穏やかざる会話
「よ、妖怪?」
ちょっと待て。こいつらキテる。
「これが・・・今の光洋だって?」
「その通り。勘は冴えたままだな。」
「そんなわけねえよ。だって、いつもの光洋だぜ?」
「思考を読み取るって言ったよな?」
わかる? と言いたげな、茶髪のにやりとした顔。
でも、俺は一つだけ欠けている点を見つけた。俺もにやりと笑う。
「それじゃおかしいって。だって、人間の思考を読み取るんだろ?」
「そうだよ?」
「確かに俺も、前に同じクラスだったやつも光洋を知ってる。そこから情報を取り出せばいいかもしんないけど、それだけじゃ絶対にぼろが出るはずだろ? 光洋しか知らないことだっていっぱいあるし。でも、あの光洋は知ってた。証拠になる話もしようか?」
得意げになる俺に、驚いた顔かもしくは悔しがる顔を見せるだろう。そう思ってた俺の自信は、次の瞬間に砕かれた。
「悪いけど、その話は意味がないんだ。」
「は?」
三人の表情が曇る。吉川が重々しく口を開いた。
「・・・最近、光洋はお前のそばにいっつもいただろ?」
「いたけど・・・だって、慣れねえクラスだし、一年から友達だし。」
「そこだ。奴は常にきみの傍にいても不自然ではない人物を選んだ。そして、それをプレゼントしたんだ。」
俺のミサンガを指差す。
「どういう意味だよ。」
吉川が言葉を引き継いだ。
「覚は心を読む。光洋の周りの人間から読むより、光洋自信から読んだほうがいい。そうだよな?」
「だから、そう言ってんじゃ・・・」
「お前の知っている光洋は、身体は人間。中は覚だ。じゃあ、中身の光洋はどこにいった?」
「・・・まさか・・・」
あほか、と言おうとしたはずが、そう答えていた。顔が勝手に足元に動く。
俺の目は、確かにミサンガを見つめていた。
「・・・そうだ。光洋の魂は、そのミサンガの中に封じ込められていると考えるのが、妥当だろうな。」
絶句、というのはこのことだろうか。声も、息すら出なかった。
「そうしてミサンガに光洋を閉じ込め、常にお前とともにいれば、光洋の記憶に困ることはねえ。」
「なんで・・・なんで俺に?」
わからない。納得できない。でも。
心のどこかでは、わかっていた気がする。
「お前の復活が恐ろしかったからだ。だから、奴は覚を使った。お前の友達を利用し、封じようとしたんだ。」
「・・・俺が、原因?」
呆然と俯く俺に、吉川が慌てて手を振った。
「違う違う! お前が原因じゃねえって!」
「そうだ。原因は奴にある。」
顔をあげた俺に、三人が頷いた。
「俺たちの敵。まだどういう奴かはわからないけどな。」
「だが、俺たち四人が揃うことを恐れている。」
「だから、秋人くんが原因じゃないからな。」
優しい言葉。
だが、それでも。
「でも・・・俺がっ!」
何かを言う前に吉川の拳が俺の頭に直撃した。
「あー、もう、じれってえ! てめえじゃねえっつってんだから、てめえじゃねえんだよ! このスボケがっ!」
もう一発殴る前に茶髪が無理やり止めた。
「やめろって、龍風!」
「うるせえ! こいつ、昔っからこういうとこは変わりやがらねえ! イラつくんだよ!」
息を荒げた後、静かに呟いた。
「俺が死んだときだって、自分のせいだとか言ってやがって。あのときと全然変わんねえや。むなくそ悪ィ・・・」
「あんたが・・・死んだ、とき?」
ふん、と鼻息を荒くした。
「覚えてねえならいいんだよ。思い出すな、ヘチマ。」
言葉とは裏腹に、悲しそうに目を細めた。
どこかで見た。この瞳。口が悪くて、生意気で、そして優しい――少年。
「ま、そのうち全部思い出すだろ。そのときは覚悟してろよ。」
にやりと吉川が笑う。
「そういえば、性格がネガティブになったって言ってたよな?」
茶髪が思い出したように呟いた。
「あ、うん。何かにつけて俺はダメだって・・・」
「それも呪詛の一つだろうな。」
「ああ。負の言霊を投げかけてそいつを弱らせ、自分に従わせてたってわけか。式神みたいだな、陰陽師の。」
「光洋を従わせて、どうするんだ?」
「決まっている。きみの封印に使う。」
「俺の?」
「ミサンガはもともと呪具のようなものだ。願いごとを叶えてくれたら切れると言うしな。しかもきみと身体がほとんどくっついている状態だ、心の中に入り込むのも容易い。今は多分、意識はほとんどない状態で動かされているのだろうな。」
「・・・可哀相だな。」
吉川がぼそりと言った。
「目的が三つになったな。」
黒髪が二本目のタバコに火を点けながら言った。
「一つ目は虎舜の記憶を呼び戻す。二つ目は光洋くんを救出する。そして三つ目は、それを仕組んだやつを滅っすること。」
「面白くなってきたな。」
「やったろうじゃねえの。」
吉川と茶髪がにやりと笑う。男もタバコを消して薄く笑った。
「俺たちを敵に回したらどうなるか。わからせてやろう。」
この不穏なやりとり。このやりとりも、知っている気がした。
一瞬だけ、夢の中の三人と目の前の三人が重なった。




