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運命の人の条件が「青」と言われたので総当たりしています

作者: 柴田ロイ
掲載日:2026/06/19

「今回もダメだったわ……」

「また婚約者捜しをしてきたのか?」

「だって、学園卒業まであと2年しかないのよ。なんとしてでも、お婿さんを見つけないといけないのよ」

「そんなに必死にならなくても大丈夫だと思うけどな……」


 今日も私は、幼なじみのルシアンと一緒に、貴族学園の庭にてランチをしている。

 私は子爵令嬢であり、ルシアンは侯爵令息であるが、領地が隣接していることもあり、小さい頃から一緒に遊び育った仲なのだ。


 最近のランチでの話題は、私のお婿さん捜し。

 私は長女であり、他に兄弟もいないので、自ずと跡取りになるというわけだ。 そうすると、必要なのはお婿さん。


 両親からは「遠縁から養子をもらえばいいのだから、気にしなくてもいい」とは言ってもらっているが、それは最終手段だ。


 私は、お婿さんとして良い人がいないかと、色々な夜会などに顔を出しているが、いまいちピンと来ない。いいかもと思う令息には、たいてい婚約者がすでにいる。


「ご両親も、別に跡継ぎのことを気にせずでもいいって、言ってくれているのだろう?」

「そうは言っても、最初から諦めるのは悔しいじゃない」


 私はそう言いながら、頬を少し膨らます。


「ルシアンはいいわよね。侯爵家の長男だから、縁談なんて沢山来ているでしょ」

「問題は数じゃないから。誰かが重要だから、別に良くないよ」


 ルシアンが少しうつむき加減になり、手に持っていたサンドイッチにガブリとかじりつく。


「すごく裕福な子爵家なら、手を上げてくれる人もいるんだろうけどね。でもね、私だって誰でも良いという訳じゃないのよ」

「……難しいんだな」


「えぇ。もっと頑張って見つけないと!」

「もっと近くにも目を向けたらいいのに……」


 ルシアンが何かブツブツと呟いているが、私は気にしない。

 私が一方的に話すのはいつものこと。ルシアンは、そんな私に文句も言わずに、いつも付き合ってくれる貴重な存在だ。


  私は、今日の一番の目的でもある、聞いてもらいたい話題をルシアンに振った。


「それでね、実は、面白い話を聞いてきたの」

「……どういう話?」


 ルシアンは少し怪訝そうな顔をしている。また変なことを言い出すのでは、と思っているかのような顔だ。


「王都の外れで、恋愛占いをしてくれる女性がいるらしいの! ただ、場所は定まっていないらしいから、見つけたらラッキーという感じらしいんだけど……」


「……それで? そこに行きたい、ということか?」

「そうなの! 全部言わなくても分かるのは、さすが幼なじみだわ」

「……僕のことは分かってないのになぁ」


 ルシアンがまたブツブツ独り言を言っている。


「え? 何て言ったの?」

「なんでもない。……それで、そこに行きたいから付き合ってほしい、というわけだね」


「そうなの。一人で行くのは怖いし、かといって、女友達と行って恋のライバルになったら困っちゃうし。ということで、今週末、予定空けておいてね!」

「はいはい。わかりました。クラリス様の仰せのままに」


  私は週末の予定を考えて嬉しくなり、自然と笑顔がこぼれた。

 ルシアンは、そんな私を、隣でいつものように微笑みながら見守ってくれていた。


 ◇


