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三人の相談会

 どうやって家に帰ったのかわからないが、気がついたら俺は自分のベッドの上に寝ていた。ちゃんと制服からジャージに着替えられている。いつの間に。

 のろのろと起き上がると頭痛がした。あの閃光の後、ずっと頭痛が続く。頭の芯がしびれるような、鈍い痛み。

 それと、吉川のあの怖い顔と喋り方。どう考えても、学校とは別人だった。

 俺と言ったり、あの影を見ても平然としてたり、思い出せって言ったり。俺はごく平凡な高校生。そんなもの知らないし関わりがあるはずもない。

 でも、不思議と知っている気がした。あの吉川の態度も、あの影も。昔、ずっと昔にこんなことがあった気がする。

 それに、絶対に認めたくない。認めたくないが、あの影を見たとき、心臓が大きく鳴った。血の循環が激しくなり、そして、心地良かった。懐かしい故郷に帰ってきたときってこんな感じかもしれない。

 なんてな。そんなバカな話、あるかよ。

「思い出せって・・・なんだよそれ。」

ぽつりとつぶやいた言葉は、夕闇に溶けていった。




 綺麗なマンションの五階にあがると、四つ並んでいるうちの三番目の部屋に向かった。

 鍵を取り出して差し込むと、かちゃりと重い音が響く。

「よ、お帰り。春海ちゃん。」

いきなり隣の部屋のドアが開き、男が顔を覗かせた。

 茶色い髪に優しげな目元。かなり背の高い男だ。顔立ちも端正で、モデルでないのが不思議なくらいだ。

「ちゃんづけすんじゃねえ。」

胡散臭そうな目で男を睨んだ。

 男が手招きしたので、もう一度鍵を閉めてそちらに向かった。

「鍵なんか閉めなくていいじゃん。泥棒なんか怖くないだろうに。」

「うるせえな。用心深いんだよ、俺は。」

「はっは。そうそう、そうなんだよな。」

男に続いて中に入ると、春海は立ち止まった。男が振り返る。

「どうした?」

「・・・片付いてる。」

「ああ。玄清が勝手にやったんだよ。」

「お前がいつまでも片付けないからだ。」

奥から声が聞こえた。くすりと春海が笑う。

「ほんとほんと。雀景は片付けられないオトコだからなぁ。」

奥に行くと、一人用のソファに腰掛けていた男が鼻を鳴らした。

 黒髪をオールバックにさせたような髪型。だが、作ってるわけではないらしい。眼鏡の向こう側にはひやりとした瞳が光っている。冷たい美しさを持つ男だった。

「簡単に言うが、一緒に暮らす身にもなってみろ。」

かばんを下ろしながら春海が笑った。

「無理無理。俺の力量じゃあ片付ける前に散らかされるのがオチだ。」

「そうそう。我慢できなかったあんたの負けだってことだよ。」

答える代わりにコーヒーに口をつけた。これ以上触れるな、のサインだ。

「ま、潔癖の玄清ならそうするのわかるけどな。」

春海は台所に行き、勝手にコーヒーを注いだ。

「雀景は?」

茶髪の男がタバコに火をつけながら答えた。

「あ、俺も淹れて。ブラックで。」

くすくす、と春海が声を漏らした。

「甘党雀景がブラック~」

「時代は変わるものだな。」

黒髪の男、玄清も薄く笑った。

「だってさ、甘いコーヒーなんか飲めるかよ。」

「抹茶が苦すぎて飲めないっつって、和菓子ぶちこんでた奴がねえ。」

「何百年前の話だっての。」

コーヒーを二つテーブルに置くと、春海は向かいのソファに、雀景は壁にもたれた。

「それで、虎舜はどうだった?」

玄清が腕を組んで目を細めた。春海が苦笑いで頷いた。

「どうも何も、全然だよ。俺を見ても思い出さないし、影の女に会ったときも逃げようとしてたし。ま、なんか思い出しかけたみたいだけど、覚醒にはもう少しだな。」

「相変わらずおっそいなー、あいつ。」

「いや・・・」

玄清が顔を険しくさせた。

「虎舜にしても遅すぎる。」

「え?」

「今までの俺たちの覚醒の仕方だと、俺たちの誰かと会う以前に、すでに半分は意識を取り戻しつつあった。だが、今回は違う。出会っても片鱗ほどしか見せない。これはおかしい。」

