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お宅訪問

 目が覚めると、すでに六時間目が終了していた。外のサッカー部が部活をしている音がした。

 一瞬、ここがどこだかわからなくて、あたりを二回くらい見回してやっとわかった。

 同時に、一時間目の体育で起きた出来事も思い出した。思い出したが、ボールを取ったところくらいしか思い出せない。

 その後、どうなったんだっけ?

 頭に靄がかかったみたいだ。何も思い出せない。

 身体を起こすと鈍い痛みが走った。頭の芯まで響く嫌な痛み。

 保健の先生もいないらしく、俺一人だけだった。

 ならお礼を言う必要もないか。帰ろ。

 立ち上がると、俺のかばんに足があたった。光洋が持ってきてくれたのだろうか。とにかくありがたい。

 かばんを掴もうとしたその手に、何かが握られていた。なんで今まで気がつかなかったんだろう。

 右手を開くと、中に小さなメモ用紙が入っていた。

 開けてみると、丁寧な字で三行だけ書かれていた。


 『日曜日 十時に正門 春海』


 用件だけの実にシンプルで明快なメモ。可愛げもくそもない。

 なんであいつ、俺にこんなに関わるんだろう。好きなのか?

 そういう冗談はやめることにする。ついこの前まではそんなことを考えると甘酸っぱい感じがしたけど、今はうんざりだ。

 とにかく家に帰って一眠りしようと、誰もいない保健室に礼を言って外に出た。





 考えてみれば金曜から日曜というのは、遠いようで近いものだ。

 吉川やあの影を考えないようにしているだけで二日は簡単に過ぎていった。

 土曜日の夜には寝たくなくて持久戦をしていたら、変な時間にぶっ倒れていた。気がつけば日曜の十時。寝ぼけているからか、慌てて起きてしまった。

 なんだかんだ言って身体は行こうとしている。その証拠に、すでに着替え終わって朝飯を食ってる。不思議なもんだ。

 そして律儀にも、五分前につけるように家を出た。そんな気はまったく無かったのに。

 たった十分で学校に着いた。もしかしたら早足だったのかもしれない。正直、吉川の私服も見てみたいという下心もあったからかも。

 正門に着くと、すでに吉川が退屈そうに待っていた。

 パステルグリーンの綺麗な服の上に白いパーカをはおり、短めのスカートを履いている。これが吉川じゃなければドキドキしたのに。いや、正直見た目は可愛いから、かなりドキドキしているけれども。

「よ、よう。」

「ああ。」

朝は不得意なのか、機嫌が悪い。

「なんで俺を呼んだんだよ?」

「・・・こっちだ。」

ぼそりと呟き、俺が来た道と反対方向を歩き出した。意外に足が早く、俺も早足で近寄った。

「どこに行くんだよ?」

「会わせなきゃならない奴らがいる。」

「奴ら?」

「来ればわかる。」

「どういう意味だよ?」

不意に吉川が足を止めた。ぎらりと殺気だった目で睨みつける。

「うるせえ。俺は朝が弱いんだ。無駄口叩いてると、てめえの腕組んで男子のいるグラウンドを通るぞ。」

想像してみた。今は野球部がやってるはず。あの地獄の特訓の隣でカップルがのんびりとデートし、しかもその片方が吉川だとわかったら、俺は良くて確実に半殺し。

「・・・ごめん。」

「わかったなら黙ってついて来い。」

仕方なく、とぼとぼと後ろをついて歩いた。

 商店街を通り、裏道のようなところを通り、道路の横を通り、気がつけば二十分が経っていた。

 あとどれくらいか聞きたくても聞けない。こんなに辛い二十分は初めてだった。

 閑静な住宅街を通っていると、吉川がちらりと俺を見た。

「ここだ。」

あごでその場所を指す。

 俺は反射的に間抜けな声を上げていた。

 綺麗なマンションだった。六階建てのそんなに大きくないマンションだが、清潔感に満ちている。

 当然のように吉川はエレベータに乗った。俺も後ろに続く。五階のボタンを押して扉が閉じる。静かな音で上に上っていった。

 五階に着くと、即座に春海は目的の部屋に向かった。手前から四番目、つまり、一番奥の部屋に着くと、吉川は遠慮なくノックした。

「え、ここ?」

「そう。ちなみにこの隣が俺の家だ。」

ちょっと意外。吉川は一軒家で暮らしていると思ってた。

「意外か?」

首だけ振り返ってにやりと笑う。

「あ・・・うん。」

「まあ、もともと一軒家に親と暮らしてたんだけどな。」

「え? じゃあ一人暮らし?」

「そう。」

なんで、という前に、ドアがぎいと開いた。

 中から、若い男が出てきた。茶髪で背の高い、モデルのような男。

 どこかで見たことがある。そんな気がする。

 ああ、そうだ。

 あの夢の男の一人と重なった気がした。

「よ、春海ちゃん。と・・・」

俺を見た瞬間、男の顔が凍りついた。目が大きく開かれる。

「きみが・・・そっか。」

そっか、ともう一度呟くと、中に入るように促した。


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