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アンフェア鬼ごっこ 

作者: 取根林檎

お知らせです。

この小説で逃走中同盟、および逃走中の作者から離れ、フリーに小説を書きたいと思います。


急な話ですがすみませんありがとうございました。


できれば活動報告もお読みください。



土曜日の午後二時。本日、学校はいつも通り休みのはずだ。部活や勉強などにいそしむのが学生の普通。しかし、今日の学校は見るからに違った。

人のいるはずのない学校に何人か生徒が入ってきた。それも全員同じクラスの人間、二年一組のメンツだけが学校に入っていった。


「雪ちゃん。昨日のメールどう思う?」

「見た見た。いったいなんだろうね」

「なぁ、吉田よ。俺松本で練習試合あるんだけど」

「バカだろ。お前、それ普通は松本行くだろ。呼び出しなんて無視れよ」


二年一組の生徒たちが集まってくるその理由は昨日のこと。副学級委員長桐山八生きりやま やよいのからメールが届いたのだ。それも全員宛に。あの人から全員に向けてメールが来ることは珍しい。

そんな、全員のメールアドレスなんて知らないだろうに。

しかも内容もとんでもないものだった。


『クラスのことについて、大事なことがあるので、土曜日の午後二時に、二年一組の教室に集まってきてください。絶対に来てください。そうしないと決められないことがあります。個人の用事や忙しいなどの理由で出られないのは困ります。とにかく集まってください。緊急事態です』


というようにメールが来た。届いたのが昨日だったから、みんなあわてて予定を変えてきたのだろう。ほぼ全員がこの二年一組の教室に来ていた。

中には文句を垂れるものもいたが、それでもほぼ全員が集まっていた、


いないのはメールの送り主の桐山と、学級長など男女あわせ、10人ぐらいだ。


「なんか足りなくないか? 見る限り、全然そろってないぜ」

畠山浩一(はたけやま こういち)は隣の席の男子生徒に話しかけた。

「何やるんだよ。今日はせっかくの休みだろうが」その彼もまた怠そうに答えた。

「もう早く帰りたいねー」

その二人の話でも聞いていたのか、女子生徒の畠山愛美(はたけやま まなみ)が答えた。ちなみに浩一とは苗字が同じだけの赤の他人である。ただ愛美が人懐っこく、特に浩一によく話しかけてくるためにクラスからは兄妹とからかわれるほどだ。



もうすぐ集合時間になる。待っている間、全員が自分の机に座って愚痴ばかりを言っていた。それもそうだ、この暑い中でご飯を食べた後に呼び出されて、待ちぼうけを食らう羽目になっているからだ。今の時期、気候はとても暖かく、ほとんどの生徒が半袖だった。


「ねぇ、桐谷さん来なくない?」

「もう結構時間立ったのにねぇ」

「なぁもう帰っちゃおう」



文句やなんやで騒ぐ教室。その騒がしい空間を割くように、『ピンポンパンポーン』と呼び出しの音楽が校内に鳴り響いた。

『静かにしなさい』

それはほかに形容しがたい人の声であった。

『こんにちは、一組のみんな。今回みんなを集めたのは私です』


「はぁ?どういう意味だよ、それ」

浩一がその声に反応した。しかし、相手にはまったく聞こえていないのかそのまま放送の主は淡々と話を続けていく。


『初めに、みんなに残念なお知らせがある。まずはこの声を聴いてほしい』

そういって、少しがさついた音がしたかと思うと、スピーカーから聞きなれた声がしたのだ。


『きゃっ、なに? なんなの? ここどこ⁉』


「……桐山? 桐山か?」

「え、どういうこと?」

教室にいる生徒が騒ぎ出した。それは、そのスピーカーから聞こえた声は、彼ら、二年一組の副学級長、桐山八生の声だった。


『みんなはこの声を知ってるだろう? そう。君たちの副学級委員長だ。先ほどここに連れてきたのだ。さて、これから何が始まるかというと……』


教室の生徒たちは、じっと放送に聞き入った。この後、何が起こるのか全員身構えていると……

『これから君たちは、私達と鬼ごっこで勝負するんだ』


生徒たちは、みるみる内に空気が固まっていった。

「は? なんだって?」

「今、『鬼ごっこ』って言ってたよね……?」

「え、私運動苦手……」

「訳が分からないよ……」

放送の声の主は教室のざわめきなど気にもせず、淡々と話を続ける。


『じゃあルールを説明する。まず鬼は5体こちらで用意した。制限時間は2時間。範囲はこの校舎内のみ。まぁ、グランドとか志文堂とか中庭とか、アスファルトみたいなところはダメだからね。そして、捕まったら、鬼にそのままとある場所に連れてこられることになっている。そして、』


