さよなら、またいつか
「敵・・・?」
「俺たちを狙う敵。光洋に入ってた奴はその手先だ。」
光洋をちらりと横目で見やった。
「そいつは、俺たちが昔、封印した奴だ。どっかのボケが封印を取りやがったのか、弱まったのかわからねえ。だが、事実そいつは蘇ってきやがった。俺たちに復讐するために。」
「封印って、いつしたんだ?」
「三百年前だ。」
「さんっ?」
声が裏返ってしまった。が、誰一人笑わない。いや、笑える空気じゃないか。
「そいつを封印したのは、お前だよ、虎瞬。」
「え?」
「お前が、命と引き換えに封印した奴だ。」
「俺が・・・命と引き換えに?」
「だから、今回の戦いにお前を参加させるわけにはいかない。まあ、光洋は巻き込んじまったけど。」
首だけを回し、冬樹を見た。
「頼む。玄清。」
苦々しく顔を歪めながら、人差し指を秋人にさした。
その指をくるくると不思議な形に回しながら、呟いた。
「止止不須説。」
その途端、秋人の体がまるで縛られたように動かなくなった。
「な、なんだ!?」
「黄金縄縛り。金縛りの一つだ。」
悲しげに春海が笑う。あまりにも切ない顔だった。
「お前を再び奴に殺させたりしたくない。戦わせるわけにはいかねぇんだ。ここにいろ。」
夏彦も立ち上がった。首をごきごきと鳴らす。
「奴との戦いは俺と龍風で行く。玄清は虎瞬を頼むな。」
「ふ・・・ふざっけんなよ!」
声しか出せず、それでも秋人は動こうともがいた。
「俺の問題なんだろ!? だったら、なんであんたらが行く必要があるんだよ!?」
夏彦が、そっと秋人の頭に手を置いた。
「その優しいところ、変わんないな。虎瞬。これからも変わるなよ。」
一瞬、不吉なことを考えてしまった。
やめろよ。
そんな、別れの挨拶みたいなこと。
春海が、初めて優しい微笑を浮かべた。
「お前は速さとそのなよっちいところだけが長所だからな。お前の良いとこなんて希少なんだから、大事にしろよ。」
玄清、と今度は冬樹を見た。
「こいつのこと、よろしくな。まだ時間かかるだろうけどよ。」
答えない冬樹に、夏彦が笑う。
「敵がわかったときに決めただろ? いまさら駄々こねるなよ。」
「・・・わかっている。」
それでも二人を見ない。その仕草に笑いながら、二人は玄関へと向かった。
それが、どうしても、別れに思えて仕方が無かった。
「俺たちが相打っても、お前ら二人がいる。ま、打ち損じはしないけどさ。」
「これが最善の策なんだよ。」
背中を向けたまま二人は手を振った。
「またな。玄清。虎瞬。」
「俺ァ今度は男になりてぇな。」
きい、と扉が開く。
その先の光の中に、二人が還ってしまったように、秋人は感じた。