封印、破れる
結局、親は事情も聞かずに快諾した。というのも、秋人なしに夕飯を食いに行くか迷っていたそうなのである。かなりへこんだ秋人の前に、春海がコーヒーを出した。
前と同じように、夏彦たちの部屋で全員が集まっていた。
「さて、どっから話そうか。」
夏彦が壁に寄りかかりながらタバコを点ける。
「あの・・・光洋は・・・」
ベッドに寝かせている光洋を心配そうに見た。
まさか学校にそのままにしておくわけにもいかないので、夏彦が背負って連れてきていた。
呼吸は正しく、熱も出てない。ただ、意識が戻らないのだ。
「ああ、大丈夫だよ。な、龍風。」
はいはい、と春海が立ち上がった。
「ほんとは呪詛返しは虎瞬が得意なんだけどな。」
秋人のミサンガに近づく。反射的に足を引いた。
「な、何すんだよ。これに触ったら、あんた・・・」
「へーきだって。痛えのは慣れてる。」
右手でいきなりミサンガを掴んだ。
その瞬間、青い光がばちぃっと走った。
春海が痛みに顔をしかめる。それでも、離そうとはしなかった。
「呪はもう解けてる。あとはこの結界をぶち破るだけだ。」
何をするのかと思えば、力ずくでミサンガを引っ張っている。そのぶん、青い光が強くなった。
「お、おい・・・やめろよ! あんた、手が・・・」
秋人から見えるくらい、手のひらが火傷している。少しばかり爛れても見える。
「おし、行くぜぇ・・・」
ふん、と気合を入れた直後、ミサンガがぶちっと切れた。
いや、切れたとはいえない。
砕け散ったのだ。
ぱぁん、と青い結晶となって、あたりに霧散した。
春海が息をつきながら笑った。
「これでいいんだろ?」
「龍風にしちゃ、上出来だな。」
冬樹が鼻で笑った。
「なんだよ、俺にしちゃって。」
「以前のお前なら、足ごとぶち破っていただろうからな。」
「・・・そうだったっけ?」
ごまかすように笑う。秋人は青ざめて体ごと遠ざかった。
そこで、ふと秋人は異変に気づいた。
いや、気づいていたがあえて気にかけなかったのかもしれない。
三人の雰囲気が、違う。
「・・・何か、あったのか?」
全員が驚いて秋人を見た。
「・・・なんで、わかった?」
「え、いや、なんとなく・・・雰囲気が違う気がして。」
冬樹がタバコを消しながら低く呟いた。
「記憶は無くても虎瞬だな。さすが、鋭い。」
「腐っても鯛ってか?」
茶化すように夏彦が言った。だが、顔が笑っていない。
「話って、なんだよ?」
「・・・」
口を開こうとした冬樹を、春海が目で答えた。
「いい。俺が言う。」
これまでにない真剣な顔で、まっすぐに秋人を見つめた。
何故だろう。そこには少し、悲哀の色も見えている気がする。
「敵が、わかった。」