 占い師の話をした5日後、私たちは王都の外れに来ていた。 ルシアンの馬車で近くまで送ってもらい、私たちは占い師の場所を探すため、路地へと入り込んだ。


「たぶん、ここらしいんだけど」

「こっちは行き止まりだぞ」

「えー、じゃあ、あっちかしら」


 私たちは入り組んだ道をウロウロと彷徨っていた。


「これ、戻れるのか? クラリスは来た道を覚えているか?」

「ルシアンを頼りにしているから覚えてないわ。信じているわ、よろしくね」


「はぁ。ったく。……こっちだ」

「ルシアン、道知っていたのね! さすが頼りになるわ」


  ルシアンの後をついて行くと、通りの端に『占い師』と書かれた木の看板が立っていた。

 その看板の隣には、木箱の上に赤い布をかぶせて、即席の机が置いてある。粗末な木箱とは対照的に、布だけは妙に高級感があり、その場には似合わない艶と重みがあった。


 そして、その奥に座る人物。それらしく深いフードをかぶっていた。


「ねぇ。この人かしら?」

「あぁ。だって、『占い師』って書いているじゃないか」

「……女の人って聞いていたんだけど」


 占い師らしき人は、フードで顔を隠しているが、男性のように見える。


「……あー。まぁ、人によっては女性に見えたり男性に見えたりするんだろ。占い師って不思議な存在だからな」

「なるほどね。確かに、神秘的な存在だものね」


 私はルシアンの説明に納得した。最初は胡散臭さを感じたが、ルシアンからそう言われると、段々と神秘的な雰囲気に見えてきた。


「あの! 恋愛の占いをしていただけると聞いたのですが」

「はい。もちろん。視て差し上げましょう」


 くぐもった声で占い師が答える。


「私、あと2年でお婿さんを見つけなければいけないんです! 私の運命の人、どこにいますか?」


 私は、木箱に手をつきながら、勢いよく聞いた。

 占い師は、少しのけぞっている。


「クラリス、興奮しすぎ」

「あ、ごめんなさい」


 私は一歩下がった。つい気持ちが先走ってしまった。


 占い師がコホンと咳払いをした。


「視えます。あなたの運命の人は……青色が関係しています。それと――」

「青ですね! 分かりました! 青色と関係している方を探してみます!」


 私は『青色』という運命の人のキーワードをもらえて興奮した。

 青色の服を着ているのだろうか。それとも青色の髪の毛? 青色なら探しやすそうだ。

 私は、俄然やる気が出てきた。


「いや、ちょっとまだ続きが――」

「クラリス、まだ話に続きがあるみたいだぞ」


 ルシアンが、占い師の話の続きを聞くようにと促してくる。

 しかし、私はそれを拒否した。

 だって、全部答えを知ってしまうより、最後は自分で探し出す方が運命的だから。


「占い師さん。大丈夫です! ヒントさえもらえれば、自分で探してみます。だって、その方が運命感じるでしょ?」


「え、展開が、事前練習と違――」

「クラリスがそう言うなら、仕方ないな!!」


 ルシアンが突然大きな声を出す。占い師が何か言っていたようだが、ルシアンの声でかき消されてしまった。


「どうしたの? 突然そんなに大きな声を出して」

「いや、なんでもない……」


 私はカバンの中から、小さな小瓶を取り出した。


「占い師さん。私、占いの値段というのが分からないのですが、これをお礼としてお渡しします。これで足りますか?」


 私は占い師の前に小さな小瓶を置いた。 透明な小瓶の中で、いくつかの琥珀色の小石がころりと転がった。

 

