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追放された魔導保全官、俺がいなくなった場所から次々壊れていくんだが  作者: 空条ライド


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第9話 名前を書き換えたのは、誰だ

 王都中央魔導局の会議室は、いつもより人が多かった。


 貴族。

 高官。

 記録官。


 そして――

 俺はいない。


「本日の議題は、中央結界安定化に関する功績の整理です」


 議長役の男が、そう切り出した。


「王都の混乱を収束させた功労者を明確にし、

 正式な記録として残す必要があります」


 誰もが頷く。

 頷きながら、誰の名前が残るかを考えている。


「結界停止の決断は、

 中央魔導局の英断であり――」


「待ってください」


 その言葉を遮ったのは、エリスだった。


 見習いの身分で、

 この場にいること自体が異例だ。


「“英断”を下したのは、

 中央ではありません」


 空気が、一瞬で冷えた。


「……君は?」


「現場技師、エリス・ヴァルテラです」


 彼女は、一歩前に出た。


「今回の措置は、

 魔導保全官カイ・ルードの判断です」


 ざわめき。


「彼は、決定権を条件として引き受けました」


「それを中央が承認した。

 記録も、通信ログも残っています」


 議長が、眉をひそめる。


「見習いが、

 口を出す場ではない」


「口を出させてください」


 エリスは、引かなかった。


「彼は、成果を主張しません。

 だから、ここにいません」


「でも――」


 彼女は、机の上に魔導板を置いた。


「現場ログです」


 映し出されたのは、

 結界停止前後の詳細記録。


 誰が、いつ、どこで、

 何を止め、何を触らなかったか。


「判断時刻」

「拒否された提案」

「中央からの制止記録」


 全てが、残っている。


「……これは」


 記録官の顔色が変わった。


「ログの改変は?」


「できません」


 エリスは、はっきり言った。


「このログは、

 改変防止仕様です」


「現場技師用。

 責任を押し付けられないための」


 その言葉に、何人かが視線を逸らした。


「……だが」


 貴族の一人が、低く言う。


「功績とは、

 個人の判断だけで決まるものではない」


「その通りです」


 エリスは、頷いた。


「だから――

 名前を書き換える必要はない」


 静まり返る室内。


「彼の名前を消す必要も、

 盛る必要もありません」


「ただ、

 “あったこと”をそのまま残してください」


 彼女の声は、震えていなかった。


「それだけで、十分です」


 しばらく、誰も喋らなかった。


 やがて、老魔導士が口を開く。


「……現場ログを正式記録とする」


 議長が、渋々頷く。


「異議は……あるか?」


 誰も、手を挙げなかった。


 功績は、奪えない。

 だが、押し付けることもできない。


 それが、最も都合の悪い結論だった。


 会議のあと。


「……疲れました」


 エリスが、廊下で息を吐いた。


「よくやった」


 俺は、そう言った。


「前に出るの、嫌いじゃなかったですか?」


「嫌いだ」


「ですよね」


 彼女は、少し笑った。


「でも、あの人の仕事が、

 消されるのは、もっと嫌だったので」


 俺は、何も言わなかった。


 代わりに、工具袋を肩にかける。


「……そろそろ、終わりだ」


「王都、立て直せそうですか?」


「最低限はな」


 俺は、遠くの結界を見た。


「でも、俺がやる仕事じゃない」


 エリスは、すぐ理解した。


「……帰るんですね」


「ああ」


 王都は、もう呼吸できる。


 あとは――

 自分で歩くかどうかだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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