声が少し途切れた。教室の生徒は後の言葉の続きを待った。


『全員が捕まった場合、きつ~い罰が待っているだろうね』


教室内は戦慄した。それと同時に、空気が完全に固まった。放送の声に全員が耳を疑った。突然鬼ごっこをやるといわれても、意味が分かっていないものが多い。なんて言っても突然すぎる。

すぐに教室内はざわめきだした。

『そうだ、最後にこの副学級長の声でも聴かせるよ』

またスピーカーあたりがざわついた。ごわごわした音の後に、また、桐山の声が聞こえた。

『やめてよ! なにこれ! いみわかんない!』


『さて、これでいいだろ。五分後にスタートしよう。それまでどこかへ逃げてるといい。後五分だ』


それから先、放送は鳴らなくなった。それに代わって教室内はどんどんと人間の声で埋め尽くされた。中には怖がって動けないものまでいた。妙に曇る天気が、さらに教室内の不安を掻き立てる。

いきなり、混沌とした中、教室のスピーカーから呼び出しの音声が流れた。どうしたものか、アナウンスは女性の声だった。



『鬼ごっこ、開始まで残り3分です』


「まずいぞ、こんなの冗談とかのレベルじゃねぇよ。早く逃げるぞ!」

「そんなの言ったってどうすんだよ!」

「それでも、逃げなきゃいけないのは変わらないじゃない」


『鬼ごっこ、開始まで残り2分です』

また、スピーカーから声が聞こえた。


もう我慢できなくなった女子たちは、集団でその教室を逃げ出していった。たぶん、もう戻ってこないだろう。それを見たほかの生徒もどんどんとその教室から逃げて行く。


『鬼ごっこ、開始まで残り1分です』

開始前の最後のアナウンスだ。この放送が鳴るまでに、教室に残っていた生徒は誰もいなかった。



「おい、こっちついてくるなよ!」

浩一が、後ろからついてくる愛美に叫んだ。

「仕方ないよ! こっちしかないよ!」

「だからってこんなに人を連れてくるなっての!」

「ちょっ、急に止まらないでよ!」

校内をあちこちと逃げ回る生徒たち。しかし、校舎に対して生徒は全員が上履きサンダルしかないために、走りにくいことこの上ない。こんなのじゃ逃げられないと、サンダルを脱ぎながら走る者もいた。


そしてーーー

『鬼ごっこ、始まりました』

鬼ごっこが始まった。







ぞろぞろと、そして無言で動き出す鬼たち。すでに北校舎一階を続々と動き出していた。その顔は、プリントした鬼の面をかぶり、服装が学校のジャージだった。そのお面が鬼としての威厳だろうかなんかを際立たせているような気がする。しかしその鬼はどう見ても、彼らと同じ生徒だった。背丈や、髪の毛はまさに見たことのある同級生たちだ。



そのうちの一人が、突然走り出した。その先には一人の女子生徒。先ほど、運動が苦手と言っていた女子生徒だ。

「居たっ! いやぁぁああ!」

廊下中に悲鳴を上げて逃げるのだが、サンダルの彼女よりちゃんとしたシューズを履いた鬼が負けるはずはない。もとより体力やスピードが違うのだろう。何も話さずに、すでに後ろにその鬼がいた。


