迂回路
いつもお読みいただきありがとうございます!
山道のドライブ中、何気なくタバコに火をつけた主人公を襲う、不条理な恐怖を描いたサスペンスホラーです。
逃げ場のない車内、徐々に狂っていく恐怖の疾走感をぜひお楽しみください!
「この先通行止めですよ」
と、誘導灯で通せんぼしている警備員が告げた。
俺は、そんな話信じられなくて、は?
という顔を向けた。陽に焼けた高齢の警備員は、少し困ったように誘導灯をどっちつかずの方向に向けながら、再び告げた。
「今日の十七時から明日の八時まで、道路工事の為に……。まあ要するに、ガス管の埋設工事なんですけどね」
成る程━━。
俺はその言葉を信じるしかなかった。警備員は、ガス管工事による通行止め実施の範囲を記した、地図の略図を渡してきた。
確かに、工事が施工されるというのは間違いなさそうだ。しかし、最近では、大掛かりな強盗を働くためにわざわざ周辺の道路。封鎖してしまうというような荒っぽい手口も見られるようだから、断定するのも出来なさほうであった。
俺はやむなく車をUターンさせ、もと来た道を戻ることにした。帰宅するには、もう一通りの道があった。
━━本当に大事な工事 なのだったら 事前に知らせておいてくれなければな……。
俺は溜息をはきながら、車をゆっくり走らせた。
煙草に火をつけた その時だ。
煙草に火をつけた、その時だ。
ふとバックミラーに目をやると、バックドアのガラス一面に、ねっとりと赤い何かがへばりついているのが見えた。
血だ。
いつの間に? 車を止めて確かめようとブレーキを踏み込んだが、ペダルは床までスカスカと沈み込み、まったく応えてくれない。
冷や汗が背中を伝う。慌てて周囲を見渡すと、もと来たはずの山道はいつの間にか両脇を深い濃霧に覆われ、標識も電柱もない見知らぬ一本道へと変貌していた。
車速がぐんぐんと上がっていく。焦って手元のサイドブレーキを引こうとした瞬間、助手席のダッシュボードに置かれた「あの略図」が目に飛び込んできた。
警備員に渡された渡された一枚の紙。そこに描かれていたのは、道路の地図などではなく——真っ赤なクレヨンで殴り書きされた、不気味な顔の絵だった。
『どこへ逃げても通行止め』
その文字を読み上げた直後、助手席の窓ガラスが外側からコンコンと軽やかに叩かれた。
時速八十キロで走る車の、すぐ真横から。
「だから言ったでしょう、通行止めですよ」
バックミラー越しに覗く後部座席の闇から、あの老警備員のしわがれた声が聞こえた。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
何気ないドライブのはずが、気づけば逃げ場のない不条理な恐怖へと巻き込まれていく恐怖を描いた作品でした。車内という密室と、時速80キロで迫る異様な存在の疾走感を楽しんでいただけていたら嬉しいです。
「この先通行止めですよ」という言葉の本当の意味に気づいたときのゾクッとする感覚が、少しでも皆様に届いていますように。