「えっ! こんな高価な物は……」


 占い師が慌てて手を振る。


「だって、運命の人のヒントをくれたんですもの。むしろ足りないかもしれませんが、受け取ってくださいな」


 占い師は、どうしたら良いのか対応に困っているのか、固まっている。

 ルシアンも、困ったように頬を掻いている。


「じゃあ、今日は帰ります。ルシアン、帰り道教えて」

「あ、ああ。分かった。……すまん」

「何が?」

「いや、なんでもない」


 ルシアンは、何度か占い師の方を振り返っている。


「もしかして、ルシアンも占ってもらいたかったの?」

「いや、それは全然ない」

「そう。だったらいいんだけど」


 こうして、私は、占い師から貴重なキーワードをもらい、家路へと向かった。


 ◇


 その日の夜、ルシアンの屋敷では、一人の年配男性がルシアンに謝罪をしていた。


「お坊ちゃま。申し訳ございません! 全く打ち合わせどおりになりませんでした」

「いや、お前は悪くないよ。いつも人の話はあまり聞かない方だけど、まさかあんなに聞かないとはなぁ」


 ルシアンがため息をつく。

 年配男性は、慣れた手つきで、ルシアンの前に紅茶のカップを差し出す。


「お坊ちゃま。私はやはり執事の仕事しか出来ないみたいです。俳優にはなれそうにありません……」

「いや、良くやってくれた。ありがとう。僕の無茶な頼みを受け入れてくれて」


「いえいえ、とんでもない。ただ、クラリス様から『女性じゃないの?』と言われたときは、ドキッとしました」

「うまくフードで顔を隠して、女性のように見せることが出来たと思ったんだがなぁ」


 ルシアンは首をかしげながら、紅茶を一口飲む。


「でも、あの時のお坊ちゃまのフォロー。さすがでございました」

「そうか? かなり苦しくて、僕は何を言っているんだ、と自分自身に突っ込んでしまったが」

「いえいえ。クラリス様も疑いを持っておりませんでした」

「そこまではうまくいったんだけどなぁ。まさか『青色』というキーワード以外を聞かないとなるとはな」


「えぇ、そこは予想外でしたね。あの後、『近くにいる方』『侯爵令息』『ルのつく名前』と伝えてから、『そちらのお兄さんの瞳も青色ですね』って振るつもりだったのですがね」


 ルシアンと、年配男性、もとい老執事は、ため息をつく。


「あぁ……あんなに必死に占い師を探していたのに、最後は自分で探しますって、意外とロマンチストなんだな」

「えぇ。可愛らしいお方ですね」


 老執事が微笑む。 


「……だから、心配なんだ」


 ルシアンが紅茶のカップの縁を指でなぞりながら、ポツリとつぶやく。


「でも、お坊ちゃま。真正面から告白なさるべきじゃないですか? 老婆心ながら、そうしなければ後悔する結果になってしまうのではと思いますが」

「……それは分かっている。それが出来れば、こんな手段は使わないさ……」

「お坊ちゃま……」


 少しの沈黙の後、老執事が、思い出したかのように懐から小瓶を取り出す。そして、ルシアンの前に、琥珀の宝石が入った小瓶を差し出した。


「これは、クラリス様にお返ししなければなりませんね」

「あぁ……まさか、こんな高価な物を、よく分からない占い師に渡すなんてな」


 ルシアンは苦笑する。


「だから、危なくて放っておけないんだ」


 そう言いながら、ルシアンは小瓶を手に取る。


「今の僕は、彼女にとって、単なる幼なじみで、全く眼中にないから。だったら幼なじみという地位のままの方が一緒にいられるかもって思うと、勇気が出ないんだ」


 そう言うと、ルシアンは、小瓶を持つ自分の手元に目線を落とした。


「どっちの後悔の方がいいんだろうな……」


 ルシアンの小さなつぶやきが、静かな空気の中へ消えていった。


 ◇


 翌日から、私の『青色』探しが始まった。


 学園内の廊下に『青色』のハンカチが落ちていたときは、これはもしや!と思った。

 私は青色のハンカチを拾い、ドキドキしながら持ち主を探していたところ……


「おぉ! クラリスがそのハンカチ拾ってくれたのか?! どこに落としたんだろうと探していたんだ。助かる。ありがとう」

「……先生。どういたしまして」


 がっかりしている私の後ろから、ルシアンが声をかける。


「教頭先生のハンカチだったな」

「えぇ。まさか教頭先生が運命の人ってことはなさそうだし……ドキドキして損したわ」


 