「きゃぁぁぁあああっ!」

見つかって数秒で捕まった……

鬼はすぐにも彼女を縛り付けてどこかに連れて行こうといわんばかりに、引っ張っていった。



「うわぁ、いた……」


その連れて行かれる様子を見ていたひとりの男子。平沢進ひらさわ すすむは部屋のドアからのぞいてみていた。ここからなら助けにいけるかもしれないが。

「無理だ……あんな狂気じみたものから助けられるわけない……てか、これやっているやつバカだろ。そんなにさみしいのかよ」

ぶつぶつ文句を言いつつも、鬼が言ったのを見計らって、そそくさと部屋を出た。

「ねぇ、」

「うぼぁぁくぁwせdrftgyふじこlp !」

「バカ! 静かにして! 鬼来ちゃうじゃん!」

「あ、なんだ、静葉しずはかよ、びっくりさせやがって!」

「うわぁ、ごめんごめんって! やめて! メガネ取らないで!」

「で? お前はこれからどうするんだ?」

「いや……でも、隠れ場所に行こうかと」

静葉は部屋の外を見て鬼が来るかを見た。運よくいない。

二人はこそこそとその部屋を出て、その“隠れ場所”へ向かっていった。






その頃、北校舎。

「はぁ、ここなら見つからんだろ」

「なるほど、……ここは考えたわ」

「……だからなんで愛美がいるんだよ……」

「ついて行ったらこんなところになったわけで……」

「というより、なんでここに5人もいるんだ」

北校舎一階、体育研究室の奥側にある体育課倉庫に5人は隠れていた。勝手にカギが開いており、格技室からフツーに入ってこれたのだ。




「私思うんだけど……」

突然、一人の女子が話しかけてきた。暗闇だったためにカーテンを開けてみた。

「こういうのは別に通信機器使っちゃいけないとかないんですよね? 一応、だれが残っているのか知っておきたいんですけど……」

「後さ、団体で行動していれば鬼一人に大して逃げ切れる人数が多くなると思うんだ」

今まで二人で行動していた女子が提案した。

「でもそれだと女子不利じゃね?」

「今は一人でも生き残るのが先決でしょ?」

愛美がつぶやいた。

「……わかったよ」





三人の男子と二人の女子が隠れている。鍵は特に掛けて無い。というよりかけられない。連絡も誰にかけても繋がらなかった。

「きっとクラスのだれかだろうけど、こんなのふざけてるだろうよ……」

「容赦ないよな……、捕まったら連れてかれるのか……」

男子生徒はまた、顔をゆがませて外をにらみつけた。

「こ、怖い……」

そんな中、扉を少し開けて、外をみていた一人が声を潜めて呼びかけた。

「き、来たぞ……鬼の面をつけてる!」

鬼だ。お面をつけ、ジャージでゆっくりと格技室にはいってきた。すごく、大きいです。

「こっち来るなよ……」

そのつぶやきに反して、鬼はゆっくり慎重に倉庫の扉を見つめていた。それに威厳があるとは、まぁ言いにくい。


「裏から……」

「こっち開かないよ!」

愛美が、裏の扉を引っ張るも動く気配はない。

「仕方ない!」

その時、突然その小部屋から何を思ったのか。5人の男女が飛び出して、鬼の横を通り過ぎた! 鬼の横を風が横切る。


鬼は何が起きたかわからずに振り向いた。今まで目の前の倉庫にいた5人全員が、その部屋から一斉に出てきたのだ。


鬼は慌ててその5人を追いかけていく、しかし、気づくのが遅すぎたのか、5人は廊下の向こうのほうへ。おもむろにポケットからテニスボールを取り出し、投げつけた。

「痛って! くそっ」

テニスボールは浩一の体にあたった。鬼のほうも全く容赦ない。しかし、テニスボールの効果はいまいちのようだ。二人は全力で走っていく。

「待てぇ!」

鬼が叫び再び追いかけて行った。

生徒はすでにバラバラに別れ、誰を追いかければいいのか、なんて気にしていないのだ。




「やべっ、さっきの鬼、まだ来てるぞ」

「なに? しぶといな……陸上部か?」

そのうちの男子二人は北校舎の階段をのぼり、二階に来ていた。それでも後ろから鬼は追いかけてくる。こっちは全力で走っているのに、全く離れない。むしろこっちが疲れてきた。

