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冬の名前と夏の名前

「きみは? 名前。」

ドアを閉めた後、爽やかに笑いながら男が聞いてきた。

「あ、俺、五十嵐秋人って言います。」

「秋人くんねえ・・・ふうん。」

「間違いないな。」

綺麗に整った部屋の中央のソファに、もう一人男が座っていた。

 驚いて俺は足を止めた。もう一人いるなんて。気配なんて感じなかった。

 冷たい感じのする男だった。でも、こいつも知っている。

 どこかであった?

(・・・あの夢?)

まさか、と思う。だけど。

 あの夢の三人が、この三人かもしれない。

 その予感は消えない。鼓動が早打ちする。

「そこ座って。」

吉川の声で我に返った。指で示されたイスに慌てて座る。

 ソファに二人の男が座り、向かい側に吉川が座った。

「紹介するよ。この茶髪の軽そうな奴が古田夏彦。この冷たそうな奴が笠井冬樹。」

「よろしく。」

茶髪の男とは対照的に、黒髪の男は眉一つ動かさなかった。

「俺はまどろっこしいのは好きじゃなくてね。言いたいことだけ言うよ。俺の始まりの名は雀景。」

その言葉を聞いた瞬間、予感が強まった。

「・・・俺は玄清だ。」

知ってる。そう言いそうになった。

「んで、俺は龍風。知ってるよな。」

「・・・え?」

ぴたりと空気が止まった。

「・・・お前、昨日言ってたけど。」

「・・・いや、言ってないけど。」

吉川と茶髪の男が呆気に取られた。間の抜けた顔。

「忘れたのか?」

「え、いつ言った?」

「いつって・・・保健室のとき。」

「あ・・・あのときのこと・・・覚えてないんだ。」

吉川の顔が急変した。眉根を寄せ、鋭く睨む。

「覚えて、ない?」

黒髪の男もひやりとした瞳で見つめた。

「どこから記憶がない?」

「えっと・・・ボールを取って、吉川に運んでもらって・・・そこからない。」

「じゃああの会話も?」

「会話? 俺、なんか話した?」

「そこも覚えてないのか・・・」

「会話の内容は?」

黒髪の男が吉川に向いた。

「俺たちのこと。保健室に入ってすぐ。」

「そこが綺麗に無い、か。」

今度は俺のほうに向く。小学生の時に先生に怒られたことを思い出すのは何故だろう。

「影を見始めたのはいつだ?」

影。あの、おぞましい影。

 なんで初対面のこの男がそのことを知っているか、とか、そういうのは頭になかった。

 ただ、ああ知っているのだろうなと、不思議と理解していた。

「・・・小さい頃から見えてた。だけど、鮮明になったのは高校に入った後。」

「正確には?」

「・・・入ってすぐだから、梅雨のときくらいからかも。」

「梅雨か。今は何か見えるか?」

「・・・たまにしか。」

いつからだろう。自分が存在するのと同じくらい、影を認めていたのに。

 いつから、恐れるようになったんだろう。

「・・・いや、ほとんど見えない。」

「見えなくなったと感じたのはいつから?」

「えっと・・・一番強い時期が梅雨だったから、その後かな。なんか、ガスコンロを一気に弱めたみたいに見えなくなった。」

「急激な力の衰えか・・・」

何か考え込むようにソファに身を沈めた。

 代わりに茶髪の男が聞いた。

「その一番強い時期と見えなくなった時期の間、なにかあった?」

「・・・いや、特には・・・」

思い出してみても何もない。

「誰かに何かもらったとかは?」

「もらった物・・・?」

吉川も首を傾げながら俺を指差した。

「あれは? あいつ、矢萩光洋。友達だろ?」

「光洋・・・?」

光洋からもらった物。

そういえば、アレを梅雨の時期にもらった。

どうして忘れてたんだろう。

いや、どうして今まで出てこなかったんだ?

 言葉で答える代わりに、俺はズボンのすそを上に引き上げ、靴下を下ろした。


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