 ある時は、学園の校門の外に、青い上着を着た人が歩いているのを見かけた。


「えっ! あの人、青!」


 私がその人の後を追う。


「クラリス! 一人で危ないって」


 ルシアンが後を追ってくる。


 運命の人と思った青い上着の男性の元に、遠くから子どもが駆け寄る。「お父様ー!」 と呼んでいる。


「はぁ、はぁ。いきなり走ると危ないだろ?」

「ルシアン、あの人も運命の人ではなかったみたいだわ」

「え? あぁ。あれは既婚者だろ」


 そう言うと、ルシアンは青いハンカチをポケットから取り出して、汗を拭いている。


 

 また、あるとき、休日に、ルシアンと二人で図書室にて勉強をしていた。

 息抜きにと、カフェに行ったときのこと。


「いらっしゃいませ。今日のおすすめは、マカロンでございます」

「それください」


 私の前には、紅茶と青色のマカロンが置かれた。


「ルシアン! 見て! 青色のマカロンなんだけど!」

「珍しいな」

「運命なんじゃないの?」

「誰とだ? 給仕か? それとも作った奴か?」

「うーん。確かに、誰かは分からないわね」


 残念な気持ちになりながら、私はマカロンを一口かじる。


 ルシアンが紅茶を一口飲むと、カバンから教科書を取り出す。


 教科書には青い(しおり)が挟まっている。

 そして、青いペンを取り出す。


「ねぇ。せっかく息抜きで来たんだから、ここで勉強はやめましょうよ」

「あ、あぁ。そうだな」

「じゃあ、その教科書とペンを仕舞って」

「わ、わかった……」


 ルシアンの動きが緩慢だ。

 ゆっくりとカバンに教科書などを仕舞っている。


「どうしたの?」

「……いや、何でもない」


 ルシアンは、何やらため息をついている。

 勉強で分からないところでもあるのだろうか。


「勉強分からないとこあるの? 教えてあげようか?」

「……じゃあ、相関係数のとこなんだけど」

「……えーと、そこはまだ私の守備範囲ではないわ」

「これ、今度のテスト範囲だぞ」


 私はルシアンの言葉を聞かなかったふりをして、残りのマカロンを口に頬張った。


 ◇


 (占い師から、青色というキーワードもらったのはいいけど、意外と全然会えないわね)


 私は、一人、屋敷の庭で景色を眺めていた。

 今日は晴天。澄んだ鳥の声とともに、やわらかな風が心地よい。 私は空を見上げる。


「ん?」


 空は雲一つもない『青空』がどこまでも広がっている。


「青空……これって、この空の下にいる人が運命の人なんじゃないの?」


 ……それだと、この世の中の令息全員が運命の人になってしまう。


 私は一瞬、すごいことに気づいたかのように思ったが、よくよく考えるとあり得ない話であり、思わず一人で笑ってしまった。


(キーワードさえ分かれば、後は自分で見つけるなんて格好つけなければ良かったかなぁ)


 私が、ため息をつきながら、顔を空に向けていると、声がかかった。


「何、空を見ながらため息をついているんだ?」

「ルシアン! いや、青空だなぁって思ってね」


「そうだな。キレイな青空だ。ため息が似合わないほどの天気だな」

「……運命の人って難しいね」


 そう言いながら、私はルシアンを見る。


「似合っているわね、その青い靴」


 空にも負けないくらいの青色のシャツと、海のように深い青い靴を履いたルシアンを見て、私は素直に感想を口にした。


「……ここまでして気づかないの、わざとか?」

「え?」


 一歩近づいた彼の瞳は、夜へ沈みかけた空のように、青の濃淡が揺れる。

 今まで何度も見てきたはずなのに、どうしてか今日は目が離せない。


「運命の人は、青色なんだろ?」

「……」


 胸がどくんと鳴る。

 ルシアンは困ったように笑った。


「当主の件は弟に任せる。だから俺は――」


 その先の言葉を聞く前に、また胸がうるさく跳ねた。


 その『青』は、ずっと前から私の隣にあったらしい。



読了ありがとうございます!

面白いと思っていただけたら、評価やブックマークで応援いただけると嬉しいです。


次回も、軽く読めるコメディ短編を投稿予定です。

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