってたけど、やっぱり鏑木君の彼女だよ。」
「洸太ってやっぱり変わってるんだね〜。」
それから私達は普通の会話で笑い合った。
何処にでもある普通の女子高生の光景。
しかし、私には心から楽しむ事が出来ないでいる。
『バスが停車致します。』
バスから無機質な声が響く。
「あっ、私ここで降りるね。さよなら。」
「うん、じゃあねー。」
※
木之瀬さんがバスを降りて、1時間くらい経っただろうか。
空を赤く染めていた夕日は落ち、流れる風景も月を残して闇に紛れた。
バスの中にはもう私と運転手だけだ。
『次は終点、間月村です。バスが停車致します。』
山が見えだした頃に、相変わらずの無機質な音声が流れる。バスを降り、山の方へ歩く。
「……はぁ。」
バスから降りて、坂道を登ること数分。
私の生まれ育った場所は未だに村という形態を保っている。道の両端には田園が広がり、老人ばかりのこの村は、既に闇と静寂に包まれている。
その村の更に奥へ進むと、1つだけ家がある。
年数を重ね所々欠けている土壁。刈る事を忘れて壁に絡み付く雑草。
人の寄り付かなそうな陰気な雰囲気を纏うこの小さな一軒家。
これが、私の家だ。
「…ただいま。」
薄暗い電球に辟易しながら靴を脱ぐ。
「おかえり…今日は遅かったのね。御飯冷えてるわよ。」
居間でテレビを見たまま、振り向きもせずに母が口を開く。
文面だけならありふれた言葉。ただ、その声色を聞けば微かな憎しみが感じられるだろう。
――桐島 吉奈 (きりしま よしな)。
ある日を境に、私はこの人から愛情らしい物を受けた覚えが無い。
「……うん。いただきます。」
私は冷えた冷凍食品に箸を着ける。温めようとすれば、電気代が勿体ないと顔をしかめるだろうからだ。
「ご馳走さまでした。」
食器を洗い片付け、風呂場へ逃げるように行く。
「………。」
シャワーの熱い水が髪を濡らしていく。
彼女が私に憎しみを抱く理由。それは村八分にされた原因が私だからだろう。
私を捨てて雲隠れしようにも、新しい生活を営む費用がままならない。
母は村に疎外されつつも縛られているのだ。
「面白い人…かぁ。」
木之瀬さんに言われた一言が口から出る。
木之瀬さんには悪いが、私はつまらない人間だ。いや、村で疎まれている自分を偽って生きる、不快な人間なのかもしれない。
この村に伝わる『忌子』の伝承。
簡単にまとめると、『忌子』は人でない者で、それに関わった者は等しく穢れを村にもたらす…らしい。
私が村から遠い高校へ入学したのも、この伝承が原因だ。
『彼女』と私は忌子と関わった者の二人組として、腫れ物にでも触る様な対応を受けてきた。
村での生活では、私は敵ばかりが出来てしまう。だから、高校からは様々な心の仮面を使い分けて生きていこうと決心した。
「そういえば…あの子は何処に行ったんだろう?」
久しぶりに連絡を取ってみようか。
『神隠し』の話を聞いたら、『彼女』はどんな反応をするのだろう?
※
「あんた、部屋で何か飼ってんの?」
風呂から出てすぐ、母がこちらを見もせずに言う。
普段私がいないかのように振る舞う彼女が、声をかけてくるのは珍しい。
「…何で?」
「さっきから、あんたの部屋で音がすんのよ。」
……音?
「ん…知らない。」
家の軋む音や山の動物。 そのどれかと間違えてるのだと思う。
「あっそ。じゃあ早く寝なさいよ。」
これ以上話すことは何も無いとばかりに、母はテレビに意識を戻した。
私は『健気な娘』の仮面を被り、
「うん、おやすみなさい」
と、自分の部屋へ戻った。
━━この時、私は想像もしてなかった。
村の伝承と『神隠し』。
この2つが私や洸太、学校全体の日常を
崩壊させていく事を……