「おい、二手に分かれるぞ!」

「おし 俺こっちだ」

そして二手に分かれ、逃げていく。


そこから鬼がついていったのは分かれるのを提案したほうだった。そのまま図書館のほうへ逃げていく。しかし、目の前からも別の鬼が待ち構えていた。

「ちょちょちょ! なんで⁉ なんでこっち来るんだよ!」

焦る少年だが、挟み撃ちにされてはどうしようもできない。

少年はその因果を止められることなく、二人の鬼に捕まってしまったのだ。



そのあと、学校中のスピーカーからは大きな空襲警報が鳴り響いた。

『鬼ごっこ、開始して一時間になりました。捕まった数は現在、13。残りの人数は15。それでは残り1時間、頑張ってください』


残り一時間。この中で逃げ切れるものがいるだろうか……







この鬼ごっこの逃げる事ができる範囲は校舎内。つまりは、校舎とつながっていればどこでもいいのだ。


という極論を考えついた彼ら二人の逃走者。ここはどこなんだろうか。

「ねぇ、そろそろここを出ない?」

「いや、まだだ。今出たら絶対捕まるだろ、それとも、静葉行くか?」

「いやいやいや、行くわけないでしょ! 絶対に捕まるじゃんか!」


彼らは一階の卓球場で一時間以上はこもっていた。ただこのままではらちが明かない。少しは動いた方がいいこともある。


「しゃーない。ちっとここを移動しよう。何でもいい。隠れるところを……」

平沢は卓球場の扉から顔を出した。そのとき。


「! うわ、やばっ!」

と、突然顔を引っ込めた。静葉も何事かと思い、それを見た。

「あ、」

素っ頓狂な声を出して、そのまま固まった。彼の目の前に般若のお面をかぶった鬼がいたのだ。その鬼と目があい、しばらく捕まってからは動く気配がなかった。

「まじかよっ、にげるぞ!」







「はぁ…やっと逃げてこれた…」

浩一は膝をついて息を整えた。先ほどの鬼に追いかけられてから校内をほぼ一周して、また暗室の前にまで来ていた。

誰かいないかと、辺りを見ていると、

「あれ、あんなとこに……」

誰か見覚えのある女子が見えた。


音楽室。よく音楽の授業が行われる場所。その部屋の奥には小さな練習室があった。

「今ここから人の姿が見えたような……」

誰でもいいから生き残っている人を見たかった。もう、自分だけしか残ってないかもしれない。だから誰かの顔が見たかったのだ。

それは相手も同じだったようだ。

「浩一君!? 早く入って! 見つかるよ!」

「あれ!? 逃げ切れたのか」

「まぁ、他の人は捕まったけど……」

「俺もさっき二人会ったけど二人ともはぐれたんだ。残っていればいいけど……」

浩一は言葉を切ってその部屋に入った。窓の外に鬼を見つけたらしい。二人は少し離れてしゃがみこんでいた。

近く、この部屋も見つかるかもしれない。


「よし、この部屋出よう」

「……もう動けません」

「いつまでもここにいると見つかるぞ。いいの?」

彼女はため息をついて、立ち上がってその部屋のドアを開けた。




音楽室の扉をゆっくりと開けて周りを見た。見事に誰もいない無人の学校。二人は静かにその部屋の扉を閉めて本校舎に入った。鬼も過ぎ去り、静かだ。

「誰か来る?」

愛美が耳を済ませた。特には何も見えない。曲がり角を覗くとゆっくりと廊下から歩く人影が何人もいた。

「おお! お前ら! 残ってたか!」

「おお。なんだ、まだまだいたか……ていうかそっちも捕まってたかと思ったよ」

その人影は、さっきまで倉庫に閉じこもっていた仲間だった。なんとか向こうも男女一名ずつで残っているみたいだが、疲労は相当蓄積されているようだ。

「そうだ、ここからは男女で分かれようぜ。あと何分かだろうが、俺らももう逃げるのに必死だ。誰でもいい。残るんだぞ!」




そう。もうすでにこの戦いは彼らにとって戦争になっていたのだ。もう、誰がなんでこんなことをしたのかなんて誰も気にしちゃいない。






『残り30分です』

空襲警報が鳴り響き、そのあとにアナウンスが校内に鳴り響いた。


「後30分か……」

中庭にいる女子生徒は自分の腕時計をみた。そのまま、校舎へ向かって歩いていく。

「何人、生き残れるかな?」





「くっそ! 鬼め、何を考えてやってるんだよ!」

「こんなことして何が面白いんだ?」


鬼からなんとか逃げきった男子2人はそのまま動けずにいた。そのまま歩いて、旧体育館の前にきていた。今まで走り回っていた中で、鬼がこの中を行き来するのを浩一は何度も見ていた。

