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空虚なあなたは噂に惑う  作者: 捨て鉢
4/4

◆忌子

更新が遅くて申し訳無いです!m(__)m

「今度さ〜藍ん家に遊びに行っていい?」



寝転び雑誌を読みながら、『彼女』は私に聞いてきた。



「……あんまり面白いとこじゃないよ。ほら、床に寝てちゃ汚いって。」


ハンカチを渡しながら私は答えた。

いくら掃除してあるとは言え、ここは教室。いくら何でも不潔だ。



「あはは、怠くてさ〜。そんなこと言われちゃ、余計気になるよ!」



上半身に力を込めて『彼女』は起き上がる。一種魅力的な笑顔を浮かべながら。



「何と言うか、山奥にある小さい家だよ。小さくてありふれた…。」









「……桐島さん顔色悪いよ?大丈夫?」


私達の高校は少し高地にあるので、決まった時間にバスが来る。

バスから見える流動的な景色をボンヤリ眺めていると、木之瀬さんが心配そうな顔で私に話しかける。

その場にいた全員が何となく薄気味悪い物を感じた『神隠し』の検証作業。洸太と大和さんは部活、結城君はバイトがあるらしいので、私は木之瀬さんと帰る事になった。



「あっ。うん、大丈夫。」



木之瀬さんの背後の鼠のイメージが小さく震えているのを見て、私は笑顔で答えた。



「でも、『神隠し』だなんて怖いよね。何となく触れてはいけない物な気がするよ…。」



「うーん…。私も怖い。何か化けて出てきそうだし?」


多少冗談めかして返すと、木之瀬さんが小さく笑う。



「…ふふっ。よかったぁ、私だけだったらどうしようかと思ったよ。」



私に警戒を少し解いてくれたのか、鼠の震えは小さくなっていた。



「まぁ、いざとなったら男子を盾に私達は逃げれば大丈夫だよ!」



「……桐島さんって、面白いね。最初はちょっと冷たい人かと思ってたけど、やっぱり鏑木君の彼女だよ。」



「洸太ってやっぱり変わってるんだね〜。」



それから私達は普通の会話で笑い合った。


何処にでもある普通の女子高生の光景。


しかし、私には心から楽しむ事が出来ないでいる。



『バスが停車致します。』


バスから無機質な声が響く。



「あっ、私ここで降りるね。さよなら。」



「うん、じゃあねー。」









木之瀬さんがバスを降りて、1時間くらい経っただろうか。

空を赤く染めていた夕日は落ち、流れる風景も月を残して闇に紛れた。

バスの中にはもう私と運転手だけだ。



『次は終点、間月村です。バスが停車致します。』



山が見えだした頃に、相変わらずの無機質な音声が流れる。バスを降り、山の方へ歩く。



「……はぁ。」



バスから降りて、坂道を登ること数分。

私の生まれ育った場所は未だに村という形態を保っている。道の両端には田園が広がり、老人ばかりのこの村は、既に闇と静寂に包まれている。

その村の更に奥へ進むと、1つだけ家がある。

年数を重ね所々欠けている土壁。刈る事を忘れて壁に絡み付く雑草。

人の寄り付かなそうな陰気な雰囲気を纏うこの小さな一軒家。


これが、私の家だ。






「…ただいま。」



薄暗い電球に辟易しながら靴を脱ぐ。



「おかえり…今日は遅かったのね。御飯冷えてるわよ。」



居間でテレビを見たまま、振り向きもせずに母が口を開く。

文面だけならありふれた言葉。ただ、その声色を聞けば微かな憎しみが感じられるだろう。



――桐島 吉奈 (きりしま よしな)。



ある日を境に、私はこの人から愛情らしい物を受けた覚えが無い。



「……うん。いただきます。」


私は冷えた冷凍食品に箸を着ける。温めようとすれば、電気代が勿体ないと顔をしかめるだろうからだ。



「ご馳走さまでした。」


食器を洗い片付け、風呂場へ逃げるように行く。











「………。」



シャワーの熱い水が髪を濡らしていく。

彼女が私に憎しみを抱く理由。それは村八分にされた原因が私だからだろう。

私を捨てて雲隠れしようにも、新しい生活を営む費用がままならない。

母は村に疎外されつつも縛られているのだ。




「面白い人…かぁ。」



木之瀬さんに言われた一言が口から出る。

木之瀬さんには悪いが、私はつまらない人間だ。いや、村で疎まれている自分を偽って生きる、不快な人間なのかもしれない。



この村に伝わる『忌子』の伝承。



簡単にまとめると、『忌子』は人でない者で、それに関わった者は等しく穢れを村にもたらす…らしい。


私が村から遠い高校へ入学したのも、この伝承が原因だ。

『彼女』と私は忌子と関わった者の二人組として、腫れ物にでも触る様な対応を受けてきた。

村での生活では、私は敵ばかりが出来てしまう。だから、高校からは様々な心の仮面を使い分けて生きていこうと決心した。




「そういえば…あの子は何処に行ったんだろう?」



久しぶりに連絡を取ってみようか。

『神隠し』の話を聞いたら、『彼女』はどんな反応をするのだろう?










「あんた、部屋で何か飼ってんの?」


風呂から出てすぐ、母がこちらを見もせずに言う。

普段私がいないかのように振る舞う彼女が、声をかけてくるのは珍しい。


「…何で?」



「さっきから、あんたの部屋で音がすんのよ。」



……音?



「ん…知らない。」



家の軋む音や山の動物。 そのどれかと間違えてるのだと思う。



「あっそ。じゃあ早く寝なさいよ。」



これ以上話すことは何も無いとばかりに、母はテレビに意識を戻した。


私は『健気な娘』の仮面を被り、


「うん、おやすみなさい」



と、自分の部屋へ戻った。







━━この時、私は想像もしてなかった。


村の伝承と『神隠し』。

この2つが私や洸太、学校全体の日常を

崩壊させていく事を……

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