友と偽り
また夢、見てた。
あの夢で見た坊主と言い合いしてる夢。
俺は必死になって何かを言ってるのに、坊主は聞こうともしない。
終いにはお互いムキになって、喧嘩別れした。
行かせちゃ行けないってわかってたのに。
無理にでも止めなきゃってわかってたのに。
大きな背中がどんどん遠くなってく。同時に、不安と罪悪感が心の底から湧き上がってく。
行かせないようにするんだったら、力ずくでもよかったのに。
俺はガキだった。その子どもの感情が、本当に大事なものを見失わせて。
あいつを、見殺しにしたんだ。
思わずぽつりと、龍風、と呟いた。
その声すら、誰にも届きはしなかった。
揺り起こされて、初めて目が覚めた。
一瞬、どこだかわからなかった。いつものベッドはなく、いつもの本棚もテーブル何もない。
あるのは、何十とある机とイスと、黒板だった。
揺り起こした人物を見て、初めて俺はあのまま寝てしまったのだと気づいた。
光洋が、笑顔で立っていた。
「お前、なんでこんなとこで寝てんだよ。」
くすくすと笑いながら俺を立たせた。窓から月明かりが差し込んでいるのに気づき、改めて寝ていたのだと認識させられる。
「さ、帰ろうぜ。早く帰んねえと怒られちまう。」
「・・・今、部活終わったのか?」
「そうなんだよ~。顧問がさぁ、試合近いからってそりゃもうすんごいんだよ。」
それがさあ、と詳しく内容を説明する光洋を、真顔で見つめた。
本当の光洋は、誰だ?
あいつらが言っていたのが正しいのか。
それとも実はただの嘘で、今ここにいる光洋が本物なのか。
どれが、真実なんだ?
考え込んでいる俺に気づき、光洋は顔を覗き込んできた。
「大丈夫か? お前も疲れた顔してんな?」
答えず、俺はただ黙っているしかなかった。
「おい、本当に大丈夫かよ? 顔が青いぞ?」
慌てて俺の背中を支えて歩き出す。やっぱり、光洋の優しさは変わんない。
だから、真実を知りたかった。
嘘だったんだと、笑って言える真実を。
「・・・光洋。」
「ん? なんだ?」
俺は光洋と距離をとった。
「これ・・・覚えてるか?」
ズボンをめくり、足首に巻きついているミサンガを見せた。
頼む、覚えてるといってくれ。
光洋は、しげしげとそれを眺めた。
「あ? これ? 覚えてるよ。俺があげたやつじゃん。」
「・・・いつだったっけ?」
「おい、バカ言うなよ。夏に決まってんだろ? ほら、あんとき梅雨で、今までの降雨量が歴代三番目に入るほどすげえ降ったって言ってただろ?」
俺の顔は、心なしか明るくなっていた。
「あ、うん、そう。そうだったよな。」
「忘れんなよなあ~。お前の好きなブルー探すのにけっこう時間かかったんだぜぇ? ほら、お前は白が一番好きって言ってたけど、それじゃ味気なかったからさ。もぉー、探した探した。」
そうそう、あのときもそう言ってた。
「悪い悪い。一年くらい経つからさ。忘れちゃって。」
「ったくよぉ。しょーがねーなあ、その忘れ癖。」
「ごめんって。だってこれ、全然切れねえんだもん。」
そう言った瞬間、空気が一瞬で凍りついた。