「そう言われてみれば・・・遅すぎる。」

「それだけ今回の転生地は異常だということだ。」

「異常な上に、動きが速い。」

重い空気が流れる。しばらく誰も動かなかった。

「やっぱ、先手の取れる虎舜がいないと辛いかもな。」

春海の言った一言が、さらに重い空気を呼んだ。

 しばらくして、春海は立ち上がった。

「ま、今週の日曜にはこっちに連れてくるよ。それまで待っててくれ。」

男口調の可愛らしい少女は、にやりと笑って部屋を出て行った。




 次の日の一時間目は体育。ただでさえ朝早くて眠いのに身体を動かせとは、まったく生徒思いの時間割だ。

 今日は女子と合同ということで、男子のテンションは高まっていた。正直、うるさい。

「早く行こうぜ、秋人!」

光洋に引っ張られ、寝不足の俺は引きずられるように外に出た。

 そう、あれから眠れなかった。というより、眠った瞬間に変な夢を見るからだ。

 遠い、水墨画みたいな山と川のある風景。本当にそこにいるかのように、匂いもわかるし風もわかる。

 それと、こちらを向いている三人の男。

 一人は凛とした冷たさのある、鋭いが端正な顔の男。

 もう一人は、高貴な感じだが優しげな、綺麗な男。

 そしてもう一人は、小柄な少年。猫目で可愛らしいが、勝気そうな感じがした。吉川にとても似ていた。

 この三人、知っている。いつも一緒にいた。どこでも一緒だった。

 いつもどこでも、どの時代でも。

 三人が俺を呼ぶ。秋人じゃない。もっと別の名前。

 そして俺はそれが自分の名前だと知っている。笑って、走り寄ろうとしている。

 だけど。誰だ。こいつら誰?

 そう思った瞬間、必ず目が覚めた。それが繰り返されるものだから、眠れるわけもない。

 そんな事情を知らない光洋は、楽しげに女子を待った。

「なあ、今日は吉川さん来てるよな?」

「あー、来てるよ。」

「吉川さんのジャージかぁ・・・」

うっとりとする光洋のけつにボールを蹴り飛ばした。

 怒って振り返った光洋の動きが止まる。

 後ろから女子のきゃあきゃあ声が聞こえた。

 集団の真ん中に吉川が見えた。今まではちょっと可愛いなくらいしか思ってなかったのに、今は少しだけ恐怖を感じる。

 先生も体育教官室から出てきた。男子と女子を並ばせ、寒いという不満を黙らせた。

「今日は男女合同でドッヂボールをする。チームは出席番号順。女子の一番~十番までは男子の十一番~二十番まで。女子の十一番~二十番までは男子の一番~十番まで。」

面倒臭そうな声があがる。俺もその一人。

 隣の光洋が残念そうな声を上げる。こいつは矢萩光洋だから、吉川とは違うチームだ。

「いいなあー、秋人。吉川さんと一緒じゃん。」

そうならないように願ってたのに。

「興味ねーよ。」

「秋人ってかっくいーなあ。クールだよなあ。」

ぼんやりとため息をつく。こいつ、こういうところは女々しい。

 チームで分かれて、リーダー面した男子が前に出た。やる気のない男子が後ろでつまんなそうに空を見る。もちろん俺もその一人。

「こういうのキライなの?」

吉川が隣にいたらしく、笑いながらこちらを見上げていた。

「いや・・・やる気出ないだけ。」

「あはは。昔からそうだったね。のんびり屋。」

「昔って、なんで俺の昔をお前が知ってんだよ。」

「そのうちわかるって。早く思い出してよね。」

にこ、と笑って離れていった。なんだ、あいつ。

 はっとして周りを見ると、男子が俺を睨んでいた。

 勘弁してよ。俺はああいうのは興味ないんだからっ。

 そう言いたくても言えないのが現状。黙ってため息をついた。





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