あまり近づきたくなかったが、仕方ない。少しのぞける程度に近づいた。

そこに、鬼が出てきたのだ。

「後、数分!」

「だめだ、俺こっちに行く!」

浩一は道を外れ、特別塔に走った。



「あとちょっとだよ!」

「そういったってー」

女子も今、鬼から逃げている最中だった。愛美ともう一人の女子だ。鬼の軍勢は歪みない。最後の馬力を振り絞っているのか、一人ではない。四人。そのうちの一人が外れた。

「うわ、前から?」

その鬼が前からやってきたのだ。

絶体絶命……




あと数分。あと少し少しでいい。逃げ切ることができれば、それだけでもういい。

「あと少し! あと何秒!」

逃げていると、どこかの校舎から、男の悲鳴が聞こえた。鬼も総出で捕まえようとしているだろう。なんせあと少しなのだから。

彼は階段の踊り場で手を膝にかけ、息を整えた。もう体力も残っていない。それは鬼も同じのはずだ。二時間走り回れば疲れてしまうのは仕方ないことだろう。

そして、目の前に見たくもなかったその姿。

鬼のお面をつけた、鬼だ。相手ももう走る気力もないのか壁伝いに上ってきた。もうすぐにも捕まってしまうだろう。

でも、ここであきらめていたら、今まで逃げた意味がないじゃないか。

彼は、また足を少しずつ動かし始めた。ただ逃げたいだけ、鬼から残るなんて感覚などすでにない。

早く、

早く

終わってほしい。



そして、もう走れないと手を膝にかけた時に

『終了でーす。鬼役の皆さん、逃げていた皆さん。お疲れ様でした。旧体育館に集まって下さい』

放送が鳴った。




「……残った……?」

後ろを見た。何もいない。鬼ももう撤退したのか、もういなかった。

「よっしゃ! 生き残った!」

一人だけ、特別塔の階段で雄たけびをあげた。


「やった! 終わった!」

北校舎の2階でも一人、嬉さのあまりに座り込む一人の女子。畠山愛美だ。さて、これからどうするか、決まったことだ。

「旧体育館……か」


二人は旧体育館に向かう。

地獄の2時間。約120分が終了した。


この鬼ごっこで生き残ったのは何人だろうか。いったいなんでこんなことをしたのか、こんなことをしたのは誰なのか。それは、とにかく旧体育間に向わなければわからない。

「じゃ、行くかな」

一人の男子生徒が旧体育館へ向かった。






「な、なんでここにいるんだよ」

生き残った彼が旧体育館に入った瞬間に叫んだ。全員の縄はとかれおり、鬼の能面や服装ジャージも全部外れていた。


目の前には、鬼の格好ジャージをしていた副学級長:桐山八生本人が入り口に立っていたのだ。


「どういうことだよ こんな遊びをした訳は?」

「だって、みんな学級長とか、私とかのいうこときかないじゃん」

「え?」

「だから、今回はみんなに学級会の力を見せつけてやったもんだろ」

面をかぶっていた学級長が言った。

「まぁ、あたしならずっと中庭でずっと見ていたんだけどね」

「じゃ、みーんなだまされていたのか……」

「鬼は自分からやってたけどね」

俺らはそんなことに踊らされてたのか、と言わんばかりにみんなうなだれていた。

土曜日の午後三時、二年一組の逃走劇は、28人中2人が生き残ったのだった。







「という、ドラマをつくろうと思います!」

「ふぅん、なんか面白そうじゃん」

ここは二年一組の教室。今日は土曜日なのだが、そんなのは構わずに生徒全員が集まっていた。その理由、および議題は、『映画の題材』。今年は早めに決めないともう間に合わなくなりそうだったからだ。そこで、副委員長が直々に原作と脚本を作ったのだった。

これが副委員長が呼び出した理由だった。簡単に言えば忙しいからさっさと決めて撮影に移ろう! ということ。

「さて、じゃあさっそく撮影に移るよ」

「え? もうやっちゃうの? いま、台本もらったばっかで何も……」

「大丈夫、逃げてる間に台本読んでおけばいいから。一人ずつのセリフ何て大体少しだから」


そうして、カメラを準備させて全員、鬼もすべて準備が完了。これでいつでも走り回れる。

午前二時。だんだん気候が熱くなってくる頃に、学校内は走り回る音が聞こえてきたという。


これで、おわり






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