戦い終わりて
しばらくして落ち着いた橋姫は、ゆるりと四人に振り向いた。
その顔は今までよりもずっと、美しくて清廉な光に満ち溢れていた。
「そなたたちにも迷惑をかけた。すまなかったな。」
ふ、と龍風が笑った。
「いいってことよ。その涙に免じて許してやる。あだっ。」
その頭を、雀景がごつんと叩いた。
「こら。貴族の妻君に向かって荒っぽい言葉を吐くな。敬語を使え。」
くすくすと橋姫と済時が笑う。
「よいよい。もうそんな身分も関係ない。こちらの世界は気楽なのだよ。」
済時がにこりとして言った。
橋姫が虎瞬に向き、深く頭を垂れた。
「特に、白虎よ。そなたにはまことに苦労をかけた。すまなかった。」
「いいえ、俺たちの魂は死にませんから、大丈夫ですよ。済時様も橋姫様・・・いえ、徳子様もどうか、御心安らかに。」
二人は再び優しく微笑み、四人に向かって頭を垂れた。
白い光がふわりと二人を包む。
それが強くなり、思わず目を瞑った瞬間、光は急速に消えていった。
気がつけば、四人は山の中に佇んでいた。全員が空を見上げ、優しい顔をしている。
「逝った、な。」
「ああ。幸せそうな顔をしてた。」
「よかったな。」
「うん、よかった。」
龍風は視線を虎瞬に戻すと、その頭を叩いた。
「いたっ!」
「お前、遅すぎなんだよっ。」
「本当だよ。はらはらしたって。」
雀景も笑いながらため息をついた。
「えー。でもちゃんと働いたよ?」
「ちょっとだけな。おいしいとこだけだろ。」
「それで助かったんだからいいでしょ?」
「絶対に俺が一番働いたね。橋姫と戦ったもん。死にかけたし。」
龍風の言葉に雀景が遮る。
「いやいや、俺だって。俺は逆さ吊りにされながら、必死に説得してたんだぜ?」
「説得だけじゃん。」
「龍風は死にかけただけでしょ。」
言い合いをしている三人に向かって、不機嫌な声が投げられた。
「いいから、さっさと帰らないか?」
見れば、玄清の顔が真っ青になっている。
「おい、どうした、玄清?」
慌てて雀景が駆け寄ると、ますます機嫌が悪くなった。
「一番働いたのは、俺だと思う。」
「は?」
「黄金金縛りを虎瞬にかけ、それを破られ、しかも反魂呪術を光洋くんを使って施し、ここまで駆けつけた。」
確かに、どれも大技で、しかも虎瞬にかけた呪術は破られたら術師に帰ってくるわけで。
その精神的疲労は計り知れない。
「絶対に俺だと思う。」
ぶすっとしながら倒れそうになる体を、雀景が支えた。
「ああ、そうだな。お前が一番だな。」
笑いながら雀景が玄清の腕を取った。
「何故笑う?」
「いやいや、その通りだなって。」
虎瞬もその横に立ち、玄清の腕を自分の肩に回した。
「まあ、そういうことにしてやるよ。」
前に光洋を抱えた龍風が立ち、意地悪く笑う。
「・・・お前のその笑みは、なにか腹が立つな。」
「いえいえ? 素直にそう思っただけで。」
さらに言い募ろうとする前に、龍風は声をあげた。
「さ、もう戦いは終わったんだ。家に帰ろうぜ。」
「そうだね。俺も腹減ったなあ。」
「俺は喉渇いたなー。玄清は何飲みたい?」
「・・・コーヒー。」
笑い声が四人を包むように溶けていく。
と、山の向こう側から朝日が昇ってきた。
その光を背に、五人は山を下っていった。
今までそうしていたように支えあいながら。
これからもそうしていくように笑いながら。
四人の聖獣は、光に溶けていった。




