青の願い紐
足首に、綺麗なサファイヤブルーのミサンガが巻きついていた。
「これ、ミサンガ?」
「そう。光洋が俺にって。」
「・・・そのミツヒロって子、梅雨からなんかおかしくなかった?」
「は?」
「いや、性格が違うとか、目つき顔つきが違うとか・・・・」
性格・・・性格。
「そういえば、なんかそこからネガティブになったな。」
「!」
三人の顔つきが、時間が過ぎるほどに鋭くなっていった。
「ネガティブ?」
「ああ、うん。何かにつけてやけにネガティブになった。俺はダメだとか、お前はいいよなとか、なんか自分を卑下するみたいに。」
「卑下するみたいにねえ・・・」
そっと吉川がミサンガに触れた。
バチチッ!
その瞬間、電気に触れたかのように腕が弾かれた。
「・・・なるほどね。」
指の表面が火傷のように赤く腫れている。
「そ、それ・・・」
「拒否反応ってやつだ。このミサンガ、結界張ってやがる。」
「大方、そいつが媒介になってんだろ。」
「その子ども、だな。」
三人が頷きあう。俺はなんだか取り残されたみたいだ。
「光洋がなんだよ?」
「そいつだ。」
黒髪がぼそりと呟いた。
「だからそいつって・・・何が?」
吉川が二人に目配せした。茶髪は肩でため息をつき、黒髪はタバコを取り出した。
「こんなこと言いたかないけど・・・お前の記憶を封じてる犯人。」
一瞬、俺の頭の中が停止した気がした。
「犯人? 光洋が?」
「・・・間違いないんだよ。なんつーか・・・当てはまる。」
「そんな、バカなことあるわけねえだろ。光洋は俺の友達だぞ?」
「・・・玄清~」
吉川が泣き顔になって黒髪の男に向いた。
男が呆れたように乱暴にタバコを消す。
「頭の弱い龍風に代わって説明しようか。きみの中には、ある大事な記憶がある。それを甦らせまいとしているのがきみの友達の光洋くんだ。」
「だから、光洋が犯人なわけねえって! だって、俺、あの影のことって誰にも話したことねえもん!」
「ここからは俺たちの推測に過ぎないんだが・・・」
静かに身を起こすと、手のひらを膝の上で組んだ。
「きみの知っている光洋くんは、すでに入れ替わっている。」
「入れ替わっている?」
「おそらく、夏頃だろう。光洋くんと何かが取り替えられたかも知れない。」
「って、どういう意味だよ?」
「単刀直入に言おう。今の光洋くんは、人間ではない。」
何も言えない。こういうとき、なんて言ったらいい? 笑い飛ばしてあげたほうがいいのか? でも、顔が凄い真面目だ。どうツッコミを入れればいいかわからない。
表情に出てたのか、黒髪の男が多少不機嫌になった。
「俺はふざけてはいない。本当のことだ。」
「ったって・・・」
「・・・太陽が当たれば、誰だって影が出来るだろう?」
急な話の変え方に、俺はついていけなかった。
「影?」
「そうだ。例えば、自分が立てば影も立つ。座れば影も座る。ボールを蹴れば、影はボールの影を蹴る。」
「つまり、本体と影はまったく同じってこと。」
茶髪が助け舟を出した。
「それが、心の中にもそういうのがあるとしたら?」
「・・・心の中に影?」
「自分とまったく同じ動きのする影。これをもし、声も性格も影のように真似できる奴がいるとしたら?」
「性格も真似するって・・・それじゃ、本物かどうかわかんないじゃん。」
「その通り。」
そこで、やっと俺は理解した。
「・・・それって・・・今の光洋が、それだってことか?」
「俺たちはそうだと踏んでいる。」
急に茶髪の男が立ち上がった。奥に向かい、何かを持ってすぐに出てきた。
その手には、広辞苑くらいのでかさと厚さのある本があった。
「これ見てくれ。」
いくつか付箋がしてある。そのうちの一つのページを開いた。
最初は、生き物図鑑かと思った。
そこに載っていたのは、猿のような二本足の何か、だった。
何かというのは、それがどう考えても動物には見えなかったからだ。
大体、猿が岩の上に座って、足投げ出しながら両手で魚食うか?
「これは?」
「どう考えても、動物には見えない。変だろ? こんなのいるはずがない。現実には有り得ないと思うだろ。」
俺は茶髪に頷いた。何をいいたいのかさっぱりわからない。
「これは覚。思考を読み取り、人間を取って喰おうとする妖怪。」
思わず空気の塊をごっくりと飲み込んだ。




