表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

オハヨウ

 呆然としていた秋人は、かろうじて動く目線を冬樹に当てた。

「なあ・・・敵って、どんなやつだ?」

下を向いたまま答えない。もう一度、声を荒げて聞いた。

「なあっ! 敵ってどんなだよ?」

そこで我に返ったように、はっと顔をあげた。

「・・・なんだ?」

「敵っての、どんなだって聞いてんだよ。」

不機嫌というよりは、悔しそうに顔をしかめている。

「・・・宇治の橋姫。」

どくん、と大きく鼓動が鳴った。

「橋姫・・・?」

「橋を司る神だ。だが、人々の愚行に辟易し、襲い始めた。それを止めたのが、お前だ。」

「俺が・・・?」

「人柱になり、止めたのだ。」

再び鼓動が鳴る。

 体が熱くなっていく。

 こみ上げるものを、止められなかった。

 違うんだ、と不意に誰かが言った。その声は秋人にそっくりな、誰かだ。

「・・・ダメだ。俺が、行かなきゃ。」

自然に、涙がこぼれ始めた。喋っているのが自分でないように感じる。

「俺が、止めてやらなきゃ。」

「どうした?」

冬樹が驚いて立ち上がった。

「何故、泣いている?」

首を振りたいが、金縛りで動かない。

「わからない。でも、止めなきゃ。」

止めなければ。あれは、苦しんでいた。

 無差別に襲っていたんじゃない。殺戮に酔っていたわけじゃない。

 そんな考えが凄い勢いで浮かんでくる。

何かが、自分の中で弾けそうだった。

「橋姫は俺が止める。俺じゃなきゃダメだ。」

「やめろ、虎瞬。無理に動こうとすれば体がちぎれるぞ。」

「離してくれ。あいつらじゃダメだ。」

今度は耳元で、鼓動が鳴った気がした。

 体の中で、白い光が破裂した。

 同時に、聞こえた。

 気高い、虎の咆哮を。

「橋姫は人間を憎んだんじゃない。ずっと、愛していたんだ。」

別の誰かが自分の喉を借りて言ったような気がした。それほどまでに、すんなりと言っていた。

 冬樹が目を見開いていた。

「なん・・・だと?」

「これを、解いてくれ。俺が行かなきゃ。」

動かそうとすると激痛が走る。それでも、何かが俺に叫んでいた。

 俺が動けば、希望が見えてくるんだ、て。

「ごめんな、玄清。」

そう言ったのは、秋人なのか、それとも『虎瞬』なのか。

 優しく笑うと、秋人の体が眩いほどの発光に包まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